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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
82/208

本選2日目 キルシェットの戦い

 白熱した試合を展開したドワーフの武道家と異国の召喚師の戦いに会場は大盛り上がりだ。

 初戦からの派手なバトルが、彼らの興奮を煽り、次の試合への期待を強めている。

 

「観客が望んでるような派手な戦いをすれば受けは良いわよね」

「逆に動きのない試合ほど観客としてつまらない物はないんだろうな」

 

 ライコーの勝利を喜び、鼻歌交じりに談笑するルン。

 普段は落ち着いた雰囲気の彼女が見せる浮ついた態度をタツミはあえて指摘する事無く会話していた。

 

「達人同士の立会いは動いた瞬間には勝負が決している事もあると聞きますが……」

「(たぶんですけれどそういう戦いになってしまうと今みたいに盛り上がりはしないんじゃないかと)」

「見応えのある試合、と言うのも難しい物なのですね」

 

 カロルとオイチは周囲の興奮に感化される事無く、緩やかに談笑しつつ次の試合を待っている。

 

「しかしライコーもかなりの腕だと思っていたが、まさかいきなりそれ以上の腕の人間に当たるとはな」

「本当にね。それでもどうにか勝ってしまうのだから同じパーティの人間としては誇らしい限りね。たぶんアーリなんかは負けていられないって気合入れてると思うわ」

「アーリはそうなるだろうな。その光景がありありと思い浮かぶぞ」

 

 己の望む強さを手に入れる為に、日々鍛錬に励む彼女の姿勢を知っている2人には控え室で出番を待っているアーリの様子が手に取るようにわかっていた。

 

 そして彼らが思い描いた通り、選手用の観客席から試合の様子を見ていたアーリは今までよりもさらに強く闘志を燃やし己の出番を今か今かと待ち受けている。

 その様子を見たほとんどの他選手がドン引きし、『美人なのに戦闘狂で残念な女性』と認識されるほどである。

 

 

 それはともかくとして、2回戦の第2試合の参加選手が入場する。

 獅子の鬣を連想させる髪に、3メートルを超える巨躯。

 無意識に振り撒かれる凶暴な気迫は観客席にいても感じられる程。

 彼の姿を視認した観客たちが思わず黙り込むほどの威圧感。

 

 2試合目にして早くもヴォラド闘技大会現チャンピオンであるズィーラス・レオーネの登場である。

 相手は鷹を思わせる羽を持つ獣人ラーバン。

 ズィーラスの武器が手甲、足甲であるのに対して彼の武器は両手で挟み込むようにもたれた2つのチャクラム。

 一般的に馴染みのない武器だろうソレを見て観客がざわめく。

 しかしそんな事は完全に意識の外なのか、リングに立った2人は無言のまま向かい合った。

 割と人懐っこいところのあるズィーラスも、その真剣な面持ちを崩さない。

 

「……」

「……」

 

 緊張が高まる。

 そして審判が手を上げて開始の合図を下した。

 

「それでは第二試合。ズィーラス選手VSラーバン選手。試合、開始!!」

 

 

 一方、その頃。

 試合を終えたライコーは、ぐったりとした状態で控え室に併設されている看護用ベッドで横になっていた。

 技の反動による疲労困憊。

 これが未だに『召喚・自己憑依』が実用化しない原因。

 精霊を自身に憑かせる負担に、彼女の身体が耐え切れないのだ。

 

 彼女の隣には試合相手であるドゼーが治療の跡も生々しい状態で横になっている。

 

「やれやれ。油断しとったつもりはなかったんじゃがな。あれほど精霊と意思疎通できておるとは思わんかったわ」

 

 天井を眺めながら独り言のように声をかけてくる右隣のドゼーを見つめてニヤリと笑った。

 

「驚いたか、爺さん。ま、切り札は最後まで取っておくって事だよ。っていうかあれ使わなきゃ負けてたのは俺だしな」

「ふむ。なんじゃ、案外冷静にワシと自分の力量の差を見ておったのか」

「まぁね。あんたが気取らせてくれなかったけど、流石に一度打ち合えば実力の差はわかるよ。ほんとなら向き合った段階で気付いてないとまずいんだけどな。あんたが隠すのが上手いのか、俺の察しが悪いのか」

「かっかっか! そりゃワシのやり方が上手かったのじゃろうて。かれこれ300年は修行しておるからな」

「へぇ、見た目以上にずっと年食ってるんだな」

「わしらドワーフはまだ短命な方じゃよ。エルフなんぞ1000年生きても若々しいのばかりじゃからな」

 

 ほんの少し前に敵対していたとは思えないほどに2人の間に流れる空気は穏やかな物だった。

 そんな彼らの耳に何人かの足音が聞こえてくる。

 

「次の試合の負けた方が担ぎ込まれてるのかな?」

「あるいはお主のように無茶した勝者かもしれんがな」

 

 バタンと扉が開かれ、彼らの隣のベッドに担架で運ばれてきた男が寝かされる。

 外傷は見られないが、白目を剥いて痙攣している姿はひどく痛々しい。

 

「すぐに回復魔法をかけます!」

 

 大会スタッフの僧侶が呪文を唱え、その間に医師と思われる男性が触診を始める。

 

「腹部の骨が数本折れて臓器も傷ついている可能性が高い! 魔法はそちらに集中させて行ってください!!」

「わかりました!」

 

 患部がわからず身体全体にかけられていた魔法の淡い光が、医師の指示によって腹部へと集中する。

 

「……まさか一撃。それも空中に浮かび上がった相手に対しての遠当てでこれとは」

「さすがチャンピオン。小手先の技術ではどうにもならない力の差があるという事ですね」

 

 スタッフたちの雑談を、ライコーは戸惑いながらも聞き、ドゼーは会話の内容から誰が何をしたのかを察して苦笑いした。

 

 

「圧倒的だったな」

「(す、すごかったです)」

「まさか攻撃すらさせてもらえないなんて」

「チャンピオンの攻撃を受け止めた鎧、粉々になってたわね」

 

 目の前で繰り広げられた攻防。

 試合開始と同時に空高く舞い上がり、チャクラムを投擲しようとしたラーバン。

 彼がチャクラムを指で高速回転させた瞬間、飛んできた拳大の何かを腹部に受けて墜落した。

 地上に残っていたズィーラスが放ったのは斬空と同系統の拳技『空拳くうけん』。

 拳を振り抜く際に生じる衝撃波を相手に叩き込むスキルだ。

 

 墜落したラーバンは痙攣したまま立ち上がる事はなく、試合はズィーラスの勝利になった。

 一方的過ぎる展開を見た観客たちはあまりにあっさりと終わった試合にがっかりするよりも困惑している。

 

「(地力に差があり過ぎたな。自己強化や攻撃スキルで補えたライコーの時とは違う。レベル50もの差に加えて初期職業の盗賊と最上級職の狂戦士。ラーバンって男には悪いがステータスを見ただけで勝敗は明らかだった。もしもラーバンをプレイヤーが操作していたとしたらコントローラーを投げ捨てるレベルだな)」

 

 しかし一撃でラーバンが倒された事は、タツミの中では当然の事だという認識だった。

 

「チャンピオンっていう肩書き、私は少し甘く見ていたわね。参加者で彼に勝てる人いるのかしら?」

「(ライコーやアーリさんでも無理だね……)」

「キル君でも、無理ですね」

「強くなったと言ってもまだまだだからな(せめて上級職のアサシンをマスターした上で武器を持参した物にして、さらに殺す気でかからないと勝ち目はないな。それも戦い方は急所狙い一点。はっきり言って分が悪すぎる)」

 

 現段階では善戦は出来たとしても勝ち目はミリ単位も存在しない。

 その事を今の試合を見たタツミたちは確信していた。

 

「まぁズィーラスについてはどうしようもない。大会上位に食い込めるかはあいつらの運次第って事だ」

「(あの人に次いだ実力者である黒蛇のミットガルドはどれくらい強いのでしょうか?)」

「人伝の人物像くらいしか知らないからな。正直よくわからん(ただマーセナスはボロス・ミットガルドを殺すつもりで動いている。その為に例の薬を使っているのだとすれば……闘技場の中堅どころがドーピングを必要とするレベルって事は予想出来るな)」

 

 そうこうしているうちに第三試合が始まる時刻になった。

 そして出入り口から登場する2人の人物を見て、タツミたちは一斉に驚く事になる。

 

「おいおい。なんて巡り合わせだ」

「これは……大丈夫、なのでしょうか?」

「(が、頑張ってください!!)」

「これは、どうなるかしらね?」

 

 彼らの目の前でとリングに上がり、司会者に選手紹介されている2人は。

 キルシェットとマーセナスであった。

 

 

 選手控え室にある小窓からズィーラスは試合の様子を窺っていた。

 あっさりと対戦相手を下している為か、その表情は余裕があると同時に不満げにも見える。

 

「おお、今度はタツミのところの坊主と騎士の嬢ちゃんの試合か。さっきの召喚師の嬢ちゃんとドゼーの爺みてぇに見応えありそうな試合だな」

 

 自身の試合は楽しめなかったが、それでも楽しそうな試合を見れる事が嬉しいらしい。

 ズィーラスは前の試合内容の白熱した様子を思い出しながら、機嫌良く喉を鳴らし自慢の鬣を撫でる。

 

「(そういやあの嬢ちゃん。ずいぶん強くなったが雰囲気もずいぶん変わったな。ちょいと前までは堅物ではあったが真っ直ぐで清々しいもんだったが、今じゃ触るもんを全部切り刻むような殺気を隠そうともしねぇ。形振り構わねぇって余裕の無さが戦っている様を見るだけで解る。しばらく見ない間に変わったもんだ)」

 

 顎を擦りながら様変わりした顔見知りの少女の事を考える。

 何かあったのは明白だが、そこまで親しい相手でもない少女の事情など彼には知ることは出来ない。

 武に生きる者として武を振るう相手の姿を冷静に評価する事しか彼に出来る事はなかった。

 故に彼が考えるのは試合の行く末にシフトする。

 

「(昨日の試合を見る限り速さは単純な実力じゃキルシェットの坊主のが上だ。気弱な気性と外見で勘違いしてるヤツが多そうだが、坊主の地力は闘技大会ここの連中でも上位に食い込める程。前までの嬢ちゃんじゃまず勝てねぇ。だが……)」

 

 獅子の瞳が仮面のように表情を動かさない女性騎士を見つめる。

 

「(昨日の試合の最後に見せたあのよくわからん強化が使われればわからなくなる。あれがなんかの強化魔法なのかドーピングなのかは知らねぇが……どうにもアレには嫌な感じがしやがる)」

 

 司会者の前口上が終わり、両者が構えを取る。

 会場の熱気は既に最高潮だ。

 

「まぁどう動くか見せてもらおうか」

 

 開始の合図と同時にぶつかり合う鋼同士の音を聞きながら、獅子は静かに呟いた。


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