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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
183/208

時空を繋ぐ道。都市を、人を守る戦い

 ニューヨーク市は混迷を極めていた。

 警官隊で制圧出来ない黒い靄。

 それらは『窓の無い塔』から出現すると同時にかつて病院を襲った時のようにスライム状の化け物となり、周囲の動物を狂わせながら整地されたコンクリートの地面の上を練り歩く。

 

 警官隊の銃では傷一つ付けられず、スライム状のボディから出現した触手によって彼らは枯れ木のように薙ぎ倒され吹き飛ばされてしまった。

 アメコミの世界にでも迷い込んだのかと現実逃避する者も、隣に倒れ込んだ警察官の苦しげな呻き声にこの光景が現実だと思い知らされてしまう。

 

「なんで? どうして? 何なのよ!」

 

 なぜこんな事になったのかと叫ぶ人々に答えられる者はいない。

 事の始まりである『塔』はそんな混乱の只中にいる人々を嘲笑うかのように空中に鎮座している。

 

 

 しかしそんな絶望的な状況も新たな来訪者によって変えられる。

 『塔』と同じように突然出現した男女は、最初こそ困惑した様子で周囲を見回したが現状を理解するとすぐに行動を開始した。

 ローブで顔を隠した匂い立つような色気を持つ女性と、ドラゴンに騎乗し手綱で自在に操るきりっとした雰囲気の女性、そして日本の着物に身を包んだたおやかな雰囲気の女性は周囲に倒れ込んだ人々の救出に奔走する。

 

 彼女らの言葉をニューヨークに住む人々は理解できなかったが、しかし言葉が通じないと察すると彼女らは身振り手振りで指示を出してくれた。

 彼女らの必死の救護に救助された者たちは彼らが何者であるかは二の次となっていった。

 

 確かにその風体といい、突如現れた事といい、彼らは怪しい。

 しかし倒れた者たちへの的確な応急処置、言葉が通じなくとも安心させるようにと声をかけ続ける姿勢、無事に逃げ出す者たちを安心した顔で送り出す姿に疑念をぶつけようとする心は自然と萎んでいくのだ。

 

 化け物を倒すべく戦っている者たちもよく見れば、動けない者や怪我人を見つけては手の空いている者に声をかけ、助け出す為の時間を稼ぐように敵の前に出て足止めをしている。

 彼らは全員が全員、自分に出来る事でこの場の者たちを救うべく動いていた。

 

 その姿に突き動かされるように余力のある者たちが怪我人や瓦礫に埋もれてしまった人の救助に乗り出す。

 殺伐とした状況にあるのは変わらない。

 危険が身近にある事も変わらない。

 だがしかし彼らの登場とその行動で場の流れは確かに良い方向に向かっていた。

 

 

『タツミ殿。空の敵はあらかた片付けた。そちらを援護する』

「ラヴァイアタン殿、ありがたい!」

 

 実体のない瘴気を『斬撃・聖光』で消し飛ばすタツミの元へ竜の声なき声が届く。

 空を覆っていた靄に包まれた鳥の群れは一掃されて既に無くなっていた。

 ラヴァイアタンは空の敵がいなくなると飛翔しながら周囲を睥睨し、目に付くスライム状の瘴気を魔法で吹き飛ばし始める。

 望んだ地点を睨み付け、その場所にのみピンポイントで魔法を放つ老竜の姿は長い年月を生きた貫禄に満ちていた。

 

 オイチたちの尽力により彼らの目に見える所にいた市民はこの場から離れている。

 誘導と護衛のため、彼女らはこの場にはいない。

 タツミが脳裏に浮かび上がるマップで周囲を俯瞰で確認し、彼女らに近づく敵がいないことも戦場に人がいないことは確認済みだ。

 

 市民がいなくなった事で彼らはようやく本気で瘴気の撃退に乗り出すことが出来るようになった。

 戦局はたった今からタツミ側が押し返す事になる。

 

「全力で行くぞ! だがなるべく建物は壊すな!」

「よっしゃ!」

 

 タツミの指揮に最初に返事を返したのはライコー。

 今まで人を巻き込む事を気にして精霊を攻撃に使用していなかった彼女は、気合いを入れると同時にイフリートを『召喚・自己憑依』させて一体化する。

 

 炎のような真っ赤な髪と目が蠢く瘴気を睨み付ける。

 

「(っつってもあんまり近付かないようにしないとな。精霊たちがあれを怖がってる。寄りすぎると動物たちみたいに乗っ取られるかもしれない)」

 

 シルフはずっと彼女に焦りと怯えの交じった警告をしてくれていた。

 

 『あれは危ない』、『近付いたら駄目』、『自分が自分じゃ無くなる』

 

 彼らを家族同然に思っているライコーが必死に訴えられた言葉を無碍にするはずがない。

 

「轟け、豪炎!!」

 

 右手を掲げる。

 彼女とイフリートの意志を受けた炎が凄まじい勢いで掲げられた掌の上へと収束していく。

 触れればタタでは済まないと誰の目にもわかるほどの熱量が空気をちりちりと炙っていた。

 近付いてはいけないならば遠距離攻撃で倒す。

 そう彼女は考えていた。

 

「吹っ飛べぇっっ!!!!」

 

 叫びながら右手が振り下ろされる。

 その軌跡をなぞるように炎の塊は目の前の瘴気の集合体へと飛翔。

 直撃した炎は黒い靄を粉々にしただけでは飽き足らず、コンクリートの地面を溶かして爆発。

 道路の真ん中に大きなクレーターを作った。

 

「光じゃなくても威力高けりゃ効くみたいだな。どんどん行くぞぉっ!!」

 

 瘴気が跡形も無く消えた事を確認し、ライコーは自分の攻撃が有効であると判断する。

 派手な攻撃を行ったことで興味を引いてしまったのか、周囲からゆっくりと蠢きながら近付いてくる瘴気の群れ。

 その粘体状の身体から巨木のような太さの触手が生え、威嚇するかのように空を彷徨う。

 

 それらを前に不敵に笑うと彼女は両手を掲げ、一気に五つもの炎球を作り上げる。

 

「飛んで火に入るって奴だぜっ!」

 

 放たれた複数の炎は赤色の軌跡を空中に残しながらにじり寄る敵を吹き飛ばす。

 しかし、地面に着弾して立ち上ぼった黒煙が彼女の視界を閉ざしてしまった。

 

「そこを離れろ、ライコー!!」

「っ!?」

 

 敵を倒して高揚していた気分はタツミの鋭い声によって一瞬で沈静し、彼女は彼の言葉に従いその場を飛び退く。

 バラバラになった瘴気の群れが先ほどまで自分がいた場所に殺到していた。

 空間ごと咀嚼するかのように不気味に蠢くバラバラになった瘴気が再び集まる姿は実におぞましい。

 彼女はその光景に地面に着地しながら青ざめながら叫んだ。

 

「効いてないっ!? さっきは確かに倒せたはずなのにっ!?」

「避けられたんだ! 当たれば倒せる!」

 

 彼女の横を通り過ぎて放たれた光の軌跡が集合して巨大化しつつあった瘴気の塊に突き刺さる。

 自身の攻撃の後を追って走り込んでいたタツミは、光を纏わせた愛刀の刃で目の前の震える物体を一刀両断にした。

 瘴気は力を無くしたように霧散し、跡形も無く消え失せる。

 

「気をつけろ。単純な攻撃を避けるくらいには思考能力があるっ! 取り憑かれたら精霊とてどうなるか分からないんだ。一撃もらったら死ぬくらいに考えて動けっ!!」

「おうっ! もう遅れは取らねぇ!! 頼む、シルフ!!」

 

 シルフの暖かな風を纏った彼女は思い切り跳躍。

 背の高いビルを越えるほど高く跳び、その場で風によって静止する。

 

「バラバラになって避けるってんなら避けられないくらい広く強くぶち込んでやる……」

 

 イフリートの炎が胸の前で突き出された掌の中に集まる。

 タツミは大技の気配を察知し、その射程から逃れるべく疾走し、行方を遮ろうとする瘴気は片っ端から切り捨てていった。

 

「ライコーが派手にやるから正面から離れろ! キルシェットとラヴァイアタン殿はライコーの周りを警戒してくれっ!!!」

 

 コマンドスキル『激励』を込めた指示に呼びかけられた二人は一も二も無く応じる。

 

「消し飛べぇええええええええええっ!!!!」

 

 程なく放たれた紅い閃光は射線上にいた瘴気の全てを飲み込み、言葉通りに消し飛ばし、それでも勢いは衰えずに『窓の無い塔』に激突。

 同時にどこからともなく飛翔した何かが閃光とは別咆哮から『窓の無い塔』に着弾した。

 2種類の轟音が人の消えた街に響き渡る。

 

「なんだっ!?」

 

 果たしてそれは誰が言った言葉だったか。

 

 彼らの疑問に答えるように鳥のような形をした何かが複数、遠い空から現地の上空へ飛来する。

 

「(戦闘機っ!? アメリカ空軍かっ!!)」

 

 建造物とその看板など周囲の情報からここがアメリカのニューヨークである事を察していたタツミは、現れた戦闘機がどこの所属か当たりを付けた。

 しかしそれを口に出す事はない。

 彼以外に『この世界』について知る者はこの場におらず、なぜ知っていると聞かれても答えに窮するのだ。

 事が落ち着いてから腰を据えて事情を全て話すのならいいが、今触りだけ語っても混乱を招くだけだという判断もある。

 

「何者ですかね、ありゃあ。新手の式神、にしては無骨だ。空飛ぶ大砲だなんて笑えない」

 

 いつの間にか傍に来ていたトラノスケの言葉にタツミは心中で「ヤマト、というよりあっちの世界視点で見れば悪夢のような兵器だろうな」と同意する。

 

「おそらく今いるこの街の所属する国の軍隊なんだろう。あっちにも警戒してくれ。俺たちはあちらから見れば突然領土に現れた侵入者だろうからな。ラヴァイアタン殿なんて敵意が無くとも危険生物扱いになるだろうし。そんな生物と一緒に来た俺たちも攻撃される可能性はかなり高い」

「あー、まぁそうでしょうね。姫様たちにも合流するよう伝えてきますわ」

「よろしく頼む、ライコーとキルシェット、ラヴァイアタン殿に関しては俺に任せてくれ」

「よろしくお願いしますね」

 

 トラノスケはそう言ってオイチたちの元へと駆け出していった。

 

「まだ瘴気は残ってる。この状況で現地の人間たちが介入してくるか。お仕事が早いのは一般市民として喜ぶべきなんだろうが……」

 

 漠然とした不安を胸にタツミが『窓の無い塔』を睨み付ける。

 戦闘機からのミサイルも、ライコーの攻撃もまるで意に介さない様子の塔。

 しかし攻撃された事で刺激されたのか、その両開きの門が重々しく開いていく。

 

「なんだ?」

 

 仲間たちに声をかけて合流を促しながら、タツミの視線は塔から離れない。

 ゆっくりと開いていく扉。

 そこから現れる存在によって事態はさらに混迷へ向かう事になる。

 

 

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