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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
32/208

再びガレスへ

 新たにオイチとトラノスケを仲間に加えたタツミたち。

 そんな彼らの元にギルフォードから念信球での遠距離通信が届いた。

 

 極秘のクエストとして依頼された内容は、ガレスで起こっている事態への介入。

 具体的には活発化している盗賊ギルドの牽制、良からぬ事を企めないように所有している戦力を削ぐ事。

 ギルフォードの推測によれば牽制その物はタツミというAランク冒険者がガレスに入った時点で一定の効果は得られるだろうとの事だ。

 しかし同時にそれだけでは奴らの動きを完全に止める事は出来ないだろうとも予測している。

 タツミの存在だけで牽制できるのはあくまで勢力として弱い者たちだけなのだ。

 

 東と南の軋轢の肥大化。

 彼らが暗躍する大きな隙を生み出している今の状況。

 目の前にぶら下がっている極上の蜜を、Aランク冒険者1人現れた程度で諦めるような人間ならば初めからこのような騒動に加担などしない。

 タツミの存在が牽制にならないような大勢力はむしろタツミの介入をあの手この手で阻止する為に動くだろう。

 腕が立つ者ならばタツミの命を狙うだろう、狡猾な者ならばはタツミの弱みを握ろうとするだろう。

 どちらにしろタツミが危険に晒される事に変わりは無い。

 

「これは極秘ではあるが正式なクエストだ。受けるかどうかはお前の方で決めてくれ」

 

 答えが決まったら教えて欲しいと最後に告げ、ギルフォードとの交信は途切れた。

 時間が与えられたとはいえタツミ自身の答えは決まっている。

 ギルフォードには瘴気の調査を続けてもらっている上に、自分の旅についてもかなりの援助をしてくれている。

 そうでなくても頭がおかしいと思われても不思議ではないタツミを取り巻く状況を真剣に受け止め、理解してくれた友人だ。

 そんな友人の頼みを無下にするつもりはないと彼はそう考えていた。

 

 問題はキルシェット、オイチ、トラノスケの事だ。

 ガレスで敵対する事になる戦力がどの程度かわからない為に、タツミは彼らを巻き込む事を躊躇っていた。

 そんな彼の水臭い思考は表情から丸分かりだったのだろう。

 まずキルシェットが声を上げた。

 

「タツミさん。僕にも手伝わせてください! 足手まといにはなりませんから!!」

 

 続けて静かに、しかし力強く言葉を紡いだのはオイチだ。

 

「もちろん私もお供させていただきますね。我々は仲間で一蓮托生なのですから」

「あ~、一蓮托生って言うのはなんか間違ってる気がしますけど。タツミ殿、下手な遠慮は無しにしましょうや」

 

 トラノスケの全てを見透かした上での台詞に、敵わないなとタツミは笑う。

 

「わかったよ。そこまで言うんだ。最後までしっかり付き合ってもらうぞ」

 

 観念して降参とばかりに両手を上げる彼の姿に誰とは無く笑みを零した。

 

 

 

 それからの彼らの行動は早かった。

 タツミはギルフォードに依頼受領の旨の返事をし、キルシェットはラムダの辻馬車を捉まえる為に馬車置き場に向かう。

 オイチとトラノスケは旅支度を整え、屋敷の戸締りをしつつ、今はいない部下たちへ書置きを残した。

 運良くラムダと契約できた彼らは翌日にはウインダムアを後にした。

 

「馬車の旅というのも良い物ですね」

「そういえばオイチは外出する時、いつも大名駕籠だいみょうかごだったな。こういう、景色を見ながらの移動ってもしかして初めてなのか?」

「そうですね。こうして仲間と共に肩を並べて大きな馬車に揺られて行く。それだけの事がとても楽しく感じられます」

 

 窓から入る風に気持ち良さそうに目を細めるオイチ。

 そんな彼女の様子を微笑ましげに見守るタツミとトラノスケ。

 キルシェットはまたしてもオイチの仕草に見惚れている。

 

「ふふふ、少々急ぎ足ではありますが馬車の旅を存分にご堪能ください」

「はい。よろしくお願いいたします」

 

 御者台で手綱を引くラムダの言葉に、彼女は律儀に頭を下げる。

 これから血生臭い事に関わる事になるというのに気負った様子はまるで感じられない。

 

「大きな戦に出る前もオイチはずっとこの調子だったな」

「あんなんでも緊張はしていますよ、勿論。ましてや領民の命がかかった戦とあれば、ね」

「知ってるさ。あれが強がりの一種だって事くらいはな。それくらいにはオイチの事を理解してるつもりだよ」

「そうですねぇ。姫様とあんた仲良くなるの早かったですもんねぇ(だったら気付いてくださいよぉおお!!。普通は行方不明になった友人を捜す為っつっても未知の大陸になんて行かないって事にぃいい!!)」

 

 頬を引きつらせながら内心で絶叫するトラノスケの気持ちなど露知らずタツミは対面に座っているオイチと談笑を始めている。

 

「あの屋敷、元はこっち側の一般的な家屋だったと聞いたんだが……15日足らずで改築したのか? あと畳やら掛け軸やらヤマトにしか無い物がかなりあったがあれはどこから持ってきたんだ?」

「元々、こちらのどこかに屋敷を持つつもりでしたので、材料や装飾は全て船に乗せて持ち込みました。改築についてはトラノスケたちが頑張ってくれまして2日ほどで完成させてくれました」

「ええ!? あんな家を2日で作ったんですか!?」

 

 オイチの言葉に仰天するキルシェット。

 彼の常識からすれば、あれほどの広さのお屋敷を2日で建ててしまうなど何かの冗談にしか聞こえない。

 しかしヤマトで2年もの時間を過ごしてきたタツミの反応は違った。

 

「相変わらず色々な方面に優秀だな」

「はい。私には勿体無いくらい有能で、私が胸を張って誇れる最高の御付きです」

「えっ? あれ? (優秀とか有能って言葉で片付けていいのかな?)」

 

 驚きもせずに平然と話を続けるタツミとオイチの姿にキルシェットは自分の方がおかしいのかと混乱する。

 

「あ~、キルシェット。気にしなくていいからな? お前の認識はなにも間違ってないから。自信持っていいから」

「そ、そうですか……よ、良かった」

 

 トラノスケのフォローを受けて彼は気を取り直す事が出来た。

 そんな和やかな談笑を続けながらも馬車は一定の速度で進み続ける。

 ウインダムアへ向かった時と同じく5日でサレートに到着した。

 

「(このまま何事も無くガレスに着ければいいが……)」

 

 順調な道中にふと過ぎった不安。

 それが現実になる事をこの時のタツミは知る由もないが、この予感が正しかった事をすぐに思い知る事になる。

 

 

 

 サレートでの休憩を1日で終え、ガレスに向かう道中。

 

「タツミさん! 何かが近づいてきます!!」

 

 念の為に、オイチ以外の3人でローテーションで馬車の屋根に上がり周囲を警戒していたところ、キルシェットが近づいてくる何かを探知した。

 それまで車内に満ちていた和やかな雰囲気が霧散する。

 

「人か? それとも魔物か? あと数はわかるか?」

 

 車内に緊張感が満ちる。

 タツミの問いかけにキルシェットはしばらく黙り込むとわかった情報を提示した。

 

「数は10と少し。まだ姿が見えるほど近づいてきていないので人か魔物かは判断できないです。ただ人にしては足が速い、と思います」

 

 報告を受けたタツミはトラノスケに目配せをする。

 彼は軽く頷くと馬車の窓から飛び出し、キルシェットが示した何かが近づいてきている方角へと駆け出していった。

 オイチは着物の裾から何枚かの長方形の紙を取り出す。

 紙には既に何らかの文字が書かれており、一枚一枚で書かれている文字が異なっているようだ。

 

「……ラムダさん。このまま進んでもらえますか?」

「わかりました。ご武運を」

 

 変わらぬ微笑に笑い返しながらタツミも馬車を飛び出す。

 

「キルシェットはこのまま馬車にいてくれ。今来てる奴が陽動って事も考えられる。お前は残って何かあった時に備えろ」

「は、はい!!」

「良い返事だ。任せたぞ!!」

 

 既に姿が見えなくなったトラノスケを追ってタツミは駆け出した。

 

 

 

 近づいてくる集団は異様な素早さで見通しの良い平原をひた走る。

 防御力よりも素早さを重視した身軽な服装。

 全ての人間が覆面やフード、バンダナなどで顔を隠している事から一般人であるとは考えにくいだろう。

 少しだけ露出した肌は体毛で覆われており、彼らがキルシェットと異なり獣よりの獣人である事がわかる。

 彼らはその全てが獣人で構成された強盗集団だった。

 

「大騒動真っ只中のガレスに行こうとするなんてな」

「運がない連中だよなぁ」

「まぁいいじゃねぇか。お蔭で俺たちはこうしてお零れにありつけるんだからよ」

「確かに。いやぁ国同士の小競り合い様々って事だな」

 

 トラノスケの特殊な訓練で培われた聴力は、走りながらも近づいてくる者たちの会話を余す事無く聞き取っていた。

 

「(ああ、ガレスってところで起きてるっていう騒動の混乱に紛れて火事場泥棒しようって連中か。って事は……何が起こってるかある程度知ってるな、たぶん。何人か生け捕るか)」

 

 彼は自身が着ている装束を一気に脱ぎ捨てる。

 今まで着ていた白い服装から一転、中から現れたのは闇に溶け込む黒一色の装束だ。

 トラノスケは走る速度がさらに上げた。

 近づいてくる集団が気付くよりも早く、トラノスケは自身の気配を消し去る。

 キルシェットの気配遮断よりも遥かに上位の技は、正面から走り寄っている彼の気配を敵の集団に気付かせない。

 

「あっ? 今何か……ぐぇ」

 

 通り抜け様に腹部に拳を叩き込む。

 強制的に息をすべて吐き出さされた男は、そのまま意識を失った。

 

「おい!? どうし……た」

 

 倒れ込んだ男に声をかけた物の額に掌大の刃物が突き刺さる。

 深く刺さったソレは頭蓋骨を貫通し、その者の命を刈り取った。

 

「な、なんだ!?」

「構えろ!! なんかいるぞ!!!」

 

 慌てて武器を構える集団を嘲笑うように、トラノスケは1人また1人と始末していく。

 人数が半分以下になったところで、タツミがその場に到着した。

 

「て、てめぇか!? こいつらをやったのは!!」

 

 何が起きたかまったくわからない彼らからすれば、武器を片手に近づいてきたタツミが全ての元凶にしか思えなかった。

 

「……」

 

 語る時間などいらないとばかりにタツミは無言のまま刀を抜く。

 その瞬間、その場の視線と敵意がタツミに集まった。

 その隙は彼らにとって致命的な物だった。

 トラノスケが一斉に放った棒手裏剣が人体急所を貫通する。

 タツミが戦いに参加するまでもなく、集団は最初に気絶した男を除いて全滅した。

 

「正面から近づいて不意打ちが出来るなんてな。流石は忍」

「俺は忍じゃなくて隠密行動も出来る姫様の護衛ですって。何度言わせるんですか、まったく」

「ああ、そうだったな(それで誤魔化せると思ってるんだからこいつもどこか残念だよなぁ)」

 

 何もわからずに逝った者たちの躯。

 それらに対してタツミは刀を振るった。

 

「迷い出られても困るんでな。悪いが塵一つ残さん。『斬撃・爆裂』」

 

 斬撃と共に躯を焼失させる爆撃。

 その攻撃は宣言の通り、遺体を塵一つ残さず消滅させた。

 

「あとは……」

「こいつの尋問ですね」

 

 ぐったりと倒れ込み起きる気配のない男の襟元を引っつかむトラノスケ。

 

「とりあえず起こしましょうか」

「そうだな」

 

 男は目覚めた時に自分たちが余りにも分不相応な相手に喧嘩を売ってしまった事を理解し、襲う相手をしっかり確認しなかった事を後悔した。

 しかし既に後の祭り。

 火事場泥棒を徹底し自分よりも強い人間と相対する事を避けて来たこの男は、トラノスケの拷問とタツミの放つ威圧感に耐えられずガレスで起きている事に着いて知っている事を全て吐かされる事になった。

 

「ギルフォードが言っていた以上に事態は切迫してるみたいだな」

「そのみたいっすね。まさか街の中で戦争が起きかけてるなんて……こっちも一筋縄じゃ行かないって事ですかね?」

「ここまで拗れるのは珍しいんだけどな。普段ならヤマトほど国家間のいざこざが大きくなる事はない。どこかと事を構えれば他の国はもちろんギルドやそこに所属する冒険者を敵に回す事になるからな」

 

 冒険者とは国ではなくギルドに所属する。

 ギルドは各国上層部が援助しているが、指揮系統は国とは別に独立している。

 ギルドとそこに所属する冒険者は国からも干渉されない独立した戦力であり、もしも国が暴走した時はそれすらも敵に回して止める『抑止力』。

 これはAランク以上の冒険者がギルド直々に教えてもらう事項であり、頭が切れる者ならば自ずと辿り着く事実である。

 

「このガレスってところの抑止力が効かなくなってるのってなんでかわかります?」

「東と南の仲の悪さは他の国の比じゃない。いがみ合いも他の国境間よりも激しかったんだと思う。そのせいで甘い蜜を吸ってた盗賊ギルドが力を付けすぎてガレス内の国家間争いまで操作し始めたってところか。まったく……瘴気の件もあるって言うのによくこんな騒ぎを起こす気になったもんだ」

「付け入る隙が多すぎたって事ですかね? しかしこうなると俺らはどう動きましょう? 下手すると街の中にいる国軍も敵に回す事になりますよ?」

 

 タツミはトラノスケの問いかけに、目を閉じてしばらく黙考する。

 トラノスケは考え込んだ彼を急かす事なく、その口が開かれるのを待っていた。

 

「国軍に手は出さない。あちらからやってきてもこちらからは極力手を出さないようにしよう。事が大きくなるのは避けたいからな。盗賊ギルドの連中については見つけ次第片っ端から片付けていく。トラノスケにはこのままガレスに行って連中のアジトを突き止めて欲しいんだが」

「わかりました。姫の護衛としては傍を離れるのは駄目なんですけど、まぁあんたがいるし姫も強いから平気でしょ」

「ああ、オイチの事は任せてくれ」

「よろしくお願いしますよ。それじゃ先に行ってます」

 

 脱ぎ捨てた服を着直し、ガレスの方へあっという間に走り去るトラノスケを見送るとタツミもまた馬車へ向かって歩き出す。

 彼らが去って後の平原には焼け焦げた後だけが残されていた。

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