表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
49/208

鍛冶士ガルバの提案

 元盗賊ギルド員の襲撃を片付けたガルバはタツミたちに名乗った。

 返礼としてタツミたちが自己紹介をすると彼は真剣な面持ちで話があると切り出す。

 腰を据えて話したいと言うタツミの半分ほどの背丈しかない彼は短く切り揃えられた赤銅色の髪を揺らしながら歩く彼の後ろに続く事、5分程度。

 到着したその場所はガレス内で店が立ち並ぶ商店街の次に活気のある工房街と呼ばれる場所だった。

 武器、防具、細工品を造る者たちが集まるその場所は独特の雰囲気がある。

 そんな場所の一角にある石造りの家に2人は招かれていた。

 差し出された椅子に座り、彼らに対面するようにガルバはどっかりと座る。

 

「まずは俺の突然の申し出にも関わらずここまで付いてきてくれた事に礼を言う」

「気にしなくていいですよ。助けられましたし」

「ありゃ俺が首突っ込んだだけだ。お前さんらならあんな連中、文字通りの意味で一捻りだったろうが」

「(まぁその通りなんだが……それにこの人が乱入してきたのも俺たちと関わる切っ掛けを作りたかったからって話で純粋な人助けってわけじゃないってわかってるし)」

 

 ギルド内で特に強く感じた視線の主が目の前にいる人物である事にもタツミは気がついていた。

 ずっとタツミたちの様子を窺い、話しかけるタイミングを計っていたのだ。

 つまるところそれは彼があの場で駆けつけてきたのは偶然ではないという事を示している。

 とはいえ盗賊ギルドの人間たちを嗾けたのがガルバだとは彼も考えてはいない。

 ドワーフは種族の性質として実直且つ頑固者、出世欲などよりも己の矜持を優先する根っからの職人気質だ。

 そんな彼らがわざわざ小細工を弄するとは考え難い。

 もっとも何事にも例外がある以上、タツミも、そして種族の性質など知らないオイチも、最小限の警戒は解いていないのだが。

 

「工房がそんなに珍しいかい、お嬢ちゃん」

「お恥ずかしながら、今まで工房その物に出入りした事がないもので。物珍しさについ視線を右往左往させてしまいました。お気に障ったのでしたら申し訳ありません」

「グハハハハ、良いって事よ。見られて困るようなもんはなんもないからなぁ」

 

 豪気な笑い声がドーム上の工房内に木霊する。

 隠すものなど何もないと豪語する彼の態度に、タツミは肩の力を抜いていった。

 

「(大丈夫そう、だな。少なくともここに招いて俺たちに危害を加えようってわけじゃなさそうだ)」

 

 オイチも含みの無いガルバの態度に、警戒心を緩めている。

 

「さてっと。前置きはこれくらいにして本題に入るぜ」

 

 どっかりと椅子に座ったまま両膝に手を置き、2人を見つめるガルバ。

 真剣な表情を浮かべる彼に合わせるようにタツミたちも姿勢を正して彼に向き合った。

 

「事件のあらましはギルド長から聞いてる。あんたらのお蔭で俺たちは長年過ごしてきたこの街を失わずに済んだ。この街を守ってくれてありがとう」

「……感謝の言葉、確かに受け取りました(そういう用件か。勘繰って変に警戒していたのが馬鹿みたいだな)」

 

 深々と頭を下げる彼に、応えながらタツミは内心で警戒していた事を自嘲する。

 

「情けない話だが、俺ともう1人のAランクは虫使いとやらの陽動に引っかかって街にいなかったんだ。あんたらがいなかったらこの慌しい街が、俺が愛してるこの街が、別物になっていたかもしれん。いや……正直、虫使いみたいな搦め手を使う奴だと仮に俺が残っていたとしても遅れを取ったかもしれねぇな」

 

 悔しげな彼の言葉通り、ドワーフという種族は魔法や状態異常への耐性は低い。

 虫の直接攻撃には耐えられても、精神を蝕む超音波や僅かな傷から流入する毒による様々な状態異常には耐えられないのだ。

 気付かぬうちに虫に操られていたという事も十分にありえる話。

 その事を彼自身がよくわかっていた。

 

「本当に、あんたらには助けられた。これは借りだ、とてつもなくデカイな」

「そこまで重く捉えられるとこっちも困るんですが……」

 

 重々しく告げるガルバの言葉に、困惑した様子を隠そうともせずに素で答えるタツミ。

 そんな彼を横に座っていたオイチが諌めた。

 

「タツミ様。この方の気持ちを否定するようなことを言ってはいけません。ガルバ様にとってこの街を救ったという事実はとても重要な事なのですから。たとえ謙遜であっても感謝の言葉を否定する事は、その気持ちを否定する事になってしまいます」

 

 咎めるように細められた瞳に見つめられ、タツミは小さくため息を零す。

 

「すまなかった。ガルバさんもすみません」

「ガハハハハ! いやいや俺としちゃそこまで真剣に取り合ってもらえてありがたかったぜ。お嬢ちゃんもありがとうよ」

「いいえ、こちらこそ差し出がましい真似をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 静々と頭を下げるオイチに、ガルバはまたしても大笑いした。

 

「ここじゃ見ねぇ空気のお嬢さんだな。男を立てながらそれでも自分の主張を曲げねぇとは。大した肝っ玉だ。パーティ入らずが組むだけの事はあるな!!」

「うふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」

「はぁ……それで? お礼の言葉は受け取りましたが、他にも何か話があるんでしょう?」

 

 横道にそれかけた話の軌道を無理やり引き戻す。

 するとガルバは「そうだったそうだった」と自分の膝をバシバシ叩きながら話を戻す。

 

「この街で暮らす人間としての用件は終わった。こっからはドワーフの鍛冶師としての用件だ」

 

 前置きして彼はタツミを、正確には彼が付けている甲冑に視線を向けた。

 

「その鎧、ガタが来てるぞ。ちゃんと手入れしてるか?」

「あ~、そういえばこっちに戻ってきてからまったく」

 

 彼の言葉にガルバは目をかっと見開き、大声を上げた。

 

「やっぱりかぁ! お前、命預ける相方ぐらいしっかり手入れしろ! いいか! 武器にも防具にも持ち手に答える意思があってだな!! ……」

 

 それから30分。

 ガルバの武器、防具への熱い想いが語られた。

 聞いている2人の態度は実に対照的で、タツミはげっそりしながら、オイチは目を輝かせながら彼の話を聞いていた。

 タツミにとって武器防具という物は冒険者という仕事をする上で必要な物であるという認識が強い。

 使えなくなったなら取り替えられる物については取り替えればいいという風に考えている為、ガルバの武器防具を相棒と呼ぶ感性がイマイチわからなかった。

 長年、使っていれば愛着は沸くし大切に扱いもする。

 しかしそれでも壊れればそれまで。

 あちら側の世界での感性と相まって、タツミの基本的な考え方はドワーフから見ればかなりドライな物なのである。

 

「ふぅ……。悪い、熱く語り過ぎた。どうも装備品の事となると熱くなってなぁ。考え方は千差万別だってわかっちゃいるんだが……」

 

 面目なさそうに頭を掻き、先ほどまでの罵倒交じりの熱い想いの発露はどこへ行ったのかしゅんとした様子で頭を下げる。

 種族の差もあって相当な年上であるはずだと言うのに、その所作にはどこか幼さが感じられてタツミはなんと言っていいか迷い頬を掻く。

 

「いえ、ドワーフ族の鍛冶に対する情熱は知っていましたから。俺のほうこそもう少し考えて答えるべきでした。申し訳ない」

 

 当たり障りの無いフォローを入れて頭を下げる。

 

「いや俺の押し付けがましい意見でお前さんの気分を害したのは事実だ。非は俺にある」

「いえいえ俺の方にも問題がありましたから」

 

 大の男2人がお互いを慮る余りに女々しいやり取りをしていると、状況の推移を見守っていたオイチが両手をパンと打ち鳴らした。

 

「また話がずれてしまっております。互いに相手の意思を尊重するお気持ちがあるという事なればそれ以上は不毛ではありませんか?」

 

 頭の下げあいに発展しかけた事態を諌め、ガルバに先を促す彼女に2人は申し合わせたかのように同時に頷く。

 

「ごほん。えー、それで鍛冶師としての俺の用件なんだが……お前の鎧と武器、俺に修理させてくれないか?」

「……理由を聞かせてくれませんか?」

「まぁ当然そこは気になるよな。……鍛冶屋としてあの珍しい装飾、形状をした鎧に触れたいってのが1つ、目に見える形で借りの一部を返したいってのが1つ。俺はガレスじゃ一番の腕利きだ。本業もこっちだしな。ガタが来てるその装備を新品同様に仕上げて見せる。……どうだ? 俺に預けてくれないか?」

「……」

 

 真摯に熱い想いを言葉にし、まっすぐにタツミを見据えるガルバ。

 見た目の幼さなど問題にしない熟練の職人の気迫が篭ったその視線をタツミは真っ向から受け止める。

 考え込む時間はそれほど長くはなかった。

 信頼できる、と無条件に思わせるだけの意志が目の前のドワーフから感じ取れたからだ。

 

「どのくらいで出来ますか?」

「! ああ! 初めて扱う装備だから慎重に作業して……そうだな、一週間くれるか? それでこいつらを生まれ変わらせてみせるぜ!」「……(それくらいなら少し滞在期間を延ばせば問題ないな)わかりました、俺の相棒たちを貴方に預けます」

「おう! 任せろ!!」

 

 自分の胸当てを力強く叩き、自信に満ちた笑みを浮かべるガルバ。

 その笑みに釣られるようにタツミは微笑み、さっそくとばかりにオイチを工房の隣室に行かせてから鎧を脱ぎ始める。

 

「ガハハハハッ! なかなか思い切りがいいじゃねぇか! とはいえ代わりの鎧もないのにいきなり預けていいのか?」

「構いませんよ。鎧の修理が終わるまでの間くらいなら。他の装備で代用出来ます。これでも色々と引き出しはありますからね(虫使いとの戦いで使った瞬間的に職業を入れ替えての連続攻撃。あんな感じの……ゲームシステムもこの世界の常識も超えた戦い方が出来るようになれれば……)」

「ま、手札は幾つ持ってても損はねぇからな」

「まぁ俺の事は心配無用という事です。だから預けた物は完璧に仕上げてください」

「二度も三度も言わせんな。お前を唸らせる出来に仕上げてやるよ!!」

 

 さっそくとばかりに刀と鎧の検分を始めるガルバに別れを告げ、隣室で待機していたオイチを伴ってタツミは彼の工房を後にした。

 きっと最高の状態になって返ってくると、意味も無く確信しながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ