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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
132/208

竜の死を胸に刻む

 次にタツミが目を覚ました時、目の前にいたのはシルフだった。

 人の肩に止まれるほどに小さな妖精。

 度々、ライコーの肩に乗っているところを見ているタツミは彼女がいると言う事はライコーたちが合流したのだと推測する。

 瞬時に考えを巡らせるタツミと目を合わせた彼女はとわたわたと慌てて天幕の外へ出て行った。

 

「(今度は……問題なく動くな)」

 

 上半身を持ち上げぐっと伸びをする。

 動きを確かめるように両手を握り開きしていると、天幕に足音が近づいてきている事に気が付いた。

 

「(人数は・・・・・・2人か。まぁさっきのシルフの事を考えれば誰が来るかはだいたい予想が付くな)」

 

 タツミは何をするでもなく近づいてくる者を待つ。

 すると天幕の出入り口が勢い良く開かれた。

 

「起きたんだな、タツミ!」

「(タツミさん!)」


 満面の笑みを浮かべながら声をかけてきたのはライコーだった。

 そして彼女に抱えられながらタツミを案じる念話を送るのはカロルである。

 2人の様子を見る限り、すこぶる元気なようででメデューサと戦った疲れや後遺症などは残っていないようにタツミには見える。

 ライコーの右肩には先ほど出て行ったシルフの姿がある。

 

「ああ、こうしてここにいるって事はそっちも片付いたのか?」

「おう! 一つ目牛野郎も蛇女もきっちり片付けたぜ! お前の村の人たちも皆、元に戻ってたぞ!!」

 

 興奮した様子で矢継ぎ早に語るライコーの言葉をタツミは相槌を打ちながら聞いていた。

 

「そうか。村の皆は元に戻ったか……」

「(僕が預かってたリストバンドを見せたら村の方々は、すぐに話を聞いてくださいました。礼を言いたいから事が済んだら戻ってこいとタツミさん宛ての伝言も頼まれています)」

「あの人たちは……まぁ元気そうで良かった。お前たちは大丈夫だったか?」

「結構、ギリギリだったけどなんとかなったぜ!」

 

 そんな風に談笑をしている3人に近づいてくる者たちがいる。

 

「はぁい、タツミ。思ったより元気そうね」

「オイチ殿やキルシェットから状態は聞いていたから心配していたが、どうやら無用な心配だったようだな」

「ルン、アーリ」


 タツミは天幕の出入り口から中を覗き込む2人の名を呼ぶ。

 2人の表情には話に聞いた激戦の後に倒れたタツミの顔色が思ったよりもずっと良い事への安堵が見て取れた。

 

「二度も寝入ったからな。お蔭で今度は身体も動きそうだ」

「それは何よりだけど、まだ無理はしない方がいいわ。ライコー、オイチたちを呼んできてくれる?」

「わかった!」

 

 ルンに言われ、足取りも軽く天幕から離れていくライコー。

 

「いや、もう動けるから俺が外に……」

「直に皆も来るだろうからそれまではゆっくりしているんだ。いくら回復したと言っても病み上がりには変わりないのだからな」

 

 ぶっきらぼうな物言いでタツミを気遣い、アーリは立ち上がろうとする彼の肩を軽く抑える。


「(アーリさんの言う通りです!)」


 彼女の言葉に同意して何度も首を縦に振るカロル。

 タツミを心から案じて諌める彼らの言葉にタツミは観念し、起き上がろうと体に入れていた力を抜いた。


「……そうだな」

「うむ。山を揺るがすような激戦の後だ。多少は楽をしても罰は当たらんさ」

 

 立ち上がるのをやめた彼に、満足げにアーリは笑った。

 

「あら、もう来たわね。私たちはお邪魔でしょうから一旦離れましょ、アーリ」

「ああ。ではタツミ、ゆっくり話すといい。それまで周囲の警戒は我々が責任を持ってやらせてもらおう」

「(タツミさん、また後で!)」


 3人が離れるのと入れ替わりに天幕に近づいてくる別の気配。

 そのよく見知った3つの気配をタツミはリラックスした状態で待った。

 

 

 

 体調を案じられ、既に身体が動かせるほどに回復した事を喜ばれ、そして無茶をした事についてオイチから改めて小言や説教を受けること30分。

 オイチの説教がトラノスケによって止められ、天幕から外に出たところでタツミが見た光景は。

 

 すぐ傍で倒れ伏せているドラゴン、ミストレインの姿だった。

 

「完全に死んでいます。タツミ殿が休んでいる間、ずっと交代で見張ってましたがぴくりともしませんでしたよ」

「呼吸もまったくありませんし、試しに身体を傷つけても反応しませんでしたので、間違いなく倒せた、と思います」

 

 トラノスケとキルシェットの言葉を受けて、タツミは目の前に横たわる竜の死骸を見つめる。

 ゆっくりと歩き出す。

 彼の後ろを何かあった時の為にとキルシェットが着いてきた。

 オイチとトラノスケ、そして離れた場所で彼らの様子を窺っていたアルカリュードの面々は黙してその行動を見守っていた。

 

 その事に気付きながらも何も言わずにタツミは歩く。

 首から胴体にかけて斜めに引き裂かれ、息絶えた『知り合い』を見つめながら。

 

「(向こうで話したい事は話していたが……婆さん、あんたは本当に死んだんだな。……いや俺たちが殺したんだな)」

 

 彼は友人と呼ぶには些か浅く知人とするには深すぎた者を自身の手にかけた事実を、その巨躯の周囲をゆっくりと歩きながら己の心にしっかりと刻み込む。

 過去に『タツミ』が行ってきた事を、『辰道』としての意識のままに。

 その事に嫌悪感や罪悪感を感じながらも、目を背けることはなかった。

 

「何度かあの水晶でフォゲッタのギルド長が連絡を取ってきています。それで、皆で相談してあの人を経由してギルドに『天候を司る竜を倒した事』と『瘴気に取り憑かれたメデューサをアルカリュードの面々が倒した事』を伝えてもらいました。竜がいつ襲ってくるかもしれないなんて不安は早く解消するべきだと全員の意見が一致したので」

「当然だな。俺の代わりに伝えてくれてありがとう」

「い、いえ……実際にギルド長と話したのは僕ではなくてトラノスケさんとオイチさんですし」

 

 雑談を交えながらぐるりと周り、オイチとトラノスケが待つ竜の顔の正面にまで戻る。

 

「お気は済みましたか?」

「……最後にこれだけやっておく」

 

 オイチの問いかけに首を振るとタツミは、自身の顔の前でそっと手を合わせ目を閉じた。

 

「……」

 

 それに倣ってオイチ、トラノスケが同じように手を合わせる。

 キルシェットもまた意味はわからないまでも慌てて見よう見まねで同じ動作をした。

 

「よし。それじゃこれからの事を話し合うか。村に帰りながら、な」

 

 数秒の沈黙を持って合掌を解いたタツミはオイチたちに言葉をかける。

 振り返ったその顔には竜を殺した事への想いを胸に秘められているが故に力強い物に見えた。

 

「(瞳が元に戻っていましたね。……でもあの時の紫色の輝きが幻とは思えません。もう少し様子を見ましょう)」

 

 オイチが彼の自覚なき変化について思考を巡らせている事に、彼が気づく事はなかったが。

 

 

 この後、彼らは山を降りるところでノーダリアのギルドの人間たちと鉢合わせる事になる。

 タツミたちは山で起きた天変地異のような天候変化や山頂から放たれた魔力砲撃、それに付随した雪崩などの重要参考人としてギルドへの同行を求められてしまう。

 事を穏便に済ませる為に彼らが同行に同意した為、村へ戻ったのはギルド本部での全員の事情聴取が終了し、ギルフォードから通信球越しの取り成しによって解放された後。

 全てが終わってから2日後のことである。


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