あの世で転生の儀に立ち合いました。
うじゃうじゃの魑魅魍魎。恐れながら、神さまがたが集まって転生者の世話を焼くところに、俺はそんな印象を受けた。とにかくたくさんの神さまか人か妖怪か分からない存在がひしめいている。その中で、一番上のところに座布団がふたつあって、そこに天照さまと、黒髪の角髪を結い、鼻の下と口元に短い髭をたくわえた男の神さまが座っている。
「近く寄れ。よく来た、よく来た」
男の神さまが笑って手招きする。
「工藤君。この神さまが大国主命だよ」
「あ……縁結びの!」
「うむ。鎮座する出雲におるときはそのように思われておるが、余は、まあ言うてみれば日の本の地に降りる神と人とのまとめ役よ」
「工藤弘人と申します。お目にかかれて光栄です」
どっしりとした体躯の大国主命さまに、俺は一礼した。
「うむ。こちらで執り行う転生の儀をとくと見ておくが良かろうて」
大国主命さまがうなずいた。
「あら、弘君」
わらわらと集う神さまだか人だかの中から、おばさんの声がした。そちらを向くと、光の玉がふわふわと浮かんでおり、そこを中心として何人かが話し合っていた。
「弘君、わたしはここよ」
光の玉からおばさんの声がした。
「この神々の世界ではね、工藤君。姿かたちでさえも思い通りになるんだ。一番純粋な形としては、この君のおばさんのように光の玉になる」
「へえ……」
俺は、生きていたときに、友人から、神社で写真を撮ったとき、こんな光の玉がいくつも映り込んだ画像を、ホラーだよなと見せてもらったことがある。
「心霊写真とか言われている、光の玉がある写真は魂を撮っていたんですね」
「その通り。宇宙は大きい存在も球体、極小の世界も球体でできているよね。三次元の世界の秘密のひとつさ。人もこちら側では、姿かたちにこだわらなくなれば、この君のおばさんのように光の球体にもなるんだよ」
姿かたちが思い通りになる。まだ現世の姿を引きずっている俺にはまだ想像もつかないが、日本の伝説にいろんな形のお化けがいたのは、こちら側で姿かたちを自由に変えられる存在があり、神さまや霊を見ることのできる人の前に現れたからなのかもしれないと思った。
「そうだ、弘人よ。八百万の世界とは、米粒ひとつ、石一つ、木の一本に、けもの一匹。あらゆる形で神々が宿り守る世界なのだ」と、大国主命さまが言った。
「天照さま、大国主命さま。転生の儀の準備ができましたゲコ」
光の玉になったおばさんを囲んでいた人々がこっちを向いた。その中に、ぴょんぴょんと跳ねてくる小さな緑色の生き物がいる。カエルだった。
「カエルが神さま……?」
「ふふ、工藤君。先ほど大国主命殿が言ったとおり、八百万の世界は様々な姿をした神がいる。彼は、君のおばさんの転生先で面倒を見る土地神だよ」
「土地神さまなんですか!?」
何も変わったところの無さそうなカエルが土地神さまとはびっくりだった。
「新米の神でゲコね。ぼくは古来より土地を見守ってきた神さまでゲコ」
「土地神さま……」
「そして、君のおば上の周りに集まった人々が氏神、祖霊の神でゲコよ」
俺は光の玉となったおばさんのほうをもう一度見た。着物を着た人々が話し合っている。
「では、この者の転生の儀を執り行う!」と、大国主命さまが大きな声をあげた。
「はっ」
「ゲコ」
光の玉を中心に、集まった神さまたちがお辞儀をする。
「どんなに辛いことがあろうとも、我々は必ず見守っておる。それを忘れずにな」と大国主命さま。
「はい!」と、光の玉からおばさんのうれしそうな声がした。
「新たな人生を楽しむが良い!」
見ていると、光の玉がすこしづつ下に向かい始めた。
「この私たちの世界は、三次元の世界では上のほう、ということになるんだ。今から君のおばさんは下の次元の浮世に生まれていくというわけさ」
天照さまは下に降りていく光の玉を追いながら俺に言った。
「さあ、工藤君。君のおばさんがどんな新しい人生を作り上げていくか、見守ってみよう」
「はい!」
ふわふわと光の玉が、下の、すこし薄暗い空間に降りていく。
「もう少ししたら君のおば上がぼくの町の夫婦に世話になるでゲコ」
ぴょんぴょんと俺の隣をカエルの土地神さまが行った。




