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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第二章
22/208

旅立つ彼に仲間が1人

 フォゲッタ周辺における瘴気の脅威は去った。

 塔が消失してからそう判断されるまで1週間もの時間を要した。

 

 冒険者たちはギルドの職員やギルド専属の腕利き調査員と連携し、アギ山中及びアスロイ村、フィンブ村跡の周辺を徹底的に捜索。

 瘴気並びに瘴気を生み出したと思われる塔がフォゲッタのギルドが管理する地域に存在しない事を確認した。

 

 調査結果はフォゲッタのギルドから近隣の街と村へ報告が行われ、これ以上の被害が無いと知ったフォゲッタへの避難民はこぞって自分たちの村へと帰っていった。

 避難民の帰還に伴い、フォゲッタの人口増加も徐々に落ち着きを取り戻している。

 

 ギルド長ギルフォードは今回の事件についての詳細をギルド上層部へと報告。

 休む暇も惜しみ、瘴気及び窓の無い塔についての情報収集を開始している。

 

 今回の依頼を受けていた冒険者たちはクエスト達成の報酬を受け取り解散した。

 幾つかのパーティは早々にフォゲッタを発ち、別の街、別の地方へと向かっている。

 タツミと縁があるパーティ『青い兜』と『アルカリュード』は今もフォゲッタに滞在していた。

 

 タツミもまたフォゲッタに滞在し続けている。

 午前はギルフォードと共に瘴気や窓の無い塔についての調査を、午後はフォゲッタに滞在しながら出来る短期間のクエストを受け、実戦を交えての資金調達をして日々を過ごしていた。

 夜は息抜きに親しくなった冒険者たちや時間が取れるようになったオーヴォルと飲みに行く事も多い。

 

 クエストには『青い兜』や『アルカリュード』の面々が同行する事もあった。

 キルシェットやカロルが同行を申し出て、勢いに負けてタツミが頷かされる、というのが一番多い。

 彼らに引きずられるような形ではあるが、他の面々とも仕事を共にするようになった。

 そうして関わりを持ってきたお蔭で、仕事以外の話をする事が多くなった。


 タツミと彼らとの仲は良好と言っていい。

 ギースやゴダは彼を頻繁に飲みに誘いに来るようになり、リドラとは戦いに有用なこの世界の薬学について意見を交わすようになった。

 アーリやルンとは訓練を共にするようになり、フィリーとは今まで冒険してきた場所について互いの印象を語り合った。

 キルシェットとカロルは特にタツミに懐いていた。

 そしてお互いにタツミが恩人である事に共感したのか、2人はいつの間にか仲良くなっていた。

 種族の違いなど些細な事のように2人が笑いあっている姿はまるで兄弟のように見えた。

 口さがない冒険者はそんな彼らの様子を揶揄してAランク冒険者に胡麻を摺っているなどと言っているようだ。

 

 

 しかし別れの時は必ず来る物。

 今のタツミには目的があり、その目的を果たすために彼はフォゲッタから離れなければならないのだ。

 

 

 

「まったく。職務怠慢も良い所だな」

 

 忌々しげに分厚い書類を机に放り投げながらギルフォードは吐き捨てる。

 ここはギルド2階にあるギルド長執務室。

 タツミは朝から呼び出しを受け、ここに足を運んでいた。

 内密な話という事で以前使った応接室よりも秘匿性の高いこの部屋にしたのだ。

 

「『瘴気についての情報はギルド上層部が管理し必要に応じて公開する』、か。理由は?」

「……『瘴気』は国が認める災厄であり脅威である。その情報の取り扱いは特に厳重にされなければならない物であり、ギルド上層部及び国家が認めた者にのみ情報を開示する。そういう取り決めが四大国とギルド上層部で成されていたのだよ。ふざけた話だ。事が起きた時に真っ先に対応するのは現地に最も近いギルドと居合わせた冒険者だと言うのに」

 

 女性と見紛う程の美貌を盛大に歪めながら説明するギルフォードの姿は異様な威圧感を放っていた。

 彼の傍についている男性秘書はその威圧感に当てられてしまったのか、冷や汗をダラダラと流して身体を小刻みに震わせている。

 誰が見てもギルフォードに怯えていると察する事が出来るだろう。

 

「俺たちが知ってるだけでも複数の村が壊滅的な被害を被った、対応した冒険者にも死人が出てる。事前に瘴気について知っていれば防げたかもしれないな」

「まったくその通りだ。何百年と前の取り決めに固執した結果がこれでは笑い話にもならん。……とはいえ開示された情報を見ると今回の件を未然に防げたかどうかはわからんな」

「どういう意味だ?」

 

 眉間に浮かんだ皺を揉み解しながら彼はタツミの疑問に答える。


「瘴気はその原因こそ不明だが、その始まりは数百年前とも数千年前とも言われている。いつだったか北の大陸で初めて観測され、以降は東、南、西、そしてまた北とこういう順番で各大陸で猛威を振るっているそうだ。周期はまちまちで数ヶ月で発生したという時もあれば向こう50年近く発生しなかったという事もある。周期こそ変動するが大陸で『時計回りに発生するという法則』は初めて観測されてから変わっていない。そういう物だったのだ、今までは」

 

 コツコツと机を指で叩きながらギルフォードは言葉を続けた。

 

「前回はおよそ30年前に北の大陸で発生している。当時のAランク冒険者及びBランク冒険者の上位を動員したという話だ。非公式ではあるがSランク冒険者も冒険者の治療に参加している。この時は強力な竜種に取り憑いていた。分かるか? 前回は『北』だった、法則通りならば次は『東』でなければならない。しかし今回、事が起きたのは『南』の大陸だ」

「パターンから外れた、か。なるほど、対策を練っていても初動が遅れていた可能性はあるな(ドラゴン、30年前。タツミと再会した時に見た記憶と大体の時期が一致する。あの時の戦いが前回だったって事か……)」

「しかし知っていれば被害を少なく出来たというのもまた事実。その辺りを突いて上層部ギルドが持っている情報を全て引き出させてもらった。結果がさっき話した事で、渡された資料がこれだ」

 

 積み上げられた紙書類を視線で示しながら彼はさらに続ける。

 

「各大陸のギルドにも情報を渡すように打診した。向こうは渋るだろうが今まで信じていた法則の一部が乱れている事はあちらの固い頭でもわかる事だ。遠からず情報は全てのギルドに公開されるはず」

「そうか。それで少しでも被害が減ればいいが」

「被害が減ればいい、ではない。減らす、あるいは無くすのだよ。私たちが力を尽くしてな」

「……そうだな。その通りだ」

 

 あちらの世界では正直者が馬鹿を見る事が多く、他者の為の自己犠牲や正義感よりも自身の為の狡賢さを持つ必要があった。

 タツミ自身、28年間の人生の中で馬鹿を見た経験はあるし、自分の為にと他者を蹴落とした事もある。

 だから真っ直ぐな意思を素直に言葉に出来るギルフォードはタツミには眩しく感じられた。

 

「熱くなってしまったな。話を戻そう」

 

 秘書官が入れたコーヒーを飲み、一息つくとギルフォードは話を再開する。

 

「窓の無い塔についてだがこれは情報が無かった。今まで瘴気が関わってきた件に塔のみならず何らかの建造物が関わっていたという記録は無い」

「今回、初めて確認されたという事か?」

「記録が確かならばそういう事になるな。つまり瘴気が発生する地域の法則が今までのパターンを逸脱した原因がその塔による物である可能性がある。だが断定するには情報が足りん。瘴気と塔の関連性は追々、調べていく事になるだろう」

「俺も手伝うか?」

「いや今は必要ない」

 

 タツミの提案をギルフォードは皮肉げな笑みと共に断った。

 

「Aランク冒険者の助力は確かにありがたいが……お前たちは一種の切り札だ。Sランクなどは最後の砦と言っていい。そんな貴重な人材を調査にまで駆り出して、いざという時に使えなくなっては困る。事前情報がある程度揃った今、調査にまでお前たちを回す必要はない。故にその申し出はありがたいが、断らせてもらおう。それに……」

 

 先ほどまでの険が消えた柔和な笑みを浮かべてギルフォードはタツミを見つめる。

 

「Aランク以上の冒険者は稀少だが、別にお前1人というわけではない。お前ばかりが義務を果たす必要もない。お前にも自分がしたい事があるだろう? 今はそちらを優先しろ」

「……いいのか?」

 

 ギルフォードの言う通り、Aランク冒険者はタツミ1人ではない。

 今回も偶々、事件の近くにいたから駆り出されたと言っていいだろう。

 ある程度の時間的猶予が見込める状況ならば、離れた場所にいる他のAランク冒険者を連れて来る事も可能だろう。

 さらにギルド長直々に好きにしろと言われた以上、何も気兼ねする事はない。

 

 しかしタツミ自身の性格から気にするなと言われても気になってしまう。

 ついつい聞き返すとギルフォードは自信に満ちた表情で力強く頷いた。

 

「無論だ。何かあった時に呼び出すAランク冒険者は既に目星をつけている。安心して、旅に出ろ。まぁ旅先で瘴気や塔について情報を掴んだら真っ先に教えてもらいたいがね」

 

 悪戯っぽく笑う彼に釣られるようにタツミも笑みを浮かべた。

 

「はは、流石に抜け目がないな。だがせっかくの好意だ。甘えさせてもらうぞ」

「ふっ、私からの話は以上だ。一応、この街を出る前日にでも、またギルドに来てくれ」

「わかった」

 

 秘書官の会釈に軽く頭を下げ、タツミは執務室を出ていった。

 残された2人の間に沈黙が訪れる。

 ギルフォードの顔からは先ほどまでタツミに見せていた友好的な雰囲気は消えていた。

 

「……さて、悪いがラヴィス君。君には少し無茶な事をしてもらう事になると思うが頼めるかね?」

「はい。どのような難題であろうと十全に」

「頼もしい限りだ。……各国と上層部ギルドが『隠している事』を調べてくれ。なるべく隠密に、そして素早くな」

「は、ではしばらくお傍を離れます故、何かあればミストレイに」

「わかっている」

「それでは」

 

 元Aクラス冒険者であり、現フォゲッタギルド長秘書官『ラヴィス・クラストロイ』はギルフォードに対して恭しく一礼するとその場から掻き消えるように姿を消した。

 

「後ろ暗い隠し事を私に隠し通せると思うなよ」

 

 剣の切っ先のような鋭い視線でギルフォードは机に積み上げられた資料を睨み付けた。

 

 

 

「そうか。近いうちにフォゲッタを出るのか」

「ああ。冒険者仲間にはもう挨拶をしてきたから明日、街を回って世話になった人達に挨拶してくる予定だ。……出る準備その物は大体終わってるから明後日には出るつもりでいる」

 

 『渡り鳥の止まり木亭』にて仕事終わりの人間が食事を、酒を楽しむ中にタツミとオーヴォルの姿があった。

 

「ぐっ、ごっほごほ!? げほ……おいおい、ずいぶん急だな」

「前から準備はしていたんだ」

 

 彼の急な言葉に飲んでいたビールを喉に詰まらせオーヴォルは激しく咳き込む。

 タツミは苦笑いしながらおどけるように肩をすくめ、オーヴォルの言葉に答えた。

 

「あ~~、そうなのか?」

「ああ。2年ぶりのグラムランドをぶらり旅しようって思ってな」

「そうか。まぁならしょうがねぇわな。冒険者なんて色んなところに行ってこそだもんな」

 

 また寂しくなるぜ、と呟きながら半分ほど残っていたビールを一気に飲み干す。

 

「だから、ってわけでもないが今日は俺の奢りだ。飲み明かそうぜ、オーヴォル」

「はは、そいつはいい。ならたっぷり飲ませてもらおうかっと。おねーさん、ビールお代わり!!」

 

 通りすがったウェイトレスに注文すると1分と経たずにビールジョッキが運ばれてきた。

 

「あんまりしんみりするのは好きじゃないからな。とりあえずお前の旅の無事を願って乾杯しようぜ」

「そりゃありがたい。なら俺はフォゲッタの発展とお前の無病息災でも願うか」

「ははは、そりゃありがたい。んじゃかんぱーい!!」

「乾杯!!」

 

 2人の飲み会は明け方まで続き、オーヴォルは当然のように二日酔いになった。

 

 それからはタツミにとってあっという間の1日だった。

 飲み会の翌日、彼はフォゲッタの街を当ても無く見て回った。

 懇意にしていたアイテム屋やタツミの鎧や刀を見たがっていたドワーフの鍛冶師はタツミがフォゲッタを出ると聞いた時、特に残念がっていた。

 碌に売り上げに貢献できなかったと言うのに餞別だと言って新鮮な野菜を持たせてくれた中年女性に、タツミは今後も頭が上がらないだろう。

 

「(ああ、本当にありがたい人たちだな)」

 

 ぼんやりとした暖かさを胸に抱き、タツミはその日フォゲッタの街を練り歩いた。

 

 最後に訪れたギルドではギルフォードに会う事は出来ず、女性秘書官のミストレイがタツミを待っていた。

 渡されたのは掌サイズの水晶球だ。

 『念信球ねんしんきゅう』と呼ばれるソレは決められた相手が持つ念信球にのみ双方向で連絡を取ることを可能にする。

 今回の場合、タツミが持つ念信球とギルフォードが持つ念信球ならば連絡を取ることが出来る。

 使い方は至って単純、手にした球に魔力を込め、送りたい言葉を球に向けて言うだけだ。

 まず試してみて欲しいとミストレイに促され、タツミは説明された通り球に魔力を込めると水晶は薄ぼんやりと輝き出した。

 

「聞こえているか? ギルド長」

「ああ、聞こえている。そちらに私の声は聞こえているか?」

「こちらにも届いている。問題ないみたいだな(ゲームにはなかったアイテムだな。魔力を使った携帯みたいな物か。他の人間と話せないとはいえ何かあった時に連絡が取れるって言うのは便利だ。)」

 

 自分が知らないこの世界のアイテムに内心で驚きながらもタツミは平静を保ちながら会話を続ける。

 

「うむ。さて仕事が立て込んでいて直接挨拶する事が出来ない事を謝っておこう。お前の旅の無事とお前の問題が解決する事を願っている」

「ありがとう。次に面と向かって会うのはいつになるかわからないが、それまで息災でな」

「ふ、ではな。何かあったらこれで連絡をよこせ。逆にこちらから連絡する事もあるだろうがその時はよろしく頼む」

「了解だ。またな、ギルフォード」

「ああ、また会おう。タツミ」

 

 会話はそこで途切れた。

 ミストレイに礼を述べ、彼はギルドを後にする。

 そしてフォゲッタでの最後の夜を彼はホテルでゆっくりと過ごした。

 

 

 そして出立の日。

 フォゲッタの北門で最後の確認をしていたところ『青い兜』と『アブソリュード』の面々が彼の見送りに現れた。

 

「タツミ、短い間だが世話になったな」

「貴方から学んだ事、今後に活かさせてもらうわね」

 

 最初に声をかけてきたのはアーリとルンだ。

 容姿端麗な2人の言葉に、タツミは他意など感じさせない柔和な笑みを浮かべる。

 

「ああ、こちらも楽しかった。縁があったらまたどこかで会おう」

 

 次に彼に近づいてきたのはこの場に集まったメンバーで最年少のカロルだ。

 じっと目を合わせる事で彼と念話する条件を整える。

 

「……(タツミさん。色々と冒険の事を教えてくれてありがとうございました。またいつかお会いできる日を楽しみにしています。その時は僕ももっと成長していますから)」

「ああ。お前がどれくらい成長しているか楽しみにさせてもらう。またな、カロル」

 

 タツミの腰に届くかどうかという背丈のカロルの頭を優しく撫でる。

 少年は目を閉じて撫でられる感触を噛み締めていた。

 

「タツミ、色々と世話になったな。また機会があったら飲もうぜ」

「ちと寂しいがまぁ冒険者なんてそんなもんだわな。今後のお前さんの活躍に期待してるぜ」

「ギースさん、ゴダさん。わざわざありがとうございます」

 

 男臭い頼もしい笑みを浮かべて話しかけてくる2人にタツミは笑顔で応じた。

 

「貴方の実戦的な薬の知識は色々と勉強になりました。旅の無事を祈っています」

「またどこかで会いましょう。身体に気をつけてね?」

「リドラさん、フィリーさん。そちらもどうかお元気で」

 

 涼しげな笑みと優しい笑みの2人にどこかほっとしながらお互いの安全を祈った。

 

「タツミさん」

 

 短い間とはいえ弟のように思い、何かとアドバイスをしてきた少年。

 キルシェットとの別れに寂しさを感じながらも声をかけようと振り返る。

 

「キルシェ、ット?」

 

 何かを決意した表情をしてなぜか大きなリュックサックを背負った彼の姿にタツミは首をかしげた。

 

「タツミさん。僕を一緒に連れて行ってください!!」

「……はっ?」


 勢いよく頭を下げられ困惑するタツミ。

 キルシェットを援護するようにギースが彼の肩に手を乗せた。

 

「あ~、なんだ。こいつ、お前に懐いてただろ。盗賊としての技術についても随分アドバイスしてたし」

 

 アドバイスは別にキルシェットに限った話ではない。

 行動を共にする事が多かった彼らには大なり小なりアドバイスをし、レア度としては低めではあるがそれぞれの職業に適したスキルの内容を掻い摘まんで教えた事もあった。

 それはタツミとしての経験とゲームとしての知識を合わせた個人個人に対して実に適切な物で、この世界の住人にとって目から鱗が落ちるといっても大袈裟ではない物だった。

 お蔭で成長の取っ掛かりを得られた彼らは今までに無い速度で腕を上げている。

 

「それでな。昨日、俺たちにタツミに付いて行きたいって言ってきた。俺たちとしても先が楽しみなこいつを手放すのは惜しい。惜しいんだが俺らと一緒にいるよりもお前と一緒に行った方がこいつの為になりそうなんでな。お前が良いって言えばって条件出したんだ」

「っつーわけでお前の答えを聞かせてくれ。安心しろ、お前が連れて行けないって言うならこの話はそこまでだから」

「いや、そう言われても……」

 

 ギースとゴダの説明を受けて尚、タツミは混乱から抜け出る事が出来なかった。

 完全に一人旅をするつもりだった所への不意打ちを受けて、自分の中で整理できていないのだ。

 

「お願いします!!」

 

 再びキルシェットが頭を下げる。

 

「俺の旅は先行きが不透明だ。どこでどうなるかわからない。何事もなければ本当に何事も無いかもしれない。逆に何か起これば命の保証はできない。それでも俺に付いてくるつもりなのか?」

 

 タツミ自身が置かれた特殊な状況を打開する為の旅。

 手掛かりがあるといっても必ずしも当たるとは限らない。

 散々苦労しても何もわからない、何の進展もしないという事も有り得るのだ。

 タツミはそんな何の成果も上げられないかもしれない旅に前途有望な若者を同行させる事を躊躇っていた。

 

「あのなぁ。お前クラスの実力者と一緒にいるってのはそれだけで勉強になるんだよ。特にこーいう勤勉で努力家な奴はな。確かに危険はあるだろうが、そんなもん冒険者してりゃ誰にだってありえる事だ」

「シンプルに答えてくれていいんですよ、タツミさん。キル君は貴方と共に行った結果、足手まといとして捨て置かれる事まで覚悟しています。それでも貴方と共に行きたいと思うその気持ちを汲んで、是否を判断してください」

 

 ゴダとリドラの言葉にタツミは黙り込む。

 全て承知で自分の旅に同行するといったキルシェットの気持ちを考えれば否とは言いづらかった。

 

「すべて覚悟の上って事か。わかった、楽しい旅になるかどうかもわからないけどそれで良ければ付いて来い」

「あ、ありがとうございます!!」

「あまり足手まといになるようなら追い出すからそのつもりでいてくれ」

「はいっ!!」

 

 嬉しさが滲み出ているその元気の良い返事に、彼は苦笑いしか浮かべられない。

 視線をキルシェットの方に向けてみれば、フィリーに荷物の最終点検をされていた。

 その甲斐甲斐しい様子からフィリーがキルシェットをとても心配している事がわかる。

 

「俺も気を引き締めないとな」

「突然の事で申し訳ない。我々も出来ればこんな強引な真似はしたくはなかったのですが」

 

 一人の命を預かる決意をしたタツミに近づき、申し訳なさそうに頭を下げるリドラ。

 

「ただ彼の気持ちを頭ごなしに否定する事も出来なかったんです。どうも私たちはパーティの末っ子である彼には甘いようで」

「可愛がってる事を悪く言うつもりはないですよ。仲が良いのは良い事だと思いますしね。ただせめて昨日のうちに行ってくれれば考える時間と心の準備が出来たんですが」

「本当に申し訳ありません。ゴダさんとギースさんが、あいつなら時間ギリギリでごり押しすりゃなんとかなる! 面倒見が良いし何よりお人好しだからな! と言われて私たちも否定が出来ず……」

「お人好し、ですか。そんな風に見えるんですね、俺は(俺自身はかなりドライだと思っているのだが、この認識の違いはどこからくるんだろうな?)」

 

 だが実際にその手に引っかかってしまったのはタツミである。

 こうなってしまった以上、お人好しというのも否定し切る事は出来ない。

 

「申し訳なく思ってるなら、次に会った時に食事でも奢ってください」

「そうですね。それくらいでキル君の事を連れて行ってもらえるなら幾らでも」

 

 タツミはどうにもならない状況に肩を落としてため息をつくと、気を取り直すように胸の前で手を打ち鳴らした。

 パンという乾いた音が辺りに響く。

 

「それじゃ少し時間がかかりましたが俺は、いや俺たちは出発します。皆さん、お元気で」

 

 タツミの言葉に慌ててキルシェットは彼の横に移動する。

 

「おう、またな。キルもしっかりやれよ」

「ではまた縁があればお会いしましょう。キル君、タツミ君の言う事をしっかり聞いてしっかり学びなさい」

「今度会ったら手合わせ頼むぜ。キルはタツミからしっかり技術盗んで強くなれよ」

「おやゴダ殿。それは私の先約だぞ。キルシェット君、武の道は険しい。毎日の訓練を欠かさないようにな」

「まったくアーリったら。こっちはこっちで上手くやるからそっちも頑張ってね。キルシェット君もよ」

「(僕ももっと精進してキルシェットさんみたいにタツミさんの旅についていけるよう頑張ります。キルシェットさんも頑張って)」

十人十色の激励を受け取ると、2人は馬車に飛び乗る。

馬車の行き先は東の大国イースの海路の玄関口といえる街『ウインダムア』だ。


「キルシェット」

「は、はい! なんですか、タツミさん」

 

 同行について色々と言ってしまった為か、キルシェットはひどく緊張していた。

 そんな彼の様子に苦笑いしながら、タツミは彼の頭に手を置く。

 

「これからよろしく頼む」

「あっ……はい! こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 これから長い長い旅をする事を運命付けられた男が最初の仲間を得た瞬間だった。


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