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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
90/208

召喚拳士ライコーVS忍者見習いキルシェット

この度、ユニークアクセスの累計が10万を越えました。

皆様、この作品を読んでいただき本当にありがとうございます。

これからも『ダイスと共に世界を歩く』をよろしくお願いします。

「最初っから全力だ! シルフ!!」

 

 風が彼女の身体に纏わりつく。

 風の守護は彼女が持っている素早さを高めた。

 しかしキルシェットは相手の変化に構わず、懐へと飛び込む。

 

「しっ!」

「甘いぜっ!!」

 

 上昇した素早さで持って彼女はキルシェットの右のナイフを余裕を持って手甲で受け止めた。

 

「だっ!」

「ふっ!」

 

 反撃のハイキックを後ろに身体を逸らしてキルシェットは躱す。

 畳み掛けるように放たれる右拳を彼はナイフの柄で弾いた。

 

「はっ!」

 

 キルシェットは限界まで腰を落とし、右足を軸に半回転。

 滑るように放たれた蹴りは足払いと呼ぶには凶悪な威力を誇るだろう事が素人にもわかる。

 

 「よっと!」

 

 軽く後ろに跳び、ライコーはその一撃を避ける。

 真上に跳び隙だらけのキルシェットを強襲する事も考えなかったわけではない。

 

「(なんか怪しい。迂闊に飛び込むと返り討ちにされそうだ)」

 

 そのあからさま過ぎる隙を彼女は誘いと判断、距離を取る決断をした。

 

「(引っかからない、か。飛び掛ってきたところを斬空で打ち落とせるかと思ったんだけど)」

 

 そしてその判断は正しかったようだ。

 

 ここまでの息詰まる攻防に声もなく見入っていた観客たちが大歓声を上げる。

 しかし戦っている二人からそれらの雑音は完全にシャットアウトされている。

 彼らが見ているのはお互いだけ。

 どうやって目の前の相手を出し抜き倒すかという事だけに意識は集約されていた。

 

 

 

「思った以上に善戦してるじゃない、ライコー」

「(すごいです、ライコーさん!)」

「ライコーさんの召喚魔法は非常に優秀ですね。本人の能力の引き上げに長けていて長時間の使用も可能。予選で見た炎の精霊は攻撃に特化しているように見受けられましたから使い分ける事でどのような状況にも対応出来る。羨ましいですわね」

 

 タツミたちの辛口評価を聞いて勝ち目は薄いかと感じていただけにルンとカロルは試合の白熱した様子を見て非常に盛り上がっている。

 オイチもまたコロコロと鈴のように笑いながら楽しげに試合を観戦していた。

 しかし楽しむ彼らと異なり、タツミとトラノスケはしごく冷静に試合内容を吟味している。

 

「誘いがあからさま過ぎた。減点」

 

 仏頂面のまま言葉少なにキルシェットを採点するトラノスケ。

 

「まだまだ動きに無駄が多いな。斬空以外にも色々と教えておいたんだが、まだどの技がどの局面で有効か瞬時に判断するまではいかないか。今後の課題だな」

 

 弟子の今後の訓練のプランを練るタツミは真剣その物だが、どこか楽しげでもあった。

 

 

 

 そんな彼らを他所に試合は着実に進んでいく。

 

「てぃやっ!!」

「うぉっと!?」

 

 試合は完全な打ち合いになり、お互いに決定打を受けない与えない泥仕合になりつつあった。

 

 かれこれ3分。

 2人はお互いの獲物をぶつけては離れ、ぶつけては離れ、という行動を繰り返している。

 しかし、観戦している者たちの中で聡い者たちはこの状況を作り出したのがキルシェットである事に気づいていた。

 

「(あの坊主。何か狙ってるな?)」

 

 互角の打ち合いを続ける2人の様子をどこか羨ましげに見つめていたズィーラス。

 彼もまた気付いていた1人だ。

 

「(単調な攻撃を素早い動きで繰り返す……目的は、相手に今の流れに慣れさせて意識的な不意打ちを狙う事、か? となるとそろそろ動くな)」

 

 彼がキルシェットの考えを読み解くと同時に状況は動く。

 彼の読みは正しかった。

 

 今までにない速度でキルシェットが動き、ライコーの後ろに回りこむ。

 突然、視界から消えた驚きは一瞬だけだがその隙は大きい。

 振りかぶられたキルシェットのナイフは、一切の障害なく彼女の首筋に叩き込まれる。

 

 観戦していた者たちの大半が勝負は決まったと思っただろう。

 しかしすぐに気付く。

 人間の肌が露出した部分に叩き込まれた攻撃にしては甲高い音を発てていた事に。

 

「っ!?」

 

 キルシェットは脇目も振らずに距離を取る。

 彼を追いかけるように風の刃が放たれるが、一撃とて当たらなかった。

 対してライコーは攻撃された首筋を抑えて呻き声を上げている。

 

「いったぁ~。くそ、土の防御の上からでもこんなに痛いのかよ」

 

 首筋を掻きながら涙目になっているライコー。

 彼女が擦る度にボロボロと土気色の物体が地面へと落ちていく。

 

「土の精霊とも契約していたんですね。どれだけ引き出しがあるんですか、もう」

 

 呆れたように言葉を紡ぐキルシェットに、ライコーはしてやったりと笑いながら告げる。

 

「もちろん秘密だぜ。しかし『ノーム』の土くれの鎧が一発で粉々になるなんてな。生身で受けてたら間違いなく気絶してた」

 

 いつの間にか彼女の足元には一メートル程度の小柄な少女がライコーの服の裾を掴んで立っていた。

 

「2体同時に召喚しても余裕がありそうですね」

「そうでもない。あんまり長時間やってると疲れちまうよ」

「疲れるだけで済むっていう事自体、凄い事なんですけどね」

 

 ライコーの発言に思わずキルシェットは思わず苦笑いする。

 召喚師は精霊を使役する者。

 彼らは自身の魔力を餌にする事で精霊や幻獣を呼び出し、自身の魔力を貸し出す事でその力を行使する。

 どれほどの魔力があってもそのリスクを埋める事は出来ない。

 一体を呼び出しその力を使うだけで、かなりの魔力を消費するはずなのだ。

 だと言うのに彼女は2体を同時に使役しても尚、平気な顔をしている。

 

「(それだけ精霊たちが彼女の事を気に入っている、って事なのかな?)」

 

 精霊たちには意識があり、好みもある。

 使役者を気に入れば力の行使に必要な魔力は彼ら自身が肩代わりする事もあるという。

 彼女は契約した精霊たちにとても好かれているのだろう。

 召喚された精霊たちはキルシェットの目から見ても彼女の事を気に入っているように見えるのだから。

 

「まぁそういうわけで。あんまり時間もかけられねぇから次行くぜぇっ!!」

「……僕も行きますっ!」

 

 2人は同時に突撃する。

 シルフの風の刃がキルシェットに襲い掛かるが、キルシェットは軽々と回避し、さらに突き進む。

 ノームの力によって硬化された土を纏い、攻撃力と防御力を同時に高めたライコーの拳が突き出され、彼はその攻撃に合わせるようにナイフを振り上げる。

 ぶつかり合う両者の攻撃はそれだけ見れば先ほどまでの攻防の焼き回し。

 だがしかし今回の結果は異なっていた。

 ライコーが予想外の衝撃を受けて土の防御ごと繰り出した拳を吹き飛ばされたのだ。

 その衝撃に彼女の身体がふわりと浮き上がってしまう。

 

「な、んだぁっ!?」

 

 今までの一撃とは比べ物にならない衝撃。

 彼女は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

「はぁっ!!」

 

 完全に身体が浮き上がった状態のライコーに地に伏した虎のようなしなやか且つ獰猛な動きでキルシェットは追いすがる。

 勢いを乗せて繰り出される左のナイフの狙いは腹部。

 今食らったばかりの攻撃が脳裏を過ぎった彼女は、反射的にシルフの風の力を纏った蹴りで迎撃した。

 

「うぉあっ!?」

 

 右のナイフを受けた時と同様の意味不明の衝撃を受け、彼女の女性らしい柔らかな身体は空中で大回転しながら吹き飛ぶ羽目になる。

 

「ぐっ、だぁ!! イフリートォオオオオオオオオ!!!」

 

 彼女の身体から浮き上がるように現れる筋骨逞しい炎の精霊。

 主の危機を感じ取ったのか飛び出した勢いそのままにキルシェットへと突撃する。

 

「ふっ!!」

 

 炎を纏った精霊の姿に、キルシェットは即座に追撃を諦め真横に飛び退いた。

 ほんの数瞬前まで彼がいた場所にイフリートの丸太のような腕が突き刺さる。

 同時にシルフの力で体勢を整えたライコーが着地した。

 

「……」

「……」

 

 間合いが離れた事で両者の間に緊張を伴った静寂が生まれる。

 

「(なんなんだ、今の? ……まるで飛んでくる岩を受け止めたみてぇな衝撃が。ナイフは大会用に用意されたヤツのはずだからあいつ自身が何かしてるはず)」

 

 眉間に皺を寄せて警戒する彼女の真横にイフリートが仁王立ちし、彼女の肩には警戒した様子のシルフが、彼女の片足にはノームがしがみ付いている。

 いずれも主である少女を守るべく、キルシェットを睨み付けている。

 

「(今の二撃で終わらせるつもりだったんだけど……踏み込み切れなかった。シルフで強化されたライコーさんの反射神経を甘く見てた。それに手の痺れも残ってるから連発はまだ無理。タツミさんやトラノスケさんの境地はまだまだ遠いな)」

 

 一見、静かにライコーを見据えているキルシェットだったがその内心では盛大に歯噛みし自分の未熟さを反省していた。

 

 タツミたちから教授された衝撃を伴う斬撃の名は『鎧通し(よろいどおし)』。

 魔力を込めた一撃によって相手の防御をすり抜け、身体に直接衝撃を通しダメージを与えるスキルだ。

 一撃一撃に使用する魔力の量が桁外れに高く、乱用は出来ない切り札になりえる技と言える。

 使い続けて熟練度を上げていけば、150%のダメージを相手に与える事も出来る。

 余談だがタツミもトラノスケも既にこのレベルに達している。

 

 すぐに気持ちを切り替え、如何にしてライコーを倒すかを思案し始める。

 

「(闇雲に『鎧通し』で攻撃しても決定打にならない。ならあの一撃を警戒させておいての一撃離脱……ノームにシルフにイフリートなんて誰でも知っている知名度の高い強力な精霊を3体も同時に呼び出して長時間戦うなんていくらライコーさんでも無理だ。そう遠くないうちに体力と精神力が切れる時が必ず来る。その隙に乗じて倒す)」

「(シルフとイフリート、ノームの3体に手を貸してもらって戦い続けるのは正直キツイ。それはあっちもわかってるだろうな。とはいえたぶん誰かがいなくなったら押し切られる。ここまで来て負けるのはぜってぇ嫌だ……こいつに勝ちたい。なら短期決戦の総力戦しかねぇ)」

 

 二人が出した結論は真逆。

 ライコーの身体から魔力が吹き上がり、シルフの風が彼女を包み込む。

 同時にイフリートが彼女の意思に呼応して全身から炎を噴出させて身に纏った。

 

「ノーム、頼む!!」

「っ!! させない!!」

 

 ライコーの言霊を受けてノームが力を使うよりも早くキルシェットが地面を蹴る。

 しかし懐に入り込もうとする彼をイフリートが猛火で牽制した。

 

「くっ!」

 

 彼女らを炎の結界が包み込み、行く手を阻まれたキルシェットは悔しげに声を漏らす。

 

「ぜぇ、ぜぇ……。決めさせてもらうぜ、キルシェットォオオオ!!!!!」

 

 3体もの精霊の同時召喚で、既に彼女の疲労はピークに達している。

 それでも次の攻撃で決めるという気迫が、彼女を奮い立たせていた。

 

「(僕が持久戦に持ち込もうとしてる事に気付いて、賭けに出たんだ)……ならその攻撃を凌ぎ切るっ!!」

「上等だっ!!」

 

 ノームの力によって集められた土の力がライコーの右腕を包み巨大化させる。

 さらにシルフの風の力がその重量を限りなく零に近づけ、普段通りに振るえるように補助。

 そしてイフリートがその拳に炎を纏わせて攻撃力を引き上げ、さらに焦熱の渦によってキルシェットの周囲を囲い込み、逃げ場を無くす。

 

「卑怯って言えば卑怯かもしれねぇ。けど勝たせてもらうぜぇえええええええええっ!!!」

「卑怯だなんて僕は思わないよ。それに……勝つのは僕だっ!!!」

 

 両手のナイフを逆手に構え、真正面から迫る拳を見据える。

 周囲の炎から届く熱と、迫る巨拳の圧力で彼の顔は汗だくだ。

 

「うおおおおおらぁあああああああああああっ!!!!」

「あぁあああああああああああああああああっ!!!!」

 

 誰から見ても勝敗が見えたぶつかり合いだっただろう。

 しかし戦っている2人と、大会参加者の一部とキルシェットの師匠たちにはそう見えていなかった。

 

「(思った以上にライコーが善戦したな。正直、ここまで追い詰められるとは思ってなかった)」

 

 純粋な驚きと共に試合の推移を見守りながらタツミは弟子の後姿を見つめる。

 

「(使うんだろうな、この状況なら。だがキルシェットのあのスキルはまだ未完成。成功率は3割が良い所。失敗すれば無防備な状態であの一撃を食らう事になる)」

 

 タツミが見守る少年の頭上でダイスが舞った。

 タツミだけが見える幸運と不運を呼び込む白い六面体。

 それが指し示した数字を確認し、タツミはこの戦いの結果を会場の誰よりも先に確信した。

 

 爆音で闘技場が揺れる。

 立ち上る土煙が会場を覆い尽くし、勝敗すらも隠してしまう。

 しばしざわめきが会場を包み込む。

 

 そして。

 土煙が晴れた会場には膝に手をつきながらも立っている人物と、大の字に倒れ込んでいる人物がいた。

 

「勝者! キルシェット選手!!」

 

 審判のよく通る声を合図に、会場中に大歓声が響き渡った。

 

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