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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
48/208

ガレスのAランク冒険者

 結論から言えばタツミの体調は3日の様子見期間を経て問題なしと判断された。

 1週間少しの間、ほとんど身体を動かさなかった事から運動能力が下がっているが、この世界の常識で言えば、2、3件の軽いクエストをこなせば勘を取り戻せる程度の物だ。

 許容範囲と言っていいだろう。

 

 そしてギルド所属の医師やフィリーからの太鼓判をもらったタツミはオイチと連れ立って街に繰り出す事にした。

 リハビリとして出歩きたかったという事もあるが、虫使いの1件から一週間少しが経過した街の様子が気になったという理由もある。

 余談だが彼らは既に病院を出て、適当な宿を取ってそこに移動している。

 健常である事が証明された以上、いつまでも病院のベッドを占領するわけにはいかないと判断したのだ。

 

 

 2人が最初に向かったのは東国の監視所だ。

 軍服を着た人間、白銀甲冑に身を包んだ人間、おそらく破損箇所の修復に派遣されてきたのだろう大工が出入りしている。

 傍目から見ても出入りの様子は慌しく、外からもなんとはなしに視線を向けている人間も多い。

 

「虫使いの犠牲者の埋葬先が知りたかったんだが……」

 

 話を聞いてくれそうな関係者を探すタツミの脳裏にダイスが舞った。

 結果は『3』。

 渋い顔をしながら周囲を見回し、最低限の警戒をするが何も起こらない。

 訝しげにしているタツミの横でオイチが呟いた。

 

「忙しそうですね」

「……出直すか(今回は話せる人間が見つからない事が今回のペナルティか? 地味に腹が立つ効果だな)」

 

 ダイスの効力にタツミは幸先の悪さを感じて思わずため息をついた。

 

 

 次に彼らが訪れたのは南国の監視所。

 こちらは虫使いとの闘いの痕跡が色濃く残っていた。

 監視所は外から見てもすぐにわかるほどに破損しており、職人の出入りも東国監視所と比べて桁違いに多い。

 

「やっぱりボロボロだな」

「酷い物ですね。近隣の民家やお店にも被害が出ているようです」

「……こっちも人は捕まらなそうだな。行こう(躊躇って殺されるわけにはいかなかったととはいえ、自分のやった事で出た被害を『仕方ない』って言葉だけで済ませるわけにはいかないな。後で復興作業を手伝おう)」

「はい」

 

 大通りに沿って街の中を歩く。

 2人の目には、つい先日まで兵士に行動を制限され鬱憤を晴らすように商売に精を出す商人たちと、ここぞとばかりに買い物に勤しむ住人たちの姿が映っている。

 

「逞しいもんだな」

「国は民がいなければ成り立ちませんが、民は国が無くとも生きていけます。たとえ国による統制が無くなり混乱しようとも。図太くそして逞しく生きていく事は出来ます」

「実感が篭っているな」

「うふふ、家の当主を討たれ、市井に身を隠してその性質を身を持って知る機会を得ましたので」

「そんなにあっさり重い身の上を語らないでくれ。どう反応していいかわからなくなる」

「過去の事ですのでお気になさらず。多少の不自由など自由の身である事の代価だと思えばなんという事もありませんわ」

 

 鈴を鳴らすようなコロコロとした笑い声を上げるオイチ。

 過去の事をまったく気にしていないその豪胆な態度に、気を遣おうとした自分が馬鹿らしくなったのかタツミはため息をつく。

 そんな彼を窺いながら、彼女はさらに笑みを深めた。

 

 威勢の良い呼び声と香しい匂いに釣られ、2人は屋台を巡る。

 

「とても美味しいですね」

「そうだな。とはいえ長い間、寝ていたから肉は少しキツイ」

「あら。それは申し訳ありません。こちらのぱんをどうぞ」

「ありがとうな」

「いえいえ」

 

 屋台で買った焼き鳥やパンに舌鼓を打ちながら歩く楽しげな様子は周囲から見ればデートをしているようにしか見えなかった。

 

 

 彼らが寄り道をしながら最後に訪れたのはガレスのギルドだ。

 何故最後にしたのかと言えば、長居する事になるだろうと予測したからに過ぎない。

 虫使いの一件においてその渦中にありながら、唯一建物に被害は見られない。

 少なくとも外から見える部分には被害らしい被害は無いようだ。

 抵抗する間もなく制圧されたお蔭と言える。

 修繕する人間がいない分、監視所に比べると人の動きも疎らだ。

 

 2人はギルド内に足を踏み入れる。

 入ってくる人間に気付いた冒険者たちの視線が2人に突き刺さる。

 探るような視線、好奇の視線。

 外を出歩いている時にも感じた視線がさらに不躾になって自分たちに叩きつけられている事に2人は気づいていた。

 

「……」

 

 視線の強さに思わずタツミの顔が険しくなる。

 

「なにやら注目されているようですね」

「そうだな(オイチが美人だから見ているってのは……ないな。ほとんど俺を見てる)」

 

 オイチは視線に動じた様子もなく、感情を荒立てる素振りも見せなかった。

 その図太さを羨ましいと思いつつ、彼は視線の元を確認するような真似はせず真っ直ぐに事務系の受付カウンターへ向かう。

 

「Aランク冒険者のタツミです。こちらがカードですのでご確認をお願いします」

「あ、はい!」

 

 冒険者たちと同じように彼らを好奇の視線で見ていた受付の女性が慌てて姿勢を正し応対する。

 差し出されたカードに素早く目を通すと、彼女はカードをタツミに返した。

 

「確認いたしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ギルド長とお話がしたいのですが、今お手すきでしょうか?」

「申し訳ありません。本日は街の警備体制についての会議をする為に外出しております」

 

 本当に申し訳なさそうに頭を下げてギルド長であるマルドの不在を告げる女性。

 タツミは少しだけ考え込むと彼女に頼みごとをする事にした。

 

「でしたら伝言をお願いします」

「はい、わかりました。でしたら伝言の内容をこちらにお書きください」

 

 差し出される羽根ペンと紙に手早く伝えたいことを書き込み、2つ折りにした紙を女性に渡す。

 女性は受け取った紙を丁寧な動作で封筒に入れると受付机の引き出しに仕舞い込む。

 

「ご伝言、確かにお預かりしました」

「ありがとうございます。それでは」

「ありがとうございました」

 

 一礼して受付を離れ、その足で依頼掲示板へ向かう。

 

「ついでだ。リハビリがてら何か軽い依頼を受けていくか?」

「……あまり無茶な事はなさらないでください。勿論、私もお供させていただきます」

 

 オイチを伴って依頼が書かれた紙が張られている掲示板に向かう。

 自分たちの元に近づいてくるAランク冒険者に、掲示板を見ていた冒険者たちがざわめき出した。

 

「あいつらの会話、聞こえたか? あいつ、Aランクらしいぜ?」

「ああ、聞こえた。あの見慣れない鎧。ついこの前、フォゲッタで起きた事件を解決した奴だな」

「ああ、あのパーティ入らずのタツミか。2年だか3年だか音信不通だったってのに最近になってまた名が売れ出したって話だったな」 

 声を潜められても、タツミ自身に聞く気がなくとも聞き取れてしまう高性能な耳を今この時だけ疎みながら彼はそれらを雑音として無視し、依頼紙の数々をを見つめる。

 

「キルシェットも参加できる依頼にしないとな」

「今日で今受けている依頼が完了するという話でしたし、丁度良かったですね」

 

 慣れた手つきで幾つかの依頼を見繕い、オイチと相談しながらさらに絞り込む。

 最終的に残った用紙のピンを外し、依頼用紙を手にクエスト依頼の受付へと向かう。

 

 事務系の受付は女性だったがこちらの受付は屈強な男性だった。

 冒険者には無骨で気性のな者も多い。

 そんな荒くれ者たちを相手取るには、ある程度の実力を持ち気圧される事の無い気骨のある者でなければ務まらないのだ。

 

「このクエストをお願いします」

「はい。少々お待ちください」

 

 初めてクエストを受ける人間は大抵、見た目に反した丁寧な物腰のギャップに戸惑う。

 タツミの記憶を持っていなければ彼も困惑していただろう。

 淡々と作業する彼の手元を見つめながら、タツミは背後からの強い視線をあえて無視し続ける。

 

「お待たせしました。Bランククエスト『ルプト沼の泥人形退治』、期限は3日です。ご武運を」

「はい、手続きありがとうございました」

「また依頼完了後にお会いしましょう」

「はい」

 

 穏やかなやり取りを終え、強面の男性受付と笑みを交し合い、彼らはギルドを後にした。

 

「さて……とりあえずは宿に戻ろう。キルシェットを待って受けた依頼について打ち合わせだ」

「はい」

 

 2人は宿に向かって歩き出し、路地に入った所で足を止める事になる。

 彼らの行く手を遮るように数人の男女が現れたからだ。

 

「……何か用か?」

「お前のせいで仕事にあぶれたんだよ、俺たちは」

「俺のせい? ……ああ、盗賊ギルドの連中か、お前たちは」

 

 虫使いの一件によって盗賊ギルドは穏健派を除いて壊滅的な被害を受けた。

 頭目は虫に食われ、身体を使われ、傍にいた側近たちは操られ、その指示に従って動いていた末端の者たちはそのほとんどが捕らえられた。

 逃げおおせた者たちは散り散りになり、ガレスを裏で支えていたとすら言われていたその組織力ももはや無い。

 そうなった原因は虫使いで間違いないが、あの男の存在は脅威であり必要以上に民を怯えさせるとしてギルドや国が秘匿していた。

 故に彼らは犯人が誰であるかを知らず、あの事件を解決したとされるタツミたちに目をつけたのだ。

 

「わかってるなら話は早い。お前のせいで今や俺たちはバラバラ、何も出来やしない」

「お前のせいで私たちの生活がぶっ壊されちまったんだ! 報復は当然の事!」

 

 武器を抜く彼らを見つめながら、タツミはさりげなく腰を落とし拳を握り込む。

 

「すかしてんじゃねぇぞ、てめぇ!!」

「そっちの女は俺たちが可愛がってやるからお前は安心して死んでくれよ」

「ああ、そっちは上玉だもんなぁ。見慣れない服といい高く売れるぜ」

 

 下卑た視線に晒されながら、オイチは口元を裾で覆いながら微笑む。

 しかし親しい人間であればその笑みが、怒りを内包した恐ろしい物である事に気づくだろう。

 トラノスケや従者たちがこの場にいたら、逃げ出していたかもしれない。

 勿論、タツミにもその笑みの質が理解できていた。

 

「やめろとは言わないが……周りに被害を出さないようにしてくれ」

「心得ております。お任せください」

 

 心強い言葉に苦笑いしながら、タツミは男たちに告げる。

 

「あいにくとこっちにも都合があるんでな。面倒ではあるが、叩き潰させてもらう」

「け、くそがっ! 舐めてんじゃねぇぞおおお!!」

 

 リーダー格らしい男の叫び声を合図に盗賊ギルドの元構成員たちは一斉に飛び掛かる。

 それと同時に。

 タツミたちの背後から小柄な影が飛び出した。

 

「なに!?」

 

 驚きに声を上げたのは誰だったか。

 次の瞬間、構成員たちは例外なく地面にめり込む事になった。

 小柄な影は男だった。

 焼けた肌に膨らんだ筋肉。

 しかしその上背は子供と見間違えるほど小さい。

 一般的にドワーフと呼ばれる種族だ。

 その手には自身を隠してしまえるほど巨大な槌があり、それを使ってならず者たちを地面に叩きつけている姿は圧巻だった。

 誰の目にも実力者である事は明らか。

 さらにタツミは乱入者が来たその瞬間に、彼の能力をステータスで見ている。

 より鮮明に彼の実力を把握していた。

 

「(Aランク冒険者……ドワーフの『ガルバ・ダラス』、か)」

「ふん、あほどもが」

 

 叩きのめした者たちを冷たく一瞥して毒づくと男はタツミたちを見やる。

 

「(また厄介事の方から来たって事か? いい加減にして欲しいな)」

 

 そんな事を埒もない事を考えながらタツミは彼を見つめ返した。


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