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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
29/208

彼らの道中

 ガレスを後にしたタツミたち。

 国境を抜けた彼らは無事に東の国『イース』に足を踏み入れた。

 と言っても馬車に揺られている状況はイースに入る前と変わらず。

 彼らは移動中の時間をそれぞれの鍛錬時間として各々のレベルアップに努めていた。

 

 タツミは座席に両足で胡坐を組み、目を閉じて静かに意識を集中させている。

 彼の頭の中では以前も行っていたコマンドスキルの仕分けが行われていた。

 フォゲッタを出てから空いた時間があればこの作業に従事していたお蔭でようやく終わりが見えてきた所だ。

 特に何事もなければ休憩を挟みながらでも今日中に終わるだろう。

 

 キルシェットはその身軽さで馬車の屋根に登り、周囲の景色を眺めながら気配察知の鍛錬をしている。

 気配察知で探知できるのはあくまで敵意や悪意を持った何かが周囲にいるかどうかまで。

 それがどういう存在か確認するには視覚に頼らなければならない。

 感じ取る事が出来た気配が、どこまで自分の目で確認できるのか。

 街中の人混みでは切り分けが難しかったが、人通りの少ない馬車道でならば遥かに容易い。

 そう自分なりに考えた末の鍛錬方法だった。

 

 ガレスを発って2日、それぞれにやってきた事の成果が現れ始めた頃。

 遮る物のない大平原を悠々と進んでいた彼らの元に襲撃者が現れた。

 

「あれは……『ホーンラビット』、それを追いかけてるのは『ブラッドライガー』?」

 

 彼の視界に映ったのは血が乾いたような錆色の体毛を持ったライオン型の魔物が、頭に一本角を持つ兎型の魔物を追いかけている姿。

 おそらくはブラッドライガーによる狩猟なのだろう。

 馬車に向かって走ってきているもののキルシェットは彼らから自分たちに対しての敵意が感じられなかった。

 

「タツミさん、ラムダさん! ホーンラビットとブラッドライガーがこちらに向かってきています!!」

「っ!?」

 

 傍目から見れば瞑想しているように見えていたタツミが目を見開き立ち上がる。

 

「正面から来るブラッドライガーを振る切れますか?」

「荷物の量と馬車の強度を考えますとほぼ不可能ですね」

 

 御者台の窓越しにラムダに問いかけると、いつもよりも少し固い声だが即答が返ってきた。

 

「そうですか。なら馬車を止めてください。止めた後は馬を宥めてこの場から絶対に動かないようにお願いします。ホーンラビットはともかくブラッドライガーは人間も襲いますし、ラピッドホースは奴らにとって格好の餌です」

「わかりました。ご武運を」

「ありがとうございます」

 

 立てかけていた袋から刀を取り出して腰に佩き、タツミは馬車から飛び降りる。

 同時にラムダが手綱を引いた。

 三頭のラピッドホースたちが嘶き、馬車が動きを止める。

 

「キルシェット、行くぞ!」

「はい!」

 

 呼びかけに応じてタツミの横に屋根から飛び降りたキルシェット。

 既に腰に下げていたナイフを右手に逆手にして握り締められている。

 並び立った2人は同時に地を蹴って駆け出した。

 

「近づいてくる2種類の魔物と戦った事はあるか?」

「はい。ホーンラビットは森の中をすばしっこく動くので捕まえるのに苦労した覚えがあります。ブラッドタイガーは両手両足の爪が鋭い上に動きも素早くて倒すのが大変でした」

「知っているかもしれないが一応伝えておく。ホーンラビットは身体を隠せる遮蔽物が無いと本領を発揮できないからその時ほど苦労はしないはずだ。角で攻撃してくる事を除けば普通より素早いだけの兎だからな。あとブラッドタイガーの攻撃は決して正面から受けるな。一撃を交わした所に胴体にカウンターでナイフを叩き込め。狙うのは出来れば腹部。手足は細いが割と頑丈だし、背中もあの体毛のせいで刃が通りにくいからな」

「わかりました!」

 

 タツミとして持っている知識を引き出し、簡単に魔物の解説をする。

 一字一句聞き逃さずに返事をするキルシェットに彼は満足そうに頷く。

 

「俺は出来るだけ敵を引き付ける。キルシェットは俺も無視して馬車に行こうとする奴を優先して叩いてくれ。今のお前ならそれくらいの距離の敵の動きは把握できるはずだ」

「やってみます!」

「いい返事だ」

 

 前方から迫ってくる人間に気付いたのだろう。

 ブラッドタイガーが3体、威嚇するように吼えた。

 5羽のホーンラビットは逃げるのに集中するあまりタツミたちに気付いていない。

 

「これならホーンラビットは見逃してもいいな。キルシェット、向かって右のタイガーを頼む」

 

 返事を待つ事無くタツミはさらに加速、タイガーたちの行く手を阻むように仁王立ちした。

 彼の足元を哀れな獲物だった兎たちが通り抜けていく。

 タツミが邪魔で獲物を終えなくなったタイガーたちは彼と相対するように足を止めると唸り声を上げた。

 

「はっ!」

 

 動きを止めたタイガー。

 その1体の横っ腹にナイフが突き立てられる。

 タツミに意識が向いたタイガーたちは、気配遮断をして忍び寄るキルシェットに気付くことが出来なかった。

 

「よし!」

 

 キルシェットは確かな手応えを感じつつ、深く刺さったナイフを引き抜きタイガーの腹を蹴飛ばす。

 仰向けに倒れたタイガーは痛みにじたばたともがきながら悲鳴を上げた。

 

「その調子だ! 残りもお前が倒せ!」

「はい!!」

 

 再度、キルシェットの気配が消える。

 まるで目の前から消えたように見えた残りのタイガーは困惑したように周囲を見回した。

 

「お前たちの相手はこちらだ!」

 

 死角に入り込もうとしているキルシェットから意識を逸らす為、タツミは足をその場で踏み鳴らし、さらに大きな声を出してタイガーにコマンドスキル『挑発』を実行する。

 タイガーはキルシェットを探す事よりもタツミを攻撃する事を優先し彼目掛けて一足飛びで飛び掛かった。

 

「ふっ……」

 

 向けられる前足の引っかき、常人では骨を砕かれるだろう体当たりを躱す。

 彼は気配が極端に薄める事で視界から消えたキルシェットの気配を感じ取り、彼が攻撃しやすいようにタイガーたちの攻撃を避け、動き回って誘導した。

 先ほど仲間を倒した存在の事を意識の外に追いやってしまったタイガーに、死角から迫るキルシェットの一撃を避ける術はない。

 

 タツミは今回、積極的に敵を倒すつもりはなかった。

 そもそもタツミが攻撃に参加すればこの辺りの魔物は文字通りの意味で瞬殺出来る。

 ゲーム的に考えてもレベルの差がありすぎて、手加減する事も出来ない。

 だからタツミは自身を矢面に立てつつ、キルシェットに経験を積ませるように動く事にしていた。

 

「ッシ!」

 

 タツミに意識を向けがら空きになったタイガーの腹部にまたしてもナイフが突き立てられる。

 キルシェットは突き刺さったナイフを捻り、刃を抉り込むより深く突き立ててから勢いよく引き抜いた。

 血飛沫が舞うよりも早く、キルシェットはまたしても掻き消えるように残ったタイガーの視界から消える。

 その素早い身のこなしにはタツミすらも舌を巻いていた。

 

「(凄いな。俺が意識して援護しているとはいえ気配遮断をここまで上手く使えるなんて)」

 

 あっという間に仲間がやられ、恐怖を感じたのかタイガーからタツミに向けていた敵意が無くなった。

 逃亡を図ろうと彼に対して背を向けて駆け出す。

 

 その判断は正しい、しかし行動をするのが遅すぎた。

 どこからともなく飛んできた投げナイフが虎の顔に突き刺さる。

 飛んできた勢いが強かった為に、地面に倒れ込んだタイガーの額に正面から飛び掛ったキルシェットのナイフが突き立てられた。

 

「っ、これで……終わりだ!」

 

 掛け声と同時に両手で力一杯に突き立てたナイフが額の骨を砕き脳ごと串刺しにする。

 大地に命を吸われ、じたばたしていたタイガーの両手両足から力が抜けた。

 

「お見事。お疲れ様だな」

 

 タイガーの顔面に突立てた2本のナイフに付いた血を払い、後ろ腰に差し直しながらキルシェットはほっと息をついた。

 

「はい、タツミさんもひきつけ役ありがとうございました」

「大した事はしていないけどな」

 

 念のため、タイガーの死骸を調べる。

 例外なく息を引き取っている事を確認するとそれらを集めた。

 タツミは刀を抜き上段に構える。

 

「『斬撃・爆裂』」

 

 死骸に向けて振るった刃、同時に発生した魔法陣から炎が現れ爆裂した。

 タイガーの躯は塵も残さず焼失する。

 

「(死骸の匂いに他の魔物が引き寄せられないとも限らないからな)」

 

 最低限の処理を終えた彼らは馬車に向かって歩き出す。

 同時にタツミの頭にサイコロが舞った。

 

「うぉっ!」

「わわっ!? ど、どうしたんですか、タツミさん!?」

 

 思わずその場で身構えたタツミに驚きながら問いかけるキルシェット。

 サイコロが出した結果は『1』。

 その最悪の数字を見たタツミは反射的にお気に入りリストの先頭に設定したコマンドスキルを使用した。

 

「(『運命逆転』!)」

 

 『1』だった結果が『6』に変わる。

 タツミは素早く周囲を観察すると先ほどまで死骸があった場所に何かが落ちている事に気がついた。

 人差し指ほどの長さに乳白色のソレは妙に鋭い形をしている。

 

「これは……ブラッドタイガーの牙か?」

 

 彼は反射的にステータスを開き、拾った爪が何であるかを確認する。

 

「珍しいな。これ、魔法対抗力を持った牙だ」

「えっ? 魔法対抗ってドラゴンとかの上位種族の魔物しか持ってないんじゃあ?」

「偶に突然変異する奴がいるんだ。ただ戦闘中に気付くのは難しいし、気付いたところで上手く剥ぎ取れなければ効果は消えただの牙に劣化してしまう。どうやら今回、魔法系の技で死体を焼失させたのが良かったみたいだな」

 

 手に持った牙をクルクルと回しながら説明するタツミ。

 

「質も良いみたいだし、腕のある鍛冶屋に頼んで武器の加工材料に使えば武器その物に魔法を切り裂く能力が備わるかもしれない」

「それは凄いですね!」

「まぁもしかしたら、だしな。ただこれを使った武器の質が良くなるのは間違いない」

 

 掘り出し物を手で弄びながらタツミは止めた足を再開、キルシェットと談笑しながら馬車へ戻っていった。

 

「(今回は思わず使ったが……『運命逆転』は使いどころが難しい。回数としては残っていたのに使う事を思いつかずに使えなかった時もあるし。……どんな時にダイスロールが起きても良いように心構えだけでもしておかないといけないな)」

 

 次なる課題を胸に秘めて。

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