父母の夢枕に立ちました。
気が付くと、見慣れた家が目の前にあった。夜だ。みんな寝静まっているようで、家の明かりは消えていた。壁に手をやると、するりと抜ける。
……俺、本当に、霊になっちまったんだ。
俺はそのことに驚き半分、なんとも言えない気持ち半分だった。中に入ると、父さんと母さんの部屋だった。二人は寝ていた。母さんの頬に涙のあとが見える。
「……父さん、母さん」
「弘?」
母さんが目を覚ました。父さんも続いて起きた。
「ごめんって、どうしても伝えたくて。先に死んじゃって、本当にごめんな」
「弘なのね! 会いたかった」
母さんが俺を抱きしめた。人にさわれたことに、俺は驚いた。感触がある。子どものときは、よくこうして抱きしめてもらったっけ。
「弘なんだな。ナムアミダブツ」
父さんが俺に手を合わせた。
「うん……神さまが、父さんと母さんに会わせてくれたんだ」
「そうなの」
母さんがまた涙をこぼした。
「でも、もう行かないといけないんだ。俺がいなくても、二人、うまくやってくれよな。後追いなんか、絶対にしないでくれよ。会えてよかった」
「うん……神さまにお礼を言わないとね」
「そうだよな。俺、神さまなんて半信半疑だったけど、本当にいるんだよ。これから、神さまと一緒のところへ行くんだ」
俺は父さんと母さんの顔を見つめた。
「さよなら。いつまでも元気で、父さん、母さん」
「弘……!」
「お前も元気でな!」
父さんと母さんの声が、部屋が、急に遠ざかっていった。父さん。死んだあとに「元気でな」もないもんだ。父さんの言葉を思い出し、すこし、笑ってしまった。