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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
30/208

ヤマトの人間との再会

 ガレスを出て5日の馬車の旅。

 交易都市『サレート』にて2日の滞在。

 そしてサレートからさらに5日の馬車の旅。

 フォゲッタからの日数は予定通りに20日。

 

 その間、魔物に襲われること6回。

 実戦でスキルを使い続けてきたお蔭で、キルシェットはスキル書で学んだスキルを使いこなす事が出来るようになってきた。

 タツミ自身も偶に出るダイスロールに冷静に対処するよう心がけるようになり、少しずつその成果が出てきている。

 尤もダイスロールは本当にいつ起こるかわからない。

 今は比較的、余裕がある状況で起きているから対処できているが、これが本当に切羽詰まった状況で起きた場合に上手く切り抜けられるかはまだまだ未知数だ。

 

 彼らはこの日、無事に目的地へと到着した。

 

「ここがタツミさんの最初の目的地……」

「ああ、『港町ウインダムア』。フォゲッタやガレス、サレートに比べると少しばかり見劣りするかもしれないが東国に置ける海路の玄関口だからな。ここならではの珍しい物も色々ある」

 

 漁師や海路を利用した運送業を生業としている筋骨隆々とした男たちが忙しなく動き回る様子が街の入り口からでもよく見える。

 フォゲッタやガレスとは違った慌しさにキルシェットは目を白黒させていた。

 

「ラムダさん。ここまで運んでいただきありがとうございました」

「いえいえ、前もって料金は全額頂いておりますから。貴方がたをウインダムアまで運んだ事は私にとって当然の事です」

 

 あくまで仕事をする人間としての姿勢を崩さない彼の態度に不快感を感じる事も無くタツミは苦笑いを浮かべる。

 これが彼のスタンスであるとこの道中で理解したからだ。

 顧客に対して深入りはせず、自身の仕事を全うする。

 職務に忠実であろうとする姿は生半可な物ではないプロ意識という物を感じさせた。

 

「ラムダさんはこれからどうなさるんですか?」

「しばらく……そうですね。5日ほどはここに滞在する予定です。ですのでまた仕事のご要望あれば是非ご一報ください」

「商売上手ですね。わかりました、何かあれば頼りにさせていただきます」

 

 淡々と今後の予定を語る彼には客引きの意図は感じられない。

 しかし彼が有能である事を知っている身からすれば、予定だけ知れれば十分な客引きになるだろう。

 辻馬車は他にもあるが、彼ほどサービスが行き届いているものはそうはいないのだ。

 

「これでもこの商売では顔が売れておりますので、あまり時間をかけられますと先客が入ってしまうやもしれません。その時はご勘弁を」

「そうなったら運が無かったと諦めますよ」

「ふふ、然様ですか。それでは、またのご利用をお待ちしております」

 

 御者台からわざわざ降りて深々と頭を下げるラムダ。

 そんな彼に2人は返礼として深く頭を下げてお礼を言った。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 

 御者台に飛び乗り馬の手綱を引いて遠ざかっていくベテラン辻馬車乗りを見送る。

 

「さてと、とりあえずは宿の確保だな(……少しでも今の状態を解消する手掛かりが見つかればいいんだが)」

「そうですね」

 

 異大陸ヤマトからグラムランドに戻った時の不自然に欠如したタツミの記憶。

 その時、自分に一体何が起こったのか。

 それを知る為にタツミは動き出した。

 

 

 

 無事に3日泊まる宿を取ることが出来たタツミたちは港で聞き込みを行った。

 聞き込み内容は『ここ一ヶ月で見慣れない服装をした者たちが乗った帆船が来なかったか』という物だ。

 

 異大陸ヤマトは日本の江戸時代辺りを模した世界観を持つ大陸だ。

 武器や防具を見てもグラムランドと異なる部分が多いのだ。

 タツミの東洋甲冑や刀はグラムランドでは見かけない造形をしているし、火縄銃はそもそも流通自体していない。

 基本文化が異なる以上、そちらの人間が来れば目立つし、噂の一つや二つにはなるはずだとタツミは睨んだのだ。

 

 とはいえタツミがグラムランドに帰還してから一ヶ月以上が経過している。

 そもそもタツミが消えたヤマトの船がウインダムアに寄港したかどうかもわからない。

 

 しかしヤマトで多大な功績を残した彼が突然消えたとなれば、騒ぎになる事は必至。

 あの大陸の人間の義理堅さを知るタツミとしてはどのような形であれ一度、グラムランドに足を運ぶだろうと予想していた。

 しかしそれでもウインダムアに寄港しているかどうかは賭けに近い認識で、破れかぶれとまでは言わないまでも情報があれば儲け物だという意識でいたのだが。

 彼の予想はあっさりと覆される事になる。

 

「……まさかこんなにあっさり手掛かりが見つかるとは」

「あ、あはははは……運が良かったんですよ」

 

 適当に聞き込みをした結果、彼らはこのような情報を入手した。

 およそ15日ほど前に造りの違う船が入港した事。

 降りてきた人間の何人かがタツミが着ている東洋甲冑と同じ造りの物を着ていた事。

 この街に長期滞在するという事でこの街の空き家を買う為に、自国の特産品だという珍しい食材や物資を交渉に用いた事。

 

「差し出した特産品の中に砂金や甲冑、さらに刀まであった以上、その船がヤマトに関係するのはほぼ間違いない。俺の事を知っているかどうかは別として……ヤマトの近況を知れるかもしれない。行かないわけにはいかないな」

「異大陸ヤマト……そんな所にタツミさんは2年もいたんですね」

 

 旅への同行を申し出た物の詳しい目的について知らなかったキルシェットは、聞き込みをする前にあらためてタツミから事情を聞いていた。

 尤もだいぶ掻い摘んでの説明な上に、ギルフォードには話している深い事情についてもぼかしているが。

 

「遭難で偶然に、だけどな。お蔭で当時持っていた武器も道具もギルドカードも全部失くした。とはいえ流れ着いた場所が良かった。完全な不審者の俺を暖かく迎えてくれた事は感謝してもし切れない。住めば都、なんて昔の人はよく言った物だと思うぞ」

「良い人たちなんですね」

「ああ、最初に会えたのがあの人たちで良かったと心の底からそう思う」

 

 談笑しながら漁師に教えてもらった見慣れない人物たちが住んでいるという家に向かう。

 住宅街でも外れの方らしく人通りは疎らだ。

 あるいは自分たちと毛色の違う人間を避けているのかもしれない。

 

「……もらった地図に寄ればここのはずなんだが」

「えっと、普通の一軒家って話でしたよね?」

「そう聞いてるぞ」

 

 到着したそこは明らかに普通の一軒家ではなかった。

 というよりも西洋建築ですらなかった。

 

「(どう見ても東洋建築、それも武家屋敷じゃないか。たった15日で改築したって事なんだろうが……誰か知らないが無茶苦茶な事をするな)」

「えっと、どうしましょうか?」

 

 見た事の無い外観をした家に入るのを躊躇い、困った顔でタツミを窺うキルシェット。

 迷っていても仕方が無いと思ったタツミは意を決して先陣を切るように屋敷の敷地に足を踏み入れた。

 引き戸を軽く叩きながら、中にいる人間に声をかける。

 

「ごめんください! 誰かいらっしゃいませんか!?」

 

 しばしの沈黙。

 すると誰かがこちらにやってくる足音が彼らの耳に聞こえてきた。

 

「は~い。どなたですか?」

 

 ガラガラと引き戸が開かれる。

 声から既に察していたが出てきた人間は女性だった。

 この大陸では流通していない藍色の着物。

 どこか少女のような幼さを残しつつも美しく整った顔立ち。

 新雪を思わせる真っ白な肌。

 腰まで届くほどの長さのさらさらとした黒髪が彼女の挙動に合わせて揺れる。

 

「……」

 

 グラムランドではまず見ることの出来ない東洋の美女に、キルシェットは言葉もなく見惚れた。

 タツミはその『見知った顔』の存在に思わず額を押さえて空を仰ぐ。

 彼女はタツミの顔を見て驚きに目を見開き、次いで花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。

 

「なんでここにいるんだ? 『オイチ』」

「お久しぶりです、タツミ様。こうしてご無事な姿を見る事が出来て、オイチはとても安心いたしました」

 

 彼が搾り出すように問いただすのに対して、緩やかな態度のまま答えになっていない答えを返すオイチと呼ばれた女性。

 そのやり取りで知り合いであると判断できたキルシェットは首を傾げつつ疑問を口に出した。

 

「お知り合いですか? タツミさん」

「あら? ごめんなさいね、坊や。気付かなくて……私はオイチというの。ただの世間知らずの娘よ。貴方は?」

「あ、えっと僕はキルシェットって言います。タツミさんと一緒に旅をしています!」

「まぁ、タツミ様と一緒に? それはさぞ楽しそうですね。羨ましいわ」

 

 放っておくといつまでも続きそうな穏やかなやり取りに思わずタツミは割って入った。


「いや、そうじゃなくてだな。オイチ、二度目になるがヤマトにいるはずのお前がなんでここに……」

「ああ、それはですね」

 

 オイチが彼の問いかけに答えようとするが、そこで屋敷の奥からドタドタとした足音が割り込む。

 

「姫様ぁあああ!! 来客はまず俺が応対するから奥で待っててくださいっていつも言っているじゃないですかぁああ!!」

「わわっ!?」

 

 茶色かかった黒髪を振り乱しながら鬼のような形相で駆け込んでくる男性の姿にキルシェットは怯え、思わずタツミの後ろに隠れてしまった。

 整った顔立ちも今はその形相で台無しである。

 しかしけたたましい音を立てながら走りこんできたというのにその挙動には隙が見当たらない。

 オイチ同様、この大陸では見られない宮司を髣髴とさせる和装が良く似合っている。

 静かに佇んでいれば女性の方から寄ってきただろう。

 やはり慌しい雰囲気とその形相で台無しだが。

 

「あら、トラノスケ。戦時中でもないのにそんなに怖い顔をしてはいけませんよ?」

 

 そんな形相の男性の顔を目の前にしながらも、オイチは自分のペースを崩さない。

 諌められ完全に勢いを削がれてしまったトラノスケと呼ばれた男は、何か言いたげに口を開く物の何も言えずに肩を落としてため息を零した。

 

「それよりもトラノスケ。喜びなさい、行方不明だと報告されていたタツミ様がいらっしゃいましたよ」

「へっ? あっ……た、タツミ殿?」

 

 マイペースなオイチの言葉を受けて、ようやくこの場に自分たち以外の存在がいる事に気付いた彼はタツミを指差して身体を震えさせた。

 

「久しぶりだな、トラノスケ。元気なのは今のやり取りでよくわかったが……オイチもそうだがいい加減なぜここにいるのか答えてくれると嬉しい」

「いやいやいや……なに何食わぬ顔してるんですか!? あんたを送り出した船の連中からあんたが船を襲った黒い靄みたいなのに飲み込まれて行方不明になったって聞いて! オイチ様も俺も、イエヤスの大将もめっちゃ心配してたんですからね!! そこんところわかってますか!?」

「ちょっと待て。俺がなんだって?」

 

 身を乗り出して捲くし立てるトラノスケに、タツミは思わず仰け反りながらも聞き逃せない言葉を聞きつけ真顔で問い返す。

 

「……どうやら色々と整理しなきゃならないみたいだな。俺も、お前たちもお互いに聞きたい事があるようだし……中に入ってもいいか?」

「そうですね。どうぞ、中へ。何もない所ですがせめてお茶と菓子をお出しします。トラノスケ、準備をお願いね」

「ああ、もう。どーして俺の周りにはこう我が道を行く感じの人間ばっかり……わかりました、わかりましたよ! ご用意すりゃいいんでしょ!!」

 

 ドタドタと足音を鳴らしながら肩を怒らせて屋敷の奥へ引っ込んでいくトラノスケ。

 その背中を見てくすくすと笑いながらオイチはタツミとキルシェットに微笑んだ。

 

「慌しくなってしまいましたが、どうぞ中へ。歓迎いたします」

「ああ、よろしく頼む(なんだかややこしくなりそうな予感がする)」

 

 一抹の不安を抱えながら、タツミは玄関をくぐって武家屋敷へと足を踏み入れた。


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