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恋歌  作者: よろず
それぞれ…
51/57

翔平 ん

 俺と愛香ちゃんの関係は長い事変わらなかった。きっと俺が、彼女が心地いいと思う距離を作り過ぎた所為だ。

 四人でお姫さんの家に住むようになってからも、愛香ちゃんは遊びに来た。目的はお姫さんに会う為で俺じゃない。遊びに来ると二人はよく手料理を振舞ってくれる。そんな、仲の良いお兄さん状態もそろそろ、終わりにしたい。愛香ちゃんの就職が決まり、彼女はいつものようにお姫さんに会う為遊びにやって来た。そんな君を玄関で捕まえて、俺はおばあさんの皮を脱ぎ捨てる。


「好きだよ、愛香ちゃん。俺を君の恋人にしてよ」


 散々見せた優しい笑顔は消し去って、隠し続けた男の顔して君に迫る。俺の目の前で狼狽えている君の頬は赤く染まっているのにわざと仏頂面を作るなんて、本当に素直じゃない。でもね、俺は君の一筋縄じゃいかないそんな所まで全部、愛してしまってるんだ。


「いいですよ」


 つんと澄ました顔のはずなんだろうな。でも口元が緩んでるよ。気付いてないんだろうなぁ。


「やっと捕まえた」

「やっと、ですか?」

「そう。気付いてなかったの?」

「い、いえ……でも勘違いだったらって思ったら、怖くて」

「俺を失いたくなかったんだ?」


 意地悪に問いかけてみれば、真っ赤な顔で愛香ちゃんが暴れ出す。そんな抵抗、お兄さんには可愛いものですよ。


「素直になってくれたら、嬉しくて死んじゃう」

「死んだら嫌なので、言いません」

「なら言ってくれないと悲しくて死んじゃう」


 期待を込めて見つめた先、愛香ちゃんの瞳が潤んで美味しそう。瑞々しい真っ赤なリンゴが目の前で、私を食べてって誘っているみたいだ。


「……翔平さんが、好きでした。ずっと」


 手に入れた言葉はどんな果実よりも、甘い。


「俺もだよ」


 やっと捕らえた、俺の赤ずきんちゃん。もう絶対に逃がさない。


 *


 お姫さんの家で過ごした時間は楽しくて、失いがたい大切なもの。でもそれも、そろそろおしまい。


「旭さんはいつプロポーズするの?」


 どんな事にも終わりがやって来る。それは時に悲しかったり、苦しかったり辛かったり、幸せに彩られていたりもする。


「彼女の誕生日にしようかなって思ってる。翔平は?」


 夢を叶えた俺達は、まだまだ続く道を歩き続ける。四人並んで歩いたこの道を、これからはそれぞれの大切な人も一緒に。


「俺はねー、もう少し焦らす」


 焦らされて拗ねる愛香ちゃんを想像すると楽しくて、笑みが滲んだ。素直じゃない彼女を素直にする方法。きっとそれは、俺が誰よりも詳しいと思うんだ。


「お前ってさ、実は歪んでるよな。彼女も大変な男に捕まったもんだ」

「ありがとー」

「褒めてねぇから」


 俺と旭さんは二人で部屋を飾り付け中。祝う相手は可愛い弟みたいな朔と、大切な大切なお姫様。


「しっかし朔、決めるの早いよな」

「そりゃー、大人気バンドHollyhockの姫が相手だし。完全に捕まえたかったんでしょうよ」

「指輪も公表もなしじゃ牽制にはならないだろ」

「牽制は、曲でしょう」

「あいつ、全部出るからな。きっとあっという間にバレるな」

「だねー」


 会話しつつも手を動かして、飾り付けが終わった直後に玄関から人の気配。俺と旭さんはクラッカーを手にして待ち構える。リビングのドアが開き、クラッカーの紐を引いた。


「結婚おめでとう!」


 声を揃えた俺らに、満開の笑顔を浮かべたお姫さんが駆け寄ってくる。お姫さんからのハグとキス。これは、彼女の大切な存在にならないともらえないものなんだ。


「いてぇって!」


 俺らの大切なお姫様を見事射止めた朔には、俺と旭さんの連携プレーでプロレス技を掛けてやった。


「年下の癖に一番先に結婚しやがって!」

「旭さんだってもうすぐだろ!」

「まぁな! おめでとうだこの野郎!」


 騒ぐ朔を眺めて、お姫さんは楽しそうに笑ってる。


「お姫さん、幸せになってね」


 朔から離れた俺は、お姫さんにハグとキスを贈った。


「ありがとう。幸せだよ!」


 夢を諦めようとしていた俺に与えられた奇跡。運命の女神。それを運んで来てくれた旭さんにだって感謝しているけど、始まりはこの子。この子がいなければきっと、俺達はここまで来られなかった。

 ――君の笑顔と幸せを、心から願っているよ。


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