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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第三章
24/208

苦悩の乗り越え方と新たな手掛かり

「どうしたの、双葉君。なんか目の下に隈出来てるよ、寝不足?」

 

 欠伸を噛み殺しながらキーボードを叩いている辰道に、たまたま通りかかった嶋から声がかけられた。

 

「ちょっと最近、寝付きが悪いんです……」

「おや、そうなのかい? まぁ君、色々あったからねぇ」

 

 『色々』と言うのは高校生2人を助けた事とそれから始まった一連の出来事の事を指しているのだろう。

 あれからしばらく辰道の周囲には善悪問わず様々な人間が寄り付くようになり、気が休まる事がなかった。

 今も燻っているようだが、それは彼自身が上手く躱し、事無きを得ている。

 両親や友人にもインタビューなどがあったようだが、そちらも今は沈静化していた。

 

「自分では大丈夫だと思っていてもストレスって溜まっていくもんだし、折を見て病院に行きなよ?」

「そうですね。今週末にでも行ってみます」

「うんうん。何事も早期解決しないとねぇ。あ、飲みに行くなら付き合うよ?」

「あ~、考えておきます」

 

 コップを傾ける仕草をしながらぼんやりとした笑みを浮かべる上司に、言葉を濁しながら苦笑いを返すと彼は再びモニターを見つめながらキーボードを叩き始めた。

 

 

 彼が寝不足である理由。

 それはあちらの世界で体験した記憶のフラッシュバックが原因だった。

 あちらの世界では常に身近にある死。

 その光景がこちらに帰ってきてから2日経った現在も彼の寝付きを悪くしていた。

 

 身体を動かしている時、仕事をしている時、何かに集中している時は忘れていられる。

 しかしいざ眠るという段階になると瞼の裏にその光景が蘇ってしまうのだ。

 こちらの世界に戻ってきた時のように猛烈な吐き気や悪寒を催す事はなくなったが、それでも睡眠時に思い出してしまうと眠る事は出来なくなってしまう。

 逆に神経が張り詰めて目が冴えてしまうくらいだ。

 

 あちらの世界に行ってから向上した体力のお蔭か、仕事に支障は今のところ出ていない。

 しかしこのままいつまでも寝不足が続くようだと、肉体的にも精神的にも潰れてしまうだろう事は容易に想像できた。

 

「(かと言って正直に全部話す事は出来んしな。適当な事を言って睡眠導入剤をもらうのが手っ取り早いか? いや確か市販されてる薬もあったはず。医者にかかる前にそっちか?)」

 

 モニターと向き合いながらタツミは帰り道で寄る事が出来る薬局を頭の中でピックアップし始めた。

 

 

 

「(……ん?)」

 

 仕事を終えた帰り道。

 辰道が予定通りに買った薬局のロゴが入ったビニール袋を片手に歩いていると、彼の身体から東洋甲冑を纏った男が浮かび上がるように出現し、彼に並ぶように降り立った。

 

「(また何か見つけたのか? 俺はこの辺で時間を潰しておいた方がいいか?)」

「(ああ、少し出てくるわ。家の場所はもう大丈夫だから先に帰っててくれ)」

「(わかった。くれぐれもやり過ぎないようにな?)」

「(少し脅かすだけだよ。こういう時、相手から見えないのに触れるってのは便利だな)」

「(どこに見える人間がいるかわからないんだから過信は禁物だぞ?)」

「(おう、それじゃ)」

 

 一足飛びで路地裏に消えていくタツミ。

 その後姿を見送ってから辰道は何事も無いように帰路に付いた。

 

 

 この後、路地裏で伸びている3人の少年が発見された。

 少年たちはいわゆる不良で夜な夜な気弱そうなサラリーマンに絡み、ひどい時は恐喝なども行っている。

 そんな彼らはこの日もいかにもな中年サラリーマンに目をつけ路地裏に連れ込み恐喝しようとしたところ、どこからかもわからない謎の衝撃を身体に受けて1人残らず昏倒させられた。

 サラリーマンは自分に害を加えようとした少年たちが昏倒していく様を見て、混乱しながらも通報。

 

 当事者である不良たちも自分たちがどうやって気絶させられたかわからず、連行されてからも終始困惑していた。

 被害者のサラリーマンの言葉も混乱していて要領を得なかった。

 警察は少年たちを昏倒させた手際が良すぎた為に被害者であるサラリーマンにこのような真似は出来ないと判断。

 第三者が介入したのだろうという結論に至り調査を行ったが、その正体については分からず仕舞いとなっている。

 

 それも当然だろう。

 少年たちを一撃で昏倒させた張本人は、ほとんどの人間の目に映らない透明人間や幽霊の類なのだから。

 

 

「もっと手を広げないと駄目か」

 

 自宅のパソコンと向き合い、辰道は1人ぼやく。

 自身を取り巻く状況の調査として以前からやっていた『The world of the fate』の掲示板の確認。

 未だに有力な手掛かりは掴めていない。

 ゲーム関連の記事だけでなく、もっと広い範囲を調べる必要がありそうだと辰道は感じていた。

 

「となると……オカルト板か?」

 

 非現実的な現在の状況はオカルト関連に分類されるだろう。

 しかし先の掲示板の件でもそうだったが、起きた出来事をそのまま書くことは出来ない。

 情報提供しやすいような、食いつきやすそうな内容にしなければ情報も集まらない。

 

「適度にオカルトっぽいとなると……『窓の無い塔』か? 『自分にしか見えない人間』って言うのは妄想乙で片付けられそうだ。寝た時に見た物だからこちらの世界で情報が集まるか微妙だが、何もしないよりは……」

 

 こうして彼はオカルト板に『奇妙な建物を見た』というタイトルのスレッドを立てた。

 窓の無い塔の概要について自身が見た物そのままを記載し、他に同じような建物を見た人間がいないか、似たような話を聞いた事がないかを教えあいたいという趣旨だ。

 塔と限定しなかったのは似たような事象があれば参考にしたいと考えたからだ。

 

 辰道は正直、有力な情報が出てくるかは可能性としては低いだろうと思っている。

 元々、他に調査のアイディアが思いつかなかった為の破れかぶれに近い心境で取った行動だ。

 実りが無い事も念頭に入れていた。

 しかしこの行動のお蔭で彼はとある情報を手に入れる事になる。

 

 

「ただいまっと」

「ああ、おかえり。タツミ」

 

 突然聞こえてきた声に、しかし動じる事無く辰道は振り返る。

 音も無く帰って来たタツミが甲冑を外したラフな格好でソファに寝そべっていた。

 よほどソファが気に入ったようで、まだ2日しか経っていないというのに既にそこで横になるのが当然といった態度である。

 

「しかしこっちの世界も完全に平和ってわけでもないんだな」

「そっちに比べれば随分マシだと思うがな。……少なくともこの国ではあんな風に人の死を身近に感じる事は少ない」

 

 ぼやくようなタツミの言葉に辰道は答える。

 だが言葉の後半はタツミに向けての言葉というよりも自分に言い聞かせるような響きだった。

 

「……まだキツイのか?」

 

 それを敏感に感じ取ったタツミは、ソファから起き上がり辰道に視線を向けながら問いかける。

 自身の内心を察知された事に苦笑いを浮かべながら彼はタツミにこう応えた。

 

「これでもマシになった方だ。そのうち慣れるさ」

「……俺だって人が死ぬのに慣れてるってわけでもないぞ? 知り合いが死んだら泣き叫ぶかしばらく呆けるか……とにかくショックは受けるだろうしな。むしろ慣れちゃ駄目だし、そんなのは人間じゃ無理だ」

 

 タツミの言葉は辰道にとって意外な物だった。

 死が身近なあちら側の世界の人間なら、他者の死にも慣れている物だと心のどこかでそう思っていたのだ。

 そう思っていたからこそ自分も慣れなければならないと考えていたのだから。

 

「だがいつまでもこれで不調になっているわけには……」

「だから不調を治そうとするのは良いんだよ。その手段として死ぬのに慣れて何も感じなくなっちゃ駄目だって話だ。誰かが死んだ時に顔色一つ変えないような奴はもう人間じゃない。そりゃ感情を隠すのが上手い奴が表面上、無表情でいる事はあるだろうけど、それは隠してるだけで何も感じないわけじゃない」

「慣れるな、と言われてもな。じゃあどうすればいいんだ?」

 

 寝不足の精神的負担から辰道はつい苛立ちで語気が荒くなってしまった。

 タツミはそんな彼の苛立ちを理解しているようで、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を続ける。

 

「今度死んでいった連中の事が頭に浮かんだらこう思えばいい。あんたらの死は絶対に無駄にしないってな」

「……」

「お前は乗り越え方を知らないだけだ。そりゃこっちの世界で生活してりゃ誰かが死ぬ所なんてなかなか見ないし、関わる事もそうは無いだろ。だから俺よりもショックはでかいし引きずっちまうのも仕方ない。ならどうすりゃいいか? 乗り越えるんだよ、自分なりの方法で。俺だったらフィンブ村の人間の死を、名前も知らない冒険者たちの死を無駄にしないって誓う。必ず瘴気の謎を掴むって誓う。そして口だけじゃないって示し続けるんだ」

 

 タツミがそうして両親の死を乗り越えた事を辰道は記憶を見て知っている。

 知ってはいたが改めて本人の口から聞かされるというのは、反論せずに聞き入ってしまうくらいには彼の心に響いていた。

 

「俺は腕は立つが、別になんでも出来るわけじゃない。自分に出来る事しか出来ないただの人間だ。なら自分に出来る事で死んだ連中に報いるしかないだろう?」

「それがお前なりの方法、か」

「さっきはこう思えなんて言ったけど、別に俺を真似ろなんて言わない。俺とお前は元は同じ魂だけど今はもう別の人間なんだから。だからお前なりの方法を見つけろよ。今は辛いかもしれないけどさ。ここで誤魔化すとそれこそ後々潰れちまうぞ?」

「……時間をくれ」

「もちろんだ。というか焦らなくていいしそもそもこの手の話に時間制限なんて無いんだよ。時間がかかって当たり前なんだからじっくり考えろ。それまで寝れないってのは……最悪俺が寝かしつけてやる」

 

 ぐっと握り拳を作るタツミに辰道は頬を引きつらせた。

 

「嫌な予感しかしないんだが……ちなみにどうやって寝かしつけるんだ?」

「首筋に手刀、顎に掌底」

「確かに記憶のフラッシュバックが起きる間もないな、それは。意識を刈り取ってるので寝かしつけているわけじゃなく気絶させてるわけだが!」

「大した違いじゃない」

「俺の身体はそっちの人間ほど丈夫じゃないんだよ!」

「ははははっ! まぁなんとかなるから安心しろって!!」

 

 真剣な空気がタツミの笑い声で霧散する。

 辰道はいつの間にか肩の力が抜けていた事に、そこでようやく気がついた。

 

「まったく(また気を遣われた、か。頭が上がらんな、ほんと)」

 

 タツミの言葉のお蔭で彼は少し気持ちが楽になっていた。

 

「(今日は昨日よりは眠れそうだ)」

 PCの電源を落としながら辰道はなんとなくそう思った。

 ベッドに入り、目を閉じる彼を辰道はほんの少しの間見つめ、ソファに横になった。

 

 買ってきた薬は封も切られずにテーブルに置かれていた。

 

 

 

 寝不足は少しずつ解消に向かい、目の下の隈も消えていった。

 裕也や同僚たちは目に見えて元気になっていく辰道の姿を喜んでくれた。

 

 日常生活のリズムを取り戻した彼は仕事に精を出すと同時に頻繁にオカルト板を覗き情報収集を行っている。

 自身が立てたスレッドもそうだが、他スレッドに似たような事象が投稿されていないかの調査にも着手し始めたのだ。

 スレッド数がかなり多いため、目ぼしい物に絞り込んでも長い時間がかかるだろう事は予想できる。

 だがそれでも辰道に諦めるつもりは無かった。

 

 昼は仕事、夜は調査。

 辰道の日常サイクルはこのようにして固まりつつあった。

 

 そして1週間が経過したある日、もうじき1000スレを迎える所になった彼のスレッドにこんな画像が投稿された。

 

 ××県の○△山、登山道を使って山登りしている途中でこんな物を見かけた。

 地図には載ってない建物だったんで思わず激写。

 しかも行きは確かにあったのに帰りに同じ道を通った時には消えてたんだが、どう思う?

 

 画像は2つ。

 同じアングルで撮られた写真で塔が写っている物と写っていない物。

 写っている塔は確かに辰道が見たあの『窓の無い塔』だった。

 

 『釣り乙』だとか『信じられない』という旨のレスが返ってくる中、辰道は簡潔にお礼のレスを入れた。

 

「自分以外にもあの塔を見つけた人がいたんですね。なんだか安心しました。けっこう心細かったですよ(笑い)。また気になったら新しいスレッドを立てますのでその時はまたご協力をお願いします」

 

 書き込みだけしてPCを落とす。

 別タブで開いていた地図で××県の○△山を検索する。

 

「そこまで遠くも無いし、登山グッズが必要って程の山でもないな。ガセネタでも一日損するだけで済む、か」

「お、なんだ? 手掛かりがあったのか?」

「ああ、そこまで高い可能性じゃないが俺たちが見たあの塔と同じものを見たって人がいた。さっそく明日、行くぞ」

「おう、了解」

 

 ほんの少しの期待を胸に彼らは明日の予定を山登りに決めた。

 そして彼らは、その山で予想外の遭遇をする事になる。

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