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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
34/208

情報収集

「いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか?」

「そうですね。とりあえず2日ほど滞在をお願いします。今は3人ですが1人あとから合流する予定です。ですので男女混合で4人が泊まれる部屋は空いていますか?」

 

 山猫の欠伸亭をおかみであるシルドルはつい先日、一騒動起こした人間たちの来訪に内心で頭を抱えていた。

 

「ええっ!? タツミさん! あのオイチさんは女性ですし部屋は分けてもらった方が……」

「あら、キル君。私はご一緒の部屋で構いませんよ? そもそも馬車ではご一緒だったじゃありませんか」

「そういう事だ。今のガレスの『治安』を考えるとすぐ近くとはいえ部屋が仕切られているって言う方が怖い」

 

 わざとらしく治安の部分を強調するタツミ。

 彼の探るような視線を意図的に無視しながら、シルドルは表面上は笑みを絶やさず応対する。

 

「ええ。最近、東と南の兵隊さんたちが殺気立ってまして。私たちも怖くて中々外に出れないんですよ」

「やはり商いにも影響が出ているんですね」

「ええ、本当に困ったもんです(わざわざ盗賊ギルドの一角の頭である私の所に泊まりに来る事といい、さっきの含みのある言い方といい、どう考えても私に用があるわよね。下手に宿泊を断ろう物ならどんな手に出られるかわかったもんじゃない)」

 

 当たり障りのない話をしながら、この状況を切り抜けるべく彼女は思考を広げる。

 

「(泊めるのはもう仕方ない。問題はどういう情報をこいつに渡すか、だ。前に泊まった時の騒動でこいつが残した書置きの内容を見た限りこの男は私と襲撃者たちを同じ盗賊ギルドで括って見ている。つまりギルドが一枚岩じゃない事を知らない。その辺をはっきりさせて今、ガレスで動いてる馬鹿どもと私の一派が無関係だって事をわかってもらわないとと諸共に叩き潰されちまう)……え~っと、はい。鍵はこれだね。お客さんも気をつけなよ?」

「ありがとうございます」

 

 探るような視線を変えずに鍵を受け取るとタツミは他の2人を促して部屋へと向かう。

 彼らの背中を見送る余裕もなく、シルドルは今後の行動を真剣に思案していた。

 

 

「さてと、情報を整理しよう。宿に着くまで街の状況を見てきて気になった事はないか? 俺はあったんだが……」

「私も気になった事があります」

「僕は今の状況が異常だと言う事くらいしかわかりませんでした」

 

 部屋で荷物を置くと彼らはすぐに会議を始めた。

 

「ならまず俺から話そう。何故ここまでまずい状況になる前にギルドは動かなかったのか、そして何故今の状況になっても碌に動きが取れないのか、だ。東と南は数年前に戦争をしてるからこそこの街のギルドはかなり大きい物だし、常にA級冒険者を抱え込んで国同士のごたごたに対する抑止力にしていたはずだ。人の行き来の激しいこの街の依頼は、かなり難度が高いから他の冒険者だって腕が立つ。なのにそいつらが何もしていない。これははっきり言っておかしい。あと街に入る時の衛兵たちの態度が妙に事務的だった事も気にある。街でごたごたが起きている時に来訪するAランク冒険者に無反応って言うのは変だ」

 

 数年前、純度の高い魔法鉱石が東と南の国境沿いの鉱山で発見された。

 完全に国境沿いだったこれらの鉱山の採掘権を巡って2つの国は対立、戦争へと発展。

 北と西、そしてギルドの介入により戦争その物は1年足らずで終結。

 採掘権については他国立会いの元、公平な分配が行われ一応の決着を迎えた。 

 しかし当事国である2国はこの件に関して納得していなかった。

 特にガレスは国境の街であった事もあって特に激しい戦いが行われた場所でもあり、この街に住む両国の人間は相手国の人間を憎んでいると言っても良い。

 親しい人間を殺した人間がすぐ傍にいるのだ。

 戦争が終わってまだ数年しか経っておわず当事者同士が顔を合わせる事も珍しくない状況ではそれも仕方の無い事だろう。

 憎んでいる国の人間がいる場所であっても去る人間が少ないのは、ここで商売をする事で得る利益が多いからだ。

 

 当然、ギルドもいつ武力闘争に発展するかもわからないほどの緊張状態にあるこの街の状況を危惧していた。

 だからこそ対処できるだけの戦力をこの街に限っていれば常駐させて睨みを利かせていたはずなのだ。

 だと言うのに実際はタツミが言った通り、対応が出来ていない有様。

 

「この街のギルドが有事に対応できないような無能だったとは思えない。人選だって慎重に行われたはずなんだからな。となると可能性は2つ出てくる。1つ目はギルドを身動き出来ないようにする程に周到な準備が行われていた可能性。今の所、これが一番可能性が高い。俺とキルシェットがこの街に来た夜、いきなり襲われたのは想定外のAランク冒険者の来訪に焦った何者かが先走ったって事が考えられるからな」

 

 2人は黙ってタツミの話に聞き入っている。

 

「2つ目はあまり考えたくないがギルドもグルである可能性。ギルドの人間だって別に聖人君子ってわけじゃない。欲しい物をチラつかされ、あるいは弱みを握られて今回の騒動に介入しない、出来ないようになっている可能性はあるだろう。まぁこれはそもそも簡単に敵の術中にかかるような人間をこの街に常駐させないだろうという事から1つ目に比べると可能性は低いと思う。だが無いとは言い切れない」

 

 自然と寄り始めた眉間の皺を揉み解しながらタツミは言葉を続けた。

 

「どちらにしても肝となるのは独立した戦力であるギルドが表立って国軍に対抗できるようにする事だ。そして今がどういう状況であれ、どう対処するか決めるには情報が足りない。その辺はトラノスケを待ちつつ、こっちでも情報を集めていくしかない。しかし今日の街の様子を見ると両軍はいつ激突してもおかしくない。行動は慎重に、だが迅速にしなければならない」

 

 考えれば考えるほど状況の悪さばかりが目に付いてしまう。

 タツミは盛大に肩を落とし、痛くなってきた米神を指で押さえた。

 

「俺の気になった事と今後の方針としては以上だ。オイチ、お前が気付いた事を教えてくれるか?」

「はい。それではお話します」

 

 全員の視線がオイチに集まる。

 常と変わらず特に気負った様子もなく彼女は自身が気になった事を語り始めた。

 

「東に属する方と南に属する方。相手を憎む気持ちがあるとはお聞きしていますが、それにしては両者とも開戦の合図が訪れるのを待つ程度には冷静でした。私が知る限り敵国の人間を憎む気持ちという物に歯止めは利きません。放っておけば誰かがどこかで暴発する物です。それすらも上手くコントロール出来ているとするなら、両国の指揮官はとても有能な方なのでしょう。しかし有能な方であるならばこのように街一つの小競り合いを起こした所で大きな利益を上げる事など出来ないという事にも気付いていると思います。そして憎しみすらもコントロールできるのならば、このような事態にならないよう事前に対処しているでしょう。今までの状況からだと両国の指揮官の思惑が見えてこないのです。最前線に立つ者の負の感情ばかりが目に付き、今回の事態に直面している両軍の指揮官の今回の件に対する思惑が……。その事が気にかかりました」

 

 戦国の世で生きてきた姫の物の見方は思った以上に感覚的な物である。

 しかし実際に戦地に出向き、思想に触れ、思考を解き明かし、相手の戦略を先読みしてきた彼女の言葉は説得力を持っていた。

 

「俺は盗賊ギルドの思惑に乗って、目障りな元敵対国を叩き潰す事こそ国軍の狙いだと思っていたんだが……」

「仮にも国境を守る任についている人間ならば、ただ即物的に、短絡的に行動するのはどのような行為であれ愚考です。戦争が終わってから今まで、曲がりなりにも折り合いをつけて上手くやってこれたはずなのに今回に限って行動を起こしたのならば、そこには今までと違った行動を起こさせるだけの何か特別な出来事、切っ掛けが無ければなりません。以前から画策していたとしても何故今なのかという点がやはり私には引っかかってしまいます」

「……何故、か(まさか、また瘴気が絡んでいる? ……いやアレは人間に取り憑く事が出来ない。もしも人間に憑けるとすればアギ山の戦いはもっと大惨事になっていたはずだ)」

 

 考え込む事数秒。

 今、提示された疑問をメモに簡単に書き記すとタツミはキルシェットに視線を向けた。

 

「キルシェット。お前は何か気になった事ないか? なんでもいいぞ」

「えっと、それなら……気になった事というほどじゃないんですけど兵士の様子が不気味に感じました」

「詳しく話してくれ」

「えっと……宿に来る前に巡回していた東国の兵士の人の顔を見たんですけど。あの人たちの目、血走っていて且つ何も映していなかったんです。目に映った物を認識していなかったと言うか……まるでガラス球みたいな目でした」

「続けてくれ」

「そのすぐ後、南国の兵士が来て睨み合いになりましたしその時もお互いを罵り合っていたんですけど、相手の事を見て言っているはずなのにやっぱりその目に相手は映っていませんでした。不気味で、正直怖かったです」

 

 これは重要な情報だとタツミは直感でそう思った。

 話を聞くだけで、どう見ても普通の状態とは言い難い事が伝わったからだ。


「普通とは言い難い状態にある兵士……これは大きな情報だな。兵士たちを避けるように移動していたのによく気付けたな。よくやったぞ、キルシェット」

「私はそれほど目が良いわけではありませんからそこまで詳しい様子はわかりませんでした。凄いですよ、キル君」

「い、いえ、そんな……へへ」

 

 照れたように笑う少年に釣られて2人も笑う。

 

「しかし様子がおかしい兵たち……人を操る術、でしょうか?」

「正気を失わせ暴力的思考に支配されるって事なら『バーサーク』という魔法があるんだが……あれを受けた相手は制御不能になる。そんな物を使われていたら兵士たちは目に付いた誰かに襲い掛かってるはずだ。正気を失くさせ、さらにある程度の制御を可能にする。俺が知る限り人間が使える魔法にそんな都合の良い物は無い(……はずだ)」

「人間ではないなら……魔物でしょうか?」

「可能性が無いとは言えないが、流石に突拍子が無さ過ぎる。……っと、キルシェット。そこの窓を開けてくれるか?」

「えっ? はい……」

 

 会話の途中、辰巳は近づいてくる存在に気付いた。

 タツミの指示に従い、首をかしげながらキルシェットは通りに部屋に一つきりの窓を開ける。

 開いた窓から音も無くするりと男が入ってきた。

 

「わぁっ!? あ、トラノスケさん?」

「っとすまんな、キルシェット」

 

 目の前に突然飛び込んできた男に仰け反るキルシェットに驚かせた事を謝るトラノスケ。

 トラノスケはそのまま片膝をついてオイチに深く頭を下げた。

 

「姫様、ただいま戻りました。この通り怪我もありません」

「はい。無事のようで安心しました」

 

 コロコロと笑って従者の無事を喜ぶオイチ。

 その横ではタツミがトラノスケの全身を観察するように眺めていた。

 

「本当にどこも怪我はしてないな? 隠すと為にならないが」

「大丈夫ですよ。前に隠して偉い目に合いましたしね。学習してるんで隠しませんよ」

 

 以前、何があったのか口元を引きつらせるトラノスケ。

 その言葉に満足げに頷くとタツミは彼に空いている椅子に座るよう視線で促した。

 

「さっそくで悪いが調べて分かった事を伝えてくれ。ソレを元に今後どう動くかを決めたい」

「了解。色々とわかりましたよ」

 

 キルシェットが差し出した椅子に音も無く腰を下ろすと、彼は背もたれに体重をかけて脱力しながら調査して分かった事を話し始めた。

 

「まず東と南の兵士についてですが。こいつら、街の住人は誰であれ出会ったその場で恫喝してますね。言う事はどちらの所属でも関係なく『外を出歩くな』です。妙に血走ってる目をしてるのが気になりました。あれは戦前の緊張や興奮とは違う気がします」

「キルシェットが言っていた不気味さと同じ物をトラノスケも感じたんだな。……続けてくれ」

「街を回ってるときに盗賊ギルドの下っ端に襲撃を受けました。隠れていた俺の気配に気付けたのは大したもんでしたが、腕の方はそれほどでも無かったですね。ただ倒した奴から情報を聞き出そうとしたら他の奴らが駆けつけてきまして。キリがなかったんで適当なところで切り上げて撒いてきました」

「そ、そんなに盗賊ギルドの人がいるんですか……」

「お前さんなら油断しなけりゃ何とか出来るさ。もう少し自信持っていいぞ~(あれ以上の実力者が出てくると厳しいかもしれないけど。まぁいざという時は助太刀しましょうかね)」

 

 トラノスケはキルシェットを励ましながらも冷静に相手と彼の実力を推し量り、敵わない相手が現れる可能性を考える。

 ごく自然に手助けを考える程度に彼は目の前のまだまだ青臭い少年冒険者を気に入っていた。

 

「次にギルドって集団についてですが、建物の周りは完全に包囲されてましたね。どうにか侵入しましてギルド長を名乗る人間と接触できました。聞いた話によるとタツミさん並か、それに近い実力者は数日前から揃って街の外に出払っていたようです。今回の騒動が起きたのも戦力がいなくなった後だったそうで、残っていたそこそこの腕利きは全員武器を没収されてギルド内に軟禁状態でしたよ」

「それだけの戦力をまとめて外に出した? そうしないといけない依頼が来たって事か?」

「ええ。タツミさんのおっしゃっていた瘴気を纏った魔物が出たという話です。しかも2箇所に」

「!! そういう事か。……だがギルドの連中が瘴気の件で動くのを完全に見越したタイミングで占拠が行われている。こうなってくると依頼自体がギルドの戦力を街から引き離す罠としか思えないな」

「まったくです。ただギルド長殿が言うにはクエストを遂行させる日は慎重に選んだという事です。入念な調査を行って国軍が何もしないだろう期間を狙ったんだそうですが……」

「それすらも見越されていた? 完全に国軍の方が上手って事か。しかもそんな所でだけ両軍とも息が合ってるって言うのが、またきな臭いな」

「そこについては捕まった時にギルド長も疑問に思ったようですね。ただ疑問に思っても調査出来るような状況じゃないんです。危害こそ加えられていないものの何もない倉庫に冒険者や他の職員まとめてすし詰めにされてまして」

「なるほど……」

「あと兵士たちの状態が普通じゃないのは接触した人間の共通認識のようです。冒険者の罵声にもギルド長殿や職員の説得にもまったく耳を貸さず、目だけが異様に血走っていたと。あとこれが最大の疑問なんですが……ギルドを占拠する際、東軍は正面入り口から、南軍は裏口からほぼ同時に入ってきたそうです。まるで事前に打ち合わせでもしていたかのように見事な分担作業で冒険者や職員を無力化して回ったと。まぁお互いに目を合わせても一言も言葉を交わさず、まるで相手を存在しないものとして扱っていたようですが。普段、あれだけ顔を見れば敵意を剥き出しにして罵声を浴びせあうような連中が、目的があるとはいえあそこまで徹底された無駄のない動きを協力して行う事がギルド長殿にとっては驚きであり、疑問を通り越して不気味で仕方ないとおっしゃってました」

「……何かで操られている可能性が上がった、か?」

 

 タツミは報告された情報を頭の中でまとめ、次の行動を考える。

 

「これまでの情報をまとめると……どうにも国軍は、少なくとも行動を起こしている末端の兵士たちは何らかの術による操作を受けている可能性が高い。実働部隊であるこいつらの術を解ければ国軍の動きを止められるかもしれない。症状を調べるには……兵士をどこかで捕まえて状態を調べらないと駄目だな」

「連中はどうやら3人1組でその辺を見回ってるみたいですから……まぁ連れてくるだけなら出来ない事はありませんよ。ただ見回りがいなくなったとなれば何かあったって事はすぐばれますね」

「俺たちの事は盗賊ギルドも国軍も警戒してる。何かあればまず疑われる。やるにしてもタイミングを見計らわないといけないか」

「ですねぇ。ここも既に張られてますし」

「ええっ!?」

 

 さらりと言われた言葉に動揺してキルシェットは声を上げる。

 

「気配を探知してみろ。宿の外に7人いるぞ」

「えっと……あ、本当だ」

 

 タツミに冷静に指摘され、彼は言われた通りに周囲の気配を探るとすぐにそれらの気配が探知できた。

 

「今回の一件、盗賊ギルドにとって都合が良い方向に事態が動いているように見える。国軍の様子がおかしい事もあるし、奴らについてもっと詳しく調べる必要があるな」

「しかし下っ端を捕まえても情報を持ってるかどうかわかりませんよ?」

 

 タツミはトラノスケの指摘に顎に手を当てて考え込む。

 タツミたちに部屋の鍵を渡してからもその場から動かない人物の気配を探り、そして立ち上がった。

 

「下っ端が駄目なら上の人間に聞くしかない。トラノスケ、手伝え。キルシェットとオイチはここで待っていてくれ。襲撃への警戒はしておくようにな」

「……なんか宛てがあるんですね? 了解です」

「え、えっと……わかりました」

「お気をつけて」

 

 トラノスケを伴い、タツミは居残り組みの言葉を受けて部屋を出る。

 階段を降りるとタツミが事前に探知した通り、宿の受付にシルドルがいた。

 

「おかみ、ちょっと聞きたい事があるんだが今いいだろうか?」

「うん、なんだい? ってそっちの人が後から合流するって人かい?」

「ええ。ちょっと無作法者でして、俺たちの姿が見えたからって部屋の窓から入ってきてしまったんです。ですので一応、全員揃った事をご報告に」

「はぁ、ご面倒をおかけしました」

 

 タツミが何をしようとしているのかわからず、とりあえず話をあわせてシルドルに頭を下げる。

 

「あ、いえいえ。特に物を壊したという事でないのならお気になさらず」

 

 頭を下げる客に対して、軽く手を振りながら気にしていないと意思表示するシルドル。

 しかしその目は困惑した様子で頭を下げたトラノスケではなく、彼を連れてきたタツミを窺っている。

 

「まぁこれはただの口実なんですがね。少しお話を聞いてもよろしいですか、盗賊ギルド長『シルドル・リバーサイド』さん?」

「「!!」」

 

 タツミの言葉を受けてトラノスケは真剣な表情になり、右腕を逆の腕の服の裾に潜り込ませ、いつでも武器を放てるように構える。

 シルドルはタツミの言葉に一瞬驚くもすぐに諦めたように肩を落とし、受付机に両肘をついてタツミの顔を注視した。

 

「盗賊ギルド関係者だって事はばれているとわかっていたけれど、まさか頭だって事も本名まで知られてるとはね。ボロは出していないつもりだったんだけど」

「わかる人間にはわかるって事です(実際はただステータスを見て気付いただけなんだけどな)。まぁそれはどうでもいい。聞きたい事は1つ。今、この街で起こっている東と南の戦争もどきについて盗賊ギルドはどこまで関与していますか?」

 

 タツミは受付机に手を付き、意図的に上から見下ろすようにしてシルドルに話しかける。

 受ける側からすれば溜まったものじゃない程の威圧感が彼女の身体に圧し掛かかった。

 さらにその後ろではトラノスケが冷たい視線を彼女に向けている。

 

「……盗賊ギルドは今、2つの派閥に分かれているんだ。改革派と現状維持派。ほんの数日前まではここに中立派って連中もいたんだが、強硬派に取り込まれちまった。あたしは現状維持派だ。派閥の行動内容について説明はいるかい?」

「大体、言葉で察しは付くが聞かせてもらえますか?」

「現状維持派は少し前の『東と南がいがみ合い、ギルドが抑止力として睨みを利かし、盗賊ギルドが付け入る隙がある』という状態を維持したい集団だ。そして改革派は自分たちの派閥の利権拡大を主目的にしている。最終的には自分たちがこの街を支配するって大それた野心を抱いてる奴を頭にした集団の事さ」

「ソレを聞いただけで今回の騒動の元がわかりますね」

「そう。今回の騒動は改革派の頭がどうやったのか東と南の軍隊を誑し込んだ結果さ。奴と接触した軍隊の連中は今まで以上に相手国の人間を憎むようになり、その行動が激しくなり、守らなければならない人間である街の住人の事を顧みなくなった。だというのにギルドの占拠やら街の見回りやらの動きは妙に連携が取れているんだ。目を合わせれば罵り合うのに協力行動が妙にスムーズで薄気味悪いったらないよ。改革派が仲介してるとしても協力するような間柄じゃないんだから余計にそう思ったわ」

「(やっぱり何らかの力で兵士たちは操られている?)」

 

 タツミとしては同じ盗賊ギルドの人間である彼女の言葉を全て鵜呑みにするつもりはない。

 しかし先ほど仲間内で話し合った部分と一致する部分については信じてもいいだろうと考えていた。

 

「……貴方はどちらですか?」

「私は現状維持派よ。信じてもらえないだろうけど前にここに泊まった時、貴方たちを襲撃したのは革命派の連中さ。恐らく貴方たちにさっさとこの街を出て行って欲しかったんだと思うわ。それともう1つ。私としては今の状況を良く思っていないの。この街で戦争なんて起こされたら、ようやく作る事が出来た落ち着ける場所をまた失う事になるかもしれないからね。真っ平ごめんなのよ、もう帰る場所を失くすのは」

「……トラノスケ、どう思う」

「嘘は付いてないとは思いますよ。まぁ仮にも一集団の頭を張ってるんなら腹芸の一つも身に着けてるでしょうから絶対とは言えませんがね」

 

 暗に嘘をついているかもしれない、と言われたシルドルは自嘲するように笑った。

 

「それは否定しないよ。こんな半無法地帯みたいな街にずっと住んで裏の顔なんて持ってるんだ。誇れるような事でもないけど人を騙すのは得意分野さ」

「だ、そうですよ?」

 

 トラノスケに促され、タツミは受付に置いていた腕を離し今度は腕組をしながらじっとシルドルを見つめる。

 真意を測られていると悟った彼女は彼の探る視線から目を逸らす事なくしっかりと見つめ返した。

 

「改革派とやらのアジトはわかりますか?」

「すまないけどわからない。中立派を吸収してから今まで私の方でも奴らの動向は探っていたんだがアジトに繋がる情報は見つからなかったよ」

「……(ここで革命派とやらのアジト情報がポンと出てきたらこの人を疑ったんだが……判断が難しいな)」

 

 悩んでいる心中を顔に出さないようタツミは無表情を保ち思考に耽る。

 無意識に全身に力が入っている事に彼自身が気づいていなかった。

 

「タツミ殿、もうその辺で勘弁してあげたらどうですか? その人、今にもあんたの威圧で押し潰されそうですよ。嫌な汗が噴き出してますし、今にも息止まりそうなんですけど?」

「? ……っと、しまった。申し訳ない」

 

 自分の放つ威圧的な雰囲気にシルドルが息を詰まらせて脂汗を流している事に、彼はトラノスケに諭されてようやく気がついた。

 慌てて外に発散させていた体の力を抜いた。

 シルドルは彼の高圧的な雰囲気は消えた事で、糸が切れた人形のように椅子の背もたれに体重をかけて脱力する。

 

「き、きついわね……これ。もう若くないとはいえここまで気圧されるなんて。やっぱりAランク冒険者は伊達じゃないわ」

「あ~……いや、本当に申し訳なかった」

 

 深呼吸を繰り返し、荒くなった息を整えながら苦笑いする彼女に、タツミはつい反射的に謝罪の言葉を述べて頭を下げた。

 

「いいわ。あんたとしては拷問でもなんでもして私の持ってる情報を全部引き出したいって言うのが本音だろうしね」

「……おっしゃる通り不確定要素を少しでも減らす為に何でもいいから情報を、という気持ちはあります。しかし今回の件に関する情報を話して下さった貴方を信じたいとも思っている。時間もあまり無いので迷っている時間も惜しい」

 

 彼は数秒、考え込むと決断を下した。

 

「貴方を相手に拷問となるととんでもなく時間がかかりそうですし……今この時の自分の気持ちを信じて行動しようと思います。情報提供ありがとうございました、おかみさん」

「あ~、最終的にはそうなるんすね。まぁいいですけど。あ、お時間ありがとうございました」

 

 タツミとトラノスケは頭を下げて、二階へと上がっていく。

 行動を起こす為に。

 

 あっさりと去っていった2人の姿をシルドルは力が入らない身体で呆然と見送った。

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