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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
36/208

ギルド解放

「お邪魔しますよっと……」

 

 声を潜めながらトラノスケはギルド2階の窓から音も無く降り立つ。

 

「お、お邪魔します……」

 

 彼に続くようにキルシェットも音を立てないように慎重に降り立った。

 

「簡単に確認するが、まずがギルド関係者が捕まってる倉庫に向かい捕まっている人たちを解放する。武器も持ってないあの人たちをそのままにして襲撃すると人質にされる恐れがあるから。なるべく静かに騒ぎを起こさないように行動する事」

 

 人差し指を立てながら、やるべき事を順序良く確認するトラノスケ。

 キルシェットは彼の言葉に無言で頷く。

 

「次に開放した人らに俺たちが持ってきた武器を渡した上でギルドを解放する。出来れば没収されたあの人たちの武器も回収したいけど、そもそもこの建物の中に保管されているかわからないからそこまで高望みはしない。基本的には手持ちの武器でどうにかする」

 

 中指を立てて説明を続ける。

 彼らはそれぞれリュックを背負っており、その中には捕まっている人間たち用にと小型の武器を入れてきていた。

 

「建物を開放できたらあとはここの人たちに任せて南国の監視所に向かいタツミ殿と姫様と合流。なんか気になる事とかあるか?」

 

 薬指を立て最後の説明を行い、キルシェットに問いかける。

 

「いえ、大丈夫です」

「ん、良い返事だ。それじゃ静かに素早く行くぞ」

 

 トラノスケの言葉を合図に2人は気配遮断を発動する。

 熟練度とスキルレベルに差がある為、その精度はどう足掻いてもトラノスケの方が上だ。

 しかし獣人としてのポテンシャル故か、それともキルシェットの才能か、彼の気配遮断はトラノスケと比べて見劣りこそするものの充分に実用に足る物である。

 

「……(タツミ殿が言うには気配の消し方を覚えてだいたい一ヶ月しか経ってないらしいが……先が楽しみやら怖いやらだなぁ)」

 

 外に誰かいないか気配を探りながらキルシェットの力に内心で舌を巻いていた。

 

「(これで十五だって言うんだから世の中は広いねぇ)」

 

 入ってきた部屋のドアを静かに開く。

 木製のドアが僅かに軋む音が2人の耳に届いた。

 外に誰もいない事を視覚からも確認し、廊下に出る。

 そして突き当たりまで音も無く走り抜け、角の壁に背を預けた。

 さらに先の廊下に誰もいない事を確認し、彼は手でキルシェットに合図を送る。

 自身のすぐ後ろまで薄くなった気配が近づいてきた事を探知し、さらに奥へ。

 階段を駆け下り、見回りの気配がまったくしない事にトラノスケは違和感を覚えた。

 

「(前に忍び込んだ時は、結構な数の見張りが外はもちろん中にもいたはずなんだが……)」

 

 相変わらず物々しい装備をした包囲網が建物の外を囲い込んでいる事が窓から窺い知れた。

 彼は再度、気配を探る。

 しかし中にはそれらしい気配がほとんど感じられない。

 

「(……ギルドの連中に動きが無いから、外の監視だけに絞ったか?)」

 

 ギルド長に聞いた話では彼らが倉庫に閉じ込められてから2週間前後の時間が経っているという。

 それだけの期間に何の行動も起こさず、外から救出の動きが見られないのであれば監視の目を緩くするのもわからない話ではなかった。

 

「(最終的に街中で戦争をやらかそうって連中だし。指揮官の方で少しでもそっちに戦力を回したいと考えたとすれば筋は通る、か?……とりあえずやる事やってから考えるとしますか) そこの突き当たりが倉庫の入り口だ。見張りは探知できる限りでは3人。俺が先に行って引き付けるから無力化はよろしくな、キルシェット」

「……はい」

 

 垢抜けていない動きではあるが、気合は充分。

 これなら安心して任せられる。

 トラノスケはそう思い、倉庫前に屯している兵士たちの前に踊り出た。

 

「何者だっ!」

「「っつ!!」」

 

 突然、現れた襲撃者に対して倉庫の見張り番たちが動揺したのは一瞬だけだ。

 しかしその一瞬があればトラノスケは彼らとの距離を零にまで詰める事が出来る。

 彼らが迎撃の為に抜き身のまま持っていたレイピアや小剣、短槍を構える。

 トラノスケはスピードが乗った状態で床を蹴り、右の壁に足を付き、さらに重力に逆らうようにして天井を駆け抜けた。

 

「なにっ!?」

 

 槍を構えていた男が驚きの余り声を上げ、自分たちを素通りしたトラノスケに意識が集中する。

 その瞬間、キルシェットがトラノスケに集中した彼らを奇襲した。

 彼から見てもっとも近かった兵士の首筋にナイフの柄を振り下ろす。

 さらに別の見張りの米神にヒットした瞬間に抉り込むようにして拳を打ち込む。

 仲間がやられて慌てて振り返った最後の1人の顎を横合いから掠めるようにして叩いた。

 タツミが教えて脳を揺らす一撃だ。

 視界が揺れ、足元が定まらなくなった男の足を払い腹部に体重の乗った膝蹴りを叩き込む。

 体内に溜め込んでいた酸素を全て吐き出させる痛烈な強打が止めになり、男は意識を失った。

 

「お見事!」

「い、いえいえ。トラノスケさんがこの人たちの気を引いてくれたお蔭です」

 

 トラノスケの賛辞にわたわたと手を振りながら謙遜するキルシェット。

 小動物じみた彼の仕草に苦笑いを漏らしながら、彼は即座に気持ちを切り替えた。

 

「さぁて……見張りに手を出しちゃったんでこっからは速さ勝負だ。さっさと全部済ませて姫様方と合流するぞ」

「はい!」

「よろしい。じゃ行くぞ、っと!!」

 

 倒した見張りの1人が持っていた鍵でドアの鍵を開ける。

 

「はい。お待たせしました。反撃のお時間ですよ、皆さん」

 

 助けに来る事は前に侵入した時に既に伝えていたからか、中にいたギルド職員や冒険者たちは突然のトラノスケの言葉に唖然とする物のすぐに持ち直し、真剣な表情で頷いた。

 

「これ、武器です。あいにくと貴方方の得物がどこにあるかまで調べてる余裕がなかったのでこっちで持ち合わせた物になります。好みに合わせて適当にどうぞ」

「あ、こっちにも入ってますからこちらからも取っていってください!!」

 

 リュックを押し付けられたギルド長と近くにいた職員は慌ててそれらを受け取り、倉庫の床に中身を広げる。

 

「そっちで何か掴めた事ってありますか?」

「いや、申し訳ないがずっと軟禁状態だったのでね。せいぜいギルド内部の見張りが減った事くらいしかわからないよ」

 

 眼鏡をかけたいかにもインテリ系の紳士といった風貌のギルド長がトラノスケの質問に答える。

 

「ああ、やっぱり減ってたんですねぇ。ちなみにいつ頃から減ったかはわかります?」

「我々が気付いたのは昨日の夜だ。君が戻ってからすぐくらいだったな。なにせこんな所に閉じ込められていたのでね。やる事がなかったからこそ環境の変化には敏感だったから間違いはないと思う」

「昨日の夜……う~ん、やっぱり戦争する為に戦力を戻したってのが有力か?」

「おそらくは……。それはさておき我々はギルド奪還の為に外の兵士たちを襲撃するつもりだが君たちはどうする?」

「といあえずはそっちの援護ですね。切りが良いところで俺たちは今頃、南国の監視所に行ってるだろう仲間と合流しますよ」

「……そうか。国軍の指揮系統を制圧する魂胆だな。ならば我々はギルド奪還が完了次第、盗賊ギルドの連中の摘発と国軍末端の兵士たちへの牽制を行う。重要な所をそちらに任せてしまうのは心苦しいがよろしく頼む」

「ウチの大将がやる気なんでそう改まって言う必要はありませんよ。とりあえず伝えてはおきますがね」

 

 頭を下げたギルド長に軽く手を振って応えるとトラノスケの気配察知に大量の気配が引っかかった。

 

「どうやらこっちの騒ぎに気付いたらしいですね。そっちは準備出来てますか!?」

 

 彼らが持ってきた武器を物色していた冒険者たちが次々に手頃な物を掲げて声を上げる。

 閉じ込められていた鬱憤が混じっているらしい大声に彼は思わず耳を塞いだ。

 

「はいはい。元気なのは大変けっこうですね。しっかり仕事してくださいよ!!」

 

 服の裾からクナイを取り出し、両手に構える。

 彼の隣ではキルシェットが腰のナイフを構えていた。

 

「まずは……ギルドの受付辺りまで抜けますよ!! ここじゃ大立ち回りには向きませんからね!!」

 

 その言葉を合図にトラノスケとキルシェットを先頭にして冒険者とギルド職員が駆け出す。

 迫り来る国軍の兵士たちは、彼らの今までの鬱憤を晴らさんとする勢いに押され粉砕されていった。

 最終的に保管されていた自分の武器を取り戻した冒険者たちが破竹の勢いで兵士たちを蹴散らし、トラノスケが想定していたよりも遥かに早くギルドは解放されることになる。

 

「ん? あれは姫様の式神?」

 

 ギルドの解放が終わり、さっさとタツミたちに合流しようと建物の外に出ていたトラノスケとキルシェットの元に紙で出来た鳥が近づいてきた。

 トラノスケの肩に止まったソレは彼の耳元で囀る。

 

「……(人間に寄生する、虫? それはまたえげつないのが出てきたな。……まさか捕まってた奴らにも既に?)」

 

 式神から聞いた情報にトラノスケは表情を険しくし、さりげなく動き回っている冒険者やギルド職員を見つめる。

 役目を終えた鳥の式神は元の紙に戻って彼の右手の中に納まっていた。

 

「(ぱっと見た感じ人間として不自然な挙動をしている奴はいない。……だがもしもそこまで人らしく動けるとすると俺じゃ見分けがつかんな)」

「ど、どうしたんですか? トラノスケさん」

 

 左手で頭を掻きながら考え込むように唸る彼の様子を疑問に思い、キルシェットが不安げに問いかける。

 

「あ~、いやちょっと厄介な事が……ん?」

 

 手の中に違和感を感じた彼は、いつの間にか握り締めていた右手を開く。

 先ほど効力を無くしてただの紙に戻っていたはずの式神がまた動き出していた。

 見る間に形を変える紙は、先ほどまでの鳥ではなく狐へと変化した。

 再度、肩に乗った式神は鳴き声で何事かをトラノスケに囁く。

 狐の言葉を聞いた彼は険しくなっていた表情を緩め、小さく笑った。

 

「さすが姫様。抜かりない」

 

 彼の肩から飛び降りギルドの方へと走り去っていく。

 

「トラノスケさん、今のは一体?」

「ああ、うん。ちょっと間者がいないか調査しに行ったんだ。タツミ殿たちの方で厄介な敵と遭遇したらしくてな」

 

 掻い摘んで事情を説明するトラノスケ。

 その説明を聞いてキルシェットは顔を青くした。

 

「そ、それじゃもしかして僕たちが助けた人たちの中にも寄生された人がいるかもしれないって事ですか?」

「可能性の話だが、そのまま放置しておくには少しまずい問題だ。今、姫様の式神があっちで遭遇した奴の気配を探ってくれてる。これで見つからなかったら一応は安心していいって事になるんだが……」

 

 2人が話している間に調査を終えたらしい紙の狐が戻ってきた。

 トラノスケの肩に飛び乗ると何度か鳴き、今度こそ役目を終えたのか形を解き、ただの紙へと戻る。

 

「ふぅ、どうやら大丈夫だったらしいな。まぁまだ心配が無いといえば嘘になるが、俺たちじゃどうしようもないし。ここは割り切ってお2人と合流するぞ」

「そう、ですね。なら急ぎましょう、トラノスケさん!!」

 

 ここにいても出来る事はない。

 そう自分の中で割り切る事が出来たのか、キルシェットは気合を入れ直すように声を上げるとトラノスケよりも先に走り出そうとする。

 

「はいはい、待った待った。事情をギルド長殿にも話さないと駄目だろ? 今、無事でもこれからどうなるかわからないんだから警戒しておいてもらわないと」

「あ、そうですね。すみません」

 

 先ほどまでの元気はどこへやら、今度はしゅんとして肩を落とす。

 

「いや謝るほどの事でもないから。それじゃ説明してくるからここにいてくれ」

「はい!」

「(元気の良いこって。若いっていいなぁ、まったく)」

 

 浮き沈みの激しい若人の様子を微笑ましく思いながら、トラノスケはギルド長に寄生虫の事を話す為にギルドの中へと入っていった。

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