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あの世で天照さまに出会いました。

 だんだんと、気分が落ち着いてくる。

 

「ここはどこですか。天国? でも俺、天国に行けるほど良い行いをしたとも思えないです」


 俺は辺りを見回した。霧のような、もやのような、白くたなびくものが、すこしずつ晴れていく。女性の背後には、大きな神社があった。神社は、柱は太く、鳥居は大きく、巻かれたしめ縄も立派だ。おやしろの中には鏡が飾ってあるのだろう、反射光のような、薄い光が漏れていた。


「どこにでもある場所、そしてどこにもない場所」


 女性は詩でも口ずさむように答えた。


 鳥居をくぐって、石畳の道があった。ところどころ、こけが生えている。俺と女性は、その石畳のひとつに、ふわりと降り立った。


「あなたは、死神なんですか?」


 俺は恐る恐る、聞いてみた。


「死神! 最近はいろいろな神がいて、にぎやかなことで良いな。はっはっは!」


 女性は快活に笑った。


「俺は工藤弘人くどうひろとです。……あなたは」

天照大神あまてらすおおみかみだよ。工藤君、君を迎えに来たんだ。だが、よりによって死神とはね、ははは!」


 天照さまはさもおかしそうに、おなかを抱えて笑っていた。天照大神。びっくりだ。日本の神さまの中で、一番、位の高い神さまじゃなかっただろうか。


「工藤君。君は病気になる前に、伊勢神宮にお参りに来てくれただろう。願い事は……」

「わー! そんなことまで分かるんですか!?」


 俺は、かっと頬が熱くなった。神社に、俺と天照さまのほかには誰もいなかったが、それでも密やかな願い事を言われるのは恥ずかしかった。


「何と言っても、神さまだからね。ははは。殊勝な願いだから、叶えてあげたかったんだ。だが、君のカルマがそれを許さなかったようだ」

「カルマ?」

「人が、未来に向けて積み上げていく善行や悪行のことさ。良い行いをすれば神々からの加護が厚くなるし、悪い行いをすれば、いずれそれは、七倍の威力をもって自分に返ってくる。そうして経験を積むことで、未来の自分を作り上げてゆくんだよ」

「ふーん……」

「君は悪い行いをほとんどしなかった。だが病気で若く死亡するカルマは、善行を行う人間も持つことがある。佳人薄命とはよく言ったもので、むしろ、皆に親しまれる良き人間ほど先に死ぬ傾向があるかもしれない。現世で経験を積む必要が無くなったと思ってくれたらいいよ。若くしての死だが、仕方がなかった」

「俺はいいんです。でも、父さんと母さんが可哀想で」


 俺は、最後に見た両親の顔を思い出した。肉体の苦痛より、辛そうな親の顔を見る方が、心をえぐられた。


「そのことは清算しておいたほうが良いかもしれないな。行こう、工藤君」

「へっ?」

「お父さんとお母さんの枕元に立つんだ。彼らの夢に出て、さよならを告げたらいい」


 最初のときのように、天照さまは俺に手を差し出した。俺はその手を、また握った。


天照大神……伊勢神宮におわす、神々の住まう高天原たかまがはらで一番格の高い神さま。その割には、弟・素戔嗚すさのおが来た時には全力武装で警戒したり、素戔嗚の行いが悪い! と悲しんで天岩戸あまのいわとに引きこもってしまったりする、日本の元祖ヒッキー。このお話では頼りがいのある姉さまキャラだ。天照さまもいろいろ経験を積んで今があるんだよ!


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