あの世で狐幼女の神さまに出会いました。
かやぶき屋根の日本家屋。入口にはのれんがかかっていた。
「ごめん」
天照さまがのれんを上げる。
「はーい」
可愛らしい声がした。中から、小さな女の子が出てくる。年のころは、四、五才といったところだろうか。赤みがかった黄色の髪をおかっぱで切り揃え、白い着物に赤い袴と、巫女のような恰好をしている。
だが、ふつうの女の子じゃなかった。
ふわふわとした獣の耳としっぽ。
漫画とかで見たことはあるけど、本物のそういう存在に会うのは初めてだった。
「うわっ、妖怪!?」
「失礼な! わたしは狐神なのです!」
ぴんと立ったしっぽ。どうやら怒りを示しているようだ。
「神としては君の先輩にあたる。仲良くしてくれればうれしい」
天照さまが女の子を紹介した。
「柚子葉なのです! 失礼な君も名乗るのですよ」
「……工藤弘人。父さんや母さんは弘って呼んでたよ」
「じゃあ、わたしも弘と呼ぶのです。弘も、わたしのことは柚子でいいのですよー」
柚子はえへへ、と笑った。
「今日からの新米なんだ。まずは『聖なるお米』を作ってもらおうと思ってね。柚子葉、よろしく頼むよ」と、天照さま。
「あいあいさーなのです」
柚子は天照さまに向かって敬礼した。
「では弘、水を汲んでくるのです」
「水?」
「この家のとなりにあるのです。井戸水なのですよ」
「へいへい」
俺はうなずいた。
「後は任せたよ、柚子葉」
天照さまがひらひらと手を振った。
「ここで神としての基礎を覚えたころに、また来る」
そう言った後で、天照さまはフッと消えてしまった。
「あ、天照さま!」
俺は玄関ののれんをくぐって外に出た。天照さまの姿は無かったが、空に輝いていた太陽が、清冽にきらめいた気がした。
「天照さまが直々に来るなんて、めったに無いことなのですよ。ずいぶんと見込まれているですね」
後をついてきた柚子が言う。
「今は何にも分からないけどな、頑張るよ、柚子」
「そう来なくっちゃなのです」
柚子は、にぱー、と笑った。
狐神……白い狐の像と赤い鳥居がたくさん並んでいることでご存知のお稲荷さん。総本社は京都の伏見稲荷大社で、なんと海外の人が日本で行ってみたいところの上位になっている。商売の守護神であることでも有名で、信仰の深い社長さんのおうちや会社のビルにはお稲荷さんが祀られていることも。
柚子葉は、神さまとしては比較的若い狐神。狐の姿にも人の姿にもなれるが、見てのとおり耳としっぽが隠しきれない半人前の神さま。それでも、あの世に来たばかりの弘人よりはいろいろなことを知っているので、天照さまから神さまの先輩として基礎を教えるように言われている。