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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
68/208

大会予選開始

 ルドルフからの依頼を受諾したタツミたちは、闘技場に来ていた。

 

 今日は大闘技大会の予選初日だ。

 エントリーしたキルシェットは既に大会控え室に向かっており、彼と別れたタツミとオイチだけが観客席に座っていた。

 

「キル君はまだ出てこないのでしょうか?」

「ワクワクするのはいいんだが、もう少し落ち着け」

 

 自分たちに視線が集まっているのを察しているにも関わらず、オイチは無邪気にはしゃいでいる。

 こちらの大陸では見慣れない服装に加え容姿の良さも相まって彼らは注目の的だった。

 

「あら? もしかして、タツミ?」

「んっ?」

 

 聞き覚えのある声に彼は視線をそちらに向ける。

 フードを目深に被り、肢体をすっぽりとローブで隠していても艶かしさを隠しきれていない妙齢の美女が、背の小さい少年を引き連れて彼らの元へと歩いてきていた。

 

「ルンに、カロルか?」

「ふふ、ええそうよ。少し振りね」

「……(お久しぶりです、タツミさん!)」

 

 目深に被ったフードの中でルンの魅力的な唇が微笑みを浮かべる。

 カロルは雰囲気で喜びを表し念話でその意志を伝えながらタツミに深く一礼した。

 

「タツミ様、そちらのお2人はどちら様でしょうか?」

「あら? タツミも墨に置けないわね。こんな綺麗な子を連れてるなんて……」

 

 からかい混じりに言いながら、彼女はオイチの隣に座る。

 

「私はルン・ダゴード。この子はリューって言って私の相棒よ」

 

 彼女のローブの裾から蛇が鎌首をもたげるようにして顔を出し、シュルシュルと舌を出し入れしながら主と同じタイミングでオイチに頭を下げた。

 

「あっちの無口な子はカロル・カレリィね。それで? タツミと仲睦まじくしてる貴方のお名前を聞かせてもらえるかしら?」

 

 タツミの隣にはカロルがそっと座り、オイチに頭を下げる。

 

「ご紹介ありがとうございます。私はオイチと申します。ルン様、カロル様、リュー様、よろしくお願いします」

 

 静々と頭を下げる彼女の所作と様付けで呼ばれた事に驚き2人は目を丸くした。

 

「これはこれはご丁寧にありがとう。でも様付けなんていらないわよ? 肩が凝っちゃうし、呼び捨てで良いわ。カロルもリューもそう思うでしょ?」

「……(コクコク)」

 

 小動物のような仕草でルンの言葉に頷くカロル。

 リューも心なしか慌てたような雰囲気で首を上下に揺らして同意を示していた。

 

「2人と1匹がこう言っているんだ。お言葉に甘えさせて楽に話せよ、オイチ」

 

 タツミはそんな彼らの様子に苦笑いしながら、オイチに取り成す。

 

「あらあら。それではルン、リュー、カロル君と呼ばせていただきますね」

 

 口元に手を当てて微笑みながら彼女は呼び方を変えた。

 

「ええ、そうして頂戴(この子、初めて会った人間に様付けって貴族のご令嬢かなにかなのかしら?)」

「……(物腰もふとした時の所作もすごく整ってるし、服も見た事が無い造りで綺麗だ)」

 

 あまり縁の無かった雰囲気を持つオイチに内心で戸惑うルン。

 カロルはじっとオイチの服やちょっとした仕草を注視し、時折感心したように頷いている。

 

「しかしこんな所で会うとは思わなかったな」

「それはお互い様よ。正直、タツミはこういうのは興味ないと思ってたわ」

 

 会場に入場する参加者たちを見つめながら談笑を始める4人。

 

「俺自身は興味はないが、キルシェットが出場してるんだ」

「なるほど。キルシェット君が出てるのね。師匠としてはどうなの? 彼はどこまでいけそう?」

 

 タツミと共にフォゲッタを旅立った少年を思い浮かべ、ルンはからかい混じりに聞く。

 

「予選は参加者全員が同じ会場に集まってのバトルロイヤル。まぁあいつの実力ならよほどの事がなければ余裕だろう。本選は組み合わせ次第だな。大会上位の人間と最初から当たる、なんて事にならなければ良い線いくと思うぞ」

 

 今までのキルシェットの努力と成長を冷静に評価し、エキシビジョンマッチや今まで見てきた闘技大会参加者のステータスを考慮した上での判断だ。

 身内贔屓がない事を彼の表情と言葉に乗った感情から読み取ったルンは楽しげに笑う。

 

「へぇ、私たちと別れてから相当鍛えたって事ね。うふふ、これは観る楽しみが増えたわね」

「(タツミさんにこんなに信頼されてるなんて……いいなぁ。キルシェットさん)」

 

 タツミから実力を評価されているキルシェットを尊敬すると同時に子供らしい嫉妬を覚えるカロル。

 

「そっちは……この場にいないって事はアーリが参加しているのか?」

「ご明察。と言ってもアーリだけじゃなくてつい最近入った子も一緒よ。血の気が多くて手綱を握るのも大変だわ」

 

 悩ましげなため息を憂鬱そうに吐き出す彼女の様子は疲れを感じさせる。

 カロルは彼女の言葉に頬を掻きながら目を逸らした。

 声を出す事を封じられている自分では彼女の手助けをするにも限界がある故に負担をかけている事への申し訳なさを感じているのだろう。

 

「つい最近パーティ入りした人間? どういうやつなんだ?」

「ライコーって言うの。女の子だしかなり綺麗な子なんだけどさっきも言ったように血の気が多くて、ね。そういえばヤマトからこっちに来たって言っていたわ」

「あら、私たちと同郷の方がいらっしゃるのですか?」

 

 2人の会話を聞きながら会場を見ていたオイチが驚きに思わず会話に参加する。

 

「あら。見ない服装だとは思っていたけれど貴方もヤマトの人間なの?」

「はい。私と、今は野暮用で別行動をしております従者のトラノスケはヤマト出身です。タツミ様とはそちらにいた時に面識がありまして、そのご縁でご一緒させていただいております」

「(従者がいるっていう事はやっぱりこちらで言う所の貴族階級の人って事ね)……こちらにはどうして? ライコーは『武者修行』って言ってたのだけど」

「それはそれは猛々しい方なのですね。私どもはタツミ様を追いかけてこちらに来ましたの」

「あらあら! そうなの!」

 

 見目麗しい2人の談笑を聞き流しながらタツミは、闘技場の最も高い内壁に設置された巨大時計を見る。

 大会予選が開始される午前10時は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

「ふぅ~~~、はぁ~~~~(大丈夫。タツミさんやトラノスケさんに教わった事をしっかりやればいいんだ)」

 

 周囲を油断なく見回しながら大会用に支給された刃引きの短剣2本を握る。

 幸運な事に武器の重さや刃の長さは普段使っている物と変わらない物だ。

 普段通りの戦いをする上での不都合はまったく無い。

 しかし武器が刃引きされているが故に一撃で急所を切り裂いて倒すという、彼にとってのいつもの戦法が使えないというのは痛手だった。

 とはいえ彼自身、純粋な人間相手にその戦法を使った事は未だに無いので仮に武器が刃引きされていなかったとしても使わなかった可能性の方が高い。

 

「(やりようは幾らでもある。乱戦の中に紛れてって言うのは僕の本領を存分に発揮できる状況なんだから)」

 

 目を閉じ、深呼吸をしてゆっくりと目を開く。

 程よい緊張感を維持したまま、彼は開始の合図を待った。

 

 

 

「ふむ。心地よい緊張感だ。やはり闘いとはこうでなくてはな」

 

 愛用の槍を肩に乗せながら、アーリは満足げに笑う。

 同じパーティのライコーとは会場に出て早々にお互いの健闘を祈りあって別れていた。

 パーティを組んでいる時は頼もしい味方ではあるが、今はたった一人の戦士として向き合う敵同士だ。

 予選がバトルロイヤルである以上、共闘も本選出場を目指す上で考えられる手段の一つではあるがこの2人はそれを良しとはしなかった。

 勝ち上がるなら己の力で。

 強くなりたいと願う2人だからこそ個人技で勝ち抜くことに拘ったのだ。

 

「とはいえやはりこのような大舞台にはドラードと共に出たかったな」

 

 唯一の不満は彼女の相棒である飛竜が参加出来なかった事だ。

 竜騎士にとって竜は己の半身も同然であり、闘いともなればよほど特殊でなければ共にあるのが当然の事なのだが、実質的な2対1となり公正さに欠けるという理由から連れての出場は禁止されてしまったのだ。

 同じ理由で魔物使いも使役している魔物を大会に持ち込むことは出来ない。

 それでも己の腕に自信がある者はアーリのように単身で参加しているのだが。

 

「新入りが勝ち残り、リーダーが予選落ちでしたではパーティとしても示しがつかんしな。まずは意地でも本選出場を勝ち取らせてもらおうか」

 

 気を取り直した彼女は心の底から楽しげに好戦的に笑いながら開始の合図を待った。

 

 

 

「色んなヤツがいるんだな」

 

 自身の周りで殺気立っている獣耳の獣人や翼を持った鳥人、鱗を持った竜人やドワーフたちを眺めながら彼女『ライコー』はぼそりと呟く。

 

「(ヤマトじゃ異種族は大体が魔物と同じ扱いだったが……こっちではこうして堂々と角を見せていられる。なんかすげぇな)」

 

 ヤマトでは基本的に異種族と人間は対立関係にあり、魔物による大陸全土の襲撃が行われてからはさらに悪化の一途を辿っていた。

 イエヤスが天下統一を為した今だからこそ、異種族も少しずつ受け入れられるようになったのだが。

 まだまだ全土への浸透には至らず、迫害は続いている。

 つい先日まで魔物と人間が全面戦争を行っていたのだから、それも当然だろう。

 彼女はそんな中にあって何の因果か鬼と人との間に生まれたハーフだった。

 いわゆる半妖という存在である。

 

 額にある一本角のせいで人の世に馴染む事が出来ず、人としての倫理観を持つ為に純潔の魔物のように人を襲う事も出来ず。

 苦しく辛い幼少期を過ごしてきた彼女にとってこの大陸の異種族に対する大らかさは衝撃的な物だった。

 パーティーを組んでいるアルカリュードの面々は彼女の内心など知らない。

 ライコー自身が自分の出自や境遇について深く語らなかったからだ。

 彼女らもライコーが聞いて欲しくないと思っている事を察しているので深く追求する事もなかった。

 

「(もっと早くあの大陸から出て行けば良かった、なんて今更言っても仕方ねぇんだけどな)」

 

 彼女は支給された手甲をなんとなく摩りながら握り込む。

 

「こんだけ種族が入り混じってる中に、一体どんだけ強いやつがいるんだろうなぁ。楽しみだ。本当に楽しみだ(ああ、お前もそうだよな、イフリート。せっかくの大舞台なんだ。派手に行こうじゃあないか)」

 

 ニヤリと獰猛に笑いながら昂ぶる気持ち、彼女の気持ちに呼応するように彼女の中にいる精霊の心まで昂ぶり始めていた。

 ライコーは開始の合図が出るその時を今か今かと待ち構えた。

 

 

 

 会場に設置された壇上に巨躯の男がゆっくりとした足取りで上がる。

 威風堂々と鬣にも似た髪を揺らす現段階でのチャンピオンが居並ぶ猛者たちを前にニヤリと笑った。

 

「堅苦しい挨拶は無しだ。観客も含めてルールは事前に聞いてると思うから改めて言う必要もねぇだろう」

 

 静かな語調でありながら、不思議な事に東京ドーム三つ分に匹敵する面積を持つ闘技場の隅々までその声はよく響いていた。

 

「とはいえ一応の最終確認だ。俺とミットガルドが前回大会の優勝と準優勝だからシードで2枠先に埋めさせてもらってるから本選に出場できるのは最大126人だ。それ以外は泣こうが喚こうがこの予選で脱落する。戦い抜いた人数が126人以下になった場合はその人数で本選をやる予定だからせいぜい悔いが残らねぇよう全力で戦え。さて……そろそろ開始の時間だ」

 

 大時計が時刻を刻む。

 長身が10を、短針が12を示すまで後30秒。

 闘技場内の緊張感が高まる。

 観客たちがその時が来るのを固唾を呑んで見守る。

 

「よっと!」

 

 壇上から跳躍したズィーラスは大時計の真上に降り立ち、闘技場を見下ろした。

 軽い掛け声とは裏腹に彼は50メートルはあるだろう高さへの跳躍は、彼らに王者の身体能力を見せ付けるには充分過ぎるパフォーマンスとなっただろう。

 そして短針が12を示すその時が訪れた

 

「予選、開始ぃいいいいいいい!!!」

 

 チャンピオンの雄叫びを合図に参加者が一斉にバトルロイヤルを開始した。

 同時に観客席にいたタツミには数百のダイスロールが行われるのが見える。

 結果は様々ではあったが、3から下の悪い数値を出した人間は開幕と同時に放たれた広範囲に影響を及ぼす魔法スキルやコマンドスキルの餌食となり開始早々に脱落していった。

 

「(いきなり派手な事になったな。キルシェットは……無事か)」

 

 彼はその運の悪い脱落者の中にキルシェットがいなかった事に心底ほっとしていた。

 

 

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