表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

みんなであの世の温泉に行きました。

 もくもくと、白い湯気があちこちから立ち昇っている。硫黄のにおいが鼻を突いた。


「こんなところがあるんですね」


 俺は興味深々で、辺りを見回した。石を組み合わせて作られた土台の上に、木造の壁があった。壁の向こうが温泉のようだ。壁と壁の間に作られた通路があり、そこに男湯と女湯ののれんがあった。


「ははは、混浴を期待したか?」


 悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべる火之加具土命さま。


「そそ、そんなことないですよ!」


 俺は焦って答える。


「昔、江戸の頃までは、湯屋も混浴だったんだけどね」


 天照さまがあっけらかんと言った。


「じゃあ、わたしたちはここでお別れなのです」


 柚子が手を振り、女湯のほうに入っていった。


「行くぞ、工藤よ」


 火之加具土命さまが俺を男湯のほうにうながす。


「はい」


 俺は男湯のほうののれんをくぐった。かごが木の床の上にいくつか置いてある。まだ誰もいないようだ。


「わ、貸し切りだ!」


 俺は子どもみたいにはしゃいでしまった。俺は服を脱いで籠に入れ、湯舟へと急いだ。露天風呂だった。岩が女湯との仕切りに使われていて、岩の向こうにも湯煙が見えた。


「背中を流してくれるか? 工藤よ」


 火之加具土命さまが来て、俺に背を向けて小さな椅子に座る。


「いいですよ。来たれボディシャンプー! 洗いタオル! 湯桶!」


 俺は『具現化』を使い、洗いタオルにボディシャンプー、そして温泉の湯を入れる湯桶を出した。


「ふむ。工藤のいた時代は便利な物があるのだな」

「風呂に関しては、日本は今、一番こだわって進化してると思いますよ」


 俺はボディシャンプーを洗いタオルに付けながら答えた。


「では、背中をこすりますよ」

「頼む」


 ごしごしごし。俺は心を込めて火之加具土命さまの背中を洗った。


「うむ、気持ちが良いものだな」

「そうでしょう。洗いタオルを発明した人は天才だと思います」と俺。


 しばらく懸命に背をこすっていると、隣の女湯から天照さまと柚子の声が聞こえてきた。


「天照さまは、ぷろぽおしょんが美しいのです」

「そうかな? ふつうじゃないか?」

「わたしはまだぺたんこですが、きっといつか天照さまみたいになるのです」


 その声を聞いて、俺と火之加具土命さまは目を合わせた。


「岩……登れそうだのう」


 ぽつりと火之加具土命さまが言う。


「だ、だめですよ火之加具土命さま!」

「ここで見ずしては男がすたる!」


 いや、すたっちゃってもいいと思います。


「行くぞ、工藤よ」

「ああー、やめときましょうよ」


 岩の上に登ろうとする火之加具土命さまを追い、俺も岩にへばりつく。そして、火之加具土命さまを見るために上を向くと。


 ばっしゃーん!


 俺と火之加具土命さまに勢いよくお湯がかけられた。


「殿方の行動は御見通しなのです!」


 柚子が肩から上を岩から出して、べぇっと舌を出した。天照さまもいる。笑いをこらえているようだ。二人は肩から上だけでも、白い湯煙の間に見えたその肌は美しかった。


「無念だ」


 火之加具土命さまが残念そうだ。


「江戸以前はこうではなかったものを」

「……かなりフリーダムだったんですね、昔の日本って」


 俺は肩をすくめた。やれやれ、これでようやく落ち着いて温泉に入れそうだ。俺は体を洗って、湯舟につかり、満足のため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ