第八章 狼煙
まえがき?あん?
読みづらくて ごめんなさい。
その頃だ。樹海を熟知してる、と自負しているアメリアはアルケミスト領への道を進んでいた。
(?)
遠くに見える人影。艶のある銀の髪の、女だ。
(誰だろ……、樹海に迷い込むなんて自殺願望者?)
黒ローブのアメリアは高く手を掲げる。その手にグレーの光が宿った。錬成術の発光現象だ。しかし、今回彼女が錬成する物は、巨大な装甲ではない。銃だ。その先端には鋭い刃がくっついている。ちなみに、考案したのはヴァレリーだ。これを、彼女とヴァレリーはガンブレイドと呼んでいる。
(追い払わないと)
まず一発。反動が大きいのは、強力な証だ。
「!?」
あちらも気がついたらしく、腕に光をまとって突っ込んでくる。しばらくして光が消えると、その跡には蒸気を巻き上げる機巧があった。
(アルケミスト家かっ)
非常にまずいとアメリアは感じた。万が一、自分の存在が知られてしまえば、ただでは済まない。気付かれないように、戦うのは難しい。なら、
(人に正体を見られたら殺すしかない!)
そんな考えを実行に移すのは至難の業だ。几帳面な性格なら成功できるかもしれないが、アメリアは大雑把な性格だと自負している。改善しようとは思わないが。
(じゃあ、錬成するとしたら煙玉かな)
錬成している姿を見られれば、それこそ大変だ。だから、アメリアは右手を隠して錬成する。
光が小さいのは規模の小さい錬成ということ。
突っ込んでくる女ををかわすように前進する。そして、あと少しですれ違うか、というときにアメリアは右手の煙玉を力いっぱい握った。
玉はプシュウと音を立てて煙をあげる。その中で、アメリアは見てしまった。
(ユリアン……)
「アメリ――」
言葉が言い終わらないうちにアメリアは即座に錬成した鋼の拳を腹にぶちこんだ。
それがどんなにつらかったか。友人で好敵手だった彼女に本気で殴らなければいけないなんて。
「ごめんね」
小さな声でアメリアは言った。白い煙が辺りを包み込む。ユリアンをその場に放置して、アルケミスト領に走っていった。
「ジンジャー。クラウス知らない?」
昼前にジンジャーはクラウスの姉、クレイス・ライミッツベルグに尋問された。
「知らないよ」
「本当?」
「うん」
口ではそんなことを言っていたが、心当たりがないわけではなかった。
「ああ、どうしましょう! 私がクラウスを放っておいたばかりに!」
「きっとすぐ帰ってくるんじゃないかなあ」
クラウスは錬成術に興味があった。それは昨日の話しぶりからすぐに察しがつく。クラウスのことだ。錬成術を教えてやるとでも言われたら、のこのこ行ってしまいそうだ。となると、クラウスは……
「でも、心当たりがないわけじゃないよ」
(きっとチンケなアルケミスト家にさらわれたんだ!)
「本当!? 教えて!」
「クラウスはきっとアルケミスト家のバカに誘拐されたんだ!」
「わかったわ。このことをすぐに知らせてくる」
白紙の手帳が緑色に輝き、文字を浮かべた。
「『――大気に住まう風の精――遙かなる風の大地よ――我にその風を宿したまえ――』」
それをすらすらと読み上げたクレイスは、風を纏って集会所に一直線。
「弟とは大違いだよなあ、クレイスさん」
「クラウスがアルケの馬鹿にさらわれたらしいの!」
その一声で、その場に居合わせる全ての者がにやりと笑いを浮かべた。
「よっしゃあ! アルケミストの能無し共に一泡吹かせてやろうぜ!」「領主様に報告だ! 全面戦争だってな! 子供がさらわれたと聞いちゃあ黙ってられん!」「ありったけの魔術書を準備しなさい! 手練れは強制参加よ!」
常備の魔術書を構える者もいれば、「自宅に強力なのがあるから持ってくる!」と取りに行く者もいた。
「宣戦布告をしなければだな」
「クラウスの姉として私が行きましょう」
「クレイスさんなら安心できる。『風色の魔女』の異名は伊達じゃねえよな!」
「まかせなさあい! まったく、あの子は私がいなきゃ何もできないのね」
部屋中に笑いが巻きおこった。
皆、勇んでいた。
無能なクラウスもたまには役に立つじゃないか、と。
ほんとうにごめんなさい