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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
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キルシェットの決断

「何か起きるんじゃないかとは思っていたが……いきなり闘技大会チャンピオンと会うとは(昨日のルドガーさんといい、どうにも後々何か厄介事を持ってきそうな人物とばかり出遭う。作為的な物じゃない、と信じたいところだが)」

 

 幸先の悪い観光初日にタツミはテーブルに手を付いて顎を乗せた姿勢で盛大なため息を吐き出す。

 この街に入った時から彼は『何かあるかもしれない』と漠然と思っていたのだが、こうも予感が当たればため息の1つもつきたくなるだろう。

 注目から逃げるように闘技場前の広場を去ってからかれこれ20分。

 彼らは目に付いたカフェに入り、一息ついたところだ。

 武芸を嗜む血気盛んな者たちからの物騒な視線がなくなった事に、タツミは深く安堵する。

 せめてこの出会いが良い縁でありますように、と心中で祈った。

 信じる神がいるわけではないので、ただの気休めに過ぎないが。

 

「僕もびっくりしました。闘技場の近くですから見かけるかもとは思っていたんですけど、まさか話しかけてくるなんて……」

「どうも思った以上に俺たちの名前は広まってるらしい。まぁ俺の格好が特徴的なのとこれまでやってきた事が原因だから自業自得か」

 

 憂鬱そうに肩を落とす彼の様子に一同は苦笑いした。

 冒険者にとって顔が売れるという事は基本的に良い事に当たる。

 名前や顔が売れれば名指しの依頼を受ける事も増え、実入りは増していくからだ。

 無論、必ずしも良い事ばかりとも限らないがそんな物は有名税であると認識されている。

 よってタツミのように目立つ事を忌避する人間というのは同業者からは非常に奇妙に思われる物だ。

 

「俺や姫様もいますしね。ヤマトの服装はどうにもこっちじゃ馴染みが薄いようですし、目立つのは正直どうしようもないと思いますよ」

 

 オイチは緋色を主体にした色鮮やかな模様の着物、トラノスケは日本で修行僧が着ているような山伏の衣装に袈裟だ。

 このメンバーで唯一、冒険者として普通の服装をしているキルシェットですら異質な格好の仲間に囲まれている事で逆に目立ってしまっている。

 

「まぁ別に長期間滞在するわけじゃないんです。そこまで気にする事もないでしょう」

「そうですよ。あとは大会の見学くらいですし……」

 

 慰めの言葉を紡ぐオイチとキルシェット。

 

「いっその事、開き直って大会に出て優勝掻っ攫ってきます?」

「そこまで開き直れるなら楽なんだが……注目されるのはどうも苦手でな(あっちじゃ早々注目なんてされないからな)」

 

 からかい混じりのトラノスケの言葉にタツミは肩を落としながら首を横に振る。

 

「ヤマトでは異国人って事と新進気鋭のイエヤス様が自分から出向いてまで側近にしたって事でどうしようもないくらい目立ってましたよね。あの時も気まずそうにしてましたっけ」

「俺としては何もないところから成り行きに任せた結果で、まぁ不本意と言えば不本意だったんだよ。……さすがにそんな事をあの時の部下たちに言うわけにはいかないだろ」

「ははは、それは確かに」

「タツミさんはヤマトで国の騎士団長のような事をしていたんでしたよね!」

「いやそもそも俺が仕えたのが弱小国家で指揮を取る羽目になったのも寄せ集めの団体だったからお前が考えている騎士団のソレとは全然違うぞ?」

 

 キラキラと尊敬の眼差しを向けるキルシェットに、居心地悪そうに身じろぎしながら渋い顔をするタツミ。

 タツミが持っているヤマトでの記憶によれば、イエヤスに任された『部隊』というよりも集団には正規の軍人という存在は1人もいなかった。

 タツミが仕え始めた当時は弱小国の1つでしかなかった彼の国。

 上層部の一部を除いてそのほとんどが様々な理由を持つ志願兵のみで構成されていたその国、その部隊だからこそタツミという異国人であっても馴染むことが出来た。

 総勢30名の老若男女無関係の寄せ集め集団。

 それがタツミがいた最初の部隊で、彼が大将軍となって指揮する軍の母体だった。

 

「真っ当な集団じゃなかった。だからこそ一介の冒険者でしかなかった俺でもどうにかなったんだ。同じ頃に、こっちの騎士団や自警団やらに入隊したとしてもあっちでやったのと同じ事は出来なかったさ」

「皆様、とても頼れる方々でしたね」

「最低限の方針だけで好き勝手やってたのが不思議と上手く噛み合っただけだ。パーティとも呼べない連中だった。まぁ個人的には仲が良かったとは思うが、軍としてのまとまりって物はなかったな」

 

 最低限の規律だけを遵守し、後は上も下もない。

 規律を重んじ全員が一丸となってまとまる事を旨とする騎士団や軍隊よりも、同じ目的の為に協力し合うキャラバンなどに近い集団だった。

 普通の軍隊とは良い意味でも悪い意味でも一線を画した者たち。

 彼らとの日々は、タツミにとっては派手で煌めいた物だった。

 今までにないほどに人の死に触れ、仲間の死を見て、人を斬った。

 それらの苦しい記憶がとめどなく蘇り、しかし楽しかった記憶も思い出す。

 

「……まぁ充実はしていたんだろうな。無駄に苦労していた思い出が多いが。……ってなんでヤマトの思い出話になってるんだ? 話を戻すがとりあえず俺は大会に出る気なんてないぞ。目立つとか云々の前に、見るのはともかく出る事に興味がないからな」

「私は興味あるのですが……」

「姫様。ご本気なら俺はお止めしませんが……たぶん翁がぶち切れて大事になりますよ?」

「……残念です」

 

 物憂げに目を伏せてそっとため息をつくその様子は心の底から残念そうである。

 割と好戦的な性格である彼女を押し留める翁と呼ばれる人物がキルシェットは気になったが、なんとなく怖くなって疑問を口にはしなかった。

 

「あ、言っておきますが俺も出ませんよ。傍仕えである俺に地位や名誉なんて必要ないので」

「お前はそうだろうな。キルシェットはどうする?」

「えっ? 僕、ですか?」

 

 まさか自分に話が回ってくるとは思っていなかったのだろう。

 目をぱちくりしながら自分を指で示している。

 

「ああ。闘技大会、出てみるか?」

「え、ええ!? でもタツミさん、あまり長い滞在をするつもりはないんじゃ?」

「誰も大会に出ないなら長期滞在する意味はないからな。誰かが出るなら当然延ばすさ。幸い安くて質の良い宿が取れて金には余裕も出来た。それに前に言ったと思うが急ぐ旅でもない」

「で、でも僕はまだまだ弱いですし……」

「もちろん無理に、とは言わない。ただ物は試しって言葉もある。今自分がどれくらい強くなったか。こういう機会に試してみるのもいいんじゃないか?」

 

 事実として青い兜にいた頃から、キルシェットは格段に腕を上げている。

 盗賊として必要なスキル、取得可能なスキルはタツミの溜め込んでいた書物から学び、クエストを受けることで実戦でもって使い方を身体に叩き込んできた。

 仮に同じレベルで同じ種族且つ同じ職業の人間と戦ったとしても、勝利する事が出来るだろう程に能力面もスキル面も成長している。

 

「なるほど。普段の鍛錬などはタツミ様やトラノスケとばかりですものね」

 

 しかし如何せんタツミやトラノスケ、オイチが強すぎる為にキルシェット自身は自分の力を正しく把握できていなかった。

 強くなっている事は彼自身わかっている。

 しかしそれが具体的にどの程度なのかまではわからないのだ。

 この大会は自身の強さを線引きするという意味で、彼にとって有用な物と言えた。

 

「ここは他の方の胸を借りるつもりで、それくらいの気持ちで出てみてはどうかしら?」

「ま、自信が付けられるかそれとも自信を失う事になるのか。それはお前の頑張り次第だけどな」

 

 オイチとトラノスケの言葉にキルシェットは混乱しながらも考え出す。

 

「(えっと、えっとぉ……!? ……ど、どうしよう)」

 

 自分はどうしたいのか、という事を。

 唸り声を上げながら悩む少年の結論を3人は静かに待った。

 

「(でも、僕が出て負けたら同じパーティのタツミさんたちまで軽く見られちゃうんじゃ? ……そ、そんなの!! ……でも)」

 

 キルシェットは考え込みながら、ふとオイチに視線を向ける。

 柔らかな微笑をキルシェットに向けられていた。

 気恥ずかしくなって彼はトラノスケに視線を移す。

 悩んでいるキルシェットを楽しげに見つめている目と目が合った。

 しかし瞳の奥で真摯な物である事を読み取り、彼はなんとなく頭を下げる。

 

 最後に彼が最も尊敬する冒険者であるタツミに視線を向ける。

 タツミは静かにキルシェットを見つめていた。

 答えを急かすわけでも、強制するわけでもなく、ただ彼が出す結論を待つ。

 その姿を見て、向けられる視線に気付いて、キルシェットは自分が落ち着いている事に気がついた。

 話を振られた時の混乱は今はない。

 自分が大会に対してどんな気持ちを抱いているかだけが彼の中にあった。

 

「僕は……」

 

 こうして彼らは滞在期間を一週間から一ヶ月に延ばす事になる。

 

 

 

 彼は目を覚ます。

 いつもの光景が周囲に広がっている事を確認し、頭を掻く。

 困惑しながらも、ベットから起き上がり部屋のカーテンを勢いよく開け放つ。

 窓の外の風景を見て、彼は今の状況を認識し思わず呟いた。

 

「このタイミングで戻ってくるのかよ……」

『まったくだ。これは俺も驚いたわ』

 

 いつの間にかベットに座っていたタツミの言葉に、辰道は同意するように頷いた。

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