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病気で死んだら神さまが迎えに来ました。

 「ようこそ。それともお帰りか」


 目の前の、初対面の女性はそう言って俺に手を差し伸べた。


 あねさんとでも言うべき、頼りがいのありそうなオーラを漂わせ、長い黒髪を風になびかせた女性だ。


 白い着物を身につけて、首には勾玉まがたまをかけている。光あふれるような、こぼれる笑顔は、初めて会った俺でも美しいと思った。


 俺は女性から差し出された手を、ちょっと迷ったが、握った。小さいころ、母さんとよく手を握り、散歩したことを思い出す。


 ……ああ、そうだ。


 俺は死んだのだ、病気で。


 ガンっていうのは、若ければ若いほど早く重体になるっていうのは本当だった。見つかった時には手遅れで、あちこちに転移しており、手術はできなかった。なんか体が痛いと思っていたら、末期ガン。


 自分のことに涙するより、父さんや母さんよりも先に死ぬことが申し訳なくて仕方がなかった。抗がん剤は副作用が激しいらしいから諦めて、漢方薬や、先端医療のことも考えてはみたが、効果も分からない高額な治療を受けることに抵抗があり、ぐずぐずしているうちに死んでしまったのだ。


 俺自身はそれでいいと思っている。治るかも分からない病気のことで、親に金をかけさせなくて良かったと。だが、父さんや母さんが苦しそうな顔をすればするほど、申し訳なさが募った。


「思い出したようだな」


 女性は柔らかな笑みを浮かべた。


「はい。俺は……死んだんですね」


 そのことを、俺はわりと、素直に受け入れたほうだと思う。


 心残りはある。


 高校二年生の俺。勉強はそこそこ、このままだと、国公立は厳しいと言われ、今から、そろそろちゃんと頑張らなきゃなあと思っていたところ。国語とか、世界史、日本史を問わず歴史は大好きだから、文系の大学に入ろうと考えて、狙いを定めようとしていた。


 彼女はいない。できるならバレンタインデーに、チョコをもらってみたかった。……まあ、そんなことは生きていても無かったと思うが。


 仕事のことも気になっていた。そろそろ、自分の方向性を確かめた方がいいんじゃないかって。大学に入ったら、何かバイトでもしてみようか。病気になる前は、そんなことを考えていた。


 思い出すと、あれもこれも、やってみたかったことがあるじゃないか。俺は、涙がこぼれそうになった。


「泣きたければ、泣いても良い。私たちの前では、そなたらはまるで私たちの子どものようだからな」


 女性は俺の頭を、子どもをあやすように撫でた。泣けた。まるで母さんになぐさめてもらっているようだった。


「すみません……」


 女性は、俺の気が済むまで、側にいてくれた。


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