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神隠しに遭いかけた愛実ちゃんを助けました。

 喜美さんと卓司さんが血相を変えて辺りを歩きまわっていた。



「愛実ー! どこにいるの、愛実ー!」

「無事か!? 返事をしてくれー!」


 二才になって、すこしづつ動き回るようになったところだった。喜美さんと卓司さんがちょっと目を離した隙に、愛実ちゃんがいなくなったのだ。


 とは言え。


 おーい、ここにいるよ!


 俺は、草むらの中できゃっきゃとはしゃぐ愛実ちゃんを見ていた。愛実ちゃんと遊んでいるのは、白と黒とで体毛を覆った熊、パンダだ。


 何故、動物園にしかいないはずのパンダが、この町にいるのだろう?


 そして、愛実ちゃんと遊んでいるのだろうか。


「工藤君。あれは、物の(もののけ)だね。妖怪だ」


 天照さまが顔をしかめた。


「妖怪! 本当にいるんですね」

「いなくなるはずのない見通しの良い場所で、ふと子どもが消えて、その後探したばかりの場所で見つかることがあるだろう? それは、神隠しとも言うが、科学的には説明のつかないこともある。そういったときには、この現世に大きく影響を与えることのできる格の低い神や、こうして物の怪、妖怪が関わることがあるんだ。彼らに悪意は無い。彼らはただ可愛い赤子を見つけたから遊んでやりたいと思っただけなんだが、彼らと現世では時の経ち方も違う。いなくなった方の親や関わりある人々にははた迷惑なことだ。工藤君、あのパンダを諭してくれないか」

「……分かりました」


 俺はパンダと愛実ちゃんに近づいた。パンダが警戒する。


「新しき神か!」

「そうだ。皆が探しているんだ。困っているから愛実ちゃんを家族に返してくれ」

「あー」

 

 パンダの代わりに愛実ちゃんが返事をした。パンダが離れようとすると、愛実ちゃんがいやいやをする。


「可愛い子! ワシは一緒に遊んだだけだ」


 パンダが愛実ちゃんを抱きしめる。愛実ちゃんがパンダの腕の中ではしゃいだ。


「分かっているよ。でも、お前と愛実ちゃんは住むところが違う。これ以上一緒だと、どちらにもいいことは起きないよ。頼む、愛実ちゃんを元のところへ帰してやってくれ」


 パンダは寂しげな顔つきになった。


「……可愛い子。さらばだ」


 パンダの姿は、うっすらと透明になり、最後にふっと消えてしまった。


「ぱー! ぱー!」


 愛実ちゃんがパンダを呼び、大声で泣いた。


「あっ、愛実!」


 その声を聞きつけて、喜美さんが飛んで来る。


「愛実!」


 卓司さんも駆け寄ってきた。


「お前が目を放すから……!」と卓司さんが怒る。

「ほんのすこしの間だったのよ! あなたも見ていたでしょう! わたしだけのせいにしないで」と喜美さんも喧嘩腰だ。


「だけど良かった、本当に良かった」


 卓司さんが愛実ちゃんを抱いた。


「そうね。見つからないかと思っちゃった」


 二人、若い夫婦は泣き崩れた。


「ぱー! ぱー!」

「ん、パパ? 俺のこと?」と卓司さん。


「ぱー!」


 愛実ちゃんが首を振る。


 パンダの物の怪が消えたほうを、愛実ちゃんはずっと見ていた。


(弘君、お手柄ね)


 愛実ちゃんの体から、ふわりと光の玉が浮き上がる。


「おばさん。物の怪に連れて行かれる前に、何とかできなかったんですか?」と俺。


(新しい魂の自由な意思は、幼くても尊重しなければならないの。愛実ちゃんはこの世ならざるモノに応じて、遊びたいと思ってしまったのよ。その意思を、前世であるわたしが妨げることは出来ないの)



「そうなのか……」


 子どもの頃は、誰でも危なっかしいものだけれど、愛実ちゃんが元の世界に帰れて本当に良かったと思った。

 

「工藤君。それでは、もうすこし時を進めるよ?」と天照さま。

「……はい」


 俺は現世から、再び離れた。


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