022-家の外では警戒心を持って
歩きスマホ…ながら携帯…
ヘッドホンによそ見にわき見…
そんな世の中への警鐘です。
「さっきのケガ人…二人とも亡くなったそうだ。」
「でもこんな見渡しのいい道で、なんで正面衝突なんてするんだ?」
「しかも衝突した両方共がひっくり返って後頭部を打つって…」
「…でもこれって…歩行者同士の衝突だよな…」
…こうして一つ、いや…二つの人命がマヌケな最期を迎えた。
歩きスマホ同士の衝突事故。自転車や車の運転中にさえあるらしい。
…アイパッドや携帯、ヘッドホンなど…信じ難い警戒心のなさだ。
≪一歩外に出れば七人の敵がいる≫と言われたのは昔の話。
≪自分の周囲に危機があるかもしれない…≫
そんな危機を察知する本能…現代人は退化しているのだろう。
「でも…。何でこんなことになったんだ??」
「…意識不足ですよ。そもそも現代人は警戒心がなさすぎます。」
「確かに、家の外で視覚や聴覚をふさぐなんて自殺行為だ。
事件や事故に巻き込まれない方がおかしい。
…警戒心というより、根本的に危機感がないんだな。」
「自分は安全。危機は誰かが取り除くと思ってるでしょうか?」
「酷いな。これはなんとかしないと危険すぎる。
自分も他人も危機に巻き込む…国家的大問題だぞ。」
…というわけで技術の進んだ近未来。
政府は国の威信をかけて、ある製品を開発した。
その製品の名は【警戒センサー】
国民は外出の際、センサーを携帯することが義務付けられた。
もっともセンサーを持たずに屋外に出ると大きな警戒音が鳴るので、
不携帯や置き忘れの可能性はほとんどないのだけど…。
…それでも持ち歩かない者は処罰の対象とされた。
罰則はかなり重い。いきなり実刑もありうる。
常習犯は自宅軟禁されるという厳しいものだ。
…そんなある日、歩行者と自転車の衝突事故が起きた。
『お巡りさん聞いて!!この人、自転車に乗りながらスマホを!』
「でもこの人は話に夢中で…いきなり道路に飛び出してきたんだ!」
『…それを予測できないのはヘッドホンもしてるからでしょ!』
「そっちも道一杯に広がって歩いて…何も見てなかっただろう!」
…だけど警官は二人の証言などほとんど聞いていない。
警官の調査対象は…警戒センサーのログ履歴だけだ。
「…衝突当時、お二人とも警戒レベルが基準値以下でした。
それも衝突前数分間…まったく周囲に注意してませんでしたね。
注意義務違反の重過失で、二人とも逮捕します。」
『え…逮捕??』
「なんで?ただの衝突事故ですよ!?」
『私なんてぶつけられた側ですよ!?』
「…法律が改正されたんです。
事故を処罰するのではなく、不注意そのものを処罰することに…。
今後は事故の内容に関わらず、警戒心のない者は逮捕です。
逆に事故が起きても、警戒心さえ証明されれば減免です。」
「そんな…」
…こうして法律は大きく変わった。
事故が起きた際、これまでは無条件で交通弱者が被害者だった。
…が、これからは警戒レベルの高い側が被害者となる。
つまり事故を起こすのは警戒心の低い者…という理屈だ。
おしゃべりに夢中な女子高生…千鳥足のサラリーマン…
歩きスマホやヘッドホン利用者は例えどんな目にあおうとも…
もう決して≪被害者≫とは呼ばれなくなったのだ。
…それから。
交通マナーは…ものすごい勢いでよくなった。
事故件数は大幅に減り、死者数は一時の10分の1になった。
…さらに警戒センサーは更なる進化を遂げた。
注意義務が基準値以下の人物は、管理対象とされたのだ。
「鈴木さんですね…注意義務違反で逮捕します。」
「…え…俺は何も事故なんか起こしていないけど??」
「いつも通勤の際、ネット小説を読みながら歩いてましたね。」
「それって…罪になるんですか?」
「そんなことも知らないんですか!?
ニュースで散々伝えたのに。無警戒にもほどがある!!」
…こうして家の外ではみんなが集中するようになった。
道を塞ぐように立つ者や、横並びで歩く者もいなくなった。
だからみんな歩行速度が上がり、目的地に早く着けるから…
メールは…音楽は…おしゃべりは…飲酒は…
目的地に着いてからでも充分に間に合うようになった。
…こうして世の中はすごく良くなった。
全員がちゃんと警戒心を持つ。
これだけで事故は減る。効率的に動ける。
…だから皆が幸せになる。
ように思えたが…一つだけ小さな課題が残ってしまった。
「おら!俺は被害者だ!俺の警戒レベルを調べてみろ!!」
「…確かに…ものすごく集中していたようですね…。」
「見ろ!警戒レベルが高い方が被害者だろうが!違うか!?」
…確かに通常は警戒心が低い側が加害者で高い側が被害者…
でも誰よりも事故の瞬間の警戒レベルが高い人…それは…
「でもあなた…当たり屋ですよね??」
「…そうだ。でも法律は法律だろうが!早く賠償させろ!」
…何事にも完璧というのは難しい。
まだ少しだけ…法改正が必要なようだ。
これくらいやった方が世の中よくなるかも。
けど、お気楽な現代人には堅苦しいだろうな。




