現世の様子が気になりました。
『具現化』の術を教えてもらってから、数日が過ぎた。
俺は食べ物を出したり、着替えや食器などの、必要な身の回りの品を出すことで、だいぶこちら側に慣れてきた。
驚いたことに、だんだん慣れてくると、一日が終わり、日が沈むということが無くなってきた。『気』を使って疲れが出て、眠くなり、起きて外に出ても太陽がさんさんと輝いている。こちら側は、ずいぶん生きていた時と違う時の流れがあるようだ。
ふと、俺は生前のことが気になった。親に会うことはできたから、あまり悔いはない。だが、学校の友だちや、先輩、後輩のことを思い出すと、いたたまれない気分だ。
俺がいなくなって、あいつらどうしているんだろう。変わらずワイワイやってるだろうか。あまり、俺のことでしょんぼりしていてほしくないなぁ。
囲炉裏の部屋で茶碗とごはんと箸を『具現化』して、もぐもぐ食べながら俺はそんなことを考えていた。
「弘、どうしたのですか?」
柚子が首をかしげた。
「いや……ちょっと生きていたころのことを思い出してな。学校のやつらが、どうしているかなって」
「様子を見ることもできるですよ」
「ほんとか!? どうやって?」
「現世の鏡を使うのです」
「現世の鏡?」
「この建物のとなりに神社があるですね。その社の中で光っているのが現世の鏡なのです」
「ああ……」
俺は、天照さまに連れられてここへ来るとき、最初に見た神社を思い出した。
「現世へ行くと、悪霊や悪さをする妖怪に会うこともあるのですよ。様子を見るだけなら、現世の鏡でやれば安全なのです」
「なるほど」
「では、ごはんを食べたら行ってみるのです」
「おう」
俺はごはんを急いで食べ終えた。




