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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第四章
42/208

瘴気の存在

 銃口をコンビニにあった荷物紐で縛り上げられた店員に向けて車を要求する3人の男。

 涙を流しながら震える店員。

 必死に犯人たちを宥めながら、何事かを話し指示を出す警察官と忙しなく動き回る他の警察官。

 

 そんな混乱した状況の中を何事もないようにタツミは進む。

 東洋甲冑姿の2メートル近い身長の男など注目の的になるはずだし、不審者扱いされるだろう。

 しかし今、この場で彼を気にする人間はいない。

 誰の目にも彼の姿は映らないからだ。

 

「よっと。お邪魔します、なんてな」

 

 ワゴン車が突っ込んだ事で完全に砕け散った自動ドアを潜り抜ける。

 彼の目の前には銃を突きつけている男たちの姿があるが、彼らも目の前にいる東洋甲冑をつけた大男の存在に気付いていない。

 

「人質に傷を付けさせないようにするなら……まず武器を無効化して、その後に気絶させるのが良いか」

 

 あちらの世界の銃とは比べ物にならないほど威力が弱い代わりに小型で連射が可能な武器である『拳銃』。

 タツミは腰の刀を抜くと男たちが利き手に持ち、いつでも引き金を引ける状態にしてあるソレ目掛けて振るった。

 音も無い鋭く、軌跡すら常人には見えないほどの素早い斬撃。

 それは男たちの武器をグリップから上と下に切断した。

 

「はっ?」

 

 鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をする強盗犯。

 それも当然だろう。

 何の前触れもなく頼みの綱としていた武器が壊れたのだから。

 しかし彼らの驚愕は長くは続かなかった。

 握り込まれたタツミの拳が彼らの頬に、腹に、顎に突き刺さる。

 苦悶の表情を浮かべながら、しかし何が起きたかわからずに彼らは意識を失った。

 この世に対する『恨み言』を頭に一杯浮かべながら。

 

 

 タツミは強盗犯をすべて気絶させた事を確認し、突然倒れた男たちを見つめながら呆然としている店員に怪我がないかを確認していた。

 

「っ!?」

 

 そんな彼の背筋に突然、悪寒が走る。

 思わず前転してコンビニの外へ出て背後を振り返る。

 

「なんだ? 今の……全員眠らせたはずだぞ?」

 

 彼の独白の答えはすぐに返って来た。

 男たちの身体から滲み出るようにして黒い靄が立ち上りだしたのだ。

 

「瘴気!?」

 

 驚き硬直する彼の後ろから警察官たちが駆け込んでくる。

 強盗犯を捕まえるチャンスだと思ったのだろう。

 

「あ、おい。待て! 危険だ!!」

 

 思わず声を出して引き止める物の彼の声は雪崩れ込む警察官たちには聞こえていない。

 思わず舌打ちし、彼らの後を追うようにコンビニの中に進入する。

 

「……こいつら、瘴気が見えてないのか?」

 

 強盗犯たちの身体からは相変わらず瘴気が湯気のように立ち上っている。

 それは常識では考えられない異質な光景のはずだ。

 しかし警察官たちは男たちに手錠を嵌め、数人がかりで運び出そうとしている。

 誰も彼もが見るだけで怖気が走る瘴気の存在に目もくれていない。

 

「……ん? 立ち上った瘴気がどこかに向かっている?」

 

 原因不明の倒れ方をした強盗犯たちは、用意されていた担架に乗せられ外へと運び出されていく。

 そんな彼らから立ち上っている瘴気がある方向に向かって流れている事にタツミは気がついた。

 

「追いかけてみるか」

 

 何らかの手掛かりが得られるかもしれないと思ったタツミは即断する。

 瘴気の動きは風に吹かれて飛んでいく花びらや葉っぱのように緩慢だ。

 お蔭でタツミは追うのに苦労はしないし、見失う事もない。

 

「どこまで続くんだ?」

 

 いつまでも続く追跡にいい加減に彼も嫌気が差してきた。

 しかし不満を漏らしつつ彼は追跡を続行する。

 自分たちに起きた出来事の手掛かりかもしれないのだ。

 どれほどであっても、這ってでもついていく覚悟を彼はしていた。

 

 そしてタツミは瘴気が進む先の大きな十字路の中心にある『建造物』を見て絶句する。

 

「『窓の無い塔』……だと?」

 

 蜃気楼のようにおぼろげで半透明になっているが確かに見覚えがある塔。

 それがビルが立ち並ぶオフィス街の片道二車線の大通りの中心に建っていた。

 半透明であるからなのか、道行く車は塔をすり抜けて進んでいる。

 何事も無く行き交う車と通行人を見る限り、普通の人間には塔は見えていないようだ。

 

「瘴気は……塔の出入り口に吸い込まれている、か」

 

 観音開きになった木製のドアに吸い込まれていく瘴気。

 何が起こっているか理解は出来ないというのに、その光景を見ているだけで漠然とした不安を掻き立てられる。

 

「(どうする? 山で見た時と違って半透明で現実感が乏しいあの状態。車や通行人が普通にすり抜けてるって事はおそらく入る事は出来ない。かと言って何もしないってのも……)」

 

 彼が悩み足を止めてすぐに瘴気を全て吸い込み終えた塔はその姿を消していった。

 

「まずい!」

 

 咄嗟に追いかけようと踏み出すも、閉じた入り口に触れる事も出来ず。

 窓の無い塔はタツミの目の前で消失した。

 

「くっ……しかし実体化しきっていなかったとはいえ、こんな街中にまで出てくるとはな。これも要報告か。まったく次から次に頭が痛くなるぜ」

 

 肩を落としながらタツミは、踵を返しその場から立ち去った。

 

「あれ? ここどこだっけ?」

 

 計画性もなくただ漂うように移動していた瘴気を追いかけていた為、彼は迷子になってしまっていた。

 

「えっと、あっちが駅で……辰道の知識によると…………あっちか」


 道路標識で近くの駅の場所を確認し、辰道の記憶とを照らし合わせ自宅であるマンションへ向かう為の道順を導き出す。

 

「家が大通りに面してて助かった」

 

 ほっと息をつきながら彼は、瘴気を追いかけ続けた時間と同じだけの時間をかけて辰道の家に帰宅した。

 

 

 

 満員御礼の居酒屋の座敷で辰道、豊子、一義は飲んでいた。

 

「まったく。計画性の欠片もない奴だな。お前は」

「悪かったって。今度からもっと早めに連絡するからさ~」

「信用できん。このやり取りも何度目だと思っているんだ、馬鹿が」

 

 何度と無く繰り返されるやり取りに一義は困ったように眉を下げて我関せずとツマミを食べている男に助けを求める。

 

「お~い、辰道~。頼む、助けてくれ~」

「まぁ一義が悪いからな。諦めて絡まれてくれ」

「マジかよぉ。これもう10回以上、やってるんだぜ?」

「それだけ豊子がお前の事を気にしてたって事だ。いいじゃないか、美人に心配してもらえて」

「いや俺生涯独身で行くつもりだから別に……」

 

 ある意味、大物な発言をする一義の肩に白魚のような手が添えられる。

 そして地を這うような声が彼の耳元に囁かれた。

 

「聞・い・て・い・る・の・か? 貴様ぁ」

「……はい、聞いてます」

「(高校時代に豊子に憧れてた連中にこの姿を見せてやりたいなぁ)」


 長髪を振り乱して生ビールのジョッキを一気飲みする豊子の姿は、外見や普段の態度しか知らない人間が見れば1000年の恋も冷めるほどの醜態と言えるだろう。

 辰道も一義も彼女のこんな姿は見慣れている。

 羽目を外した豊子の絡み酒は今に始まった事ではないのだ。

 

「辰道ぃ、お前も飲め! さっきからチビチビチビチビと!!」

「はいはい。お付き合いしますよ。すみません、生ビール2つと梅酒をロックで1つ」

「はい、畏まりました」

 

 注文を受けて立ち去る男性店員。

 注文者の後ろで行われている大惨事は見て見ぬ振りである。

 

「ほらほら、豊子。そろそろ落ち着け。もうじきビールが来るから口寂しさは枝豆でも食って誤魔化せ」

「……」

 

 差し出された枝豆の器を受け取り、無言で食べ始める豊子。

 その横では絡まれていた一義が助かったと胸を撫で下ろしている。

 

「お待たせしました。生ビール2つと梅酒ロックです」

「はいどうも~」

 

 ビールのジョッキは辰道と豊子へ、梅酒ロックのグラスは一義に渡される。

 

「これでラストにしておこう。俺と豊子は明日も仕事だしな」

「……そうだな」

 

 生ビールのジョッキを両手で持ちながらぼんやりとした目で豊子は辰道に返事を返す。

 彼女の様子を不安に思ったのか、一義が疑問を口にする。

 

「っていうか豊子は大丈夫か? こんな状態で1人で帰れるのか?」

「無理だ。送ってくつもりだよ」

「ああ、やっぱりか」

「1人より2人の方が楽だからな。付き合ってくれると助かる」

「りょーかい」

 

 黙りこくってジョッキのビールを消化し始めた豊子を尻目に彼らは帰りの算段を立て始めた。

 

 

 

 豊子を家まで送り届け、一義と別れ家に辿りついた頃には日が変わろうとする時間になっていた。

 玄関で革靴を脱ぎ、スーツの上着をハンガーにかけてクローゼットに放り込み、リビングに入るとそこにはソファに寝転がっているタツミの姿があった。

 

「ただいま」

「おかえり」

 

 ヒラヒラと手を振りながら答えるタツミになんとなく笑いがこみ上げ、辰道は口の端を僅かに吊り上げる。

 

「どうした?」

「いや、この奇妙な状況にも慣れてきたなって思ったんだよ」

「あ~、確かにな。俺もこのソファで寝るのに慣れてきたぜ」

「お前は最初からそこがお気に入りだったろう?」

 

 軽口を叩きながら辰道は冷蔵庫を開け、ペットボトルのお茶を取り出す。

 蓋を開けて一気に半分を飲み干すと、彼は気になった事をタツミに聞く事にした。

 

「強盗犯と人質はどうなった?」

「ああ。強盗犯は手早く片付けたし、人質にも怪我はない。ただ……問題はその後だ」

 

 真剣な面持ちで寝そべっていたソファから起き上がるタツミ。

 その様子にただならぬ物を感じ、タツミはテーブルの椅子に座り聞く体制を取った。

 

 タツミは起きた出来事を全て語った。

 コンビニ強盗たちの身体から瘴気が立ち上った事。

 その瘴気がタツミ以外の人間には見えていない事。

 瘴気が街中に出現した塔に吸い込まれた事。

 現れた塔が半透明で実体化し切っていなかった為か、周囲には認識されていなかった事。

 瘴気を出入り口から吸い込んだ後、塔が消えた事。

 

「瘴気が人間から噴き出した、か」

「魔物に憑いた時と違うのは、出てきた瘴気に取り憑こうとする気配がなく煙みたいにただ立ち上っていたって事だ」

「そして塔に吸い込まれて消えた、か。また1つ謎が増えたな。何か他に気付いた事とかはないか?」

「気付いた事……う~む」

 

 両手を組み、眉間に皺を寄せながらタツミは一連の出来事を思い出す。

 何度か順序立てて思い出す行動を繰り返し、彼はあちらの世界の瘴気と今回出現した瘴気の差異がもう1点あった事に気がついた。

 

「そういえば……強盗犯たちから出てきた瘴気はずいぶん薄かった。雰囲気は同じだったから瘴気だって事はすぐにわかったんだが、なんて言うのか……スケルトンやリザードマン、寄生虫や虫使いに憑いていた物に比べると弱々しかったんだ」

「弱々しかった……か」

「確かだ。間違いない」

 

 しばし考え込むも酒の入った辰道の頭では上手く考えをまとめる事は出来なかった。

 

「すまん。酒が入ってるせいかもう上手く頭が働かない」

「っとそうだ。今日、飲みに行ったんだもんな。さっさと寝ろよ。明日も仕事だろ?」

「ああ。悪いが今日のところは休ませてもらうわ」

「おう。無理しても仕方ないしな」

 

 彼は手早く寝巻きに着替え、ベッドに潜り込む。

 

「それじゃおやすみ」

「おやすみ」

 

 電気を消して1分と立たずに辰道は寝息を立て始める。

 やはり疲れていたんだなと思いながらタツミも目を閉じ程よい眠気に身を委ねた。

 気になる事を頭の片隅に置きながら。

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