家出しかけた愛実ちゃんを、ボーイフレンドの体を借りて説得しました。
俺は愛実ちゃんを追いかけた。家からすこし離れた神社に彼女が行くと、そこにはひとりの男の子が待っていた。
「将くん!」
「愛実ちゃん」
「ごめんね、うちの親がひどいことを」
「いいよ、急にお邪魔した僕も悪かった」
「ううん! 娘のボーイフレンドを、追い払う親の方が古くておかしいんだよっ」
愛実ちゃんは呆れた顔をしていた。二人は神社のベンチに座り、学校のことなどを雑談し始めた。
「ゲコ」
「あ、土地神さま」
「良くないでゲコ。このままだと、ふたりが家出してもおかしくないでゲコね」
「マジですか!? どうしよう……」
「あの男の子にすこし乗り移って、愛実ちゃんを諭したら良いでゲコよ」
「え、そんなこと出来るんですか」
「ここはぼくの神社でゲコ。そのくらいはやれるでゲコ」
「じゃあ……緊急事態ですもんね、やってみます」
「頑張るでゲコ」
俺は、ふたりで笑顔を取り戻して、仲良く話す愛実ちゃんとボーイフレンドの将くんの側にそっと近づいた。将くんにそっと触れると、俺はすっと彼の体に吸い込まれた。
「……愛実ちゃん」
「なに? 将くん」
「君の親がやった、急にやって来た娘の彼氏を追い出したっていうことは、確かに古いし、親の威厳の使い間違いなんだけど……。それは、きっと愛実ちゃんを思ってのことなんじゃないかな」
「……うん」
「昔、愛実ちゃんは行方不明になりかけたことがあったろ? きっと、ふつうに育った子よりも、いつかどこかにまた行ってしまうんじゃないかって、きっと余計に心配なんだよ」
「そうなのかな」
「追い出されたのはちょっとびっくりしたけど、それも仕方がないって思ってて、そんなに傷ついてはいないから。家を飛び出してきたんじゃ、きっとお父さんもお母さんも不安だよ。家に帰った方がいい」
「そっか。うん、将くんが言うなら……分かった」
愛実ちゃんはセーラー服のスカートをパン、と払ってベンチから立ち上がった。俺は、ほっとして将くんの体から抜け出た。
「じゃあ、また明日学校でね、将くん」
「ん……? うん。学校じゃ、照れくさくてあんまりこんなふうに二人でいられないけどね」
「中学生とか高校生ってさ、一番恋がしたくなる年なのに、勉強って何だろうね?」
愛実ちゃんと将くんはクスクスと笑いあった。
良かった、愛実ちゃんはいいボーイフレンドにご縁があったようだ。
将くんと別れ、愛実ちゃんは喜美さんと卓司さんの待つ家へと帰ってきた。
「愛実……!」
泣きそうな顔をして、喜美さんが愛実ちゃんを迎えた。卓司さんも緊張していた顔を緩めた。
「心配かけて、ごめんなさい。でも、お父さんとお母さんの態度も悪かったんだよっ」
そう言うと、バタバタと愛実ちゃんは自分の部屋に入っていった。
「お手柄でゲコ、新米の神」
ピョコピョコとカエルの土地神さまが飛んできた。
「はー。神さまがたって、案外いつでもほんとに人の人生に絡んでるんですね。知らなかったなあ」
「君も新米ながら、これでもう、ちゃんと一応の神さまでゲコよ」
「そうなんですか。なんか自信が無いですけど」
「ははは、そうやって神として、すこしづつ成長していくもんだよ。お疲れ、工藤君。愛実ちゃんの将来を、今後も見守るとしよう。すこし時間を進めるよ?」
天照さまが、俺の顔を見て微笑んだ。




