028-ある選挙管理官の悩み
ほとんど実体験です。
知人も同じことで疲れてました。
くだらない悩みですが意外に深刻です。
「へぇ。お前って選挙管理官をやってるんだ。」
「…まぁな。なんだってやるさ。」
「でも大変だろ。不正を見抜く重要な仕事だからな。」
「いや…。実にくだらないことが俺たちの悩みなんだ。」
くだらないこと??
国政を左右する選挙管理の何がくだらないんだ??
「お前さ、選挙の案内はがき、持ってるか?」
「ああ、これか?」
「そこの性別欄を見てみな。」
「≪男・女≫って書いてるけど…印とかないな。」
「ああ。それだけでは投票者の性別はわからないんだ。」
「はぁ??じゃあ…何の意味があるんだ??」
詳しく聞いてみると…
投票を終えた人の案内はがきは、男女別に管理される。
男女別の投票率を知る目的らしいのだが…。
なぜかその性別は≪選管の職員≫が判断するらしい。
「なんだ??なぜそんな面倒なことをするんだ??」
「…そりゃ性別なんて見た目で大抵は分かるさ。
けど数十人に一人くらいは不明瞭な人もいるんだ。」
「…だろうな。」
「投票に来る人は一会場で数千人だぜ。そうなると…」
「…結構な数がわからないってことになるな。」
そう…不明瞭なのだ。
じゃあ分からないときはどうするのかというと…
「まず名前を確認する。●郎とか▲子なら決まりだ。
でも■美は男でもいるから決め手にはならない。」
「…名前でわからなければ??」
「一緒に来た人との間柄から推察するんだ。
夫婦とか同性のグループならわかりやすいよ。」
「でも一人で来る人も多いだろう??」
「話しかけるんだ。声と話し方で大体はわかる。」
「…それでもだめなら??」
「注意深く見るんだ。決定的な証拠を…」
…なんか探偵みたいだな。
男ならば喉仏、ひげ、体毛など…
ただ男物の服装だけでは判断が難しい。
女ならば胸で判断できれば一番だが…
化粧、ネイル、靴、時計、カバン、服のあわせなど
女物が一つでもあれば決まり。
なぜなら女物を身に着ける男は極めて少数だから。
「でもな…大切なのは正確に見極めることではない。
申し開きのできる材料があることなんだ。」
「どういうことだ?」
「例えば女装男を女と間違えても問題にはならない。
判断に正当な根拠があるからな。
けど何となくで判断して間違えたら…ダメだ。」
「そんなに厳しいのか??」
「ああ。…下手をすると公職の不祥事になる…。」
…酷い話だな。
間違えたところで投票結果に何の影響もないのに…。
公職者のミスは即不祥事というのが常識なのか??
「それで…どういう人が難しいんだ??」
「普段から間違えられやすい人はまだマシさ。
たとえば大柄でゴツイ女性なら、自分から意識して
女性的なアイテムを身につけているから。」
「じゃあ逆に小柄で華奢な男性は??」
「それも同じだ。
むしろ小柄で細身ならば女性の方が厄介だな。
普段、男性と間違われない人の方が…」
なんでだ??
それじゃわかりやすいんじゃないのか??
「なぁ考えてみな。小柄で華奢で体毛の薄い男が…
どうやったら一目で男性だとわかる??」
「…短髪にして…男物を着て…アクセサリをつけず…」
「でもそんな女性もたくさん投票所に来るんだぞ。」
「…でも、雰囲気でわかるだろ??」
「言ったはずだ。何となく判断してはいけないと…」
なるほど…そういうことか。
申し開きをするに十分な証拠が見つけられなければ
公的には判断ができないんだ。
極論すれば真っ赤な口紅を塗った和●アキ子よりも、
すっぴんの剛力●芽の方が難しいってことになる。
でもそれって…何の意味があるんだ??
…ちなみに隣の席には投票者の名簿がある。
それを確認すれば答えは分かるのだが…
本人の目の前であからさまな確認行為はできない。
確認したこと自体が叩かれかねないらしいから。
「なぁ、哀しいと思わないか…。不正を見抜くための
選管が、こんなことに労力を割かれっるて…」
「…じゃあ…なぜ選挙用紙に性別を書かないんだ??
住民票に書いてるんだから簡単にできるだろ。」
「そう…簡単に解決できる問題なんだ。
余計な負荷が減れば、それだけ業務に集中できる。
それで…一件でも不正が減るのなら…。」
…俺だってもっと意味のある仕事をしたいんだ。
その言葉が深く胸に突き刺さった。
毎回、最後まで判断のつかない人はいるそうです。
本人は意識してないのでしょうが、若い人にも多いです。
特にその年代には中性的な名前も多いですから。
お願いですから次の選挙では、性別と年代が一目で
わかる格好で投票に来てやってください。
…ちなみに作者は公務員ではありません。




