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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
74/208

勝ち進む仲間たち

 タツミとトラノスケによる追跡はすぐに中止される事になった。

 

 事件関係者と目される女性が大会控え室に入ってしまったからだ。

 たとえ本選参加者の身内であっても控え室へ入る事は禁じられている。

 強引に突破すればせっかく本選に出場したキルシェットにペナルティが課せられる可能性が高い。

 よって彼らはその場は引く事しか出来なかった。

 

「あの事件のせいか、試合中の闘技場付近は内も外も警戒が厳しいな」

「ええ。ちょっと潜り込むのは厳しいですね。出来ないとは言いませんけど……」

 

 追跡は一先ず諦め、彼らはオイチたちがいる観客席に戻る。

 その道すがら、他者に気取られないように自然体のまま小声で会話をする。

 

「ただこれであいつが大会参加選手であると確定出来たな。まだ闇討ちの犯人かどうかはわからないが(おそらくほぼ確定だろう。トラノスケが教えてくれた瘴気の事も併せるとまず間違いない)」

 

 トラノスケは多数の重傷者が出た事件の時の現場に『瘴気』の気配を感じ取った事をタツミとオイチにだけ話していた。

 キルシェットにはまだこの事を伏せている。

 大会に集中させる為だ。

 水臭い上に、仲間での隠し事だ。

 彼が知れば怒るだろう事は全員が理解していた。

 それでも自分の力を示せるこの機会に全力を傾けて欲しかったからこそ、彼らはこの事をキルシェットに話さずにいた。

 

「いくらなんでも大会中に派手な事はしないと思いますよ。表立ってああいう事が出来ないからこその闇討ちなわけですしね」

「そうであってほしいな。とりあえず俺からエドガーさんにこの事を伝えておこう。完全な証拠を掴んだわけじゃないから即逮捕とはいかないだろうが、監視くらいはしてくれるはずだ」

「俺はこれから闘技場の出入り口を張りますね。あの女が出てくるかもしれませんし。闘技場の中で何か起きないか監視するのはそちらにお任せしますよ」

 

 2人は今後の予定を話し合うと自然な流れで別れ、それぞれの目的地へと歩き出していった。

 

 

 

「タツミ様。おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

「予想以上に早いお帰りね? 何かトラブルでもあったの?」

 

 戻ってきた彼をオイチは含みのない笑みで迎える。

 その1つ隣の席に座っていたルンはどこか悪戯げな表情を浮かべ、からかうような口調で問いただしてくる。

 

「少し厄介な事になったんだ。トラノスケはそっちに回ってるから今日はもう観戦は出来ないかもしれない。それ以上は聞かないでくれ」

「ええ、わかったわ。大変ね、機密が発生する依頼は」

「(お疲れ様です)」

 

 気遣わしげにタツミを窺いながら労いの言葉をかけるカロル。

 その頭を掌で軽く叩きながら、タツミはそっと席に座った。

 

「こっちの事はいいだろう。試合の方はどうなったんだ?」

「あと数試合で今日は終わりね。見応えがある勝負ばかりだったわよ」

「(でも何人かの参加者が本選を棄権してしまったようで、試合の数が当初の予定よりも少なくなっていますね)」

 

 カロルの念話の内容に彼は心中で苦笑いする。

 闇討ち事件は公表されておらず、その犠牲者についての情報も当然のように秘匿されている。

 一般的に死んだ者たちについては公には行方不明、つい先日の大量の重傷者たちはなんらかの理由で本選から棄権した事になっていた。

 

 しかし十数人の一斉棄権という本来なら異常と言える事態を字面通りに捉えている者は少ない。

 公式の発表を信じているのはカロルのように純粋であるか、そもそも大会に興味がないか、などの例外だけだ。

 

 大多数の人間は何かが起きていると心中ではそう思っている。

 具体的な事態までは予想できなくとも、何らかの不具合が発生したのだと。

 表だって騒ぎ立てないのは、この街における闘技大会の運営者のほとんどが街の権力者であるからだ。

 下手な事をすれば何をされるかわからないのは、何もボロスだけに限った話ではない。

 噂話程度でどうこうされるという事はないだろう。

 しかし悪い実例としてのボロスが公然と存在する事から、権力者たちが善良な人物であったとしても、実態を知らない街の住人たちは恐れ、好奇心を押し殺して噂話に留めているのだ。

 

「アーリの試合はまだなのか?」

「ええ。どうやら最後の方になったみたいね」

「うふふ。勝負は時の運とも言いますが、試合が後ろに回った事がアーリさんにとって吉と出るか凶と出るか、ですね」

「(勝ってくれるといいんですが……)」

 

 談笑しながら次の対戦カードを待つ事、三試合。

 とうとう審判が彼らの待ち望んだ人物の名を告げた。

 

「アーリ選手、カルディナ選手。ステージへ!!」

 

 槍を手にキビキビとした動きでステージの中央へ移動するのはアーリだ。

 その一挙一動に自分に対する自信が窺える。

  

「アーリ、頑張って!!」

「っ! っ!」

 

 声が届くとは思えない距離でありながら、ルンは彼女に向かって精一杯の声援を送る。

 この距離では念話が届かないが故にカロルはぶんぶんと懸命に両手を振ってエールを送った。

 

「良い方たちですね、タツミ様」

「そうだな。さてアーリは勝てるかな?(ステータスは……レベルはアーリの方が上だが……肝心の竜に乗れない事から竜騎士として戦う事が出来ない。数値的に見えない部分だからなんとも言えないが実力はほぼ伯仲してる、か?)」

 

 向かい合う両者。

 相手も女性で見る限り鳥の獣人。

 両者の得物は偶然にも同じ槍だった。

 

 時折、自身の黒い羽を揺らしながらアーリを真っ直ぐに見つめている。

 お互いに見つめあうだけで通じ合ったのか、無言のままだ。

 

「第57試合。アーリ選手VSカルディナ選手。始め!!」

 

 審判の声がステージ上に轟くと同時に両者の突きが激突した。

 

 

 

「やるな!」

 

 突きの一撃が相殺し、距離が開くと同時にアーリは感嘆の声を上げた。

 それは強者と勝負が出来るという事への、心の底からの純粋な喜びに満ちていた。

 

 間髪入れずにカルディナは彼女目掛けて文字通りの意味で飛び掛かる。

 地面すれすれを水平に飛翔し、両手で握り込んだ槍が突き出された。

 

「ぐぅっ!!」

 

 槍での防御が間に合わず、回避も出来ないほどの突き。

 鋭く、素早くその一撃に対して彼女は咄嗟に左肩を差し出していた。

 軽装鎧の肩を覆っていた部分が甲高い音と共に砕け散る。

 しかしそのお蔭で槍は彼女の体から逸れていた。

 

「シッ!!」

 

 アーリは右手一本で槍を操り、突きを放つ。

 

「当たら、ない!」

 

 羽ばたき、自身の身体に急制動をかけた上で身を捻るカルディナ。

 アーリの一撃は二の腕を掠めるだけに終わった。

 

「はぁっ!!」

 

 彼女は突き出した槍をそのまま横になぎ払う。

 しかし鳥の獣人は己の羽を手足同然に操り、力強い羽ばたきと共に急上昇してその一撃を回避した。

 

「……厄介だな。(ドラードがいれば逃がさないのだが……)」

 

 中空に舞い上がった対戦相手に槍は届かない。

 

「キィエエエエエエエエッ!!!」

 

 カルディナは奇声と共に急降下する。

 頭上に槍をかざして迎え撃つ体勢を取ると、即座に急旋回。

 彼女は槍の穂先を華麗且つ素早い動きで避け、アーリの後ろへと回り込んだ。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に前方へ身を乗り出すとほぼ同時に、背中を掠めるように頭上を槍と共にカルディナの体が通り過ぎていった。

 

「速いな。(自由自在という言葉がぴったりの飛行能力だ)」

 

 敵は既に上空高くに飛翔し、槍の届かない場所へ陣取っている。

 

「厄介な相手だが……だからこそ相手にとって不足なし(そして、次は逃がさん)」

 

 上昇したまま降りてこない相手を睨みつけながら、アーリはチャンスを窺った。

 

「(ドラードで戦う時、上空から急降下して突くのは基本中の基本だ。勢いを増した槍は己の力だけで繰り出す一撃とは比較にならない上に対処し難い。私も良く使う手だ。その有用性はよく知っている)」

 

 上空の相手に槍をかざして威嚇しながら、アーリは相手の戦法を分析する。

 

「(空中でも小回りが利くというのが私たち竜騎士と彼女の違い。だがそれは竜の持つ力を上乗せして攻撃する私たちに比べ、身一つであるが故に破壊力に劣るという事)」

 

 突撃に備えながら、アーリは己の中で結論づける。

 

「(突撃を捌き、捕らえることが出来れば勝機はある)」

 

 再び奇声と共に急降下するカルディナ。

 細い身体を精一杯に反らし、槍に力を込めている事が窺える。

 真っ向勝負で決着を付ける腹積もりのようだ。

 

「キィエエエエエエエエ!!!」

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 

 槍の穂先がぶつかり合う。

 しかし拮抗は一瞬だけ。

 上空から勢いをつけて打ち下ろされた槍と腰を据えたとはいえその場で放たれた槍では結果は見えていた。

 アーリの槍はあっさりと彼女の手を離れ、ステージへと叩き落される。

 

「次で終わり!」

 

 勝利を確信した少女が思わず頬を緩める。

 

「っ!?」

 

 しかしその表情は次の瞬間に凍りついていた。

 自身の左腕をがっしりと掴まれていたからだ。

 

「なっ1?」

「捕まえたぞ!!」

 

 アーリは捉えた腕を思い切り引っ張り、強引に引き寄せる。

 同時にフリーになっていた左手を握り込み、引き寄せたカルディナの脇腹へと叩き込んだ。

 それ自体はただの拳。

 しかしフォゲッタにいた頃、攻撃手段を増やしたいという彼女の要望に応えて武道家としての基本だけとはいえタツミが指導し、この日まで欠かさず鍛錬を重ねてきた物だ。

 その威力は現段階でも充分に脅威に値する。

 

「うっ!? ぐぅ……」

 

 彼女は肺の中の空気を無理やり口から吐き出される気色悪い感覚を味わい、身体をくの字に折り曲げた。

 

「これで……」

 

 アーリは足元に転がっていた槍の柄尻を踏み込み、その場に跳ね上げる。

 無造作とも言える手つきでくるくると回る槍を掴むと、アーリはカルディナの米神に槍の石突を叩き込んだ。

 

「終わりだ!!」

「っぁ!?!?」

 

 声にならない悲鳴を上げながら、カルディナの身体は真横へ吹き飛ばされステージへと倒れ込む。

 

「ふぅ~~」

 

 呼吸を整えながらアーリは肩の力を抜いた。

 そして己の勝利を確信し、審判の宣言を待たずにその場で槍を掲げる。

 

「勝者、アーリ選手!!」

 

 戦いが終わった事を理解した観客たちの歓声に包まれ、アーリは心地よい勝利の味に満足げに相好を崩した。

 こうしてキルシェット、アーリ、ライコーの3名は全てが1回戦を通過し、明日以降の戦いに駒を進めたのだった。

 

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