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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
78/208

トラノスケの奮闘

 タツミたちが廃屋で戦っている頃。

 トラノスケもまた戦いの只中にいた。

 

 大会が終わった後。

 彼はマーセナルが控え室から出た所を追い、例の事件との関連性を突き止めようと尾行を開始。

 追跡されている事にマーセナルが気づいた様子はなかった。

 しかし同時に彼女は事件との関連性を匂わせるような真似もしなかった。

 

「(動かないか。これは時間がかかりそうだ)」

 

 不眠不休で、昼夜問わずの尾行を覚悟したトラノスケ。

 そんな彼に殺気が叩きつけられた。

 

「っ!?」

 

 その場から飛び退くと同時に彼が背にしていた壁に突き刺さるナイフ。

 見覚えのある装飾、攻撃の寸前まで殺気を隠す技術から、ここ数日自分を襲う存在がまた現れたのだと察し、舌打ちと共に尾行を中断した。

 

「(この攻撃の主は、やはりあの女の関係者なのか?)」

 

 あまりにもタイミングの良すぎる襲撃と、気付いていないマーセナルから尾行者を引き離そうとする意図が明白である事からトラノスケはそう考えた。

 

「……ちぃ!」

 

 複数のナイフが彼目掛けて振ってくる。

 地に伏せるようにしてその場から駆け出し、刃物の雨を回避するトラノスケの視界の端に、離れていくマーセナルの背中を捉えた。

 

「(尾行をしながらこの相手に対応するのは無理だ)」

 

 追跡続行を諦め、周囲の警戒に集中する。

 するとトラノスケは自身の元に近づいてくる数人の男の存在に気付いた。

 近づいてくる方向がバラバラだった事から、偶々こちらに来ているのかとも考えたが現れた者たちの言葉で、その予想は消える事になる。

 

「いたぞ。あいつだ!」

 

 明確な敵意を持って自身を指差し、仲間たちに伝える様子は間違いなく敵対する者だ。

 

「(次から次へと! 今までの静かな調査が嘘みたいな事になってきたな、くそ!)」

 

 思わず悪態をつきながら、彼は新たに現れた集団を観察する。

 現れた男たちは統一性のない格好をしていた。

 大半がこの街でよく見かけた厚手の服のようだが、中には鎧を着込んだ冒険者らしき者までおり、そして例外なく武器を所持していた。

 そして身のこなしから察せられる実力もバラバラで、どういう集団なのかが読めない。

 

 「叩きのめせ」だの「捕まえろ」だのの言葉から自分を敵視し、狙ってきている事だけは明確だ。

 

「ヤツを倒して連れて行けば1年は遊んで暮らせるだけの金が手に入る!!」

 

 男たちの言葉の大半は端的且つ単純な物ばかりだったが、その中になんとなく事情を察する事が出来る言葉があった。

 

「(俺はどうやら賞金をかけられたらしい。おそらくはボロスの一派からの差し金か。自分たちの戦力が削られてるせいか、金に目が眩むような馬鹿な連中を引き込んで俺を狙わせたか。……狙われた理由はまぁ俺が事件調査の関係でボロスたちの事も調べていた事に気づいたって所か。見つからないように動いていたんだが、いつまでも好き勝手させてはくれないって事か)」

 

 少ない情報から推測を立てるトラノスケ。

 その間にも欲に塗れた者たちが、殺気立ちながら彼の元へと近づいてくる。

 

「こっちに捕まってやる義理はないんだ。とっとと消えてくれ」

 

 ナイフを投げつける存在からの不意打ちを常に警戒しながらトラノスケは現れた集団に問答無用で飛び掛かった。

 

 彼から最も近い位置にいた男の足を払う。

 トラノスケの突撃に身構えていた男は、しかし足を払われるとは思っていなかった事と想定した以上の速度で迫るトラノスケに反応する事が出来ずに地面に倒れ込んだ。

 

「がっ……!?」

 

 すかさずトラノスケは倒れ込んだ男の額に拳を叩き込む。

 容赦ない一撃の衝撃が脳を貫通し、男は意識を失った。

 

「こ、こいつ!!」

 

 仲間、と言うよりは同じ目的の為に集った相手なのだろう。

 やられた人間を案じているわけではなく、トラノスケの力に驚嘆し焦っているようだ。

 反射的に両手持ちのハンマーを振り被る。

 

「遅い」

 

 トラノスケは床を蹴り、瞬く間にハンマーを振りかぶった男に接近する。

 驚き硬直した男の無防備な頭部を右手で鷲掴みにし、勢いそのままにその場から飛んだ。

 引きずられるように頭部を掴まれた男も中を舞う。

 トラノスケは中空で1回転しながら鷲掴みにした男を周囲に集まり出した賞金稼ぎに投げつけた。

 

「ぎゃっ!?」

「うぉっ!?」

 

 投げつけた男がぶつかった事で悲鳴が上がるが、トラノスケは聞き流して次の標的に襲い掛かる。

 

「気圧されんな! ヤツは素手だ! これだけの人数で囲い込めばなんとかなる!!」

「そうでもないぞ」

 

 腰に下げていたクナイを鼓舞していた男に向かって投げつける。

 

「ぎゃぁあああああ!!」

 

 武器を持っていた腕に深く突き刺さった鉄の塊を見て、勇ましい鼓舞の声を上げていた男は悲鳴を上げた。

 

「寝てろ!」

 

 トラノスケは痛みに腕を押さえて悶えている男に近づくと容赦なくクナイを引き抜き、男の顎と蹴り上げた。

 白目を剥いて仰向けに倒れる男から次の標的へと視線を移しすと、彼は即座に地面を蹴る。

 

 そんな調子でなし崩しに戦闘が始まってから3時間が経過し、時刻は丑三つ時を回ろうとしていた。

 にも関わらず敵の数は減っていない。

 より正確に言うなら、倒す端から増えていた。

 

「何人やられた!」

「10人以上だ! ここまでやられて引き下がれねぇぞ!」

「あの鼠野郎! 絶対に生きて返さん、串刺しにしてやる!!」

 

 怒声が響く深夜の路地裏。

 トラノスケはどこから現れたのか不思議に思えてくるほどに増える一方の襲撃者たちに辟易していた。

 

「大した腕前でもないのに数だけは多い。あの隠密ナイフ使いの方がやかましくないだけまだマシだな」

 

 そんな命を狙われている状況に不釣合いなぼやきを発しながら、彼はまた一人無力化する。

 苦無で両手を貫き、壁に叩き付けたのだ。

 さらに悲鳴を上げるよりも前に無防備な腹部に拳を捻り込み、意識を刈り取る。

 敵側に自分たちの味方がやられた事が伝わらないように。

 いずれ気付かれるだろうが、時間稼ぎにはなるだろう。

 

「(気付いて動揺した所を狙えば楽に叩ける)」

 

 その場から素早く移動。

 しかし敵を張り付けにした場所は視界に収められる所だ。

 

「(この街を裏で牛耳る一派と言うにはやはり弱い。こいつらが金に目が眩んだ寄せ集めだって予想はかなり真実味を帯びてきたな。……けど数だけは多い。それだけでかい金額が俺にかけられたって事か? しかも統一性がない集団だからこの中に本当のボロス一派がいたとしても俺には判別できない。尋問して情報を吐かせるのも難しいとは面倒極まりないな)」

 

 張り付けにされて意識を失っている仲間の姿を発見し、数人の黒尽くめが驚きの声を上げた。

 手早く気絶させ、物陰に放り込んで発見を遅らせるよう工作する。

 

「(しかしどうにも素人臭いのが多いな。闇夜に紛れてるのに大声で言い合ってどうするんだ? 夜襲慣れしていないにしてもお粗末過ぎるぞ)」

 

 日が暮れてから数時間に及ぶ闇夜の中での戦いは、実力差もありトラノスケが襲撃者たちを圧倒していた。

 集団側を相手にしている隙を付いて例のナイフも飛んでくるが、危なげなく全て回避し切っっていた。

 

「(今日はいつになくしつこいな。他の連中を利用して俺を仕留めるつもりなんだろうが……長居し過ぎだ)」

 

 今までは1度攻撃するとすぐに姿を晦ますという見本のようなヒット&アウェイを徹底していた相手。

 高度な隠形の技も相まってトラノスケですらも居所を掴めなかった。

 しかし他の有象無象に紛れて姿を晦ましているとはいえ一定距離から離れもせずに攻撃してくる相手の位置ならば、攻撃の際の僅かな殺気を探り当てる事は可能だった。

 相手が何度となく攻撃を仕掛けてきたからこそ出来た事ではあるが。

 

「(いい加減、終わりにしよう。雑魚を相手にした時間稼ぎも、この鬼ごっこも!!)」

 

 トラノスケは自身が持ちうる最大速度で駆け出した。

 狙いはもちろんナイフ使いだ。

 

 

 

 他の襲撃者たちを挟んでトラノスケの向かい側の民家の裏手に隠れていたその存在は、自身に向かって真っ直ぐ向かってきた標的に動揺した。

 

「(気付かれた、だと!? 馬鹿な、この外套を着ている限り私の気配に気付かれる事はないはずだ!?)」

 

 弾かれたようにその場を離れながら、男は己の傑作である外套を握り締める。

 

「(く、マジックアイテムの不調かそれともあちらが上手だったというだけなのか……どちらにしても今は逃げなくては!)」

 

 ナイフ使いは戦闘は不得手だ。

 元々は『研究者』である彼は、自身が保有する道具の性能は誰よりも把握しており十全に扱う事が出来る。

 しかし戦いについてはほとんど素人も同然だった。

 

 毎夜、トラノスケを襲撃しても発見されなかったのは慎重な彼の性格とマジックアイテムの高性能さが幸いしたに過ぎない。

 その事を彼自身もよく知っている。

 故に脇目も振らずに逃亡する結論を瞬時に出し、行動に移ったのだが。

 

「鬼ごっこはもう終わりだ」

「なっ……」

 

 彼の足が思わず止まる。

 既に逃げ道はなくなっていたからだ。

 目の前にはここ数日、ずっと襲撃してきた男。

 

「(まだ距離はあったはずだ。地力が違うとはいえこうもあっさり……!!)」

 

 有象無象にトラノスケが手間取っている間に逃げ切る算段だったのだが、その見積もりは彼の想定以上の足の速さに即頓挫した。

 

「(なんとかこの場を切り抜けなければ……)」

 

 男は手元に残っていたナイフを逆手に構える。

 そして隠した左手でいつでも投げナイフを放てるよう準備し、ジリジリとトラノスケから距離を取った。

 だが彼の行動はすぐに無意味な物となる。

 

「逃げ出すつもりだろうが、そうはいかん」

「……あっ?」

 

 一歩で稼いでいた距離をすべて詰められ、目の前に現れた男の右拳が己の鳩尾に突き刺さっている事までを認識し、数日に渡っての夜襲はあっけない幕切れを迎えた。

 

 

 

「さて……あとはあっちの連中をどうするか、か」

 

 気絶した男を肩に担ぎ、見当外れの方で自身を探しているだろう男たちを思い浮かべるトラノスケ。

 面倒くさいと顔に出ているが、かといってそのまま放置していくわけにはいかない。

 トラノスケやタツミにとってあの程度の連中は物の数ではないが、それでも数が多いというのはそれだけで厄介だ。

 

 彼ら自身でなく彼らの周囲にいる者たちに矛先が向かないという保証もない。

 ならば。

 

「この場で全員病院送りの方が良いか。非合法な手段で大金をせしめようって連中だ。懲らしめるという意味でも徹底的にやるか」

 

 この時、彼がのは主には決して見せないだろうほど凶暴な笑みだった。

 ここ数日の苦労で彼もいい加減苛立ちが忍耐を凌駕しつつあったのだろう。

 

 そしてこの日の夜。

 安易な大金に目が眩んだ者たちは悪夢を見る事になる。

 成人男性1人を肩に担いだ男に短剣一本で蹂躙されるという悪夢を。

 余談だが恐れを為して逃げ出した者すらも蹂躙する男の笑みは、倒された者たちの頭から年単位で消える事がなかったと言う。

 

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