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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
69/208

予選終了

 開幕と同時の魔法攻撃の効果範囲に己が入っている事を、キルシェットは敏感に察知していた。

 素早く身を翻し、その場から全速力で離れる。

 

 ピリピリとした感覚が無くなると同時に複数の魔法が会場の至る所で発動。

 回避する事も出来ず棒立ちしていた予選参加者を阿鼻叫喚の惨状へと叩き込んだ。

 

「あ、危なかった……」

 

 冷や汗を拭いながら呟く。

 

「(これだけ大勢での予選だから何が起きてもおかしくなかったけど。示し合わせたみたいに複数人が広範囲攻撃をするなんて……。あ、でも開始直前だからこそ効果的なのかな? 乱戦になると溜めが必要な大技って使い難いし)」

 

 思考を巡らせながら彼の五感は周囲を最大限に警戒する。

 そしてそんな彼の背後から忍び寄る何者か。

 振り返り様に、その喉元に左手の刃引きナイフを叩き込む。

 

「こふっ……」

 

 喉元に一撃を食らったせいでくぐもった悲鳴を上げるとハンマーを振り上げていたドワーフと思われる男性は仰向けに倒れ込んだ。

 

「あ、あれ? 今ので倒せちゃった?(咄嗟だったからあんまり力が入らなかったのに)」

 

 あっさりと撃沈した男を見下ろしながらも、その余りにもあっさり倒せた事実に逆にキルシェットは戸惑う。

 

「えっと、ってうわ!?」


 剣士同士がお互いの武器で鍔迫り合いをしながらキルシェットの真横を通り過ぎていく。


「うおおおおお!!」

「どけどけぇえええ!!」

 

 今は乱戦の真っ只中だ。

 

「うひゃぁ!?」

 

 流れ弾と思われる氷の弾丸を彼は地面を這うように低い姿勢になる事で回避した。

 彼が避けた魔力弾は鍔迫り合いをしていた剣士たちを直撃し、彼らを吹き飛ばす。

 悲鳴など剣戟の音や爆音に掻き消されてしまっていた。

 

 悠長に倒した相手を観察しているような余裕などありはしない。

 初手の大規模攻撃で参加者のおよそ1/5がリタイヤしたとはいえ、いまだ参加者は闘技場の中に犇めき合っている。

 隙を見せれば狙われるが、そうでなくとも何かの拍子に攻撃の巻き添えを食らう事は充分に考えられる状況だ。

 

「(と、とにかく気を取り直して……行こう)」

 

 低くした姿勢そのままにまるで豹か狼のようにキルシェットは駆け出す。

 乱戦の中、通りかかる選手たちの急所を的確にナイフで叩き、気絶ないし行動不能に追いやっていく。

 しかし相手側からすれば姿勢の低さと素早さが相まってその姿を認識する事が出来ない。

 

 トラノスケによって暗殺者に近い技術を伝授されたキルシェットは、その能力をいかんなく発揮して戦場を縦横無尽に駆け抜け敵を倒していった。

 

 

 

「やれやれ、初手から豪快というか無粋というか。私としては武器を向け合う闘いを楽しみたかったのだがな」

 

 石突きを背後の相手に叩き込み、さらに前方から向かってきていた武道家の拳を槍の一突きで弾きながらアーリはそうぼやく。

 運良く全ての魔法攻撃の範囲から外れていた彼女は、気を取り直して真っ当な勝負が出来る状態の参加者をわざわざ探し出し、正面から挑みかかるというやり方を続けていた。

 大抵の相手が一突きで倒れてしまう為、物足りないのか不満げな表情を隠そうともしない。

 血気勇んで挑む参加者たちを手当たり次第に薙ぎ倒す姿に、観客は盛り上がっているがそれに反比例するかのように彼女自身の不満は募るばかりだ。

 

「ええい! もっと腕の立つ者はいないのか!!」

「……ならば俺が相手をしてやろう」

 

 直剣を2本、無造作に構えた男が彼女の前に立ちはだかる。

 

「ほう? 今までのヤツよりは出来るようだな?」

「お前さんは見ない顔だな。今回初参加か?」

「その通りだ。そもヴォラドに来たのが初めての事だ」

 

 アーリは腰溜めに槍を構え、すり足で間合いを計る。

 会話を挟みながらも、その目は敵の隙を見逃さぬとばかりに相手へと真っ直ぐに向けられていた。

 

「そうか。新入りに好き勝手されるのも面白くない。この辺でおとなしくしてもらうぞ」

「フン、言われて素直に引き下がるとでも? 自分の腕に覚えがあるなら実力でおとなしくさせてみる事だな」

「はっ! 言うじゃないか。なら、お望み通りにしてやる!!」

 

 通常の片手剣をまるでナイフのような身軽さで振るう剣士と、大の男を槍の一振りで薙ぎ払う竜騎士が激突した。

 

 

 

「いきなり魔法を食らう羽目になるとはなぁ……ちょぉっとばかし油断したか」

 

 頭を掻きながらライコーは周囲を見回す。

 爆心地と言っても良い彼女の周囲は魔力が爆発した焦げ跡が残っており、吹き飛ばされた参加者がそこかしこに転がってうめき声を上げている。

 しかし効果範囲にいたにも関わらず彼女は何故か軽傷しか負っていなかった。

 

「さて……やられた分はやり返さないとなぁ!!! そうだろ、イフリートォオオオオ!!!!」

『オオオオオオオオオオオオッ!!!!!!』

 

 ライコーの背後に全身に炎を纏った大柄な男性の姿が現れ、彼女の気迫に呼応するように咆哮を上げる。

 男性、炎の精霊『イフリート』は次の瞬間、彼女らを警戒して武器を構えていた参加者に炎を噴出しながら突撃した。

 何の工夫もないただの突進。

 しかし炎を撒き散らしながら行われるソレは相手の防御など容易く打ち壊しながら会場の端まで突き進むだけの威力があった。

 

 彼女の職業は『召喚師』。

 そして『種族特性』として異様なタフさと精神力を有するが故に広範囲魔法を受けても平気な顔をして立っていられるのだ。

 

「その風体で召喚師とはな、嬢ちゃん。だが調子に乗るのもそこまでだぜ!!」

「おっ、イフリートのタックル潜り抜けてきたのか? やるじゃねぇの、おっさん」

 

 所々、焼け焦げた状態でライコーの眼前に立ちはだかったのは盗賊らしい身軽な風体の男性だった。

 右手にナイフを逆手にして構え、左手には手甲に取り付けられた爪と左右非対称の珍しい装備をしている。

 対してライコーは身体を動かすのに邪魔にならないような軽装鎧にやや分厚めの手甲と足甲を装備していた。

 

「ってもな。イフリートを抜けられたからって俺を倒せると思わないほうがいいぜ。なんせ俺は……肉弾戦の方が得意だからな!」

「うおっ!?」

 

 彼女は一足飛びで間合いを詰め、勢いそのままにしなやかな蹴りを見舞う。

 左手のクローで迫り来る足甲の蹴りを受け流すと、男はバックステップして距離を取った。

 

「そうみてぇだな! いいぜ、年季の違いってのを教えてやらぁ!!!」

「やってみろよ、おっさぁあああん!!!」

 

 本選を待たずして各所で激しい闘いが繰り広げられつつあった。

 

 

 

 

「まぁルールがあれだけ大雑把だったものな。こんな展開になるだろう事は予想できた」

 

 バトルロイヤルの混戦模様を観戦しながらタツミはため息をつく。

 ざっと戦場と化した会場を見回し、キルシェットとアーリが勝ち残っている事を確認すると他に目ぼしい実力者がいないか探し始める。

 そんな彼の横で混戦模様を唖然とした様子でカロルが見つめている。

 

「……(す、すごいですね。まるで物語の戦争でも見ているみたいです!)」

 

 カロルはタツミの服の袖を引っ張りながら、念話で話しかける。

 心なしか興奮した様子で目をキラキラさせていた。

 広範囲魔法や広範囲スキルの乱発など早々見れる物ではないからだろう。

 

「武器は全て刃引きされているし、魔法攻撃や気を使った技も致命傷になる攻撃は強制的に威力を落とす広範囲術式が会場全体に働いているらしいから死人が出ないだけ戦争よりは平和的だろう(見ているととても平和には見えないが……むしろ世紀末的な物を感じるな)」

 

 興奮している彼の様子を微笑ましげに見つめながら、タツミはふと気になった事を質問した。

 

「前は目を合わせた相手としか念話が出来ないって言ってなかったか?」

「(あ、それはですね。タツミさんに沢山エーテルを頂いたので色々と練習をしてみたところ『相手に念じるだけで言葉を届ける事』と、『最大で3人同時に念話をする事』が出来るようになりました!)」

「ほう、そいつは便利だな」

 

 カロルの得意げな言葉に感心して頷きながら、タツミは彼のステータスを見る。

 

「(カロルのステータスは……詳細まで見れるな。やっぱり俺との付き合いの長さや俺への信頼や信用によってどこまで見えるかが変わってくるのか? それはそれとして念話は……熟練度が3か。以前はMP消費が高かったせいで多用出来なかったから目を合わせた人間にしか使えなかったって所か。MP回復アイテムを幾らかプレゼントしたとはいえ、大した進歩だな)」

 

「今のが念話なのですね。頭に直接声が聞こえてきました」

「慣れるまで少し戸惑うけれど、攻撃的な魔法ではないしすぐに慣れるわよ」

「(急に話しかけて驚かせてしまってすみません、オイチさん)」

「あらあら、気にしないでください。カロル君」

 

 4人の談笑が盛り上がりを見せる頃。

 バトルロイヤルは参加者の半数以上が脱落するという状況になっていた。

 

「人数が減るのがかなり早いわね」

「初手の広範囲攻撃で脱落はしなくてもダメージを受けた参加者は多かったからな。弱っている人間から順当に落とされていったんだろう」

「アーリも、ライコーも無事みたいだし順調に進んでるようね」

「しかし新入りとやらは召喚師だったんだな」

 

 イフリートによる攻撃は観客席から見ていてもとても目立つ。

 お蔭でタツミとオイチにもアルカリュードの新しいメンバーだというライコーという少女の姿を確認する事ができた。

 

「ヤマト出身とは聞いていたがまさか鬼人だったとはな」

「あら、そっちではあの子みたいな種族は鬼人って言うの? こちらで言うところのオーガとのハーフみたいな物だから獣人の仲間だって言ってたわよ?」

「大別としては間違ってないぞ。ただヤマトに置いて鬼という種族は少し特別なんだ」

「そうですね。良い意味でも、悪い意味でも特殊ですから」

 

 顔を曇らせ言葉を濁すタツミとオイチの様子にルンは「そう」と相槌だけ打つとそれ以上、鬼について聞く事はなかった。

 あまり気持ちの良い話ではないのだと2人の態度で察したのだろう。

 

 ヤマトにおける鬼は角の数に反比例して強さが変わる魔物である。

 特に額に一本角を持つ鬼はヤマトでの最強種族『龍』にすら比肩しうる個体がいる程の存在だ。

 ライコーの額には鋭く雄雄しい一本角がある。

 間違いなく最強クラスの鬼の血を引いているのだろう。

 その強さ故に魔物からも人間からも恐れられるような鬼の力を持ち、同時に人間らしい性質を持った存在。

 周囲からは浮き、その力を恐れた者たちに距離を取られ、酷ければ襲われた事もあるかもしれない。

 

「(おそらく……こっちの大陸に来たのには武者修行という理由以上にヤマトでの迫害から逃れるって言うのがあったんだろうな)」

 

 悲しげな表情でライコーを見つめるオイチの様子から自身と同じ推測をしていると察した。

 

「(大方、為政に携わっていた事がある人間として迫害を止められなかった事に責任を感じてるんだろうが……)気になるのはわかるがあまり考え過ぎるなよ、オイチ」

「……はい」

 

 人の上に立つ者として感情を御する教育を受けている彼女にしては珍しい誰が診てもわかる明らかに無理をして繕われた笑み。

 何を言っても慰めにならないと思ったタツミは、それでも彼女の力になるべくただ無言のまま自身の膝で握り締められていた彼女の手をそっと握った。

 

「あっ……」

 

 思わず声を上げるものの、それ以上は何も言わず。

 オイチは黙したままそっと握られた手を握り返した。

 

 

 

「声をかけるのは無粋よね、これは」

「(た、たぶん……)」

 

 2人の間に展開された干渉し辛い空間についてルンとカロルが小声で話している事に気づかないまま。

 周囲の観客たちが会場の喧騒そっちのけでいちゃつき出したように見える2人の姿に嫉妬と羨望の眼差しを向けながら「いちゃつくなら他所でやれ」などという念じられている事に気づかないまま。

 

 

 混戦となった予選はその後、実力者たちによる殲滅戦へと移行。

 最初の乱戦の混乱によって数が減らされた事により、当初予定されていた時間よりも早く終了する運びとなった。

 もちろんキルシェット、アーリ、オイチは無事に予選を通過している。

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