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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第二章
20/208

魔群撃退

 タツミが巨大リザードマンを真っ二つにし、手近な魔物数体斬り捨てた瞬間。

 巨大リザードマンの身体から『瘴気』が溢れ出した。

 瘴気は地面を伝ってタツミに剣を振りかざしていたリザードマンに接触。

 触れた足元から一瞬で全身を包み込まれたリザードマンは、瞬時に巨大化した。


 瘴気の出現からリザードマンの巨大化までの出来事が終わるまで5秒と経っていなかっただろう。

 タツミは突然の出来事に驚き自分の身を守るよう警戒する以外に反応する事が出来なかった。

 直接対峙していたタツミ以外の冒険者たちは正気を失った魔物たちとの戦いに集中していた為、その異様な光景を目撃する事は出来なかった。

 故に彼らは自身の視界に2体目の巨大リザードマンが突然現れたようにしか見えない。

 

 瘴気が魔物に及ぼした影響に気付いたのはタツミだけだ。

 

「(憑いていたリザードマンがやられたから他の奴に憑き直して能力を強化した? スケルトンの時はそんな事はしなかった……いやあの時は魔物を全て片付けてから倒したから、状況的にそうなる事もなかったんだ。くそっ! 憑き直すなんてまったく考えてなかった!! 今取り憑いたこいつを倒してもまた別の魔物に憑く可能性が高い!!)」

 

 タツミは自身に振り下ろされる両腕、打ち下ろしや爪による切り付けを避けながら考える。

 

「(今までの攻撃を見る限り巨大化したリザードマンは普通のリザードマンの数倍、下手をすれば十数倍のステータスを持っている。スケルトンの時はダメージの自動回復と攻撃力、防御力の超強化だった。見たところこいつに自動回復は無いみたいだが……先に他の魔物を片付けるにしても俺以外の冒険者がこいつに攻撃された場合、力押しでやられるかもしれない。このまま引き付けて群れが全滅するのをを待ってから倒す方が良いか!?)」

 

 狂ったように叫び声を上げて噛み付いてくるリザードマンの無防備な横っ面を、彼は腰につけていた鞘で殴りつけた。

 地面を転がり、のたうちながらうめき声を漏らすリザードマン。

 しかしすぐさま飛び起き四つん這いになるとその姿勢のまま真っ黒な瞳でタツミを睨みつけ、威嚇するように雄たけびを上げた。

 タツミは鞘を左手に、リザードマンを迎撃するよう右手一本で刀を上段に構える。

 

 場は一時的な膠着状態に陥った。

 そこにカロルが使用したエリアサーチの結界が届く。

 ダメージは無いが、全身を観察された感覚にタツミは反射的に顔をしかめた。

 タツミはリザードマンの様子から攻撃を仕掛けてこないと推測、気配察知と鷹の目を同時に発動し素早く周囲の状況を確認する。

 同時にカロルからの補助魔法がタツミにも効果を及ぼす。

 

「(……群れを片付けるにはまだ時間がかかりそうだ。しかしこの補助魔法のお蔭でさっきよりも余裕を持ってこいつの相手が出来るようになったな)」

 

 彼の思考を切り裂くように四つん這いのまま巨大リザードマンが飛びかかる。

 我武者羅に両手を振り回す攻撃はタツミを狙って放たれているものの、回避に集中している彼にはまるで当たらない。

 代わりにタツミを標的にして近づいてきていた他の魔物を殴り飛ばしてしまう有様だ。

 

「(スケルトンと比べると行動に見境が無い。サイズにあった武器がないから手足で攻撃するのはわかるが、それにしても同種族であろうと関係なしに殴るなんてな)」

 

 二本足で立ち上がったリザードマンの丸太を2、3本まとめたような太さの後ろ足が眼前に迫る。

 真上に跳躍して攻撃を避けるとそれを待っていたように、さらに右拳が振るわれた。

 

「もらうぞ、右腕!!」

 

 少しでも行動を制限する為に、タツミは風を切りながら迫る右拳を真っ向から唐竹割りにした。

 同時に脳裏に舞うサイコロ。

 結果は『2』。

 

「なっ!?」

 

 驚く暇こそあれど対応するだけの余裕は無かった。

 跳躍し、中空にいる状態で彼にサイコロの結果に対して出来る事は何も無い。

 唯一、コマンドスキル『運命逆転』を使えばサイコロの目を変える事が出来たが、突然のダイスロールに驚いた彼はその存在を思い出す事が出来なかった。

 

 止まらない刃が中指から綺麗に切断、薬指と小指がある方の腕が地面に落ちる。

 しかし想像を絶する痛みを感じるだろうはずの巨大リザードマンは、あろう事か残った親指と人差し指だけの拳をタツミのがら空きになった胸部に叩き込んできた。

 

「がはっ!?」

 

 甲冑越しでも伝わる衝撃。

 幸いにも意識を失うほどのダメージは無く、彼は吹き飛ばされた中空で体勢を立て直し着地する事が出来た。

 

「(嫌がらせとしか思えないタイミングでダイスロールが起こる!! 傷が浅くて助かったな……)」

 

 ズキズキと打撃を受けた胸が痛むが、それを顔に出さず刀を中段に構える。

 巨大リザードマンは腕が削ぎ落とされた痛みを感じている様子もなく、獲物目掛けて走り出した。

 

「(ダイスロールの結果ありきとはいえ、あの様子を見るに中途半端な攻撃はこっちの隙になるだけ……なら)」

 

 迫りくるリザードマンの左拳を左手の鞘で力任せに叩き落とす。

 地面に突き刺さった拳を横を通り過ぎ、タツミは右手の刀をリザードマンの右肩に突き出す。

 硬い鱗の表皮を砕き、彼の突きは右肩を貫いた。

 さらにそのまま下に切り下ろし、素早く刃を返して切り下ろしの軌跡をなぞるように切り上げる一撃を放つ。

 巨大リザードマンの胴体と右肩があっさりと切断された。

 宙を舞った右腕が地面に落ち、運の悪い魔物が下敷きになって息絶える。

 

「ギイヤァアアアアアアーーー!!!」


 どうやら肩ごと斬り捨てられるほどの深手のダメージは感じたらしく、巨大リザードマンは苦悶の叫び声を上げた。

 これで少しでもおとなしくなればいいとタツミが考えたその時。

 その考えを嘲笑うように巨大リザードマンの全身から瘴気が噴出した。

 

「なにっ!?」

 

 カロルの補助魔法のお蔭で余裕を持って魔物と戦っていた冒険者たちも、今度は巨大リザードマンに起きた異変に気がついたようだ。

 目の目の相手から意識を逸らす事は無い。

 しかし噴出した瘴気の様子を見て、ある者は何事か叫び、ある者は警戒するよう呼びかけている。

 

 溢れ出した瘴気は近くにいた『溶岩の大蜘蛛』と『リザードマン』に纏わりつくと先ほどタツミの前でやって見せたようにあっという間に巨大化させた。

 先ほどまで瘴気に憑かれていたリザードマンは倒れ込んだままピクリとも動かない。

 どうやら絶命しているようだ。

 

「でかくなりやがった!!」

「って事はさっきあいつが倒した奴も、今の奴も最初からあの大きさだったわけじゃないのか!?」

「大蜘蛛の糸吐きに注意しろ!! あの図体の高熱糸なんて食らったらあっという間に焼け死ぬぞ!!」

 

 怒号が響く中、巨大化した2体の魔物は真っ黒になった瞳でタツミを睨みつける。

 どうやら二度も宿主を殺した彼を最も危険な存在だと認識し、最優先目標としたようだ。

 

 タツミは深く息を吸い込み、大声で叫んだ。

 ついでとばかりにコマンドスキルを発動する。

 

「こいつらは俺が引きつけます!! その間に他の魔物を片付けて下さい!」

 

 使用したスキルは『大激励』。

 使用者の『味方』の攻撃力を一時的に増加させる大将軍が覚えるスキルだ。

 ゲームでは使用者がいるマップ全体に効果を及ぼすスキルだが、この世界では声の届く範囲に適用されるようだ。

 

「おうっ!!」

「任せとけっ!!」

「そちらも気をつけて!!」

 

 彼の言葉に、冒険者たちは十人十色の気合の入った声で返事を返し、魔物の群れに挑みかかる。

 魔物の巨大化や初めて瘴気を見た事による動揺は既に消えていた。

 

「(憑ける奴がいなくなれば逃げ場も無くなる。その状況ならスケルトンの時と同じように『斬撃・聖光』で憑いている魔物と一緒に瘴気を消滅させられるはず)」

 

 一度戦った経験と先の戦いで得た情報を元に勝利する為の方法を思案する。

 左手の鞘を地面に放り捨て、両手で刀を握り構えを上段に変えた。

 

「……しばらく付き合ってもらうぞ」

 

 腹部から吐き出される糸の塊を避け、畳み掛けるように腕を振るって迫る巨大リザードマンの拳を蹴っ飛ばし、その反動で距離を取る。

 彼は着地した瞬間を狙った巨大蜘蛛の糸攻撃を刀で斬り払った。


 地面に付着した糸から尋常ではない熱が感じられる。

 直撃すれば防御力が強化されていると言えども、ただでは済まないだろう。

 だが巨大蜘蛛ばかりに意識を向けているわけにもいかない。

 

 地響きを立てながら迫る巨大リザードマン。

 暴力的な本能で行われたその攻撃には規則性などなく次の攻撃の予測が立て辛い。

 彼の目の前でその頬まで裂けた大きな口がガパリと開いた。

 生え揃った牙がタツミの身体を噛み砕こうと迫る。

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

 峰を返した刀で隙だらけの頭部に叩きつける。

 強制的に頭を俯かせたリザードマンの顎に2発目の峰打ち。

 ぐらりと揺らぐ巨体の横っ腹に駄目押しの3発目を叩き込む。

 

「ギァアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 真横からの衝撃にたまらず倒れ込むリザードマン。

 追い討ちをかけようと踏み込むタツミの眼前に今まで紐状か塊状にして放たれた糸が、まるで投網のように広がる。

 巨大蜘蛛への警戒はしていたが、今までに無い攻撃に驚きで硬直してしまったタツミはその攻撃を避ける事が出来なかった。

 糸が絡みついた瞬間、踏ん張ることが出来ないほどの怪力に引っ張られ、彼の身体が宙を舞う。

 隙間から入り込んだ糸に皮膚を焼かれ、高温に鎧が熱せられていく。

 

 「があああああああっ!?」

 

 痛みに悲鳴を上げながらタツミは状況を打開できるコマンドスキルをステータス画面から探し出し、発動した。

 

「『真空刃しんくうは』」

 

 自身に向けられた左掌から放たれた風の刃がタツミの身体を傷つけながら糸を切り裂く。

 自由になった身体を空中で立て直し地面に着地すると、巨大蜘蛛目掛けて駆け出した。

 

 タツミを近づけまいと連続して糸の塊を吐き出す巨大蜘蛛。

 その全てを刀で斬り捨てながら、お返しとばかりに斬空を放つ。

 タツミの反撃で八本の足のうち前足を失った巨大蜘蛛は前のめりに倒れ込んだ。

 

 数瞬の間、彼は状況を確認すべく周囲を見回す。

 実践経験豊富なBランク冒険者たちは、数の差を物ともせずに魔物の群れを片付けていた。

 最後のフレアリザードがルンの鞭とアーリの槍によって仕留められる瞬間が視界に映る。

 

「こちらは全て片付けた!! もう遠慮はいらんぞ!!!」

 

 アーリのよく通る声を皮切りにタツミを激励する声が彼の耳に届いた。

 

「さすがだ。……さぁ、終わらせるぞ」

 

 奇声と共に彼の背中目掛けて飛びかかる巨大リザードマン。

 タツミは振り返り様にコマンドスキルを発動させた。

 

「『斬撃・聖光』ッ!!」

 

 斜めに切り上げる一閃。

 刃が纏った真っ白な光がリザードマンを斬り裂いた。

 地面に転がった死体から瘴気が噴出する。

 しかしその勢いは先ほどまでとは比較にならないほど弱々しく、近くに取り憑くことが出来る魔物がいなかった為かやがて地面に溶けるように消えていった。

 瘴気が消滅した事を彼は感覚で理解した。

 

 間髪入れずにタツミは前足を失くし起き上がる事が出来ずにもがく巨大蜘蛛に駆け寄る。

 勢いを殺さずに両手で握った刀を水平にして突きを放った。

 ズブリと言う肉を裂く音と共にその一撃は蜘蛛の頭部を貫き、糸を生成する腹部までを串刺しにした。

 さらに『斬撃・聖光』をもう一度発動し、深く刺さった刀を上へと切り上げる。

 光属性を付与された斬撃が大蜘蛛の体内に残った瘴気を根こそぎ消滅させた。

 せわしなく動いていた蜘蛛の足の動きが止まり、力無くその場に倒れ込む。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ」

 

 蜘蛛とリザードマン、双方の気配が完全に消えた事を気配察知で確認し、タツミはようやく肩の力を抜いた。

 その様子を遠目から見守っていた冒険者たちは、まるで示し合わせたかのように歓声を上げる。

 

 冒険者にも犠牲者が出た以上、手放しで喜ぶ事は彼には出来ない。

 しかし生き延びる事が出来たという事実に喜びを隠す事も出来ない。

 タツミは叫びそうになる内心を必死に自制しながら、力を抜いていた拳を気付かれないように握り締める事で生きている喜びを噛み締めた。

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