みんなであの世の温泉に行きました。
もくもくと、白い湯気があちこちから立ち昇っている。硫黄のにおいが鼻を突いた。
「こんなところがあるんですね」
俺は興味深々で、辺りを見回した。石を組み合わせて作られた土台の上に、木造の壁があった。壁の向こうが温泉のようだ。壁と壁の間に作られた通路があり、そこに男湯と女湯ののれんがあった。
「ははは、混浴を期待したか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる火之加具土命さま。
「そそ、そんなことないですよ!」
俺は焦って答える。
「昔、江戸の頃までは、湯屋も混浴だったんだけどね」
天照さまがあっけらかんと言った。
「じゃあ、わたしたちはここでお別れなのです」
柚子が手を振り、女湯のほうに入っていった。
「行くぞ、工藤よ」
火之加具土命さまが俺を男湯のほうにうながす。
「はい」
俺は男湯のほうののれんをくぐった。籠が木の床の上にいくつか置いてある。まだ誰もいないようだ。
「わ、貸し切りだ!」
俺は子どもみたいにはしゃいでしまった。俺は服を脱いで籠に入れ、湯舟へと急いだ。露天風呂だった。岩が女湯との仕切りに使われていて、岩の向こうにも湯煙が見えた。
「背中を流してくれるか? 工藤よ」
火之加具土命さまが来て、俺に背を向けて小さな椅子に座る。
「いいですよ。来たれボディシャンプー! 洗いタオル! 湯桶!」
俺は『具現化』を使い、洗いタオルにボディシャンプー、そして温泉の湯を入れる湯桶を出した。
「ふむ。工藤のいた時代は便利な物があるのだな」
「風呂に関しては、日本は今、一番こだわって進化してると思いますよ」
俺はボディシャンプーを洗いタオルに付けながら答えた。
「では、背中をこすりますよ」
「頼む」
ごしごしごし。俺は心を込めて火之加具土命さまの背中を洗った。
「うむ、気持ちが良いものだな」
「そうでしょう。洗いタオルを発明した人は天才だと思います」と俺。
しばらく懸命に背をこすっていると、隣の女湯から天照さまと柚子の声が聞こえてきた。
「天照さまは、ぷろぽおしょんが美しいのです」
「そうかな? ふつうじゃないか?」
「わたしはまだぺたんこですが、きっといつか天照さまみたいになるのです」
その声を聞いて、俺と火之加具土命さまは目を合わせた。
「岩……登れそうだのう」
ぽつりと火之加具土命さまが言う。
「だ、だめですよ火之加具土命さま!」
「ここで見ずしては男がすたる!」
いや、すたっちゃってもいいと思います。
「行くぞ、工藤よ」
「ああー、やめときましょうよ」
岩の上に登ろうとする火之加具土命さまを追い、俺も岩にへばりつく。そして、火之加具土命さまを見るために上を向くと。
ばっしゃーん!
俺と火之加具土命さまに勢いよくお湯がかけられた。
「殿方の行動は御見通しなのです!」
柚子が肩から上を岩から出して、べぇっと舌を出した。天照さまもいる。笑いをこらえているようだ。二人は肩から上だけでも、白い湯煙の間に見えたその肌は美しかった。
「無念だ」
火之加具土命さまが残念そうだ。
「江戸以前はこうではなかったものを」
「……かなりフリーダムだったんですね、昔の日本って」
俺は肩をすくめた。やれやれ、これでようやく落ち着いて温泉に入れそうだ。俺は体を洗って、湯舟につかり、満足のため息をついた。




