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彎曲のゴールデンカノン  作者: あご
4/4

4 魅了

視点がころころ変わります

 前もって仕入れていた情報で、セラフィタのいる部屋まで辿り着いた。楽ではなかった。とうに俺たちの存在はばれ、銃で応戦してなんとかアラニアを部屋に入れることが出来た。

 俺はこの先はいけない。セラフィタに飲まれるだろう。

 だがいつまでたってもアラニアは戻って来なかった。次第に人が増えていく。

 ……失敗したか。それとも、はめられたか。

 ……ああ、もしかしたら、アラニアはレイからあの話を聞いていたのかもしれないな。

 俺はレイの女を盗ったって。


 クレアは俺の事が好きだと思っていた。いつも俺の話を楽しそうに聞いていたから。

 最近覇気がない彼女が気になり、仕事先で見かけたクレアを元気づける為に連れ回した。あちこち行ってようやく元気が出てきた彼女に自分の思いを打ち明けた。

「俺ならいつも笑わせてやる。幸せにするから結婚してくれ」

 と勢い余って言えば彼女は「あなたっていい人ね」とくちづけをくれた。結局返事はくれなかったが。

 その後突然レイはとある仕事を受けた。

 あの国への潜入は、生きて帰れることは前提としていなかった。

 かの国の噂を総合すれば、住人は神々としか思えない、そんな所に入り込むなど死を意味した。海のゴミが殆ど流れ着く我が国の海流を利用し、情報は定期的に海へ流す手筈。

 どうして突然死にに行くようなことをとあいつを問いただそうとするが、会える機会もなくさっさと旅立たれてしまった。何かおかしいと思った俺は最近あいつに何かあったに違いないと調べ……全てを知った。

 あいつがクレアと付き合っていたこと。

 あいつのスケジュールから俺達が会っていたのを見られていたこと。

 クレアの元気がなかったのはレイとすれ違っていた悩みだったこと。

 あんにゃろう……。誤解くらい解かせろよ。


 何人を撃ちまくって斬り捨てたかもう数えてもいられなかった。 

 斬りかかってきた刃物が左目を傷つけた。血で何も見えない。

 ああ、どうやらここまでだな。こうなるかもしれないことは予想内にあったのに、ここまで来たのは、セラフィタの側にもしかしたらレイがいるかもしれないからだ。


 そのうち俺の右耳は銃で吹っ飛んだ。

 くそ、こうなったらセラフィタなんて知るか。この長年のもやもやを早く取っ払わせろよ!

 中に飛び込むとアラニアが茫然と突っ立っていた。その視線を追えば、レイが女にのしかかりその首を手にかけている。なのに女は苦しがる様子を見せながらレイの頬や髪をなで回している。

 ゾッと背中が粟立った。気味の悪い構図だ。


「あの女か?」


 俺が声をかけるとアラニアはビクリと揺れた。その目には涙が浮かんでいる。


「ころ、や、やっぱり、ころせな、とうさ、盗られ……」


 耳がキンキンしてよく聞こえないが怯えまくっているのはよくわかる。


「わかったわかった。娘っこを当てにするほど腐れていねえよ」


 ガクガク震えるアラニアを遠ざけ俺はツカツカ近寄り起きあがった女のこめかみに焦点を当てた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「見て。私だけを見て、レイ」


 昔欲しかった声。顔。……すべては今更。

 捕まって、俺は、今どこで何をしているんだろう。足首に鉄の感触。鎖で繋がれている。

 久しぶりに見るセラフィタは衰えもなく何も変わっていない。

 来る日も来る日も彼女は俺を覗き込む。


「私を見てよ」


 欲しいものはやはり俺の手から消えてしまった。

 いくら喚いても暴れても逃げられない。何日、何十日、何百日、ここから逃げ出そうとしたか。

 どのくらいたったのかすべて諦めた。そしてまた、セラフィタに溺れていく。

 溺れながら、子供達の事を考える。子供達、セラフィタ。

 また俺は狂うのか。また狂って、子供達の事を忘れて……。


「他の事は考えないで、私のこと考えて? 昔はそうだったじゃない。昔に戻りましょう? もう一度やり直しましょう、最初から。今度は私、あなたに応えるわ。2人だけで食事をして2人だけで一日を過ごすの。あなたが望んでいたことなのよ?」


 ……そうだったな。俺は彼女が欲しかったじゃないか。

 その考えを否定する。違う。違う。


「君が生きている限りダリルもアラニアも苦しむ」

「あなたがあの2人の事を考えるからいけないのよ。消してしまうしかないじゃない」


 無垢な目をして言う彼女を押し倒し、その首に手をかけた。いつかアラニアが受けた苦しみを思い知らせてやりたい。苦しがる彼女のあえぎを聞きながら力を込め……。


「あい、してる、わ……レ、イ」


 俺は彼女にまだ囚われているのか。手の力が、ゆるむ。微笑む彼女。


「あな、たに、……なら」


 緩む拘束。ダメだ、子供達が……。

 そう思ってももう、力など入らなかった。どうして。こんな愛などいらないのに。なのに俺のしていることは、彼女の首から手を放すことだった。囚われたら、逃げられないのか。殺せない。どうしても殺すことができない。

 セラフィタは上体を起こし、俺の頬を撫でてもう一度微笑む。その艶めく唇が何かを言いかけたとき。


 ガン!


 一発の銃声がして、セラフィタが俺の視界から消えた。ドサリと倒れ込んだ彼女をみればそのこめかみから赤い鮮血が一本、二本と垂れ落ちていく。


「よう。助けにきたぜ」


 懐かしい声がした。

 そこには左目が潰れ血を垂らしてまだ硝煙の残る銃を手にした男がいた。よく見れば耳や手足、胸元も血で染まっている。


「レジェス……?」

「父さん!」


 聞きたかった声。満身創痍の男の後ろから現れたのは覆面をとって駆け寄ってくるアラニアだった。

 彼女を抱きしめているとレジェスが呟いた。


「知らなかったんだ、お前がクレアと付き合っていたのを、本当だ、俺はな」


 それだけ言うとバタリと倒れた。俺は呆気にとられて彼を見つめた。


「……この人父さんに会いたがってたのそういうことだったの」


 アラニアの話を聞くに、ここは国からも問題視されている施設と化しているセラフィタの根城だった。

 レジェスはアラニアを連れ単独でここに突撃してきたのだ。


「本当か?」

「父さん、クレアって誰?」


 一瞬俺も誰だっけ、と思って苦笑した。そういえばいたな、そんなことがあったな。

 苦笑が軽い笑いに変わる。そんなことだけのためにここまでぼろぼろになって、バカか。

 ……欲しいものはとうに手に入ってたのか。


「帰ろうか、アラニア。レジェスも連れて」

「うん!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ……やっとレイに言ってやったぜ。


 すっきりした夢見心地のまま目を開ければベッドの上にいた。病院だと分かり、どうやらアラニアたちが俺を運んでそのままドロンしたらしいことがわかった。 

……助かったのか。だが無事ではなかった。左目は使い物にならなくなり、右目だけでは失明まではいかなくとも、どえらい弱視になった。右耳ももう使い物にならないらしい。至近距離での銃声が鼓膜を破りまくっていた。

 まあ、いい。生きて返ってきたんだから。難聴は伝声管でどうにかなるし、視力も填レンズでどうにかなる。



 セラフィタを失った集団を抑えるのに軍部は一苦労をした。とにかく全員を一旦収容所に入れ、セラフィタの呪いが解けるのを待つしかなかった。

 扱いは麻薬患者と同じで、早い者なら2週間、抜ける見込みがつかない者もいる。


 俺は現場を退いた。功績が認められ、階級が上がったはいいが、毎日苦手な机仕事になってしまった。

 


 それから4年が過ぎた。

 14の娘は早くも父離れが始まり、俺は寂しい。2年前息子を失った時は2人で泣いて慰め合ったというのに。

 平和すぎて暇だ。ボケる。

 そんな俺にある話が入ってきた。

 男娼をめぐって金持ち連中が流血沙汰を起こしたと。しかも男娼はまだ少年。

 ……まさか。弟がいたと言ってたが。


 レイにはまた助けられたからな。俺ならあいつの息子を少しは救えないかね。ごらんの通り目も耳も悪い。

 俺はセラフィタの息子なんざ知ったこっちゃない。だがレイの息子は助けてやらな帳尻あわんだろ。

 知らせてくれた知人に会いに行く。彼も教団事件の時、共に行動した仲間だ。会うのはあれ以来のことで、久方ぶりの再会に喜んだ。


「英雄だなあ、おまえは。その傷を見るとそう思うよ」


 よせよ、照れる。確かにあの時の俺は自分でも凄まじいと感じている。一体何人と戦ったんだか。それだけ俺はレイに……。


 まてよ。確かにレイに会いたかったが。なぜ俺はセラフィタを迷いもなく一発で仕留めることができたんだ?

 なぜあそこまでふんばれたんだ? 俺はセラフィタを、見たはずだ。


「……!!」


『セラフィタを殺して。出来ないなら私がやる』


 声色があの時違っていた。

 まさか俺は、レイのためのつもりが、あの声に、動かされていただけなのか?


「おいどうしたんだ?」


 俺の様子に知人は首を傾げている。


「いや、なんでもない」


 ……そんなわけないか。俺は俺の意志で動いていた筈だ。そうに決まってる。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ザイラ国。


 アラニアはもうすっかり娘に成長している。セラフィタに顔立ちはうり二つだろうが、俺に向ける表情は俺の子らしさがつまっている。


「どこ行っちゃったんだろうね、ダリル」

「心配するな。ちゃんと見つかるさ」


 しがみついてくる娘の頭をなでてやる。小さい頃とちっとも変わってないな。そう思って抱き返すとアラニアは更にぎゅっと抱きついた。



「愛してるわ、父さん」




誤字が多くて申し訳ございません。お読み頂きありがとうございます。

嗅覚、聴覚、味覚で人を狂わす話を書きたかったのですがどれも既にもっとうまい人たちが書いているので、これならさすがに誰も被らないだろうという超マイナー路線。最後まで付き合っていただいた方には本当に感謝します。

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