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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第六章
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今後の行動と新たなイレギュラー

 辰道とタツミはデパートで合流し、腰を落ち着ける場所を探した。

 休日の真昼間という事もあり、デパート内は人が多くレストランやカフェは一杯。

 各階に備え付けられているベンチも一杯だった為、辰道たちは外に出る事にした。

 

「(どこかレストランでも空いてればいいんだが)」

 

 駅前のファーストフード店に腰を落ち着けた彼らはお互いの情報を交換し合う。

 

「(健志さんのお孫さん、静里さんにお前の姿が見えるとはな。よくよく考えれば『絶対に見えないだろう』なんて思い込みは迂闊だった)」

 

 辰道にしても、タツミの姿が空井健志以外に見えるという可能性を無意識に除外していた。

 

「(結局、病院には爺さんはいなかったから塔については何もわからんかった。塔の状況に何か変わったのかも不明。やっぱ最悪、あの子自身に何か知らないか聞くって手も考えないとな)」

 

 気が進まないと渋面を作るタツミに、辰道は同意するように顔をしかめる。

 

「(……もしもその手を使うなら面会時間が終わって彼女の傍に誰もいない時にしないとな。傍目から見れば虚空に一人で話しかけている状態だからな。そんな様子を目撃されたら今のあの子の立場じゃ確実に騒ぎになるし、空井さんにも申し訳が立たん)」

「(確かにな。この手は他に何も思いつかなかったら、だな。で、だ。そっちは明美と会ったんだな)」

 

 話題を次々と切り替え、2人は持ち寄った情報を整理していく。

 念話での会話を続けながら辰道は頼んだハンバーガーやポテトを消化していった。

 

「(部活の集合時間待ちだって話だ。で、あの子にも向こうの世界の事を夢として見るっていう問題が発覚したわけだが)」

「(あっちの、それもおそらくはカロルの体験を夢に見ていた、か。こっちでの俺たちの傍に、あっちで俺たちに関わった人間を連想させる人物がいるって言うのもやっぱり偶然じゃないのか?)」

「(あちらの世界とこちらの世界がどういう関係なのかがイマイチわからないんだよな。本当に偶然が重なっただけって可能性も無いことはないが……ここまで偶然が続くとさすがに考えづらいのは確かだ)」

「(情報が少なすぎて結論が出せないのが辛いな)」

 

 示し合わせたようかのように2人は同時にため息を付く。

 それを合図に次の話に切り替える。

 

「(『瘴気』に取り憑かれていた男がいた上に、よりにもよってあの病院を見ていたか……)」

「(明らかに危ない雰囲気してたから気絶させたら、中から『瘴気』がこんにちはと来た。憑かれていたヤツは死人もかくやって顔色してたしな。病院で元気になればいいんだが、あの有様だと厳しいかもしれないぞ)」

 

 被害者の顔色の酷さを思い出し、顎をさすりながら難しい顔をするタツミ。

 

「(そんなにか。とはいえ俺たちにはせいぜい良い腕の医者にかかって持ち直す事を祈る事しか出来んからな。しかし『瘴気』に憑かれていた男の狙いはある程度は絞れるな)」

「(あの病院で『瘴気』と関係があるのは、あの子と爺さんの2人だけのはずだからな)」

 

 考えるまでも無いという顔で辰道は結論を言った。

 

「(問題は狙いがどちらかだが……まぁ静里さんだろうな)」

「(ほぼ確定だろう。爺さん狙いだったならなんで今まであんな怪しいやつの目撃情報が出なかったのか、って話になる。尾行してる時もあいつは周りから浮いていたし目立ってた。あんなのが何日も同じ場所をうろついてたら通報されない方がおかしい。そうでなくても騒ぎにはなるはずだ)」

「(そういう不審者がいたって噂は聞かなかったな。つまりそういう行動をするヤツが出たのがごく最近の事であり、静里さんが起きた事が切っ掛けになった可能性が高い)」

「(今後も病院周辺は気をつけた方がいいな。具体的な被害が出なかったとはいえ、また瘴気に取り憑かれたヤツが出てこないとも限らん)」

「(俺が見張りに着くか。病院に張り付いていればそのうち爺さんの方から接触がありそうだし、こっちも見つけやすい)」

「(そうだな。何日かに1回、あるいは進展があったら報告に戻ってもらうって事にすれば……頼めるか、タツミ?)」

「(任せとけ)」

 

 しかし現状、彼らに対処できる事は少なく、決定したのは病院の監視だけだ。

 

「(当面は『塔を見つける』、『健志さんと接触する』の二つが最優先だな。情報は俺の方で集めるから、タツミはさっき決めた通りしばらくは病院の見張りだ)」

「(俺がいないところで無茶するなよ?)」

「(その言葉、そっくりそのまま返すぞ)」

 

 今出来る事を再確認した彼らは、店を出て行く。

 駅までの道中、辰道はまだ出来る事があった事を思い出した。

 

「(今、思いついたんだが『The world of the fate』で情報収集というのも有りと言えば有りかもしれない)」

「(むっ? ……ああ、そう言えばあのゲーム、いつの間にか『瘴気』の存在が組み込まれていたんだよな)」

「(あとあっちの世界での経験がゲーム上のデータにも反映されている節がある。俺がログインしていないのに熟練度が上がっている技能があったとかな)」

「(でもそれって調査できるものなのか?)」

 

 タツミの疑問に彼は唸り声を上げながら考え込むが、意外とすぐに妙案が浮かんだ。

 

「(普通に問い合わせしてみるのも手かもな。ログインしていないのにスキルの熟練度が上がっているのだがどういう事か、って。少なくとも調査はあっちがしてくれる)」

「(あえて正攻法で聞くって事か。でもそれ大丈夫か?)」

「(あちらが何も知らないとしてもこの不可解な現象がバグかどうかくらいは調べるはず。その結果を馬鹿正直に報告してくれるかはわからないけどな。逆に黙殺されるようならそれはそれで何か隠してるって事が確定するから利点はある。ただこれ、下手すると俺がゲーム内でチートを使っている疑いがかかるな)」

「(うーん。お前がやるってんなら俺に否はないが……チート疑惑って下手するとゲームできなくなるんじゃないか? ずっとやってたゲームなんだろう? いいのか?)」

「(もちろん嫌だが……ゲーム出禁するのと現実世界の厄介事の解決とを比べてどっちを取るかを考えたら、な)」

「(う~む。まぁどうするかはお前に任せるわ。俺はあのゲームに思い入れがないからな。じゃあ俺は行くぞ)」

 

 その話を最後に二人はそれぞれが定めた役割を果たす為に別れた。

 タツミは病院の監視に、辰道は自宅に戻って情報を探ると共に明日からの仕事に備えて身体を休める。

 

 何一つ解決せず、問題が増加していく中。

 それでも彼らは前へと進む。

 ゴールが見えない中を手探りで。

 

 

 

 

 母親が名残惜しそうに帰って行くのを見送った後、彼女はぼんやりと窓から入る夕焼けを見つめていた。

 

「(あの人、誰だったんだろう……)」

 

 彼女、空井静里が思い出しているのは昼間に自分の病室に現れた男性の事。

 時代劇や大河ドラマ、博物館の展示物でしか見た事のない甲冑を身に纏い、腰には刀を帯びていた明らかに普通ではない人物。

 普通ならば見た瞬間に悲鳴を上げるだろう風体の人物に、彼女の母は気付いた様子がなかった。

 そもそもいつ入ってきたのか、静里にはまったくわからなかった。

 

「(いつの間にか部屋の入り口に立って優しい笑みで私たちを見つめていた……)」

 

 面識はない、はずだ。

 そう思い返しながら、彼女の心の片隅に何かが引っかかる。

 しかし取っ掛かりがあまりに小さすぎて気のせいかもしれないという思いの方が強い。

 

「(私が見ている事に気づいて、驚いた顔をして、慌てて振り返って消えてしまった)」

 

 幽霊と定義するにはその男性は存在感が有り過ぎた。

 

「(幽霊ってもっとおどろおどろしいものだし。あの人は何か違う気がする。……足もあったし、本物の幽霊なんて見た事がないけど)」

 

 直感的にそういう物と『彼』は違うと、静里はそう考えている。

 

「(また来るのかな? もしもまた来てくれたら話がしたいかも)」

 

 彼の目は優しく、自身や共にいた母に害意はないと彼女は察する事が出来た。

 だからこそ話したいという欲求が静里の中に生まれる。

 

「(なんで私を優しい目で見ていたのか教えてくれるかな?)」

 

 そんな事を延々と考えながら、彼女はベッドに背中を預けて、目を閉じる。

 考えに没頭していて疲労していたのか、すぐに眠気が押し寄せてきた。

 

「(おやすみなさい)」

 

 父や母、祖父や愛犬を頭に浮かべ挨拶をすると彼女の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

「ククク、いやはやまったく。面白い事になったものだな」

 

 男は嗤う。

 どことも知れぬマンションの一室。

 そのベランダから丸い月を眺めながら。

 

「ここがどこか。『この身体』が誰か。俺は今、どうなっているのか。知らなければならん。そうでなければ愉しむことが出来ん」

 

 ペロリと舌を出す。

 人間がする物としてはあまりに凶悪な表情。

 それは獲物を前に舌なめずりをする蛇を連想させた。

 

「クククク、さて何から手を付けていこうか」

 

 その悪意と喜悦に満ちた言葉は誰にも届かず。

 静かに動き始めた何かに気付く者はまだ誰もいない。

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