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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第八章
138/208

休日を襲う非日常

 集合場所である遊園地入り口。

 集合予定よりも少し早く到着した辰道は、軽く周囲を見回した。

 

「辰道、ここだ!」

 

 見知った顔を捜していた辰道に声がかかる。

 彼が声の方に振り向けば、既に全員が揃っていた。

 まだ開園まで1時間あるというのに、ハロウィンイベントをやっている為か入り口には既に列が出来ている。

 それを尻目に彼は待ち合わせた面々と合流した。

 

「俺が最後か。これでも余裕を持って来たんだけどな」

 

 歩み寄って声をかけると豊子が真顔で言葉を返す。

 

「私は主催者だからな。参加者よりも先にいるべきだろうと思って待ち合わせの時間よりも早く来ていた」

「まぁそれでも暇してた俺より遅かったけどねぇ」

 

 茶化すような一義の言葉に、彼女はふんと鼻を鳴らす。

 

「お前が早すぎなんだ」

「すぐ傍のビジネスホテルに泊まったからね、昨日は」

 

 そこはかとなく自慢げな子供っぽい一義の物言いに、豊子は冷たい一瞥をすると他の面々に視線を向けた。

 

「高校でそれなりに交流があったメンバーを集めたんだが、辰道は顔と名前は一致するか?」

 

 視線で促され、辰道は集まった面々を見回す。

 どの顔も記憶にある物とそう変わっていない事もあり、彼は自信を持って頷いた。

 

「ああ、俺から見て右の男が明石。豊子を挟んで左から高野、三嶋だな。久しぶりだな、双葉だが覚えてるか?」

 

 彼が久しぶりにあった面々の名前を言い当てると彼らはほっと息をついて返答した。

 

「ああ、久しぶり双葉。高校の時より背が伸びてて羨ましいわ」

「ほんの3cm程度なんだがよく伸びたってわかったな」

 

 学校にいた頃から背が低い事を気にしていた明石の心底羨ましいという言葉に苦笑いを返す。

 

「えーっと久しぶり、双葉君。元気そうだね」

「頑丈なのが自慢だったからな。皆勤賞を取ったのは伊達じゃないぞ、高野」

 

 明石以上に小柄で小動物のような印象があった少女は、顔立ちこそかわらないがやや小太りになっていた。

 

「双葉はしっかり身体を鍛えてるみたいだな、感心感心」

「久しぶりの挨拶よりまず肉体観察とは相変わらずみたいで、安心したぞ。三嶋」

「はは、癖みたいなものだから笑って許してくれよ。久しぶり」

 

 スポーツトレーナーを目指すと明言し、言葉通りの職業についたかつての少女のあの頃と変わらぬ言動に辰道はなんとなく嬉しくなった。

 とってつけたような挨拶にああと返しながらもその顔は懐かしさに綻んでいる。

 

「豊子。人数は6人だけなのか? 電話した時はもう少し捕まえると言っていた気がするが」

「これで全員だ。なにぶん思いつきに近い誘いだったからな」

 

 彼の言葉に応えながら彼女は肩掛けのショルダーバッグからもらったという団体割引の券を取り出す。

 

「全員揃った事だし並ぼうか。せっかく集まったんだ。アトラクションで1時間も2時間も並びたくはない」

 

 言いながら彼女は列の最後尾に向かって歩き出す。

 彼女に倣って辰道たちも談笑しながら続いた。

 

「(タツミたちには悪いがせっかくの機会。遊べるだけ遊んで楽しもう)」

 

 今も調査に奔走しているだろう1人と1匹を思い浮かべながら。

 彼は久しぶりにある同級生たちの談笑に夢中で気付かなかった。

 

「遊園地か。確かお前たちが中学生の頃に行ったきりだったな」

「そうね、3年ぶりくらいでしょうか?」

「あ~、楽しみだなぁ。な、明美!」

「もう少し落ち着きなさいよ、拓馬」

 

 彼らの少し後ろの列に顔見知りがいる事に。

 

 

 

「あ~、くそ。これは今日も収穫無しか?」

 

 辰道たちが合流している頃、タツミは例の男の捜索を行っていた。

 もちろんその隣には白狼の健志も一緒である。

 今日も今日とて当たりをつけて捜索をしているが、今のところ成果は上がっていない。

 1人と1匹は捜索していた場所の最寄り駅のベンチで座り込んで休んでいた。

 休んでいる今も目の前を行き来する人間たちを注意深く観察する事だけは忘れない。

 

「いい加減、成果が無さ過ぎてうんざりしてきたぜ。どうにか出来ないもんか」

「同意見だ。焦っても仕方がないとわかってはいるのだがこうも何も見つからないとなると、な」

 

 幽霊のような状態であるこの彼らに肉体的な疲れはない。

 だからこそ朝から夜中まで捜索してきたが、これまで彼らの努力が実を結ぶ事は無かった。

 辰道に気分転換を提案したのは彼の精神的な負担を考えての事だが、それは彼らも同じ。

 表面上、辰道には意識して見せようとしなかっただけだ。

 それも一重に自分たちと違って人間である辰道を案じているが故にである。

 

 辰道のいない状況で彼らが愚痴りあうこの光景。

 その回数は日を追うごとに増してきている。

 両者共に諦めるつもりは毛頭ない。

 しかしそれでも考えてしまう事はあるという事だ。

 

「そろそろ行くか」

「そうだな」

 

 それなりに遅々として進まない捜査への鬱憤を発散した彼らは気持ちを切り替えてベンチから立ち上がる。

 

「……ん?」

 

 健志はふと街灯テレビに目を向ける。

 そこではちょうど今日、辰道が行っている遊園地についての特集の生放送が行われていた。

 

「タツミ君、あれを。辰道君が行っている場所についてやっているぞ」

「ん~? ああ、今日辰道が行ってるって言う遊園地ってのか。もしかしてあいつも映るかもな?」

 

 他愛ない雑談をしながらしばし頭上の大画面を見る。

 そして有名どころの目玉として幾つかのアトラクションが紹介され、シンボルとも言える城の全体像が表示されたその時。

 2人の表情が固まった。

 

「「塔だと……」」

 

 硬直した2人の口から出た言葉は、城のすぐ隣に陽炎のように揺らめきながら映りこむ彼らと切っても切れない関係の建造物の存在だった。

 

「ちっ、そっちが出たかよ!」

「うぉあっ!?」

 

 舌打ち一つつき、タツミは隣で呆然としていた白狼を脇に抱えて走り出す。

 脇に抱えた狼の悲鳴などお構いなしにその辺にある建物を踏み台にして跳躍し、線路に出る。

 その頃には健志の心も平静を取り戻していた。

 既に2人の頭の中から男捜索は片隅に追いやられている。

 健志は孫の事を考えると後ろ髪を引かれる思いだったが、それでも優先しなければならない事があると割り切った。

 

「爺さん。ここから遊園地まではどう行けばいいんだっ!?」

「そのまま真っ直ぐ! 幸いにもこの駅はあの場所へは直通する路線だ。脇目も振らずこのまま走れ!」

「おう!」

 

 何も気にしなくていいと言われ、彼は即座に駆け出す。

 ちょうど到着時間だったらしい電車が前方から入りこんでくるが、彼は迫り来るそれに対して迷わず線路の床を力をこめて蹴った。

 今まで同様の常識離れの跳躍で、彼は10両はある電車の頭上を跳び越える。

 跳び越えた後の着地も鮮やかに勢いを殺す事もなく、タツミは線路を駆けた。

 もしも彼らの姿が見えている人間がいたらここまでの光景に目を剥いていた事だろう。

 

「(待ってろ、辰道。俺らが着くまで無茶な真似するなよ)」

 

 己の半身の無事を願いながら。

 

「(友人知人が巻き込まれたら……お前は無茶をするんだろうな)」

 

 しかしその願いが叶わないだろうと予測しながら。

 

 

 そして彼らの胸中にあった辰道は現在。

 

「これは……一体、どういう事だ?」

「アトラクション、じゃない?」

 

 呆然と呟く豊子と偶然出遭った明美を背に庇い、人の身体を一切りで両断してしまいそうな大鎌を持ったパンプキンヘッドの何かと相対していた。

 

「(俺がこいつをひきつけて2人だけで逃がすにはここは入り組み過ぎてる。途中でまたこういうヤツに遭遇したらアウトだ。そしてこいつは俺たちを逃がすつもりがない。やるしか、ない!)」

 

 両拳を握りこむ。

 何を考えているかわからないパンプキンヘッドの不気味な顔がゆらりゆらりと揺れていた。

 この迷路型お化け屋敷の薄暗い光に照らされ、大きな鎌が鈍く光る。

 

「……2人とも、そこを動くなよ。どうやらこの辺にはこいつみたいなのがうようよしてるみたいだからな」

「いや、少し待て。なんでそんな事がわかる? いやそれ以前にいきなり現れたそいつはなんなんだ一体!!」

 

 薄暗い中、突然攻撃されて混乱している豊子は普段なら絶対に見られないだろう取り乱し方をしていた。

 

「……なんかそれ見てると寒気がします」

 

 青い顔で両肩を抱きながら震える明美は、動く気力もないのかその場に座り込んでしまった。

 

「豊子、その子を見ていてくれ」

 

 あちらの世界での経験によって培われた有無を言わさぬ圧力の伴った言葉。

 

「っ……。わ、わかった」

 

 背中越しとはいえ、それを受けた豊子は気がつけば混乱していた頭を無理やりに静められ、その言葉に従っていた。

 

「ふっ!(今、この遊園地がどういう状態なのかが気になる。時間はかけられない)」

 

 辰道は目の前にいる『あちらの世界の魔物』目掛けて一歩踏み出し、握り拳を放った。


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