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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
38/208

虫使いの実力

 タツミたちは虫使いの身体から解き放たれた虫の群れから逃れる為、バラバラの方向に飛び退いた。

 

 タツミは素早く兜を被ると会議室の机や椅子を自分に迫る虫たちに向けて投げつけ蹴り上げて目晦ましにした後、虫使いの元へ走り出す。

 トラノスケはオイチを背に庇いながら、迫り来る虫たちをクナイで斬り捨て、刺し殺し、守るべき主の元へ1匹も通さない。

 オイチはトラノスケの力を信じ、己に虫は1匹たりとも届かないという認識の元、霊符を口元に近づけなにやら呪文を唱え始める。

 キルシェットはナイフ2本と獣人の跳躍力を持って1匹仕留めたら距離を取るというヒット&アウェイ戦法を駆使し、ダメージを受けずに敵を倒すよう意識を研ぎ澄まし的確に応戦。

 敵の初手に対して彼らは見事に対応していた。

 

「あひゃひゃひゃひゃ!! やるじゃんやるじゃん! お見事過ぎるよ、あんたら!! でもさぁ、虫は別に俺の中だけにいるわけじゃないんだぜぇえええ!!!」

 

 虫使いは手の届く範囲にいた『こんな状況にあっても身動ぎ一つしなかった男』の頭部を鷲掴みにすると、病的に細い身体からは考えられない怪力で持ち上げ、あろう事か近づいてきているタツミ目掛けて片手で投げてみせた。

 

「ちぃっ!!!」

 

 放り投げられた男の身体がどうなっているかを『ステータス画面』を見る事で既に把握しているタツミは一瞬の躊躇いの後、右手の刀で宙を舞う体をコマンドスキルを使用しながら両断した。

 

「『斬撃・爆裂!!』」

 

 斬り捨てた身体を覆うように赤い魔法陣が浮かび、次の瞬間に爆発。

 焼け焦げ、燃え上がる躯が地面に落ちる。

 しかし理想の成果が上がっていない事に気づき、彼は舌打ちすると同時に燃え続ける躯から距離を取った。

 

「ありゃりゃ!? あんた、よく気付いたねぇ。虫ちゃんたちが出てくる前に殻ごと焼き払おうとしたんだ? しかも思惑が外れた事にもすぐ気づいてるし。お蔭で不意打ちできねぇや! ざ~んねん!!」

 

 炎によって灰へと変化していく人体を食い破り、またしても虫が現れる。

 芋虫のような特徴のそれらは、その外見からは想像できない速度で会議室の床を這い回り椅子や机の下へと身を隠してしまった。

 出てきた数体の虫はいずれも炎の影響で所々焦げてはいるが、効果的なダメージを受けているとは言い難いように見える。

 

「虫相手なら火が有効かと思ったが……そうでもないようだな」

「まぁね~。虫の弱点である炎への耐性なんざ一番最初に研究してんのさ。克服した種を作るのに何年かかかったけどねぇ」

 

 けらけらと笑いながら虫使いが指を弾く。

 微動だにしなかった他の男たちの身体を食い破り、次々と虫が溢れ出てきた。

 

 クワガタのような特徴の虫は特徴的な顎が鋸のようにギザギザになっており、その身体その物が血の染み付いたような赤茶色をしている。

 トンボのような形状の虫は、空を飛ぶために使っている4本の羽その物が鋭利な刃物になっており、触れればただでは済まないと一見して理解できる。

 いずれも芋虫や寄生虫と比べると大きい。

 これまで出てきた虫のサイズは総じて拳大程度だったのに対して、新たに現れた虫は人間の頭部ほどの大きさだ。

 そして身体の大きさに比例するのかステータスで確認したそれらのレベルも高くなっている事がタツミにだけは読み取れている。

 

「うっとおしいな……(まずい。後から出てきた奴らはレベルが60を超えている。キルシェットだと荷が重いぞ……どうする?)」

 

 男の身体から飛び出してきた虫を片っ端から叩き落としながらタツミは考える。

 

「(1体ずつ慎重に相手をすればキルシェットでも倒す事が出来る。だが虫は複数で、さらに1体ずつ順番に戦えるような状況でもない)」

 

「いやいやいや、こんなのまだまだ序の口だからぁ!! 俺の家行けばもっと沢山、もっとキモイのいるからぁ!! あひゃひゃひゃひゃ!」

 

 虫使いは狂ったように笑い続けながら、手でタツミを指差す。

 それが指示になったのか、新たに現れたレベルの高い虫たちが彼目掛けて殺到する。

 

「あんたが一番強いってのは見ていてわかるし、先に潰させてもらうよぉおおおお!!」

「はっ!! そいつは光栄だな!! 『斬空』っ!!(俺にとっては好都合だな!!)」

 

 迫り来る虫の群れを彼は刀の軌跡を描いた衝撃波で迎撃する。

 しかし直線的な軌道の攻撃は虫たちの不規則且つ素早い動きによって回避されてしまった。

 

「っつおお!?」

 

 足を止めたタツミに向かって突撃する虫たち。

 殺人トンボの羽根が、クワガタもどきの顎がタツミに襲い掛かった。

 迫り来る攻撃を彼は体捌きによって避け、鎧によって防ぐ。

 しかし露出している腕や足を狙った物の幾つかが身体を掠めていった。

 

「っ……」

「おしい~~。でもまぁまだまだ行くから安心すんなよぉおーーー!!」

 

 虫たちにさらに指示を出そうと腕を振る虫使い。

 

「『雷矢穿孔らいしせんこう・急々如律令』!!」

 

 しかし彼の視界を遮るように雷の矢が虫使いに迫る。

 

「うおぁあ!? なんだよ、こりゃぁあああ!!」

 

 虫使いが髪の毛を焦げさせながら紙一重で避けた一撃は背後の壁に激突。

 室内に轟音が鳴り、土煙を巻き起こした。

 

「くそがっ!! 邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

 自分の行動を阻害された事が癇に障った虫使いは怒号を上げた。

 そんな彼の背後に部屋に充満した土煙に紛れて音も無くトラノスケが現れる。

 冷徹な、しかし殺気すらも押し隠した視線を虫使いに向け、彼は無防備な後頭部目掛けてクナイを突き出した。

 

 確実な必殺の一撃。

 しかしおよそ人体が立てる音とは思えない音を発ててクナイは虫使いの皮膚に触れる事なく止まってしまう。

 

「あひゃひゃひゃひゃ! ざ~んねん、ばれっばれでしたぁあああ!!」

 

 クナイを受け止めた正体は手入れはおろか洗っているかすらわからないボサボサの髪の中にいたダンゴ虫のような形状の虫だ。

 それの皮膚はまるで鉄のように硬く、クナイの一撃を受け止めても傷一つ付いていない。

 

「ちぃっ!! 奇天烈な防御をしやがって!!」

 

 舌打ちと同時に跳躍し、トラノスケは虫使いから距離を取る。

 そんな彼を指示を受けた虫たちが追いかける。

 

「そろそろ俺も動こうっかなぁ!!」

 

 虫使いの枯れ枝のように細い右腕が変化し始めた。

 耳障りな肉を裂く異音と共に、五指が1つの刃を形成しまるで蟷螂の腕のような物に変わる。

 まるで鎌のようになったその腕を虫使いは自慢でもするように頭上に掲げた。

 さらに床を蹴った一足飛びでトラノスケをその腕の射程内に収める。

 

「おらぁあああ!!」

「うおっ、速いっ!?」

 

 近づいてきた勢いそのままに凶器へと変貌した腕が振り下ろされる。

 トラノスケはその一撃を横っ飛びになって回避した。

 鎌は振り下ろされた場所にあった机や椅子、果ては床までもを一撃の元に破壊。

 再び盛大な土煙が上がった。

 

「(奴の足……一瞬だけ見えたが虫のような形になっていた。一歩の移動で俺の間合いに入れたのはアレが原因か?)」

 

 確認できた情報を考察しながら、トラノスケは油断なく気配を探る。

 すぐに彼の感覚にタツミ、キルシェット、オイチの居場所が捉えられ、彼らの無事が確認できる

 しかし彼は部屋の中にあの虫使いの気配が無くなっている事にも気がついた。

 

「(いない……? 逃げたか?)」

 

 虫使いの動向に訝しみながら最も近くにいたキルシェットに走り寄る。

 

「キルシェット。奴がどこに行ったかわかるか? ちなみに俺にわからん」

「すみません。僕も全然……いつの間にか虫の気配も消えてますし」

 

 背中合わせになって死角を作らないように視線を絶えず上下左右に巡らせながら2人の会話は続く。

 

「キルシェットの感覚でも引っかからないか。あれだけ暴れておいて雲隠れってのは……奴の態度や言動、行動を考えるとすごすご逃げるとも思えないが」

「それは……そうだと思います。なら隙を窺っている、とか?」

「妥当だと思うが、それなら今仕掛けないでいつ仕掛けるんだって話になるな」

 

 視界が遮られ、こちらの戦力は分断されている。

 前者は気配を探知できる人間が多い為に絶大な効果は無いが、分断されている状況はあちらにとっても都合が良い。

 だと言うのに敵が攻撃してくる気配が感じ取れない。

 

「(なんだ? 何を狙っている?)」

 

 不意に室内に自然現象ではありえない勢いの風が吹き荒れ、土煙が晴れた。

 オイチが霊符を用いて風を起こし、土煙を室外に吹き飛ばしたのだ。

 風の吹いてきた方向に彼らが視線を向ければ、霊符を掲げているオイチと彼女を守るように移動していたタツミの姿が見える。

 

「合流もあっさり許す……各個撃破を狙うにしてはお粗末過ぎる。何を考えて……?」

 

 周囲を見回したトラノスケは虫使いがいたはずの場所の床に大穴が空いている事に気づいた。

 攻撃が当たっただけで出来るとは思えない深さと人が丸まる入れそうな大きさのその穴は、明らかに虫使いが故意に空けた物だ。

 

「これは……地下に潜ったのか。追うのは流石に危険だな」

「でもこれだと本当に逃げられてしまうかもしれません!」

「そうだな。どうする、かっ!?」

 

 穴の奥を見通そうとトラノスケが目を凝らした所でその穴から緑色の光線が噴出する。

 彼は反射的にキルシェットの背中を突き飛ばし、さらに光線の射線から飛び退いた。

 

「ぐぅぁっ!?」

 

 キルシェットを助ける為にトラノスケはその光線を回避し損ねていた。

 光線の熱によって掠めた腕が焼かれ、彼は思わず悲鳴を上げる。

 光線はそのまま建物の天井を直撃。

 天井を崩す事無く貫き、くっきりとした円形の穴を開けている事からその威力を物語っていた。

 

「トラノスケさん!!」

 

 腕を押さえているトラノスケの傍にキルシェットが慌てて寄り添う。

 彼は腰のポーチからポーションを取り出すと、中身を焼け焦げた腕にぶっ掛けた。

 

「ぐぅ、すまない。キルシェット」

 

「「トラノスケ!!」」

「俺は大丈夫です!! それよりも警戒してください!! 奴は逃げずに真下の地面にいます。そこからこっちを一方的に攻撃してくる気ですよ!!」

 

 戦友と主からかけられる自身を案じる声に力強く応え、トラノスケはさらに警戒を促す。

 2人は彼の言葉を受け、傷が深く無い事を察し敵の警戒に集中することにした。

 

「地下か。あんな腕で掘り進んだとするなら相当に器用だな」

「まるでもぐらのようですね」

「そんな可愛い相手じゃないがな。とにかく気をつけるぞ」

「心得ております」

 

 地面の下から奇襲してくる事はわかった。

 しかしいつ、どこから攻撃してくるかがわからない。

 4人は大穴への警戒を強めつつも周囲に油断なく視線をめぐらせた。

 すると戦いによって壊された机や椅子が散乱する場所から芋虫がひっそりと顔を出している事にタツミは気づく事が出来た。

 

「そっちだ! 虫がいるぞ!!」

 

 オイチを脇にかかえ、今にも口から何かを吐き出そうとしていた芋虫たちの正面から距離を取る。

 キルシェットやトラノスケも彼に倣ってその場を離れた。

 同時に芋虫たちは口から糸を吐き出し、彼らがいた場所を直撃した。

 

「大蜘蛛のように皮膚が焼けるって事は無さそうだが……」

 

 タツミはその辺に落ちていた椅子を糸が付着した場所に投げつける。

 糸は非常に粘着性が強い物のようで投げつけた椅子が地面に対して水平になっている壁からくっ付いて離れなくなっていた。

 直撃したら身動きが取れなくなるだろう事が容易に想像できる。

 

「あまり当たりたくはないな」

「そうですね」

 

 脇に抱えていたオイチを下ろし、周囲を見回す。

 同時に自動発動する気配察知を意識する事も忘れない。

 

「芋虫以外は……この部屋にはいないな」

「でしたら今は彼らを片付けてしまいましょう!!」

 

 オイチが新たな霊符を掲げる。

 それを見越していたように彼女の真下の地面が盛り上がった。

 

「オイチ!!」

 

 不自然極まりない地面の動きを視界に捉えたタツミは、オイチの手を引き無理やり抱え上げてその場を飛び退いた。

 彼らが離れた瞬間、盛り上がった地面が爆発し姿を消していたクワガタムシやトンボが飛び出す。

 

「撃て、オイチ!」

「お任せを!! 『風斬乱舞ふうざんらんぶ・急々如律令』!!」

 

 抱え上げられたまま彼女が虫たちに投げつけた霊符は複数の小型竜巻へと変化し、敵を引き寄せて風の中へと巻き込んでいく。

 小型の竜巻はぶつかり合い、融合し、2倍3倍と風の勢いを増し、巨大な竜巻へと変化していった。

 竜巻の中に吸い寄せられ閉じ込められた虫たちは自分たち目掛けて飛んでくる風の刃に切り裂かれ、細切れにされていく。

 

「タツミ殿ぉっ!! また下から来ます!!」

「ちっ!!」

 

 タツミの足元の地面が盛り上がり爆発。

 間一髪で後ろに下がったタツミだったが地面から出てきた『何か』に目を見開いた。

 

「バァっ!!」

 

 出てきたのは土に塗れて泥だらけになった虫使いだった。

 限界まで開かれた男の口内にトラノスケが食らった光線と同種の光が集まっている。

 さらに虫使いの両腕が虫の口に変化し、口と同様の緑色の光が集まっていた。

 そしてタツミはさらに気付く。

 男の身体から湯気のように立ち上る黒い靄『瘴気』の存在に。

 

「くっ、なにっ!?」

 

 着地と同時に床を蹴ろうとした足が動かなくなる。

 僅かに見えた視界の端に自分の足に絡まる芋虫の糸が見えた。

 

「しまっ……!!」

 

 両足を糸で絡め取られ、その場に釘付けにされたタツミ。

 彼が動けない事を察したトラノスケとキルシェットが手裏剣や投げナイフなどの飛び道具を放つが、それらは宙を舞う虫たちに阻まれ虫使いに届く事はなかった。

 

「まずお2人、あの世行きぃいいいいいいいいいいいい!!」

 

 三つの砲門から発射される緑色の閃光が部屋を包み込む。

 それらは棒立ちになったタツミとその腕の中にいたオイチを飲み込み、彼らの背後にあった壁とその先にあった廊下の壁などを全て貫き消し飛ばしていった。

 

「タツミさん!! オイチさん!!」

「タツミ殿ぉおおおおお!! 姫様ぁああああああああ!!」

「はい、死んだぁああああああ!!! 死体は俺が有効活用するから安心しなぁああ!! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 2人の悲痛な叫びは虫使いの狂った笑い声に掻き消されてしまった。

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