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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
70/208

蛇を襲う闇

 タツミたちとアルカリュードの面々は再会とメンバー全員の予選通過を記念した祝勝会を行った。

 もちろんキルシェットもアルカリュードとの再会を喜び参加したし、アーリも彼らとの再会を喜んだ。

 初対面のライコーもお祭り好きな性格であるが故にノリノリで参加している。

 

 しかしキルシェットは大衆に見られる闘いの場の空気に緊張し、自身が考えている以上に疲れていた。

 祝勝会で真っ先に潰れてしまったのだ。

 主役の一人で早々に落ちてしまった為、積もる話はまた今度という事にしタツミとオイチはその日の祝勝会を後にしている。

 ライコーとは簡単な自己紹介に留めていた。

 オイチとしては彼女に想う所があるが、それはあちらも同じようだった。

 予想外だったのは彼女が主に見ていたのはオイチではなく、タツミの方であり、なにやらキラキラとした瞳で彼を見つめていた事だろう。

 

「(あの目はたぶんカロルやキルシェットが俺に向ける尊敬に近い物だと思うが……鬼との半妖である彼女にそんな風に見られる心当たりが無い。俺自身には覚えがないがどこかで彼女に会った事があるのか? それともカロルが俺に恩を感じているように、俺がヤマトでやった事が彼女を助ける事に繋がったか……)」

 

 自身の行った行動が自身の意識していないところで影響を与えるというのは割と良くある事だ。

 特に冒険者ともなれば依頼を完遂する事で村や街、果ては国すらも結果的に救う事に繋がるという事もある。

 A級冒険者であるタツミへの依頼は良くも悪くも影響力も高い重要な事である事が多い。

 

 ヤマトでも彼は『イエヤスの右腕』、『イエヤスの懐刀』だと言われている。

 行ってきた仕事は領地のみならず、ヤマトと言う大陸その物に影響を与える物があった。

 

 あちらの世界で彼が働いた結果ですらも会社の利益に多かれ少なかれ影響を与えているはずだ。

 

 意図せず誰かを救う。

 あるいは意図せず誰かを陥れる、傷付ける。

 それは影響力にこそ差はあれど意識していないだけで誰もがやっている可能性がある事だ。

 

「(まぁ具体的な事はまた今度聞けばいい。一先ずは俺やオイチに対して悪感情を持っていない事がわかっただけで充分だ)」

 

 

 閑話休題。

 予選突破に気合を入れて臨んでいただろうキルシェットは、大会の緊張感から開放された反動か果実酒の一杯でぐっすりである。

 ぐでんぐでんと言うわけではないが、とても深く眠っている彼を心配したオイチが今日は彼と同じ部屋で寝ている。

 だから現在、タツミは宿の一室に一人だけだ。

 

 静かに窓から見える月を見上げる。

 先ほどまでの酒場での喧騒が嘘のような静けさ。

 その静けさに身を任せ、ぼうっと月を見ていた彼が瞬きを1つする。

 同時に彼の後ろに気配が1つ現れた。

 

「トラノスケ、戻ったか?」

「はい。キルシェットは無事に予選通過出来たみたいですね」

 

 トラノスケはタツミに返事を返すと空いている方のベットに倒れ込み、疲れをほぐすように自身の太ももを揉み解し始めた。

 

「ああ、もう知っていたのか?」

「人の声って言うのはどこにいても聞こえるもんですから。今、この街一番の話題である闘技大会の予選通過者の事ともなれば調べずとも耳に入ってきますよ。俺がおめでとさんって言ってたってキルシェットに伝えといてください」

「さすが諜報活動はお手の物だな。伝言についても確かに伝えておこう。……でだ。例の襲撃事件については何かわかったか?」

 

 談笑も程ほどにタツミは本題を切り出す。

 薄っすらと笑みを浮かべていたトラノスケの表情が引き締め、ベットに座り直すと話し始めた。

 

「例の事件運営委員会とやらが確認した4件目以降、今日までは起きていません。警戒されて多少はあちらさんも自重し始めた、と気楽に考えたい所なんですが実際どうでしょうかねぇ?」

 

 肩を竦めて笑う彼は自身の言葉をただの願望であると思っているのだと窺わせていた。

 

「仮に犯人が大会の選手だとしたら……予選に集中する為に襲撃を一時的にやめただけ、という事も考えられるからな。断言できない以上、楽観視は危険だ」

「ええ、もちろん心得てますよ。もしかしたら今日にでも襲撃が再開されるかもしれませんしね。被害者に共通しているのは全員獣人だと言う事。身体的特徴として猫か烏の特徴を持っているやつが襲われているという事。あとどうも襲われた連中は『黒蛇のミットガルド』の傘下にいる人間のようですね」

「……街の噂だけでも危ない話が聞けたからな。恨む人間は多いだろう事は簡単に予想できる……」

「ええ。色々調べたんですが……まだ確定じゃないにしても結構裏で好き勝手やってるようです。参加者の闇討ちなんかもね。恨んでる人間なんて腐るほどいるでしょうよ。巧妙に隠蔽されてますんで決定的な証拠は出てきてませんから委員会側も手が出せないとか。まぁそれも一部の運営委員会の人間と繋がってるせいのようですね。迂闊な事が出来ない、証拠も掴めない。結果、奴の蛮行がまかり通っている有様というのが今のヴォラスの内情です」

「ずいぶんと大きな話になってきたな。俺たちとしては事件が解決すればそれでいいんだ。……あまり調査範囲を広げなくてもいいぞ?」

 

 黒蛇の悪事についても明らかにしたいと考えながらも、その考えを表情に出す事無くタツミはトラノスケの身を案じる。

 ただでさえ足取りを掴ませない闇討ち犯の捜査なんて危ない事をしているというのに、この上必要以上にこの街の暗部を調べるなどトラノスケへの負担がかかりすぎると彼は考えているのだ。

 

「引き時は心得ているつもりですから安心してください(そんな手を握り締めながら言われても説得力ないんですが……俺個人としても黒蛇とやらは放っておけないし、余罪も洗いざらい調べ上げちゃいましょうかね)」

 

 しかしその気遣いも含めてお見通しであるトラノスケは事件の調査に比べて黒蛇の悪事を調べ上げる決定を下す。

 そこでトラノスケは今思い出したようにポンと自身の手を叩いた。

 

「あと最後に1つ。襲撃事件について調べ始めた日の夜から俺自身が襲撃されるようになりました」

「なにっ?」

 

 トラノスケの報告にタツミは顔を歪め、素早く彼のステータスを確認する。

 

「(ダメージは、ないみたいだな)……怪我はないようだが、詳しく話してくれ」

「襲撃は決まって夜中です。闇に紛れて情報を集めている間、間隔を空けて数回に渡ってナイフが投げつけられてきます。毒を塗られている場合もあるようで掠めるだけでも危険ですね。まぁ一撃たりとも当たっていませんが」

「相手は?」

「不甲斐ない事にまだ何もわかっていません。一度の襲撃で投げつけられるナイフは一本だけで投げつけるとほぼ同時に姿を晦ましているようです。どれほど素早く投擲されるナイフに気付いても、今まで一度として下手人の姿も見れてないんですよ。悔しいことに」

 

 トラノスケほどの実力者が梃子摺る相手。

 想像以上の手合いの出現にタツミは顔を険しくした。

 

「お前が視界に捉える事も出来ない、か。よほど優秀な身のこなしをしているか……何らかの力で姿を消しているか、か」

「こっちの魔法となると専門外なのでなんとも。ただ姿を消すだけでしたら気配は残ると思うんですよねぇ」

「ふむ。気配まで完全に消す魔法、あるいは技か。こっちでも調べてみよう。だから…・・・すまんが最大限警戒して調査を続けてくれるか? 無茶なことを言っているとは思うが」

「お気になさらず。まぁ侍従である俺をこんなにこき使ってるんですから、姫様のお守りの方はお任せしますよ。ついでに不肖の弟子の事もね」

「キルシェットは俺にとっても仲間で弟子みたいなもんだ。言われるまでもないさ。もちろんオイチの事もな」

「はは、さすが。頼もしい限りのお言葉です。これなら安心して調査に集中できますよ」

 

 タツミの背後の窓を開き、トラノスケはその縁に足をかける。

 

「気をつけろ」

「そちらこそ」

 

 タツミが瞬きした瞬間、トラノスケの姿は部屋の中から消えていた。

 まるで最初からいなかったように。

 

 

 

 

 細身に長身という縦に細長い禿頭の男が路地裏を歩く。

 その肌は暗い緑色をしており、光の届かない路地裏で保護色のような役割を果たしていた。

 普通の人間と異なる縦に割れた瞳で周囲を見回しながら男『ボロス・ミットガルド』は歩く。

 何かを探すように、何かを待っているかのように。

 

「……」

 

 そしてそんな誘いに乗るかのように彼の背後に闇が集まり出す。

 

「くく、来たか?」

 

 周囲の空気の変化を敏感に感じ取り、男はゆらりと背後を振り返る。

 闇の中から赤い瞳をギラつかせながら騎士が現れた。

 体中から噴出する闇が爛々と輝く瞳以外の騎士の姿を隠してしまっており、その正体はわからない。

 

「心地良い殺気を出すじゃあないか。俺の手足、それも獣人ばかりを狙う闇討ち犯。その下手人がどんな者か興味あったが……その靄のせいで顔はおろか体型もわからんなぁ」

 

 目の前に立つ闇の化身。

 見ているだけで不安を煽り立てるそんな存在を前にしてボロスは己のペースを崩す事はなかった。

 残念そうに呟くと男は自身の口に手を突っ込む。

 明らかに顎が外れているほどに口を開き、口内のさらに奥へ自身の右手を進め、何かを掴んで引っ張り出した。

 

「ぷっはぁ~~……」

 

 唾液や胃液を地面に撒き散らしながら口の中から出てきたのは細長いレイピアだった。

 とはいえ幾ら細いと言えど、喉の奥から出し入れできるような代物ではない。

 そして不思議な事に、そんな所に保管されていながらレイピアその物はまるで新品のような輝きをしていた。

 今の今まで口の中に保管されていたと言うのに不気味な程に綺麗なままなのだ。

 

「わざわざ武器を出すのを待ってくれるとは……ずいぶん律儀じゃあないか」

「フゥウウウウ……ウゥウウウウ」

 

 ボロスの獲物を嘗め回すようなねっとりとした視線を受けながら、闇は唸り声を上げながら腰の剣に手をかける。

 しかし剣を引き抜こうとした瞬間、闇の動きが不自然な姿勢のまま止まった。

 よく見れば闇の足元には魔法陣が浮かび上がり淡い輝きを発しており、それがかの存在の動きを止めているのだとわかる。

 

「ククククク、私は自分が恨まれるのも憎まれるのも当然の事だと理解しているんだよ。そんな人間があんな事件が起きるような街でわざわざ一人になるとでも思うのか?」

 

 いつの間にか彼らを囲い込むように何人もの人影が出現していた。

 魔法使い、戦士、武道家、盗賊など、いずれもボロスの配下で腕のある猛者たちだ。

 

「しかし魔法はそれなりに効果があるようだな。となればその闇の中は剣士か戦士の可能性が高いのかな?」

 

 レイピアの切っ先を長い舌で舐りながらボロスはその切っ先を身動きの取れない闇へと向ける。

 それを合図に周囲を取り囲んでいた者たちも己の武器を闇へと向けた。

 

「まぁ本命は私の命なのだろうが……それを踏まえてもこいつからは聞き出したい事が山ほどある。お前たち、殺しはするなよ。四肢を壊すくらいは構わんがな」

 

 その言葉を合図に雄叫びを上げながら戦士たちが攻撃を開始した。

 闇の中から覗く赤色の瞳が、自分たちの存在など一顧だにしていなかった事など気付かぬまま。

 

 

 

「酷い有様だな、こりゃ」

 

 今日も何者かからの襲撃を躱したトラノスケが異変を感じ取り、現場に到着するまでの僅か数分。

 たったの数分でボロス配下の猛者たちは例外なく瀕死の重傷を負って倒れていた。

 壁に叩きつけられている者、布切れのように身体を切り刻まれ血の海に沈んでいる者、おそらく愛用の武器だったのだろう剣で腹を貫かれ地面に串刺しになっている者。

 しかしトラノスケは知らぬ事だが、この現場に下手人である闇とボロスの姿は無かった。

 

「こんだけ派手にやったにも関わらず大通りの人間は気付いてもいない。こんな風穴が地面に空くような力が働けば街全体に轟音轟かせてるはずなのに」

 

 トラノスケが事態に気付いたのは、彼自身があまり思い出したくもないが覚えのある『瘴気』独特の気配を感じ取ったからだ。

 注意深く周囲を探りながら巨大な足で踏み抜かれたようなクレーターを覗き込む。

 やはり虫の息の戦士がそこに倒れ込んでいた。

 

「今までは一太刀で殺していたらしいが……今回に限って1人も殺していないってのはどういうわけだ?」

 

 悲惨な状況に眉を顰めながら、彼は懐から打ち上げ花火を取り出す。

 こんな状況を放置しておく事は出来ない。

 しかしまだ調査するべきことが山ほど残っている状態で拘束される事は避けたい。

 よって彼は派手に物音を発てて自分以外に第一発見者を押し付けることにした。

 

「これでよし。見つけるのが誰になるかわかりませんがご愁傷様です」

 

 好奇心に引かれて来てみれば戦場もかくやの惨状。

 一般人ならばトラウマ物だろう。

 導火線に火を付け、その場を離れる。

 天高く昇り上がる小気味良い破裂音を背に受けながら、彼はさらに速度を上げた。


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