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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
47/208

今後の方針

 タツミは彼自身が考えていたよりもずっと疲れていたようで。

 軽く眠るつもりだった彼が次に起きた時、既に1日が経過していた。

 

「(……寝すぎた)」

 

 体感で自分が寝過ごした事を察し、頭を掻きながら小さなため息を零す。

 ふと彼は室内に3つの気配を感じ取った。

 部屋の中に視線を巡らせると自身が使っている以外の3つのベッドにキルシェット、オイチ、トラノスケが眠っている事に気がついた。

 

「(クエストから帰ってたのか。……ステータスを確認する限り、特に大きな怪我も無いな。良かった)」

 

 彼のみが出来る彼らに対する体調確認を終えると、頭を掻きながらシーツを退け、床に足を付いた。

 

「トイレに行くだけだ。そのまま寝てて大丈夫だぞ?」

 

 自分に向けられたその言葉にぱっと目を開いたのはトラノスケだ。

 

「……気付かれてましたか」

 

 狸寝入りがばれていた為か、罰の悪そうな顔をする彼に、タツミは声を殺して笑いながら答える。

 

「俺がベッドを出ようとした時、ほんの少し身動ぎしたからな(本当はステータスが睡眠状態じゃなかったからなんだが)」

「確かに少し身構えましたけど……それで気付くとは目聡いですねまったく。俺もまだまだ修行が足りない」

「精進しろよ。……あと遅くなったが、心配かけて済まなかったな」

「いいですよ。こうして無事に目を覚ましてくれましたからね」

 

 タツミは6日ぶりに自分の足で歩く。

 足元が覚束ないと感じたのは一瞬だけで、その後はいつも通りに歩くことが出来た。

 

「(……相変わらず頑丈な身体だな。一週間近くも寝たきりだったというのに)」

 

 あちらの世界との常識の違いをまた1つ体験しながら、彼は用を足してすぐに部屋へと戻る。

 もしキルシェットやオイチが起きてきた時、ベッドに自分の姿が無かったら騒ぎ立てるかもしれないと危惧しての事だ。

 

「(まぁトラノスケが宥めてくれるとは思うが……)」

 

 音も発てずに部屋へ戻る。

 変わらず寝息を立てる2人の姿を視界に収め、彼は肩の力を抜いた。

 

「姫様とキルシェットが騒ぎ立てる事を心配してましたか?」

「そうだが、取り越し苦労だったな」

「お2人とも、貴方の事をとても心配してましたからね」

「起きたらちゃんと謝らないとな」

「そうしてください。自分を痛めつけるように鍛錬に勤しむ若者なんて見ていて面白いものじゃない。仕えるべき主から笑顔が消えるのを見るのもね」

「同感だ」

 

 タツミは自身のベッドに戻る。

 ベッドの骨組みが軋む音が静かな室内に響いた。

 

「とりあえず夜明けまで寝るよ」

「あと1時間って所ですかね。おやすみなさい」

 

 トラノスケの言葉を受けながら、彼はそっと目を閉じた。

 次に目覚めた時、キルシェットが抱きついてくるなどと夢にも思わずに。

 

 

 

 全員が起床し、ドタバタが一段落した頃。

 タツミのリュックから光が漏れ出ている事にキルシェットが気づいた。

 

「わっ!? タツミさん、荷物が光ってます!」

「んっ? これは……念信球か。キルシェット、悪いがリュックを持ってきてくれ」

「はい。どうぞ」

 

 礼を言って受け取ったリュックに手を突っ込む。

 すぐに指先が捉えた丸い球体を手掴みし、タツミはそれを外へと出した。

 淡く光る水晶を掌に乗せたまま、タツミは連絡の主である人物を思い浮かべる。

 

「繋がったか? タツミ? 聞こえていたら返事をしてくれ」

「ああ、こちらタツミ。聞こえているぞ、ギルド長」

「ふむ。5日目にしてようやく連絡が付いたか。まずは無事に目覚めた事を喜ぶべきだな、タツミ」

 

 水晶球から聞こえてきた聞き覚えのある声にキルシェットの耳が驚きでピンと逆立てた。

 オイチとトラノスケは自分たちの大陸にはない連絡手段を物珍しげに眺めている。

 

「すまない。今回の1件での疲労が祟ってずっと寝ていた。目が覚めたのは昨日だ」

「謝る必要はない。こちらとしても急ぎの用件という事でもないからな。事件のあらましや結果は既にそちらのギルドから派遣されてきた早馬から報告を受けている。2つの国が戦争にまで発展しかねなかった今回の件の解決、本当にご苦労だった」

「依頼に沿った行動を取っただけだ。そう畏まって礼を言われる程の事じゃない」

「戯け。お前たちが事を解決していなければ事態はより深刻な物になっていた公算が高いんだ。礼など幾ら言っても足りんよ。四の五の言わず受け取っておけ」

「……わかったよ」

 

 重大な事態にまるで気付いていなかった自身に対する苛立ち。

 そしてそんな場所に友人と呼べるタツミとその仲間たちを送り込んだ事への後悔。

 それらが交じり合ったギルフォードの声は水晶越しであっても、苛立っていると彼らに伝わっていた。

 

「さて本題に入る前に……パーティを組んだと聞いたがその者たちも傍にいるのか?」

 

 自分たちに言及された事に驚き、キルシェットは思わず姿勢を正す。

 以前にタツミの扱いで彼に突っかかった事を気にしているのか、過度に緊張している様子だ。

 オイチはキルシェットの態度を微笑ましそうに見つめている。

 トラノスケは水晶越しに話しているギルフォードが何を考えているのか探ろうと鋭い視線を水晶に向けていた。

 

「ああ、いるぞ」

「ふむ。ではまず自己紹介をしておこう。私の名はギルフォード。南国にある街フォゲッタのギルド長を務めている者だ」

「水晶越しに自己紹介とは律儀だな。じゃあこっちも紹介しよう。異大陸ヤマトからグラムランドにやってきたオイチとトラノスケ、そしてついこの間まで青い兜のメンバーだったキルシェットだ。ほら、とりあえず適当に名乗っておけ」

「お話の最中に失礼いたします。現在、タツミ様と一緒に旅をしている者でオイチと申します」

「オイチ様の従者トラノスケと申します」

「えっと、元青い兜のメンバー、キルシェットです」

 

 タツミに促され、仲間たちが簡単に自己紹介をする。

 

「よろしく。しかしその声は。……そうか、あの時の青い兜の少年をお前が引き取ったのか」

「引き取るというより、押しかけられたような感じだがな。なぁ、キルシェット」

「あ、その……えっと。すみません」

 

 青い兜のメンバー総出で同行をごり押しした事を思い出したのか、恐縮したように小さくなる少年。

 その様子を察したのかギルフォードは控えめに笑うとキルシェットに語りかけた。

 

「何を謝る必要があるのだ? 無意識に独りである事に拘っているタツミを説き伏せてパーティに入るなど並の情熱では出来んよ。その情熱で彼から学び取りたまえ」

「は、はい……」

「励みたまえ。これからの君に期待させてもらおう」

「あ、ありがとうございます!!」


 ギルド長からの激励に、キルシェットは椅子から立ち上がり相手には見えないというのに勢い良く頭を下げる。

 その様子を仲間たちは微笑ましげに見守った。

 

「さて……話が逸れた。パーティメンバーも揃っているなら都合が良い。このまま本題に入らせてもらうぞ。……ガレスのギルドから報酬は出るだろうが依頼者としてこちらからも報酬を支払うつもりだ。そちらで希望する物はあるか? 金銭は勿論、これからの旅に必要な物でも構わない。可能な限り用意させてもらうつもりだ」

「希望と言われてもな……すぐには思いつかんな。一応、旅をする上で必要な物は一通り揃っているしな」

「まぁ報酬については思いついた時に伝えてくれればいい。もう一度だけ改めて言わせてもらうが今回の件の解決、個人としてもギルドを預かる者としても感謝の言葉だけではとても足りんという事を覚えておいてくれ。お前たちはそれだけの事をしてくれたのだと言う事をな」

「そこまで念押ししなくても……わかった、報酬の方は思いついたら連絡する」

「ふ、わかればいい」

 

 彼らの受け答えで部屋の空気はとても和らいだ物になっていた。

 しかしギルフォードが次に出した話題に、タツミは背筋を伸ばし口元を引き結ぶ。

 

「しかしお前が苦戦……いや紙一重の戦いを強いられるとはな。相手の虫使いは害意のある人格さえ持っていなければAランク、いや特殊な分野である事を考慮すればSランク冒険者も夢ではなかっただろうに。不謹慎な事ではあるが実に惜しいな」

 

 当時の状況を思い出したのか、トラノスケとキルシェットもその表情を硬くし、オイチに至っては当時の痛みを思い出したのか自身の身体を守るように抱きしめる。

 あの虫使いが彼ら全員に強烈な印象を残している事は、誰の目にも明らかだった。

 

「確かに奴の虫を操る力は凄かった。何十匹もの個体を意のままに操り、感覚を共有する事で自分が動く事なく情報収集が可能。虫それぞれが持つ能力と戦闘能力に加えて、虫と融合した奴自身の力ははっきり言って強敵だったよ。もしも奴が狂っていなかったなら被害は間違いなくもっと広がっていただろうな」

 

 あの虫使いと対峙した彼の仲間たちは皆、神妙な表情でタツミの言葉に頷いた。

 タツミの声の重みは、念信球越しでありながらギルフォードに虫使いの強さと事の深刻さを余す事無く伝える。

 

「……不幸中の幸い、だな」

 

 重々しいギルド長の反応。

 沈み込む場の空気に追い討ちをかけるようにタツミは言葉を続けた。

 

「今回はどうにかそうならずに済んだが、次もどうにかなるとは限らん。今回の件にも瘴気が関わっていた以上、似たような事が起こる可能性は0じゃないんだ。気を抜くなよ?」

「わかっているさ。……南国で起きた村の襲撃事件、瘴気を放つ塔の出現、虫使いによるガレス侵略事件。いずれも非常に危険で発展性のある事件だ。被害が少なく済んだのは運が良かっただけに過ぎない。……しかし今まである程度の法則の元、周期的に起きていたはずの瘴気が、なぜ今になってこうも様々な事件を短い期間で引き起こすのか」

「わからん。だがこうも色々な事が間を置かずに起きているという事その物が何かの兆候のような気がしてならない」

「同感だ。1度目は偶然、しかし2度目から先は必然。我々の知らない所で何かが動き出していると考えるべきだ。少なくとも我々はそのつもりで対策を練らなければなるまい」

「そっちは任せる。ただの冒険者に過ぎない俺たちに出来る事なんて限られてくるしな。万人受けする方向で対策を練ってくれ」

「難しい事を簡単に言ってくれるな。とはいえ元よりそのつもりだ。最善を尽くす。その為にお前には今後も働いてもらう事になるだろう。覚悟しておけ」

「俺自身の都合も合わせて善処させてもらう」

「フン。では切るぞ。そちらから連絡する時は明け方か夜間にしてくれ。昼間は外出している事が多いので連絡が入っても出られない可能性が高いのでな」

「了解だ。またな」

「ああ」

 

 水晶が発していた淡い輝きが消える。

 話し合いが終わったと示すようにタツミは肩の力を抜いてベッドに座った姿勢のまま伸びをした。

 

「さて、ドクターストップもかかってるし俺は医者の許可がもらえるまでおとなしくしてるつもりだがお前たちはどうする?」

 

 タツミを中心に集まったパーティであるが故にその行動指針もタツミの行動を基準にする。

 既に体調を万全にするという目的の元、行動を自粛する事が決まっている彼は仲間たちがどうするかを問いかけた。

 

「俺が動けるようになるまでは自由に過ごしていいぞ」

「あ、でしたら僕はタツミさんがいなくても出来るクエストに行ってきます」

 

 最初に行動内容を表明したのはキルシェットだった。

 

「そうか、わかった。今更言う必要もないとは思うが慎重に行動しろ」

「はい」

 

 神妙な様子で頷く彼に頷き返し、タツミはトラノスケとオイチに視線を向ける。

 

「2人はどうする?」

「あ~、俺は姫様から自由にしていいと言われているので……ちょっと『ウインダムア』の屋敷に戻ろうかと思ってます。仲間たちに事の次第を報告しておきたいので」

「ああ、なるほど」

「ええ。一週間以内には戻るのでそれまではこの街にいてください」

「了解。気をつけろよ」

「心得てます」

 

 トラノスケの動向説明が終わる

 自然とオイチに視線が集まった。

 

「私はタツミ様の傍にいます。お体に異常は見られないとの事ですがやはり心配ですので」

「それでいいのか? 退屈だと思うぞ?」

「うふふ、それを決めるのは私です」

「まぁお前がいいならいいけどな」

「はい。タツミ様が変な事をなさらないようしっかり監視させてもらいますね」

 

 2人のやり取りを微妙な表情でキルシェットとトラノスケが眺めている。

 口出しをしたいのに出せないもどかしさを抱えたその表情に当事者である男女は気付いていなかった。

 

「トラノスケさん……なんだかお2人の雰囲気が甘いような気がするんですけど」

「言うな。言っておくがあの2人、ヤマトで生活してる時もこんな感じだからな。俺としてはこのもどかしい状態からどうにか進展してさっさとくっ付いて欲しいんだが」

「た、大変なんですね」

「ああ、もうほんと大変だよまったく(ただ前より姫様が積極的になってる気がするな……)」

 

 こそこそと話し合う彼らの言葉は幸か不幸かタツミたちには届かない。

 

「よし。気を取り直して一週間はここに滞在。それまでは各自の判断で自由とする。その後は当初の予定通り、北へ向かう」

「はい!」

「了解です」

「わかりました」

 

 3人分の返事を聞き取り、タツミは満足げに頷いた。

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