第五章 錬成術の天才少女
うなが「本日のゲストはヴァレリーさんで・・・」
ヴァレリー「かっーッまたかよ! 懲りないやつだな!」
うなが「クラウス出しても何も喋らないでしょう」
ヴァレリー「そうだな。んじゃ、うちにいるアイツ出してみればいい」
うなが「あいつとは一体誰なのか! ネタバレしないように気をつけるばかりのうながです!」
シグナ半島は南からの風で大量の砂が運ばれてくる。だから、先人達は砂を防ぐために防砂林を設置したのだが、それも度が過ぎたらしく、現在では防砂林は立派な樹海に変貌している。
ちなみに、クラウスは樹海沿いの道で海岸へ向かったのだ。
「樹海って自殺希望者が入るんじゃ……」
「いや、別に俺んちだけど」
「ええっ」
「ほら」
ヴァレリーが指差す先には、煙突から煙を上げる煉瓦の家。
「まっ、入れって」
「あ、いい匂いがする……」
「夕飯時だからな。にしてもいいのかよ、御家族は心配しないのか。まっ、連れ込んだの俺様だけど?」
「僕は期待されてないから……。僕、十二歳だけど、十一歳の妹の方が魔術は得意だし」
「ふうん。でもさ、俺様は羨ましいなあ、動物に好かれるんだから。俺様もあいつも動物に嫌われてるし」
ヴァレリーは鈍い音を鳴らす扉を開いた。扉の向こうから漏れるロウソクの明かり。
「うっへーい、神様のお帰りだぜ~」
ヴァレリーが豪快にずかずかと正面の椅子に腰掛ける。この言い方だと誰かいるようだった。
「あ、おかえりなさい」
奥から金髪の少女が姿を現す。
「ランデイはどうだった? 懐い……」
少女はやっと扉の近くでもじもじしているクラウスに気がついたらしい。
「誰……? どうしてランデイを抱いているの?」
クラウスの腕の中にはランデイが納まっている。
「なんで!? 飼い主なの!? ヴァレリー!」
少女はヴァレリーに問いただすが、本人は遠くの方を見つめていた。
「ヴァレリー! どこ見てるの!? 話を聞いて!」
ふっ、と小さく笑うヴァレリー。
「見ろよ、窓の外を。夕焼け色の夕焼けが……」
少女は「こりゃだめだ」と溜息をついた。
「どういうことなの、あんた」
そして質問の矛先をクラウスに向けた。
「えっと……わかんないけど……懐いちゃって」
「そういうことだ、アメリア!」
窓の外から目線を戻したヴァレリーがガタンと立ち上がった。
「クラウスっつーんだ。今日からこいつもここに住むんだ! こいつは不老不死になりたいんだってさ」
「え、あ、うん。まあそんなところだよ」
「ねえ、あんた、どっちなの?」
ぐっと少女はクラウスの顔に自分の顔を近づけて訊く。
「どっちって……」
「アルケなのかネクロなのか。まあ、そんなのここじゃ関係ないけどね。あたしはアルケだろうとネクロだろうと気にしないわ。だって低脳じゃない? 自分の家が偉大だと盲信してるのよ」
透き通るような金髪と海色の瞳を持った少女は、クラウスの周りにいた人とは遠くかけ離れた存在に思えた。何か、悟りを開いているような。
「一応、ネクロ……」
クラウスは少女の言うような略称で答えた。
「まじ!? じゃあ魔術使えるの! ねえ見せて!」
その言葉にクラウスは下唇を噛んだ。自分は、落ちこぼれだから魔術を上手く使えない。そこにヴァレリーが助太刀を入れる。
「アメリア。魔術ってのは魔術書が必要なんだぜ? そんなのも知らないのかよ、ばかだなあ」
「知ってるわよ? でもこの歳なら軽いのならできるはずじゃないの? 火の玉を出すやつ。魔術書なんて飾りとか無能教師がほざいてたもん」
アメリアというらしい少女はクラウスと同じ歳のようだった。
「でも……僕……」
「下等とか言わないから! あたしもみせるよ、錬成術!」
クラウスは目を丸くした。
(この子、アルケミスト家……?)
口をパクパクしているとアメリアは、高く手を掲げた。
「お、はじまるぞ? 希代の天才アメリア・グレーマンの錬成術だ。あ、この前鍋壊したから鍋錬成してくれね? 神様のお願いっ!」
「鍋? そんなの後でいいじゃんっ」
瞬間、空気が変わる。辺りを明るく照らしていたロウソクの火が消え、家具がカタカタと揺れ始めた。そして、鉄色の光が掲げられた手を包む。
「大規模だな。ていうか、やる気満々じゃねえか」
「あったりまえよ! 魔術教えてくれるかもしれないんだから!」
その天真爛漫、純粋無垢な言葉がクラウスの胸にグサグサと突き刺さった。
「そうかそうか」
ヴァレリーは司教の様な目つきで微笑んでいた。
「これが、錬成術」
光が消えたときには、アメリアは腕に銀色の装甲をつけていた。
「つーかよう、原理って何なんだ?」
「もう、何度も言ったでしょ? えっと、土の中に含まれているエレメンタリ、えっとまあ全ての物質の源ね。そのエレメンタリを錬成術は収束して物質に変換するの。でも、エレメンタリには限りがあるわ。だから錬成術師は錬成した物を大抵はエレメンタリに戻す。前者の行為を『錬成』、後者を『還元』という。この二つを使いこなせて初めて錬成術師と認められるの」
強大な錬成術を目の当たりにしてクラウスは玄関で立ち止まった。
「入りなよ? 何も怒りゃしないわよ」
銀の装甲に亀裂が入る。そこから崩れ落ち、床に着かないうちに消えてしまった。
「これが『還元』。空気に溶けたエレメンタリはいつか土に混ざる。というか、はやく見せてよ! 魔術を!」
クラウスは歯を食いしばる。そして、口にした。
「僕は、ネクロマンサの家だけど、使えないんだ……」
「え?」
静寂が辺りを包む。ヴァレリーは何も言わない。ただ、二人を他人事のように眺めているだけ。
「僕は……落ち……こぼれだから」
沈黙。
「…………ごめん」
アメリアは夕闇の中で静かに謝った。そして、ロウソクに火を灯した。
「俺様の飯はそいつにやってくれい」
「ちょっと……どこかいくの!?」
二階への階段を上るヴァレリーは無邪気に笑って、
「ちょっと調べ物だ」
食卓の空気は重かった。
「あのさ」
先に口を開いたのはアメリア。
「大丈夫、気にしてないから……」
続く言葉を察知したクラウスはシチューを口に運ぶ合間にそう言った。
「あのね、ヴァレリーのさ」
「ん?」
「書斎には入っちゃだめだよ」
アメリアは二階の階段を見ながらそう言う。
「どうして?」
「知らないわ。きっと隠し事よ」
「暴こうとしないんだ」
小さく頷くアメリア。
「無理矢理暴くのはいいことじゃないもの」
その後、小声でこう言った。
「でも、いつかは知りたい」
その言葉にクラウスも参道の意を示した。
ヴァレリー「金髪碧眼幼女。王道じゃないか?」
うなが「んー、黒髪パッツン幼女もいいけどね」
ヴァレリー「あー、そうだな。金髪碧眼幼女はけっこういるからな」
うなが「茶髪ツインテもいいと思うの」
ヴァレリー「ついでにネコミミ属性を追加してくれ」
うなが「残念ながら、うながはネコミミ属性ないんだな。狐耳とかゲフンゲフン」
ヴァレリー「グレーゾーン!」