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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
54/208

青い兜との一時

 応接室を出たその足でギルドを後にしようとした彼らは、ちょうどギルドに入ってきた『青い兜』の面々とばったり出くわしていた。

 

「おお、タツミにキルシェット! 少し振りだな!」

 

 2人の姿に最初に声を上げたのはゴダだ。

 

「ゴダさん! ギースさんに、リドラさん、フィリーさんも!!」

 

 最初に反応したのはついこの間まで同じパーティだったキルシェットだった。

 表情を輝かせる笑顔を浮かべ4人の下へと駆け寄っていく彼の姿は、その犬耳も相まってとても可愛らしい。

 

「おう。フィリーから一応聞いてたが元気そうで何よりだ」

「本当に。キル君の元気な姿が見れてほっとしましたよ」

「俺は別に心配してなかったけどな! お前ならしっかりやってるって信じてたからよ!」

「うふふ、素直に心配したって言えばいいじゃない」

 

 ギースとゴダがごつごつとした掌で駆け寄ってきたキルシェットの頭をくしゃくしゃと撫で回す。

 リドラとフィリーも彼の横で優しい笑みを浮かべていた。

 

「タツミ様、彼らが前にお話してくださったキル君の?」

「ああ、同郷の元パーティメンバーだ。フィリーさんの事はもう知っているだろう? あっちが落ち着いたら他のメンバーも紹介するよ」

「はい、お願いします」

 

 キルシェットを取り囲む青い兜の変わらぬ様子にタツミの口元も自然と釣り上がる。

 オイチも微笑ましげに5人の様子を見つめていた。

 しばらくするとキルシェットの興奮が収まり、ゴダたちも彼への可愛がりを一段落させてタツミたちに意識を向ける。

 

「改めて……少し振りだな。タツミ。そっちのお嬢ちゃんがフィリーが話してた……」

「オイチと申します。以後お見知りおきを」

 

 竜の顔をしたゴダと強面のギースを目の前にして、怯える事も気圧される事も無く優雅な一礼と共に名乗るオイチ。

 

「おう、俺はゴダってんだ。見ての通りのドラッケンで戦士だ」

「俺はギース。剣士でこの『青い兜』のリーダーをやってる。で、こっちの優男が」

「リドラと申します。医師として彼らの手助けをしています」

「はい、よろしくお願いします」

 

 一人一人に会釈する彼女の丁寧な行動に、ゴダとギースが戸惑って頬を掻く。

 ここまで丁寧な物腰の人間と接する事がない為か、やり辛そうだ。

 助けを求めるようにタツミに視線を向ける。

 タツミは肩を竦めながらオイチに声をかけた。

 

「オイチ、そう畏まった挨拶じゃなくてもいいんだぞ?」

「あら? これはこれは申し訳ありません、つい癖で。それでは皆様、改めまして以後よろしくお願いいたします」

 

 これで最後と、彼女は微笑みを讃えながら深々と頭を下げる。

 

「フィリーさんから聞いていましたが、丁寧な物腰の方なのですね。それにその所作もまるで川が下流に流れるように自然で無駄が無い。一目で教養が高いとわかりますよ」

「ふふ、そんな大層な物ではございませんわ、リドラ様」

 

 非常に慇懃なやり取りを交す2人に、気圧されたように距離を取るゴダとギース。

 なんとも言い難い表情をする彼らにタツミは疑問を抱いた。

 

「(依頼人には貴族とかもいるだろうになんでこんなに)」

 

 クエストの依頼者は様々だ。

 立場のある人間が依頼を出す事は多いし、貴族や身分を隠した王族が戯れに依頼を出す事もある。

 Bランクともなればその辺りの人種の依頼もこなしているはずだ。

 

「(……もしかして全部ギルドを間に挟むか、直接のやり取りをフィリーさんかリドラさんに任せっきりだったんじゃ?)」

 

 オイチと話を続けているリドラを見つめ、次にフィリーに視線を向ける。

 目を合わせて彼女はタツミが何を考えているのか察したのか、苦笑いしながら頷いた。

 

「(ああ、やっぱりそうなのか。しょうがない人たちだなぁ)」

 

 ゴダもギースも、年齢の割に子供っぽい所がある事はタツミ自身、濃厚な時間を共に過ごしてそれなりに見知っている。

 

「(それにしても堅い会話一つでここまで拒絶反応を起こすとは。これは流石に駄目だろう)」

 

 彼は駄目な大人2人を呆れた目で見つめると、キルシェットに視線を移す。

 2人のこの様子は日常茶飯事なのか、鏡写しと言っても過言ではないほどフィリーの浮かべている物とそっくりな苦笑いを浮かべていた。

 

「(なるほど。キルシェットにとってゴダさんとギースさんは尊敬する先輩であると同時に、駄目な所を知る為の反面教師でもあったんだな。どーりで年に似合わない丁寧な態度が染み付いてるわけだ)」

 

 あまり知りたくなかった青い兜の内部事情を知ってしまい、タツミは微妙な顔をしながら話し込んでいたり、距離を取っていたり、苦笑いしていたりと中々にまとまりのない面々に提案する。

 

「立ち話もなんです。そちらの都合が良ければどこかの店に入りませんか?」

「そうね。せっかく皆で一緒に再会できたんですもの。腰をすえてゆっくり話がしたいわ」

 

 真っ先に賛同したフィリーに続いて他の人間も賛同する。

 しかし青い兜の面々は依頼の完遂報告がある為、待ち合わせ場所を決めてその場はお開きとなった。

 

 

 

 あれから少し時間が経った昼飯時。

 がやがやと騒がしいレストランの一角に彼らは集まっていた。

 総勢七人のうち体格が大きい者が4人も揃うと威圧感だけでも相当の物だ。

 荒くれ者が多いガレスと言えど、彼らのグループはかなり目立っている。

 おまけに彼らのテーブルには所狭しと料理皿が並べられている事から、かなり羽振りが良い事がわかる。

 彼らを見つめる視線の中には、好奇心からくる物や女性2人への下卑た物など多種多様だ。

 良い意味でも悪い意味でも彼らは目立ってしまっている。

 

「不快な視線を感じます……」

「そういう視線は極力無視するに限るわ。そうでなければ上手く男連中を使って視線避けにするとか……」

「それなら俺と席を替わって店の壁側に寄ればいい。他の席からは俺が壁になるから視線も減るはずだ」

「……申し訳ありませんがお願いできますか? タツミ様」

「言い出したのは俺だ。気にするな」

 

 タツミは自身の大柄な体格を利用し、オイチと彼女に向けられる視線の間を遮るように座り直した。

 申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しそうに礼を言うオイチ。

 

 2人の様子を微笑ましげに、あるいはニヤニヤとしながら眺める青い兜の面々。

 からかうような3人の眼差しにタツミはため息を零しながら目を細めて睨みつける。

 

「……なんですか、その目は」

 

 少しばかり大人げない殺気が込められたその視線は、一般人なら腰を抜かすような代物だ。

 だが青い兜は曲がりなりにもBランクの冒険者パーティで、短い間とはいえタツミと共に仕事をこなしている。

 この程度の殺気には慣れてしまっているが故に、暖簾に腕押しである。

 

「いやぁ色気のある話なんて無さそうだったタツミにもちゃんとそーいう相手がいるんだなと思って」

「安心したっていうか、な?」

「ふふ、そうね」

「いえいえ、私とタツミ様はそのような関係ではありませんよ?」

 

 何でもない風に彼らの言葉を否定するオイチだったがその頬は薄く赤色に染まっている。

 本人に自覚はないようだが、タツミとの仲を邪推されて照れているようだ。

 彼女の反応でますますタツミをからかい出すゴダとギース、フィリー。

 タツミは助けを求めるようにこの会話に参加していないキルシェットたちに視線を向ける。

 

「それでですね。昨日は魔物退治のクエストでルプト沼に行ってきたんです」

「ほう、あそこは見通しの悪い深い森。魔物の探索はさぞ大変だったんでしょうね」

 

 キルシェットはリドラに今回のクエストについて差しさわりのない部分を語っていた。

 リドラが聞き手に徹している為か、彼は話すのに熱中しておりタツミの助けを求める視線には気付いていない。

 

「(はぁ……まぁ偶にはこういうのもいいか)」

 

 助けを諦めたタツミはどうやって絡んでくる良い大人連中を宥めすかすかを考え始める。

 彼らの話の種は尽きる事が無く、日が暮れレストランが酒を出し始めても席を経つ事はなかった。

 そのまま酒宴に突入。

 フィリーを除いて青い兜の面々は全員酔い潰れたしまった。

 タツミもしこたま飲まされた物のスキルの効果もあって彼が酔い潰れる事はなく、大柄な男と竜人族を背負って宿まで運ぶ事になった。

 リドラはキルシェットとフィリーが肩を貸しながら運び、オイチはタツミの背中からずり落ちそうになるゴダとギースを後ろから支えながら宿まで同行している。

 

「(騒がしかったが、まぁ楽しかったし良しとするか)」

 

 背中で暢気に寝入っている駄目大人2人の酒臭い息から気を逸らしながら、彼らは青い兜の泊まっている宿へと歩いていった。

 

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