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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第九章
182/208

時空を繋ぐ道。繋がる世界

 慎重に慎重を重ねた対策会議のお蔭か、不意の事態に襲われる事も無く廃墟を中心とした周囲の探索を進められている。

 しかしいつ何が起こるかわからない以上、気を緩める事は出来なかった。

 

 探索そのものについても大きな成果は上がっていない。

 新たに判明した事と言えば建物の残骸は結構な年月を放置されており、『霧吐きダック』たちが住処にしたのがこの場所に人の手が入らなくなった後だという事くらいである。

 

「次の道らしき場所は見つからないな」

 

 飛竜と同じタイミングで遅々として進まない探索に唸り声を上げるのは先頭を歩くアーリ。

 

「場所によってはかなり離れている事もありましたからな。2、3日ほど道が見つからず周囲を散策していたこともあります」

「道の先がどこに繋がるかというのも運任せ、どこに道があるかも運任せとは……目的地に辿り着くのはいつになるやら」

 

 最後尾にいるラヴァイアタンの経験談に肩を落としてため息を愚痴と共に零すのはアーリと共に先頭を歩くトラノスケだ。

 一見、気を抜いているような態度だが彼を知る者はそれがただのポーズである事を知っている。

 トラノスケはこの探索が始まってから一秒たりとも気を抜かず、ともすれば仲間たち全員に気を配っていた。

 その事を知らない者はこの場にはいない。

 

「(タツミさん、それやっぱり繋がらないんですか?)」

「ああ。登山する前に連絡を取ったのが最後だ」

 

 タツミの手には通信球が握られており淡く発光しているのだがあちらからの声は聞こえず、おそらくこちらからの言葉も届いていない。

 携帯電話でいうところの電波が届いていないという状態になってしまったのだろう。

 

「これも『時空を繋ぐ道』の影響かしらね?」

「可能性は高いな。どの程度の距離までこれが有効かは分からないが、流石に時空を越えるところまで声を届ける力は無かったって事なんだろう」

 

 通信球を袋に仕舞うと、タツミは周囲の警戒へと意識を戻す。

 

「この辺り一体があのアヒルどもの縄張りだったみたいだから、他の魔物もまったく出ねえな」

「危険がないと言えばありがたいんだけど、目新しい物もないね」

 

 ライコーとキルシェットの会話が探索の成果のない現状を的確に表していた。

 

「しっ!」

 

 先頭を歩いていたトラノスケが鋭く皆の会話を止め、歩みを止めて死角を作らないように周囲を警戒する。

 

「……この先、今のペースで5分ほど歩いたところに何かいますね。ガヤガヤとやかましいんで1人2人ではないようです」

「この先? ……」

 

 既に廃墟を離れて3時間が経過しており、周囲は背の低い木や茂みのみの平原地帯に変わっている。

 どこまでも続くのではと錯覚してしまうほどの広さの平原はどれだけ歩いても景観が変わらないような場所だった。

 

 最後尾のラヴァイアタンが通った跡はまるで台風が通り過ぎた後のように茂みや木々を薙ぎ倒してしまっているのだが。

 迂闊に飛ぶと不幸に見舞われた時の被害が大きくなる事を考慮しての事だが、それにしても酷い痕跡だ。

 とはいえ周りの景観に配慮する事が出来るだけの余裕はないため、罪悪感にかられるものの仕方ないとも割り切っていた。

 

 何の変哲も無い平原であるだけに、トラノスケが示した位置は皆の視界の中に当然のように収められている。

 しかしガヤガヤという表現を使うほどの何かの群れなど見えない。

 むしろ彼らの視界には人っ子一人いないのだ。

 

「……誰もいませんね」

「声だけが聞こえているって事か? 他に何か気付いた事はあるか?」

「いえ、それが本当に五月蠅くて人の声と一緒によく分からない音も聞こえていまして……」

 

 なんと答えて良いかわからない困惑した顔でトラノスケは報告する。

 

「ふむ。確かに聞き慣れない音が人の声に混じっていますな。1人や2人ではないのも間違いないかと」

 

 トラノスケをフォローするように自身の所感を述べるラヴァイアタン。

 人の声とともに聞こえるという音の正体は長い年月を過ごした彼をして聞き慣れない物だとわかる。

 

「……視界に音の源がないのはもしやその辺りに次の道があるからではないのか?」

「(道が繋がっている先から音が漏れてるって事かな?)」

 

 アーリの言葉を具体的に補足するカロル。

 

「なるほど。次の場所は人がいるし、何やらガヤガヤと騒がしい訳だ。さっきの廃墟とは違う生きている街に繋がっているのか?」

「可能性としてはあり得ますな。我々の時にはついぞ遭遇しなかったケースですが……」

 

 話しているうちにトラノスケが警告した場所まで到着する。

 肉眼では何の変哲も無い平原にしか見えない。

 しかしここまで近付いたことで、トラノスケやラヴァイアタン以外の面々にもざわめく声や奇妙な音が聞こえるようになっていた。

 

「トラノスケ、ちょっと試すからロープ頼む」

「了解です」

 

 トラノスケと繋がったロープを確認し、タツミはその場所に手を伸ばしてみるとその手が途中から水面に浮かんでいた虚像のように歪んだ。

 問答無用で吸い込まれる事を警戒していたが、そういう事はないようだ。

 

「次の道で間違いなさそうだ。しかし手が入った先で何かを掴めるって事も無いな。この先の情報はこのざわざわした声と時折聞こえる音だけか(この音……)」

 

 近付いて音が聞けるようになった事でタツミにはその音が馴染み深い物である事に気付いていた。

 

「(車のクラクション? 偶に聞こえるのはテレビの音か?)」

 

 もしも彼の考える通りの音であった場合、この道の先にあるのは。

 

「(あちらの世界……窓の無い塔、俺たち、ギルフォードやキルシェット、ボロス。それ以外にあちらとこちらを繋ぐ物が存在するって事か)」

 

 無意識のうちにタツミは未だに視界の中で歪んでいる右手を握り込んでいた。

 

「皆、お互いのロープがしっかり繋がっている事を確認してくれ。見回す限りの平原でようやく見つけた変化だ。怪しくても飛び込まなければ進めない」

 

 皆がタツミの言葉を受けてペアとの繋がりを確認する。

 

「飛び込むのは俺たちからだ。ともかくすぐに動けるように心構えだけはしておくこと。ラヴァイアタン殿、最後尾をお願いします」

「しかと承りましたぞ」

 

 頼りがいのある力強い言葉に後押しされてタツミは息を吐いた。

 無意識に入っていた力を抜き、1度全員と目を合わせる。

 

「行くぞ。俺に続け」

 

 そうして彼は目の前にあると思われる道へと飛び込んだ。

 

 同時に彼とトラノスケの脳裏に声が聞こえる。

 

『いけない!』

 

 それはどこかで聞いた事があるような女性の声による警告だった。

 そして次の瞬間。

 

「アアアアアアッーーーーーーー!!!」

 

 彼の目と鼻の先に黒い靄を纏った人間の形をした何かが叫声と共に現れる。

 

「だぁっ!?」

 

 事前に心構えをしておいた事が功を奏したようで、タツミは飛びかかってきたソレの腹部を拳でアッパー気味に打ち上げ、浮き上がった身体に抜刀した刀で斬り上げる。

 

 すばやく周囲を見回すと彼らが出現した場所は、コンクリートが地面に敷き詰められた街の大通りのようだった。

 周囲には背の高いビルが乱立しており、彼がしていた音の正体についての推測は当たっていたという事になる。

 

 しかし音の発生源である車はその辺りで横転しているもの、夜闇を照らすかの如く炎上しているものしかない。

 テレビの音だと思っていたのはビルに掛けられている大型モニター。

 しかしそのモニターは何かがぶつかったのか亀裂が入り、画面は砂嵐になって機能していなかった。

 周囲からは老若男女問わない悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。

 そして周囲に溢れる瘴気。

 それを纏った人型の影のような物体と瘴気に取り憑かれたと思われる飼い犬や野良猫、烏、鳩などが凶暴化して物を壊し、人を襲う姿。

 

 いつぞやの遊園地を襲った悲劇。

 それと同等かそれ以上の地獄が目の前に広がっていた。

 そしてその光景を見下ろすかのように『窓の無い塔』が彼らの頭上にあった。

 

「っ! 各自散会! 瘴気が取り憑いた奴には光か聖属性の攻撃が効くはずだ! アーリとルン、オイチは襲われている人達の避難を頼む!」

 

 素早く最低限の指示を出し、動きを阻害する腰のロープを一息で解く。

 自由になった身体で隣のトラノスケと目配せし、彼らはその場から飛び出した。

 彼らに倣ってキルシェットやライコーたちもお互いを結びつけているロープを解いて続く。

 カロルはその場で足を止めて、呪文の詠唱を開始した。

 彼の腰のロープはルンが手早く外している。

 

 避難誘導を任された3人のうち2人は相棒が動物であるために迂闊に瘴気に近付く事が出来ない。

 だからこそ人々の避難の方へ割り振られたと言えるが、これもまた大仕事である事は変わらないのだ。

 それだけ大勢の人間が傷を負い、逃げ惑い、倒れ伏しているのだから。

 オイチがそちらに振り分けられたのはもしも彼女らに何かあった場合の保険も兼ねている。

 最大限の注意と警戒を旨に彼女らもまた駆け出した。

 

「ラヴァイアタン殿は決してあれに触れられる距離に近付かないように! もし貴方が取り憑かれたら洒落にならない!」

「心得ました!」

 

 言葉少なく、しかしそれがもたらす事態の深刻さだけは読み取った老竜は偶然が重なり合うリスクに目を瞑って距離を取るべく飛翔した。

 

 

 

 事は彼らが地獄の現場に足を踏み入れる僅か10分前のこと。

 世界中のテレビは一斉にあるニュースを報道し始めていた。

 

『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。アメリカ、ニューヨーク市上空に19時頃、突如建造物が出現。建造物内部から出現した正体不明の怪物が市民を襲い、建物を破壊し始めました。これは映画の撮影などのフィクションではありません。繰り返します、これはフィクションではありません!』

 

『正体不明の怪物に対して現場に急行した警官は拳銃による制圧を試みましたが効果は認められず』


『速報です! ホワイトハウスはニューヨーク市を襲う未曾有の事態解決のため、軍隊の派遣を決定! 既に軍用車が現地へ向かっているとの事です!!』

 

 混迷極まる報道。

 日本の穏やかな朝のお茶の間などは錯綜する情報に困惑するばかりであった。

 

 しかしさらなる爆弾が事態を混沌としたものに変化させる。

 

『そ、速報! え、これほんとに? ええとニューヨーク市に突如、ドラゴンと数人の男女が出現しました。何も無い大通りの真ん中に突如現れた彼らはまるでファンタジー世界にいる住人のような、コスプレイヤーがするような格好をしています。しかし怪物の退治や現地にて混乱している市民の避難誘導に当たっているとの事です!』

 

 日本ではそう昔ではない病院を襲った正体不明の怪物とニューヨークの怪物を結びつける者が出るのに時間はさほどかからなかった。

 ニューヨーク市上空に鎮座する『窓の無い塔』が日本の遊園地に出現した『塔』と同一のそれだと気付く者が出るのにさほど時間はかからなかった。

 

 しかし同時刻、混乱の只中にあってオフィスビルで倒れて病院に運ばれたとある会社の社長が、この事態の一端を知る人物であると知る者はいない。


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