その2
思惑通り、びっくりしてくれるホイミちゃん。愉快。
「バーベキューにいこう」
「はいはい。えーと…この話の流れは?教室のすみっこに追いやられている二人が、バーベキューを介して社会に対して弱々しい愚痴をこぼす…という、趣旨だったように思いますが。話の流れが繋がらないです」
「ホイミちゃん。話は川のようによどみなく流れているよ」
「…繋がっていないような気がするー」
「繋がっているよ。だから、肉を焼いて食べるのだよ。我々で、真のバーベキューをするんだよ」
「あー、はいはい。分かります。きゃっきゃうふふなバーベキュー世界に一石を投じる?」
「そう。バーベキュー世界に波紋を呼んでやる。ただただ肉を焼いて、それを食べてやる。いやむしろ殺伐としてやる。予定調和もない。宗教的儀式もなければ、神様もいない。そんなバーベキューを、ふたりで成し遂げてみようじゃないか」
「なるほど、なるほど。でもあるいは、我々はバーベキュー世界に、完全に無視されてしまうかもしれないですー。いちべつくれて黙殺。誤差の範囲と判断&スルーな結末もありえますねー」
「その時はその時。牛角で傷をいやそう。で、どう?行く?」
ホイミちゃんは数秒考えた。答えは聞かなくてもまあ分かっていたけど。
「分かった。ええよ。一緒に死んじゃげる」
ホイミちゃんは、付き合いのいい子なのだ。いや、いい子なのだ。
かくして僕とホイミちゃんは、近くのお店でバーベキューをすることになった。テントを張った野外でバーベキューができるお店だった。バーベキューの道具はお店で借りた。食材も売っていた。バーベキューがこんなに簡単に、手ぶらでできるなんて、全く知らなかった。
「ふむふむなるほど。これは牛角さんを不便にしたシステムですー」
僕達のバーベキューは淡々と進行した。無理に淡々とさせるつもりもなかったんだけれども、自然とそうなった。ただ、これといって盛り上がる会話もなく、静かに肉が焼ける音を聞いたり、ホイミちゃんがサクサクととうもろこしをかじる音を聞いたりしていた。おしぼりで人形を作ったり、おたがいに、やりたいことをやりたいようにやった。
肉を前にして、どうしなければならないか、どうあらねばならないか。そんなことは気にせずに、自由にやった。きつい服を脱いだ後のような、ふんわりとした心地よさがあった。
というわけで、ええと。
結果的にいえば、バーベキューは楽しかった。いや、違うな。ホイミちゃんと肉を焼いて食べることは、純粋にものすごく楽しかった。
「また、こういうのしてみたいですー。うーん…こんな結論でいいんじゃろーか?」
それがたまたまバーベキューという名前がついているだけのことで、我々はバーベキュー世界のことなんてまるで気にする必要はなかった。
「そうだね。今度は海なんていっちゃおうか」
「あっはは。似合わない。日差しが強くて、きっと笑えるですー」
ホイミちゃんのいうとおり、ここは確かに教室のすみっこだ。でも、ホイミちゃんと僕のいるこの場所を、いや、ホイミちゃんと僕が選んだこの場所を、僕はとても気に入っている。
めでたし、めでたし。