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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
91/208

竜騎士アーリ(竜無し)VS王者ズィーラス

 

 ここはつい先日、タツミも世話になっていた選手用の医務室。

 そこにタツミたちは集まっていた。

 もちろん死力を尽くして戦ったライコーの労いとお見舞いだ。

 だがそれだけではない。

 仲良く隣り合ったベッドで顔面蒼白になっているキルシェットへの見舞いも含まれているのである。

 

「で? これはどういう事だ?」

 

 より正確に言うならば、トラノスケがここに来た要件は先の試合のキルシェットの行動への駄目だしと今の状況へのお小言だが。

 

「鬼のお嬢のペースに乗せられて縮地を使って勝ったのは百歩譲ってもいい。だが動けなくなって準決勝に出られないと言うのは、どういう事か、と聞いているんだが?」

 

 かたかたと身体を震わせながら何か言おうと口を開いては黙り込むという事を繰り返す少年に対して、大人気なく威圧しながら言い募るトラノスケ。

 そんな彼にルンたちはドン引きして距離を取っている。

 キルシェットの助けを求める視線にも気付かない振りだ。

 

「もう、トラノスケ。キル君をいじめてはいけませんよ」

「姫様……」

 

 自身の頬に手を添え困ったように笑いながらオイチが見かねて諌めると、眉間に皺を寄せたままトラノスケは黙り込んだ。

 

「キルシェット、気にするな。トラノスケは無茶をしてお前の身体に後遺症が残らないか気が気じゃないだけだ」

「えっ?」

 

 苦笑いしながら語るタツミの言葉の意味が飲み込めず、キルシェットはポカンとしながら首を傾げる。

 

「何を言っているんですか、タツミ殿! 俺はこいつが鬼のお嬢に一泡吹かせられた挙句、次の試合に出れなかった不甲斐なさを反省させているだけです!」

「あらあら。もう、駄目ですよトラノスケ。素直に愛弟子の事が心配だったと言えないと。キル君にいらぬ誤解を招く事になります」

「姫様まで何をおっしゃるんですか!?」

 

 微笑ましいものを見るような生暖かい視線を向ける2人に慌てて弁明のような事を話し始めるトラノスケ。

 しかしタツミとオイチの言葉の後では、その言葉の全てにキルシェットへの心配が見え隠れしている事が誰にでも読み取れてしまい責め立てられていたはずのキルシェットでさえも「こんなにも僕の心配をしてくれるなんて」と感激していた。

 

「くっ、ええい! とにかくお前は今回の事を反省しておけ! 俺はちょっと出てきます!」

 

 声を荒げながら言い逃げする彼を追う者はいない。

 ただその場に居合わせた人間たちは顔を見合わせ、本人に聞こえないよう控えめに笑い合っていた。

 

「ともかく2人とも大事なさそうで何よりだ。ゆっくり休め。明日はいよいよ決勝だからな」

「(この後のアーリさんの試合も楽しみです)」

「アーリはどうなるかしらねぇ。対戦相手はあのチャンピオンだし流石に厳しいわよ。善戦してほしいとは思うけれど」

「あらあら。勝負は最後までわかりませんよ。どのような勝負にも絶対はないのだとライコーさんが証明してくださいましたから」

「そうだな。3体召喚だなんて無茶が出来るとは俺たちも予想できなかった。大したもんだよ、ライコー」

「へへっ。アンタに褒めてもらえるってすげぇ嬉しいよ。でも俺はどうしてもキルシェットに勝ちたくて無茶しまくっただけだ。おんなじ事をやれって言われても今の俺じゃたぶん無理だぜ」

「それでも、だ。土壇場で賭けに出るだけの度胸があるって言うのはとても重要な事だと俺は思う。それは最後の攻防で縮地を成功させてあの状況をひっくり返したキルシェットにも同じ事が言える。2人とも、良く頑張った。手に汗握る良い試合だったぞ」

「タツミさん……ありがとうございます!」

「な、なんかすごい照れるな」

 

 和やかな談笑は次の試合が始まるとトラノスケが伝えに来るまで続いた。

 

 

 

「さてここまで来たからには優勝を狙いたいんだが……口で言う程、簡単ではないか」

「当然だな。悪いが新星の快進撃もここまでだぜ、お嬢ちゃん」

 

 闘技会場のリングの中央。

 睨みあうのは軽装鎧を身に纏った女性『竜騎士アーリ』。

 相対するのは闘技大会の現チャンピオン『狂戦士ズィーラス』。

 

「胸を借りるぞ、チャンピオン殿。ああ、くれぐれも油断をして負ける、などという事がないようにしてくれ」

「ククク、俺を前にして気圧されないってだけじゃなくそんな生意気な口利けるとはなぁ。上等だ、来いよ」

 

 実力の差はアーリ本人も理解している。

 しかしそれでも彼女は勝利を物にするという気迫を持って槍を構え、目の前の敵を見据えた。

 五指を鳴らしながら折り曲げ、握り拳を作りながらズィーラスはアーリの言葉に不敵に笑う。

 

「それでは。アーリ選手VSズィーラス選手。試合開始!!」

 

 開始と同時にズィーラスの丸太のような右腕が振るわれる。

 右腕の軌跡をなぞるように発生する衝撃波。

 並の者ならば一も二も無く回避するだろうその一撃に、アーリはあろう事か突撃した。

 

「へぇ……?」

「『バーストチャージ』っ!!」

 

 大地を踏み抜く勢いの強力な踏み込みが生み出す爆発的な速度の突撃。

 相棒である飛竜がいない彼女が出来る最高の一撃。

 アーリはこの一撃を確実に当てる為に、ズィーラスの初撃を受け止める覚悟を決めていた。

 彼の攻撃が拳大の衝撃の弾丸でなく、目前すべてに扇状に広がる衝撃波であった事は彼女にとって幸運だった。

 

 突撃槍の穂先は衝撃波を貫き、ズィーラスの分厚い胸板を覆い隠す鉄の胸当てに突き刺さる。

 

「ぐぅうううおおおおっ!!!」

「はぁああああああああっ!!!」

 

 今までの試合では決して見られなかったズィーラスの苦悶の声に、観客がどよめいた。

 ズィーラスは両足で踏ん張るも攻撃の勢いは止まらず、リングを足で削りながら後退していく。

 

「まだ、まだぁ!!!」

 

 初手の成功に勢いづいたアーリは再度、床を踏み込む。

 二度目の『バーストチャージ』だ。

 

「くらぇえええええっ!!!!」

 

 やや上方にアッパー気味で放たれた二撃目。

 

「ぐぉっ!?」

 

 その一撃はズィーラスの身体を完全に床から離し、リング外に吹き飛ばした。

 観客のどよめきはさらに強くなる。

 だがしかしその場の誰もが、善戦しているアーリでさえもがこの時同じ事を考えていた。

 

 『この程度でチャンピオンが倒れるはずがない』と。

 

「フンっ!!」

 

 大の字になって吹き飛んでいた彼は空中で身体を一回転させる。

 そして油断無く自身を見据えているアーリの強い眼差しを見つめ、満足げに笑うと呟いた。

 

「『空駆そらがけ』」

 

 空気を爆発させたかのような轟音と共にズィーラスの巨体が掻き消えるように消える。

 片時も目を離さずに見据えていたはずのアーリでさえも男の巨体を見失った。

 

「ぐぅっ!?」

 

 次いで衝撃。

 咄嗟に構えていた槍を前方に向けて突き出していた彼女は、槍が砕け散った事を腕を伝う感覚で理解した。

 しかし何が起きたかを完全に理解する事は出来ず、リング外に弾き飛ばされてしまう。

 目まぐるしく変化する視界に混乱しながらも、彼女は必死に敵の姿を探す。

 そして自身に向かって腕を振りかぶるズィーラスの姿を目にする。

 

「(攻撃が来る! 防御をっ!)


 吹き飛ぶ身体をむりやり動かし、胸元で両腕を交差させる。

 しかしそんな拙い防御などこの男の前では何の意味もなさなかった。

 

「が、ふ……」

 

 両腕をばらばらにするような激痛。

 彼女は鳩尾に叩き込まれた拳を認識し、腹の中の空気をすべて強制的に吐き出される。

 それでも尚、眼前の敵を睨みつけながら崩れ落ちた。

 

「根性は合格。あとは腕を上げるんだな、嬢ちゃん」

 

 彼女の耳に残ったのは、嬉しげに助言する対戦相手の言葉だった。

 

 

 

「厳しい厳しいとは思っていたのだけどここまでとはねぇ」

 

 観客席にて仲間の試合を応援していたルンは運ばれていくアーリの姿を残念そうに見送る。

 憂いを帯びたように見えるその横顔に近くの席の男性客の視線は釘付けだ。

 

「(アーリさんの一番の得意技は効いていなかったんでしょうか?)」

 

 まったく堪えた様子もなくノシノシとリングを降りていくズィーラスと運ばれていくアーリの姿を交互にを見つめながら難しい顔をするのはカロルだ。

 彼としてはリーダーであり大切な仲間であるアーリの攻撃が効いていないとは思いたくないのだ。

 

「いやぁ効いてないって事はねぇよ。一発目の時のオッサンの顔はマジだったし。ただあのオッサンに膝を付かせる程じゃなかったって事だろ。(一点集中の攻撃力ならあたしよりも上のアーリの攻撃が有効打にならねぇのか。武器が全部刃引きされてるのを考えても呆れるタフさだな、おい)」

 

 自分ならどう戦うかという好戦的な思考で去っていくズィーラスの背中を見つめるライコー。

 身体の至る所に包帯を巻いている割には元気そうである。

 

「最初の一撃はアーリにとっても最高の一撃だったんだろうな」

「踏み込みの強さ、突き出しの威力。まさに理想的な突撃でしたわね」

 

 ルンたちと違い、タツミたちは冷静に闘いを分析するしていた。

 

「(おまけにダイスで『6』も出したからな。おそらく威力がかなり引き上げられたはず。それを受けてもズィーラスのHPは1割程度しか減らなかった。これは完全な地力の差だ。レベル差が40もあれば当たり前だが)……もしも『バーストチャージ』に『鎧通し』のような衝撃を通す技を足す事が出来ればもう少し目に見えたダメージを与えられただろうな」

「夢のある話ではありますが、槍で行うのはかなりの難題でしょう。少なくともヤマトでソレを為した人間はおりませんし。彼女に教えたところで物に出来るかどうかはまったくの未知数ですしね」

 

 タツミやトラノスケをして『鎧通し』の習得にはそれなりの歳月と実践経験を必要とした。

 絶賛、習得中のキルシェットにはマンツーマンで教える事が出来る環境が整っているが、それでもまだ思い通りに実戦で使用するまでには至っていない。

 仮にアーリが『鎧通し』を習得する事を望んだとして、それを物にするまでどれほどの時間がかかるか。

 

「基本、無手で使う技だからな」

「その筈ですのに短刀や刀で使える人間の多いこと多いこと。……一応、無手における奥義の一つのはずですのに」

 

 呆れたような物言いで短刀で使えるトラノスケと刀で使えるタツミをじっとりと見つめるオイチ。

 

「出来たものは仕方ないな」

「そうですね。出来たものは仕方ないです」

 

 そこはかとない居心地の悪さを感じながら2人は同時に彼女から視線を逸らした。

 

「空中でまるで地面を蹴るみたいな動きをしたけれど。あんな事も出来るのね」

「あれは空中を蹴った時の衝撃で放たれた矢のように加速した物だ。ウチにも出来る人間がいる」

 

 ルンがズィーラスの行動に驚き、トラノスケが端的に解説する。

 

「重い装備をしているとまず不可能だな。ライコーのように精霊の力を借りれば不可能ではないし、魔法には空中移動を可能にする物もあったはずだが生身で出来る人間はほとんどいないだろう。俺の知る限りズィーラスで3人目だ」

「(あんな事が出来る方3人と面識があるんですか。やっぱりタツミさんは凄いです)」

 

 そんな雑談の中、ふとルンが悩ましげにため息をついた。

 

「ここまですごく盛り上がったけれど……正直な話、決勝はここまでの物になるのかしら?」

 

 決勝進出はたった今、勝利したズィーラス。

 そしてキルシェットのドクターストップによって不戦勝となった鳥の獣人武道家『ラッセ・ストラード』だ。

 このラッセという男は安定した強さを持つ玄人ではあるが、ライコーやキルシェットに比べると爆発力に欠けており、地力に差がある相手に対する勝機はほとんどないと言ってよい。

 実質、ズィーラスの優勝が確定しているような物で、それは大会常連であるラッセ本人も理解しているだろう。

 それでも挑む気概はあるが、果たしてそれが観客を沸かせるほどの物になるかどうか。

 ルンにはそれが気になっていた。

 

「難しいですね」

 

 トラノスケは誰もが口ごもるだろう事実をあっさりと告げる。

 しかし多少見る目がある人間ならば誰にでもわかる事だ。

 

「……決勝がどういう結果であれ」

 

 トラノスケの言葉を引き継ぐようにしゃべるタツミに全員の訝しげな視線が集まる。

 

「観客にとって面白い事は起こるかもな」

 

 意味深に苦笑いする彼の言葉の意味がわかるのは決勝戦のすぐ後の事である。

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