翕い(いっせいにおこる)・波瑠
綾と水野先生の恋が表面化します。
まさか……
って思っていた。
何だかんだ言っても結局あの二人……
本当は両思いだっったみたい。
渋谷で出逢った二人は、それぞれの初恋の人だったようだ。
だって水野先生の恋バナなんて今まで聞いたことなかったし、綾ちゃんだって体育祭の時にちゃんと言っていたから。
綾ちゃんは、お姉さんのこと相当嫉妬していたみたい。
こっそり調べていたことは調査済みよ。
だって、綾ちゃんって解りやすいんだもの。
水野先生から目が離せないって、顔に書いてあったしね。
だから水野先生のイトコだと知った時点で態度が変わったんだ。
言わなければ良かったかな?
もっと意地悪すれば良かったかな?
そんな思いも少しはある。
でも、あんな暗い目をした彼女が幸せになるなら許しちゃうよ。
だから綾ちゃん。
水野先生と仲良くね。
後が大変だけどね。
知らぬが放っとけ。
だけどね。
実はね。
家の両親はまるで今の二人のような立場だったの。
水野の家の次男坊の父にも、結婚する相手が決められていたんだ。
にもってことは……
勿論、水野先生にもってことよ。
だから……
兎に角大変だったのよ。
二人は親戚中の反対を押し切って結ばれたの。
だから綾ちゃんきっと苦労するわ。
でも負けないで……
父と母のような仲の良い夫婦になってもらいたい。
ありゃ、だいぶ早すぎるかな?
昨日二人で出掛けたそうだ。
それが何処なのか見当も付かないけど、其処で二人の愛を確かめあったようだ。
(――えっーー!?
――もしかして初体験?
――綾ちゃんやるー!!)
違ったかな?
でも水野先生は、昨日彼女がヴァージンだって知ったって言っていた。
(――って、やっぱり初体験したんじゃない?)
私は彼女の秘密をも洩らしてしまうほど、綾ちゃんにゾッコンなんだと思っていた。
クリスマス追い出した会の当日。
何があったのかは知らない。
でも水野先生がメロメロになってしまうくらい大変なことだったようだ。
お陰で、此方は大騒ぎだったのよ。
主役がトンズラしっちゃったからね。
担任の話だと、市民ホールには来たのはきたけど演技が出来る体力がなかったとか……
それって何?
本当に綾ちゃんのこと心配していたんだから。
其処で決まったことは、携帯電話を持っていない綾ちゃんと水野先生の連絡方法だった。
綾ちゃんには、固定電話のベル。
三回コールなら私の家に伝言が預けてある。
のようだ。
でも……
綾ちゃんと私は毎日のように連絡を取り合うようになっていた。
だって、二人のことを根掘りは堀聞きたいし……
綾ちゃんとのたわいもないやり取りが私の心をワクワクさせてくれたから。
二人の恋をを知っている私は、応援したくて仕方なくなっていたんだ。
綾ちゃんと水野先生の恋に端を発して、色んなことが一斉に起こる。
ごめんね綾ちゃん。
私が迂闊だった。
私達の……
って言うか……
私の応答から、偶々其処にいた親戚の人が勘ぐったのだ。
水野先生は良家の次男坊で、親戚の人は勝手に結婚相手を決めていた。
それは、行方不明の誰かの子孫だった。
現実にいるかどうかも判らない人が結婚相手だなんて、水野先生でなくても逃避したくなるよね。
だから……
本当は綾ちゃんとの恋に現を抜かしている場合ではなかったのだ。
でも、だからこそ、この恋を認めてもらいたかったのだ。
私はそれを知りながら、それでも綾ちゃんを応援していたのだ。
だって家の父も、本当はその人を探出して結婚しなければいけなかったのだから。
母のように綾ちゃんも苦労することも解っていた。
立場は同じ、一人っ子だからね。
それでもめげないで、困難に立ち向かっていってほしいんだ。
年末年始の行事が重なり親戚連中の集まりが多くなり、水野先生と綾ちゃんの恋が表面化したんだ。
それって、私がばらしてしまったことへの言い訳に過ぎないけどね。
水野先生……
だいぶやり込められていたよ。
それでも水野先生は真っ直ぐだった。
本当に一途に綾ちゃんを愛してるね。
幸せ者だよ綾ちゃん。
水野先生の家はお屋敷だった。
旧家なのだ。
江戸時代て言えば、何処やらの藩主の息子。
世が世であれば、水野先生は王子様だった。
本物の王子様だったのだ。
高校時代には、現在の王子としてモデルの依頼もあったほどだ。
でも、そのことを伏せてチャレンジしたそうだ。
長身の上に、端正な顔立ち。
抜群のスタイル。
たちまち人気モデルの仲間入りを果たしたのだ。
『彼奴は駄目だ。ライバルが多過ぎる……』
担任の先生がそう言った訳は、それだったのだ。
元高校生モデル。
その肩書きはイヤでも付いて回る。
水野先生は本当は失敗したと思っていた。
そうに違いない。
だから、誰とも交際はしてこなかったのだ。
連絡を受けて水野宅に集合した親戚連中は言いたい放題のことを言った。
祖父が残した遺言。
それにはあの島を守ることと、行方不明の姫の子孫の姫を次男坊と結婚させること。
だった。
本当なら、私の父がその運命を背負うはずだったのだ。
だから父は離島で教師になって、島の生活を守ることにしたのだ。
「お前達が強引に結婚したからこう言う羽目になったんだ」
「………………」
親戚連中が遂に父と母を槍玉に上げた時、二人とも言葉を逸していた。
グーの音も出ないとはこう言うことかと悟った。
「だから俺は彼女と離島に行こうかと……」
「もう、その手は通じない」
水野先生の言葉を遮るように親戚連中は突っぱねた。
「お願い致します。せめて、せめて彼女のDNAの結果が出るまで待ってください」
「DNA!?」
その発言に、慌てて水野先生は口を閉じた。
親戚連中が水野宅から帰宅後に、伯母さんは懐かしいカステラをテーブルの上に並べた。
それは、私を喜ばすための魔法のお菓子だった。
これは伯母さんからこっそり聞いたレシピだ。
お風呂のお湯くらいの温度の湯煎で、玉子にグラニュー糖を加えた物をトロリとするまで泡立てる。
次に同じ温度くらいに温めた牛乳を少しずつ加える。
この中に振るった強力粉を三度に分けて加えて混ぜる。
粉っぽさがなければオッケイなのだそうだ。
フライパン全体にバター薄く塗り、オーブンシートを敷き詰める。
その中に生地を流して蓋をしてから、アルミ箔で覆いコンロの上に焼き網を乗せてその上でごく弱火で一時間弱焼くと絵本に出てくるようなスイーツが出来上がるのだ。
伯母さんは以前私が大喜びをしたことを覚えていてくれた。
それほどの優しい人だったのだ。
(――だから綾ちゃん……親戚連中の発言なんて気にしないで、水野先生の胸の中に飛び込んでね)
私は本当に、二人の幸せを祈っていた。
私はさっきの水野先生の発言で気になることがあった。
それはDNA発言だった。
「ところで水野先生。さっきのDNAって何?」
「……」
言葉を失った水野先生は傍にあった紅茶を飲み果たした。
「おい清水……水野先生はないだろう? 俺には孝之って名前があるんだ 」
それでも、平然と言い放った。
果たして二人はDNA鑑定の結果を聞きに行けるのだろうか?




