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お茶タイムになりました。

 天照さまに導かれ、あの、かやぶき屋根の家に戻ってきた。重苦しい感じが残る。


「疲れただろう」

「はい」

「だけどね、工藤君。霊的に誰かの役に立ちたいと思ったら、この重苦しさは経験しなくてはならないものなんだ。神々の世界に近づけば近づくほど気持ちは軽く、清らかになる。逆に、地獄ではあの老人のように猜疑心でいっぱいだったり、負の感情に満ちた人を相手にするから、こちらも相応に重苦しい気持ちを分け持つことになる。死後は自分が相応しいところへ行くことになるわけだが、神々の世界に近づいた人間は、この重苦しさを背負ってまで、地獄や現世に行きたいとはあまり思わなくなるんだ。だから、あの老人のために何かできないかと思ってくれた工藤君は、神さまと呼ばれるに値する心がある」

「結局、何もできませんでしたけど……」

「だんだんと出来るようになるさ」

「あの地獄のおじいさんは、お金の使い方を間違えたので、ああなったです」


 柚子がむすっとして呟いた。ああ、そうか。柚子は商売繁盛の神さま、お稲荷様だもんな。


「お金の良い使い方なんてあるのか……?」

「あるですよ。お金は人の世に欠かせない大切なものなのですが、重要なのは、自分ではなく、誰かのために出すお金が一番尊いということなのです。そうして、できれば、誰かの役に立てたり、自分や他人を問わず喜びのために使うお金が良い使い方なのですよ。現世でも、お金は人のためにぐるぐる回して使うのが理想なのです。そうして誰かのために出ていったお金というのは、あとで利子がついて自分に帰ってくることが多いのです。足るを知って、不幸にならない程度のお金があれば、それ以上は望まないほうが幸せなことも多いですよ。お金がたくさんあっても幸せじゃない人は、あのおじいさんのようにいっぱいいるのです」


 柚子がため息をついた。


 そうか……。いいことを聞いたと思ったが、俺はもうあの世の住人だ。あの世にお金は持ってこれない。お年玉の残りがあったけど、結局使わずじまいで死んじまったもんなぁ。


 もし、現世にまた行くことがあって、お金のことで悩んでいる人がいたら教えてあげたい知識だ。


「お金については柚子葉のほうが詳しいかもしれないな」と、天照さまが言った。

「お金に限らず、こちら側でも現世でも、何故その行動をするのかが問われるのです。良い動機を心掛けるのが大事なのです」

「良い動機か……」


 俺は思案した。コンビニの募金や、災害のボランティアなんかが人々に喜ばれるのは、動機が良ければのことなんだろう。もしもボランティアをしたとしても、それで自分が目立ちたいと思ったり、誰かのために「してやっている」というおごった意識があるなら、それは、あまり喜ばれないように思う。


 善行は、誰にも知られないようにやるくらいでちょうどいいのかもしれない。


 俺はそんなことを考えた。


「さあ、この重苦しさを追い払うために、お茶にしよう」


 天照さまが微笑んだ。


「あいあいさーなのです。来たれ、お茶とお饅頭まんじゅう!」


 柚子がむにゃむにゃ唱えながら、手を前にかざした。


 ぽん、と囲炉裏の前に、お盆に乗った三つの湯飲みと急須、そしてお皿に乗ったおいしそうなお饅頭が出てくる。


「神さまも疲れることがあるんですね」


 俺は天照さまに言った。


「そうさ! いろいろと、ひとの願いを聞いて叶えたり、あの老人のように自分で作った業に苦しむひとを救ったりする側も大変なんだ。たまにはこうして休憩を取らないとね」


 答えながら、天照さまはお饅頭を頬張った。俺もひとつ、お饅頭を取って口に入れる。ほどよい甘さだ。気だるい疲れに心地良かった。お茶もおいしい。温度をちゃんと計って作ったような温かさと、絶妙な具合の苦味と甘さがある。ほっとした。


 本当は「聖なるお米」を食べなきゃいけないかもしれないのだけれど、こういう、精神的な重苦しさには甘いものが一番だ。


 あの老人も、そうやって誰かに、例えばずっと付き添ってくれているあの青年におやつでも出せるような性格になれば、ちょっとは救われるのかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら、お茶とお饅頭を頂いた。


 しばらくのんびりとしていると、天照さまが言った。


「さて、落ち着いたところで、地獄の次は、天国を紹介しよう。いいところだから、今度は気楽に行けるよ」

「はい」


 そうして差し伸べられた手を、俺はしっかりと握った。


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