007-あなたの時間、売ります買います。
既出の作品のお引越です。
初めての方もそうでない方も是非ご一読を。
小説というより…シュミレーションに近いです。
「ああ、時間が足りない。時間が欲しい。」
世の多くの人々は、もっと時間があればと嘆く。
「ああ、ヒマだ。早く時間がたたないかな…」
一方では、時間を持て余す人がいる。
これはなんとかならないか。
…というわけで、科学の進歩が著しい近未来…
時間の売買ができるようになった。
そして開業したのが時間仲介企業<時間屋>
つまり時間を買った人は通常の倍の効率で動き、
時間を売った人は活動を停止する…というわけ。
「すごい…。時間ならいくらで売ってくれ!」
忙しい人はいくらでも時間が買いたかった。
次第に値上がりし、売値は一時間一万円を超えた。
「すごい…。時間ならいくらでも買ってくれ!」
ヒマな人はいくらでも時間を売りたかった。
次第に値下がりし、買値は一時間百円を切った。
売値と買値の極端なアンバランス。
時間屋はメチャクチャに儲かったが、ここはやはり
市場原理が働く。
時間の仲介業者が次々と開業したのだ。
≪時間売ります。一時間1000円キャンペーン≫
≪時間買います。今だけ倍額キャンペーン≫
…それからしばらく…
時間は比較的安値で安定するようになった。
やはりそうまでして働きたい人は少数派だったのだが…
…この状況が一変する。
なんと時間を10倍速で使える装置ができたのだ。
つまり10人分の時間を買った人は、通常の10倍速で動く
ことができる。
いつも効率の悪い誰かさんでも、時間さえ買えば小一時間で
10本ぐらいの短編が書けるというわけだ。
さらに20倍速、40倍速も近々実用化されそうだ。
こうなると完全に売り手市場だ。
仲介業者は、競って時間の売り手を探すようになった。
主婦はスーパーを回って安売り品を探すことがなくなった。
その時間を売った方が、節約よりお金になるから。
彼氏は彼女の買い物に付き合うことが苦にならなくなった。
買い物で待たされる時間を売れば小遣いになるから。
そしてついに…生活保護というものがなくなった。
有り余る時間を売りさえすれば、充分に生活できるから。
彼らは≪時間貴族≫と呼ばれ、優雅にのんびりと生きた。
…とはいえ生活は楽ではない。
食事と睡眠、最低限の社会生活は必要だ。
だが現在の相場では、一日平均12時間は売らないと、
生活保護費相当の収入は得られない。
だから時間貴族はなかなか普通の生活には戻れない。
多くは時間を売るだけで一生を終えることになる。
…だが彼らは語る。
「サラリーマンだって時間を売って生きているだろう。
我々も同じだ。働いていないだけ。」と
時間貴族の多くは寿命が長い。
だが、人生の実時間はトータルで何年もない。
人付き合いもなければ、社会情勢も知らない。
一方で時間を買う者の多くは寿命が短い。
だが、彼らは常人の何倍もの時間を生きたことになる。
…はたしてどちらが幸せな人生なのだろうか?
≪ご長寿≫、≪年長者≫、≪長幼の礼≫
そんな言葉もやがて死語になるだろう。
…だが、一つだけ死後にならない言葉があった。
≪時は金なり≫ という言葉はだけは…
時間…売ってほしいです。
というか誰か売って。お願い。