019-鈴木有限会社
人の名前が覚えられない人が
会社を立ち上げたら…
ちょっとした寓話です。
「あああ、また失敗しちゃってさ…」
「どうした鈴木?久しぶりに会うなりいきなり。」
「実は今日…同僚の名前を間違えちゃってさ。」
「あぁ、それ俺も経験ある。気まずいんだよな、あれ。」
「そう…。明日あの人と顔を合わすのが憂鬱だよ。」
「まぁいいじゃん。お前もうすぐ脱サラするんだろう。」
…知人の名前を間違える。
経験者も多いだろうが…何とも気まずい。
これが同僚となると、仕事にも支障がでる。
鈴木というこの男、独立を考える優秀な社会人だが、
人の名前を覚えることだけは苦手なようだ。
「それでどうしようか迷ってるんだ。
これから社長になるのに、従業員の名前を間違えたら…
この問題はなんとかならないだろうか?」
「……じゃぁ例えば、こういうのはどうだろう…」
「なるほど、面白いかも知れないな。」
…というわけで、鈴木が立ち上げた≪鈴木有限会社≫は、
鈴木姓の従業員しか雇わないことにした。
…とりあえずは問題ない。
前の会社の部署でも、田中と高橋が三人ずついたが、
特に問題なかったし…。
営業担当の鈴木くん。
総務の鈴木さん。
参謀の鈴木専務。などなど…
人の名前を覚えるのが苦手な鈴木にとっては都合がいい。
絶対に従業員の名を間違えないのだから。
…小さな会社だ。
誰からの連絡が誰の担当かは、互いの仕事内容さえ把握
していれば対応できる。
…それどころか、従業員は仲間意識が強い。
会社の業績は順調に伸びていった。
そしてまた、鈴木姓の社員が入社して会社は大きくなり、
鈴木くんは鈴木主任に昇格した。
そんなある日、一人の営業員が会社を訪れた。
「実は…御社と契約をしたくてですね…。」
「いやぁ、それはいい条件ですね。
是非うちとお取り引きさせてください。」
「こちらこそ…鈴木様とは妙に親近感があるんです。
末永いおつきあいをお願いしたいのですが…」
「そうですか…嬉しいな。
ところで、お名前を伺ってなかったですね。」
「はい。私、佐藤有限会社の佐藤と言います。」
「……」
…まさか同じことを考えている者がいたとは…
以後、両社は大混乱になったらしい。
200コンに応募した作品の焼き直しです。
字数が足りなかった分を補ってみました。




