邪鬼姫の過去を知りました。
「まずは、一献」
目の前の鬼……邪鬼姫は徳利とおちょこをどこかから取り出した。かやぶき屋根の家の中、囲炉裏の前で邪鬼姫はあぐらをかいていた。着物がめくれて、きれいな足が太ももまで見えている。俺は目のやり場に困ってしまった。
「邪鬼姫、悪いけど俺は未成年だ。酒は飲めないよ」
「わたしもなのですー」
俺と柚子はお互い困った顔になった。邪鬼姫が悪気でないのは分かるが、あの世とはいえ未成年が酒を飲むわけにはいかない。だけど、そうなると俺は今後、一切酒が飲めないことになる。なんだかそれも寂しいと感じた。
「腹を割って話すには酒であろう! 未熟者どもよ」
フン、と鼻をならして邪鬼姫がおちょこをあおる。
「わしが人間だったころには、幼き者も酒を酌み交わしたものじゃ」
「えっ? 邪鬼姫って元は人間だったのか?」
「さよう。鬼とは人が成る者、神が落ちぶれて成る者、これも様々じゃが、わしは人間じゃった」
「いつから?」
「江戸のころじゃ」
「なんで鬼になったんだ?」
「話せば悲しきものよ」
邪鬼姫は遠くを見るような瞳になった。
「わしには夫がおった。浮気性のひどい男でな、ぽんぽんよそで子どもを作りよった。面倒を見るのは正妻であったわしに押し付けてな。我慢に我慢を重ねたが、あるときついに耐えられなくなって、夫を殺してしまったのじゃ」
邪鬼姫はフッと息を吐き、言葉を続けた。
「下手人としてわしも死罪となった。死んでからも夫を憎む気持ちが収まらなくてな、夫のような浮気性の男や、そんな男に付き従う尻軽女を取りつくようになったのじゃ」
「取りつく……」
「こちら側では、ひとは普段持つ感情によって居場所が決まる。妬み僻みを持てば、おなじように妬み僻みを持つ人々のところで暮らすことになるのじゃ。人々に取りつくうちに、鬼にまでなってしまってのう」
「そうだったのか」
「そうじゃ。ひとつの地獄じゃな。神の眷属になれて、わしは救われた」
邪鬼姫は晴れ晴れとした表情になっていた。
「弘殿は優しき神じゃな。わしも精一杯、お役にたとう」
「うん。よろしくな、邪鬼姫」
俺は邪鬼姫の瞳を見つめ返した。




