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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第五章
62/208

始まる異変

 辰道たちがこちらの世界に帰還してから早2日。

 調子を取り戻した辰道は、今日も変わらず仕事に従事していた。

 

「ん? これは……」

 

 職場での昼休み。

 通勤途中で買うだけ買って読んでいなかった新聞を読んでいたタツミは、ふとある記事に目を止めた。

 

「(○×公園で数十羽の烏が変死。烏はまるで何かに切断されており例外なく身体の一部が欠損。一部には死骸に焼かれた後があり、火をつけて放置した可能性が高い……、と。猟奇事件ってヤツか)」

 

 何の気なしに目を通す。

 

「(朝、ジョギングしていた男性が発見。公園の広場のあちこちに無造作に落ちていた烏の群れを見て110番した。見つけた人は災難だな、これ。周辺住人の証言から昨日の夕方まではこんな状態にはなっていなかった事から夜間に事が行われたと思われる。警察は事件として捜査を進めている、と)」

 

 写真などは貼っていなかったが、数十羽が一夜のうちに殺されたというのはやはり異常だ。

 

「(……少し、気になるな)」

 

 記事の事を頭の隅に置き、彼は次の記事へと目を通し始めた。

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 『ソレ』は活動を開始する。

 静かに動き出すソレは夜闇に紛れ形を持ち、何かを探すように歩き出す。

 

 ガシャリガシャリと動くたびに金属が擦れるような音を立てながら。

 薄黒い靄のような物を身体から噴き出させながら。

 

 その異様な気配に眠っていた木の上で眠っていた烏たちが、茂みで眠っていた野良猫たちが、虫たちが飛び起きる。

 暗闇の中、自分たちに迫る危機を本能で感じ取った動物たちは我先にと逃げ出していった。

 

 しかし。

 ソレはその手に握った『剣』を空に散っていく烏たちへと向け、一振りする。

 音もなく烏の群れの半数が地に落ちた。

 さらに一振り、今度は地面に対して水平に振るう。

 逃げ惑いソレの視界に入り込んでしまった不運な野良猫たちの身体が両断された。

 

 ボトボトと地面に落ちていく烏たち。

 ぐったりと倒れ、地面にその命を吸わせていく野良猫。

 いずれもが無残に切り裂かれ、例外なく絶命していた。

 そしてその命を刈り取られた者たちに向かってソレはもう一度剣を振るう。

 

 青白い炎を纏った一閃は、振り切った先にいた死骸を舐め尽した。

 その炎は、既に躯と成り果てた動物たちを蹂躙しやがて消えていく。

 揺らめく炎は静かに死骸を燃やし尽くし、灰へと変えていく。

 その様子を見た者がいれば本能的な恐怖で悲鳴を上げていただろう。

 動物たちを葬り去った者が悲鳴を上げるような暇を与えてくれるかはわからないが。

 

 月明かりに照らされ、下手人はその姿を露にする。

 銀色の甲冑が、月光を受けて鈍い輝きを放つ。

 兜によって頭はすっぽり隠され、鎧によって体の線も隠され、そして肉体が露出するはずの部位は黒い靄によって隠されている。

 西洋の騎士に見える『ソレ』は、自身が作り上げた惨劇の様子など興味がないとばかりに、その場をゆっくりとした足取りで去っていった。

 

 

 翌日、この惨劇はニュースに取り上げられ、新聞の一面を飾った。

 そして同様の事件はそれからも夜毎に休み無く引き起こされ、その全ては手口の一致から○×公園と同一犯と仮定され、連続猟奇事件とされる事になる。

 被害に遭っているのは動物のみ。

 それも烏と猫のみである事から、それらに恨みがある人間の犯行ではないかと推察されている。

 夜に室外で放し飼いにされていたインコや猫も惨殺されている事から夜間に外にいる動物のみをターゲットにしていると考えられている。

 

 

「……それは確かなのか?」

「ああ、事件現場に残り香みたいなもんがあった。ほんとうに僅かだったけどな。この件、瘴気が関わってると見てほぼ間違いないぞ」

 

 辰道が記事を見てさらに2日が経過した金曜日。

 週末の業務が終わり、帰宅した彼の元にタツミからこんな報告があった。

 

「連続猟奇事件に瘴気が関わっている、か」

「なんで動物ばかりを殺してるのかはよくわからんが、な。やられた動物を確認したが、あれはおそらく『斬空』か『真空波』、それに類する技でターゲットを八つ裂きにしてるぞ。燃やされてるのは色々考えられるからやったヤツのやり口を実際に見ないことには断定できないけど……おそらくこれもただの火付けじゃないな」

 

 ソファで寝転がっているタツミの報告を聞きながら、辰道は口元に手を当てて考え込む。

 

「(塔は、こっち側では生み出されたと思われる瘴気を吸い込む掃除機のような事しかしていなかったはず。ここに来て何か変化があったのか、それとも今回の件は塔とは別の要因なのか。……仮に塔が原因だとしたら、今までにない行動を起こしたその原因はなんだ?)」

 

 気になる事を頭で整理するものの、やはり明確な答えを出すには情報が足りない。

 辰道は手持ちの情報を整理するだけに留め、早々に思考を打ち切った。

 

「……明日は早めに動くぞ。まずは予定通り病院で空井さんに会って情報を聞く。新情報があれば良い、くらいの気持ちで行く。その後は猟奇事件の今までの現場を回ってみよう」

「了解。それじゃさっさと寝て明日に備えようぜ」

「一応、ゲームの掲示板を確認しておく。先に寝てて構わないぞ」

「そうか? あまり根を詰めすぎるなよ?」

「そんなに時間はかけないから大丈夫だ」

 

 寝転がったまま目を閉じるタツミを尻目に辰道はPCと向き合う。

 『The world of the fate』のゲーム画面を開き、ログインする。

 定期的にログインするようにはしているが、クエストやイベントにはめっきり参加しなくなっていた。

 今日もゲームその物はせず、ゲーム内の掲示板に画面を移す。

 

「(目ぼしい情報は……ん? 『最近、見かけるようになった黒い靄を纏う魔物について』?)」

 

 余りにもピンポイントな話題に辰道は反射的にその題名をクリック、詳細を確認し始めた。

 

「(……最近になって黒い靄を纏った魔物が出現するようになった。魔物その物の能力を強化する物で、レベルによっては雑魚敵がイベントボス並みに強化される。出始めた当初、公式サイトでは情報公開されていなかった為、バグだという噂も出たが最近になって公式情報が更新され、黒い靄についても追加された。新しいイベントの為の布石で詳細は伏せられているが『瘴気』という名前だという事がわかっている。……これは)」

 

 辰道はすぐに別のIEを開き、ゲームの公式サイトにアクセスする。

 世界観設定のページを開き、ある単語の中に『瘴気』という項目が見つかった。

 

「(『瘴気』……大陸各地で見られるようになった謎の現象。現在、確認されている範囲では、魔物に取り付くことでその凶暴性を飛躍的に高める効果を持つ。魔物の能力値に対し1.5~2.5倍の補正がかかる。補正値はランダム。……公式に存在が認められている、のか?)」

 

 情報の公開日時を確認する。

 辰道が今回、帰ってきた翌日だった。

 

「(名前まで同じ現象がゲームに反映されている? あっちでの経験がゲームのキャラクターに反映されている事も含めると、とても偶然では片付けられない)」

 

 ついでとばかりに更新されている他の情報に気になる物がないかを調べる。

 情報に目を通しながらも彼の思考は止まらない。

 

「(……だがどうやって調べる? 情報を集めるといっても個人じゃ限界がある。会社その物か一個人かはわからないが、このゲームに関係する人間はこの現象と何らかの関わりがある可能性が高い。その人物と接触できれば俺たちの状況を解決する手掛かりがわかるかも……。だが直接話し合う場を設けるような伝手なんて持ってないし、どう聞き出せばいいかもわからない。……頭が痛くなるばかりだな、ほんと)」

 

 思わず米神を押さえ、頭痛を堪える。

 辰道は眉間を揉み解しながら手に入れた情報を素早くメモし、PCを落とす。

 

「(明日も早い。気になる事は全部メモった。今日のところはここまでだな)」

 

 寝巻きに着替え、ベッドに潜り込む。

 あちらでの野宿の経験が活きているのか、眠ろうと集中するとすぐに辰道の意識は落ちていった。


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